異世界転生してチートは得たけどハーレムだけは勘弁してくれ!
一(はじめ)
第1話ハーレムとか絶対勘弁なのに!?
やめてくれ。
そういうのはもう勘弁なんだ。
二度とごめんだって誓ったんだ。二度とするまいと脳裏に刻んだんだ。
俺はそう思いながら、うるんだ目で俺を見つめる美少女を前に後ずさる。
「勇者イクス、貴方は素晴らしい方だわ」
そう告げるはこの国、リバード王国の王女フランチェスカだ。
夕焼けのように明るい朱色の髪を肩まで垂らした優雅な風貌。サファイアのように煌めく青い瞳。美少女と断言して異を唱える者はいるまい。
しかし。
「いや、俺はそういうのは……」
そう言って俺は後ろに下がるが、その退路も遮断するべく金髪長髪の少女が声をかけてきた。
「そうですね。勇者様は私と……」
彼女の名はクリスティナ。このリバード王国に仕える女騎士である。彼女もまた美しい容姿をしている。
「い、いや、クリスティナとも……」
さらに逃げ場を求める俺であるが、
「そうだよ、お兄ちゃんはわたしみたいな子が好みなんだから」
猫耳を揺らす緑髪の少女がさらなる逃げ場も塞ぐ。その少女は猫耳だけではなく、猫の尻尾も生えており、全身の毛も人間のそれとは異なる。獣少女というヤツだ。
「い、いや、アスも……」
猫耳少女アスからも逃れるが、
「そうです。勇者イクスはこの聖女ブリカリアが相手に相応しいのですから」
この国の聖教会で聖女と呼ばれ崇められている銀髪の白衣の少女であった。
「違うよ、イクスに相応しいのはボクなんだから」
さらにはそう言って外見年齢は非常に幼いが、実は長い年月を生きているというエルフの魔女エルフェールが金色のツインテールを揺らして、最後に俺の前に立ち塞がる。
いや、やめて。マジ勘弁。こんなハーレム、俺は望んでいない。
なんか死んだ後、この異世界に転生されられて超強くなったせいで俺はこのリバード王国内で名の知れる勇者になってしまったが、こんなハーレムまで築くなんて全く想定外だった。
というかハーレムなんてこっちから御免極まるものなのだ。
何故なら俺は。
(前世はハーレムのせいで死んだんだよ!)
そう強く、強く主張せざるを得ないのであった。
・
俺が前世を振り返る度に強い後悔と自責の念にかられる。
前世、現代日本の大学生であった俺はありていに言って女癖が悪かった。
美人と目に付けば声をかけてデートに誘う。それなりに容姿が整っていて話し上手でもある俺は女性たちから連絡先を聞き出すことも上手かったし、親が金持ちであったため自らが働いて得た金でもないのに高い料理屋にデートに行ったり、高いプレゼントを女性たちに渡したりしていた。
今、思い返せば最低の屑野郎と言えるだろう。
そうして多くの女性にいい顔をしていた俺であったが、ついにそのツケが回って来る時がやってきた。
俺は一人の女性とデートの約束をしていたのだが、その現場で親しくしている別の女性と遭遇してしまったのだ。
その場はなんとか誤魔化して事なきことを得たものの、その後も似たようなことは続き、ついに俺が手をつけた女性たちは一致団結して俺が(親の金で)借りているマンションの一室に乗り込んできたのだ。
その時の衝撃は忘れられない。
女癖が悪い俺に男の親友と呼べる者はおらず、乗り込まれたマンションの中で合計五人の女性は自分たちの中で誰が好きなのかを俺に迫ってきたのだ。
しかし、そんなのは決められるはずもない。
全員が魅力的な女性であったからだ。
そんな優柔不断な態度を取っているとついに女性同士の争いに発展してしまった。
俺はそれを止めようとしたものの逆に女性たちに殴り倒され、なおも止めようと(その時の俺にしては珍しく)体を張ったのだが、金的に思いっ切り蹴りを入れられてしまっては激痛に悶え苦しみ、その後は、部屋の隅っこで小さくなって震えているしかなかった。
