妄想の非リア

ばらぃろ

第1話:誓い

「こうすけ君!」

そう彼女が僕を呼ぶ。

「なに?陽菜?」

彼女の期待に応えるように僕は返事をする。

「大好き!」

彼女が赤面しながら言った。

「僕も大好きだよ。」

そう告げた瞬間僕と彼女の空間が歪んだ。

「…おい!キモ男!」

その暴言で目が覚めた。

そう夢だったのだ。

僕なんかが彼女が出来るはずがない。

「おいキモ男パン買ってこい」

「僕は山形こうすけって名前が…」

「うるせぇ!早く買ってこい!」

最後まで話させてもらえずに彼は指図してきた。

彼は赤城晴人このクラスのカースト上位に君臨するイケメン男だ。

僕と彼とはスペックの差が違いすぎる。

彼はその美貌で数々の女性をたぶらかしていた。

それに比べて僕はどうだ?

彼女なんておろか友達だっていない。

仕方ないんだ。

この顔のせいでこんな生活に。

もう慣れたことじゃないか。

いじめられるのは。

そう自分に言い聞かせると何故か涙が出てきた。

いつもは出なかったのに。

「どうしたの?なんで泣いてるの?」

そう僕に話しかけてきた。

「はいこれっハンカチ。」

彼女のハンカチを僕に渡してきた。

白色の何も汚れていないハンカチを。

「いらないよ。大丈夫だから。」

「でも…」

「大丈夫だって!」

「大丈夫じゃない顔してる。」

「大丈夫だって言ってるでしょ!!!」

「ひっ」

「あっ、ご、ごめん!」

そう言って僕は逃げ出してしまった。

こんな自分にうんざりする。

死んで仕舞えばいいのに。

日に日に強く思う僕だった。

あの日から数日後、彼女が僕に話しかけてきた。

「山形君?だったよね?」

「そうだけど、なんですか?」

僕は少し不機嫌そうに答えた。

「今時間ある?」

そう彼女が聞いてきた。

「あるけど、」

「じゃあ少し付き合って」

そう半ば強引に屋上に連れて行かれた。

「前はごめんね。ちょっと心配だったんだ。」

彼女に謝られた。謝らなければならないのはこっちの方なのに。

「あ、あのさ、山形君、私と友達になってくれない?」

突拍子もないことに僕は驚いた。

彼女は誰から見ても美人だと言われるような容姿をしているのにこんなに醜いものと友達になるなんて。

「どうして?」

僕がそう聞くと彼女は少し恥ずかしそうに答えた。

「みんなに言われるんだけど、私、それなりに顔が整ってるらしいの。」

そんなこと言われてもなんの理由にもならない。

それにそんなこと見たらわかる。自覚がないのかと少し疑問に浮かんだ。

「だから?なんで友達なってって頼まれなければならないの?」

そう尋ねると

「私と友達になってくれるのは体目的の男の子たちだけなの。」

「でも山形君はそんな人じゃないと思うから、きっといい友達になれると思って。」

そう理由を話してくれた。

僕としてもとても嬉しい誘いだが

「嬉しいけど、ごめん」

僕は断った。

「ど、どうして?」

彼女は少し涙目になって聞いてきた。

「君はとても美人だ。君みたいな人が僕を友達なんかなってみて?みんなが僕のことをまたいじめると思う」

そう彼女に告げたがそんなものは建前だ。

彼女が僕と楽しそうに会話をしていると周りはきっともっと女子たちは嫌い、男子たちは群がるだろう。

「で、でも、私は山形君と」

「本当にごめん。」

僕だって断りたくなかった。

そんな泣きそうな目を見たくなかった。

でも、彼女のためなんだ。そう自分に言い聞かせた。

今にも泣き出しそうな目を見て僕はまた逃げ出してしまった。

うんざりする。

顔だけでなく性格まで醜くなってしまったのか?

