(183)DV彼氏
昔、「何であんな男と付き合ってるの?」と言われている女性がいて、その女性の友達の子から僕に、
「あの子を説得するのを手伝って欲しい」
と頼まれた事があった。
なんだかんだで話し合いの場に居合わせる事になり、その女性の話を聞く事になったのだが、どうやら同棲している彼氏がギャンブルばかりしていて彼女のクレジットカードで借金しまくり、「もうこれ以上は無理」と金の無心を断ると、暴力を振るう様になったのだとか。
なるほど確かに。
思わず、
「何でそんな男と付き合ってるの?」
と僕も訊いたのを思い出す訳だ。
彼女の話を聞くと、
「いいところもあるの」
だそうで、「何かあっても、ちゃんと帰って来てくれる」
のも、諦め切れない理由だそうな。
なるほど。
好き放題やって暴力まで振るうのに、時々優しい言葉を掛けられる事で許して来たという事なのか。
まるで悪徳宗教みたいな話だが、どうやらこういう彼氏の事を「DV彼氏」等と呼ぶそうだ。
で、何故こんな古い話を思い出したかというと、僕も取引先の会長から、そうした扱いを受けているからだ。
僕が起業する頃に随分とお世話になった人なので、義理を通す為にも色々な協力を惜しまずやって来たのだが、コロナ禍以降に大きく業績を落としたその会長さんは、どうやら僕が取ってくる仕事が会社の生命線になってゆくのが許せないらしい。
で、「もっと成果を出せ! でなきゃお前との契約を切るぞ!」みたいな話になって来た訳だ。
いやいや、これまでも精一杯仕事して、その会社の誰よりも成果を出しているのだが?
数字を見ても明らかで、なのに僕の報酬は安いままでずっと我慢しているのだが?
ただ、昔受けた恩に対して義理を通す為だけに。
なので、
「残念ですが、これ以上頑張れる余力は私にはありません。会長がそうおっしゃるなら、いつでも私との契約を切って下さい」
と言ってしまった。
実のところ、他にも提携会社はあるので、そこの仕事が無くても問題は無い。
むしろ、僕の顧客からの発注を、わざわざその会社を通して受けて来たのが今までだった訳で。
で、今日のところは「頭を冷やせ!」と、会長が謎のセリフを吐いてから帰宅したので契約はそのままなのだが、コレって、ちょっとした「DV彼氏だよな」と思った訳だ。
結局、その会社の社長と本部長が
「契約解除なんて勘弁して下さい」
と頭を下げてきたものの、こうした流れを見ても、この会社自体が僕にとっては「DV彼氏」な訳で…
いまの僕が「何故そんな会社の為に仕事するの?」と問われれば、
「まあ、いいところもあるんだよ」
と返す事になるんだろうな。
ほんと、こんなセリフを僕に吐かせるところまで「DV彼氏」なんだよな。
15年もの付き合いにはなるが、そろそろ潮時かね。
彼らの将来を考えると不憫ではあるが、仕方がないよね。
僕は僕の為に、前へ進む事にしよう。
そんな事を思った、今日のぼくなのであります。
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