女性を怒らせると恐い。修羅場は絶対に勘弁。
そのことを俺はこの時、強く脳裏に刻み込んだ。
だが、後悔は先に立たず。既にこの場に乗り込んできた女性たちは俺という女癖が悪く浮気性の人間に対する怒りは限界に達していた。
そのまま女性たちが包丁を取り出して暴れ出したのを見て、流石に俺も止めに入ったのだが、その勢いのまま誰かが振るった包丁が俺の胸に突き刺さり……。
そこから先のことはよく覚えていない。
俺はおそらく、それで死んだんだろう。
そうして、気が付いたら、今の世界の平民の家で産声を上げていたというヤツだ。
この世界で俺は神の祝福・ギフトを授かっていることが俺が6歳になった時の教会での儀礼で判明した。
それからは住み家を王城に移され、最強の勇者になるべく英才教育を施された。
魔王がいつ復活するかも分からない世界だった。対抗できる勇者は一人でも多い方がいい。
そして、俺は勇者として大成し、既に様々な冒険を成し遂げてきた。
その結果、何故かは分からないが、五人の女性から好意を寄せられている身分にある。
だから、マジやめてくれって。チートはいいけど、ハーレムはもう勘弁なんだよ。
俺なんか大した男じゃないんだから、俺に群がらないで。もっといい男、他にいるから。
ハーレムだけは、勘弁なんだ!
・
そんなはたから見れば喜劇でしかない。滑稽で自業自得で無様な死に方をしたことから俺は猛省した。死んだ後では遅すぎる気がするが、猛省に猛省した。
もうあのような真似はしまい。女癖が悪いなんてことは絶対に避けよう。これから先、女性と関係を持つとしても一人の愛する人だけだ。
そのことを脳裏に刻み込み、前世での過ちを繰り返すことは絶対に避けようとしてこの世界で暮らしていた俺なのだが。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん。わたしと一緒にお外で遊ぼうよ」
猫耳少女アスが誘って来る。これも断固拒否だ。
「断る。俺は忙しい」
「そうです。これからイクスは私と共に聖教会で用事が……」
「いつそんな用事ができた、ブリカリア」
聖女ブリカリアも隙を見ては俺を何かと誘おうとするが、それもスルーする。
「そうね、イクスは私と一緒に紅茶の予定が」
「ないからね。フランチェスカ王女」
俺の腕に自らの腕を絡めようとしたフランチェスカも回避して帰ろうとするが、
「勇者様。私と一緒に剣の訓練などどうでしょう」
「残念だけど今は遠慮しておくよ、クリスティナ」
騎士のクリスティナが真っ当な理由を付けて俺を誘うがそれもスルーだ。
剣技の鍛錬であれば確かに一番、真っ当な理由ではあるのだが。
「そうだね。ボクと一緒に魔術の鍛錬に励むってのはどうかな、イクス?」
「今回は遠慮しておくよ、エルフェール」
エルフの魔女エルフェールの誘いも断り、俺は一路、家を目指す。
どうして今世でもこんな風に美少女たちに囲まれることになってしまったんだ。
前世を反省して今世では女癖が悪いなんてことはしないようにしていたのに。
何故なのか。
これが修羅場に繋がり、俺は再び誰かに刺されて命を落としてしまうのか。
それにおびえながら、俺は毎日を過ごすのであった。
このままではマズい。このままいけば前世の悲劇の繰り返しだ。それだけはなんとしても、なんとしても避けなければならない。
そうは思うのであるが、この少女たちは全員、俺にある程度以上の好意を抱いているようでこうなれば俺にはどうしようもない。
どうすれば、いいんだ。誰か教えてくれ。修羅場の回避の仕方を!
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