あんな華奢な女の子を泣かせるなんて。

また一段と僕は僕を嫌いになった。

それから彼女は執念に僕を追いかけてきた。

まるでストーカーみたいに。

「ね、ねぇ山形君?考えは変わってくれた?」

正直ここまで執着するとは思わなかった。

「わかったよ。」

僕は諦めて彼女と友好関係を結ぶことになった。

「ほ、ほんとに!?」

彼女は嬉しそうな顔を僕に見せた。

女子に耐性がない僕はその笑顔を見るだけで顔が真っ赤になった。

「そういえば君の名前はなんて言うの?」

僕は名前も知らない人に執着されていたと考えると少し鳥肌が立った。

「そっか。まだ自己紹介してなかったね。」

「私の名前は小鳥居すみれ。気軽にすみちゃんって呼んでね!」

無理だろと思った僕であった。


彼女と友好関係になってからもうすぐ1ヶ月経とうとした頃、僕は赤城晴人君に呼ばれた。

「おいキモ男。最近お前と仲良さそうにしてるあの女、名前はなんで言うんだ?」

そう聞かれた。

「こ、小鳥居すみれさんだけど」

「へぇ。さんきゅー」

僕は初めて彼に感謝された。

少し嬉しかったけれどその後僕は後悔することになることを今の僕は思いもしなかった。

初めて彼に感謝されてから3日が経とうとした年、小鳥居さんから呼び出された。

「どうしたの?急に。」

僕は彼女と出会ってからとても口調や表情が豊かになっていった。

「あのさ、こうすけ君って赤城晴人君って知ってる?」

僕はこうすけ君と呼ばれるほどまでに彼女と仲良くなっていた。

いつもは彼女の言葉で幸せを感じていた僕。

でも、今回は違うかった。

彼女の口から赤城晴人という単語が出た瞬間僕は妙に体が冷たくなってきた。

きっと今、僕の顔は真っ青になってると思う。

「知ってるけど、それがどうしたの?」

僕は平然を装って彼女に質問した。

「私ね、こうすけ君以外にもちゃんとした友達ができたの。」

「晴人君はねとっても優しいんだよ!」

は?

今、なんで言った?

あいつが優しい?

あいつのどこが優しいのか僕には理解しかねた。

それに僕は彼に苛立ちを覚えた。


それから数週間後、案の定彼女と彼は付き合うことになった。

わかってはいたけどそれよりもびっくりしたのが彼女は変わり果てた姿に変わっていた。

髪色は茶髪に変化して、ネイルやつけまつ毛それだけじゃなく口紅、派手な服装。

僕と友達だった時の清楚な感じはもうどこにもなかった。

「キモ男、今日の放課後時間あるか?」

そう彼に聞かれた。

こんな展開思いもしなかったのでだいぶ驚いた。

「あるけど…」

「じゃあ俺ん家こい」

そう言われた。

僕は未だにこの状況を理解していなかった。

そして放課後、僕は言われた通りに彼の家に行った。

そうすると彼は僕に水を用意してくれた。

いつもの彼とは少し違うと少々違和感を感じながら水を飲んだ。

その瞬間、僕は気絶するかのように眠ってしまった。

僕が目を覚ますとある部屋で椅子に縛られて座っていた。

一体何が起こるのかとソワソワしていると、ドアから彼と彼女が出てきた。

「ありがとな。俺の家に来てくれたこととこんなにいい女を紹介してくれて。」

すると次第に彼と彼女は服を脱ぎ始めた。

もしかしてという不安も束の間彼は彼女の胸を弄り出した。

彼女は嫌がる様子もなくただただ顔を赤らめて彼を見つめていた。

次第に彼女の甘い声が漏れ出し、彼も彼女も今のひと時をとても幸せそうにしていた。

僕なんか存在しないかのように。

少し経ったあと彼は僕に

「よーく見とけよ。これがお前の惚れた女だ。」

そう言い彼女との行為を始める。

彼と彼女はとてと気持ちよさそうにしていた。

「や、やめてください。」

そう僕が言っても彼はやめない。

「お願いです。やめてください。」

何度も何度も僕は彼にお願いした。

しかし彼は腰を振るのをやめない。

彼女もやめないでと言わんばかりの甘い声を上げている。

それに少し興奮してしまった僕はまた僕のことが嫌いになる。

まただ。またこの感覚だ。

何かを手に入れてもすぐ失ってしまう。

与えるなら奪わないでほしい。

奪うなら与えないでほしい。

そう僕は彼と彼女の行為を強制的に見ながら神に問いかけた。

頬から水滴が滴る。

いつのまにか僕は泣いていたみたいだ。

何度もやめてと懇願しながら涙を流す。

しかしやめない彼ら。

この涙はどうすればいい?

どうすればこの状況が生まれなかった?

もうあの時、助けてくれた彼女はいない。

あの白いハンカチはもうない。

もう赤城という汚い色に染まってしまった。

誰も僕を慰めてくれない。

その絶望感を味わいながら僕は涙を流し続ける。

「メチャクチャにしてやる。

  あの人の形をした害獣を。」

そう心に誓った。



第一話:誓い[完]

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