(178)もう一息

 大きなチャンスが眼の前にあり、それを掴む為に寝食を忘れて努力をし、そのプロジェクトを完遂する為のプランを練り、資料に落として提出して顧客から高い期待を得て、もう受注直前になり、元請会社の経営者と最終調整に入ったところで、また一つの試練にぶち当たった。


 何が問題かというと、要は資金だ。


 大きなプロジェクトを動かすには大きな資金が必要になる。


 僕の方は何とか資金繰りできる算段が整ったのだが、元受け会社の資金力が不足していて、そのプロジェクトを受けられないかも知れないという状況な訳だ。


 おいおい・・・


 何とか算段を整えるつもりで僕にここまでの仕事をさせたんじゃないのかよ・・・


 という愚痴が零れてしまうのだが、「やれば出来る仕事がそこにある」という状況で、「完遂すれば満足できる利益を得られる」事が分かっているのに、「その仕事が受けられない」というもどかしさを、どう表現すれば良いのだろうか。


 僕はその類のプロジェクトを、過去に何度も遂行してきて、毎回成功させてきた。


 これまでは今回ほど規模は大きくなかったが、当時も「こんなの出来る訳が無い」と周囲が口々に言っていたプロジェクトを、僕は綿密な計画と検証により段取りをし、それを裏付ける資料を作り、顧客と元受け会社を納得させ、そして実行してきたという自負がある訳だ。


 今回も同じ様にそうした資料を作成し、「実行可能な裏付けができた」ところまでは顧客も元受け会社も納得できたのだが、いかんせん元受け会社の経営者が弱気になっていてGOサインが出ない。


 要は受注するかどうかを悩んでいる訳だ。


 顧客は誰もが知る様な大企業だし、仕事さえきちんとやれば支払いが滞る事は無い。


 あとは経営者が腹をくくるかどうかという局面。


 僕にとっては、「もう一息で受注が得られる、指先にゴールが届く距離」というところ。


 僕を含めて元受け会社の経営者達と、先週末には怒鳴り合いの様な会議を行ってまで議論したのだが、週末に最高責任者から僕の携帯に連絡が来た話では、


「その仕事、顧客に断ってくれないか」

 という事だった。


 なん・・・だと?


 元受け会社がコロナ禍によって業績を落としていた事は知っていたが、千載一遇のチャンスをものにできないほどに弱っていたのか。


 事情は分かったが、しかし僕はやはり諦めきれない訳で。


 なので、僕は僕で「まだ出来る事は無いか」と頭をひねり、月曜日の朝まで計画を練り、僕の方は「これなら出来る!」という確信を得られるところまで来た。


 あとは元受け会社の経営者の判断だけだ。


 その判断によって、2024年の僕の「生きる道」が決まると言ってもいい局面。


 自分の人生を他の誰かに委ねるなんて僕の性には合わないが、今の僕は、そんな状況にある。


 もう一息。


 もう一息!


 あとは何ができるのだろうか?


 神に祈るくらいしか出来ないのだろうか?


 そんな気持ちで悶々とする、今日の僕なのであります。

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