第4話 ストーカー?
夢を見た。
夜の19時位にサッカーから帰ってドアを開けると、大好きなオムライスの出来立ての香り。
それからいつも僕が帰って来たら必ず言われるのが「手洗いうがいね!」って母親の台詞。
僕がお風呂に入っていると、もう一人仕事から帰ってきた。
そしてみんなで4人用のダイニングテーブルを囲って夕飯の時間だ。
そこに座っている皆が笑っていて、僕もすごく幸せな時間。
一緒に居たのは父親じゃない。
「舞・・・やっと見つけた。」
母親のストーカーか?
母親よりちょっと若いみたい。
「いや、何でうち知ってるの?てか今さら何!?星奈、こっち!!」
男から引き離すように母親は僕を自分の背後に隠した。
「合わせる顔なかったから。迎えに行くとか言ってずっと連絡しなくてごめん。」
何でこの男はずっと言い訳しているんだろう?
母さんも何か引いてるみたいだし。
「別にそれはいいんだけどさ。私あの時でお別れだと思ってたし。」
「舞には宅建取って不動産の仕事するって言ったのに騙すような形になって、合わせる顔がなかったんだ・・・。」
「うん、だから別に怒ってないし、私達の付き合いなんてそーゆーもんだと思ってたからほんとに気にしないで。それじゃ・・・。」
母親は僕の手を引いて今度こそエレベーターに乗ろうとしたが。
「待ってよ!そんな逃げないで。話がしたいんだ。」
しつこいな。
母親はこういう言い訳がましい人が嫌いだって事をこの人は知らないんだ。
「・・・とりあえずここだと人目に付くし・・・星奈も怯えてる。」
は?まさかうちに来るのか!?
なんで母さんもちょっとときめいているんだよ?
この潔癖症の母親が他人を家に上げるのは珍しい。
という事はストーカーじゃないのか!?
僕はまだ内に秘めた疑心と戦闘態勢を完全に解く事が出来ないでいた。
母親の手を強く握り直した。
男の名前は雪矢。
年齢は28で、母親より5つも若い。
「星奈、この人はね・・・。」
遠くに住んでるママのお友達よ。
このワードを聴いたのは僕がまだ前の学校に居た時だった。
そして、ようやくこの人が誰なのか理解した。
母親が父親の事で悩んでいる時にずっと話を聴いてくれていた同業者の友人らしい。
母親の店に遊びに来たり、雪矢さんのお店に母親が遊びに行ったりして、助け合っていたのだとか。
「この業界」ではそういう付き合いも大事なんだとか。
なんとなく察したつもりだけど、僕はこういう時都合よく子供になってあげる事にしている。
要するに、雪矢さんの言い訳はこうだ。
その時に雪矢さんは母親に想いを寄せていたが、当時母親が既婚だったため離婚するまで待つ事にした。
僕にプレゼントやお小遣いをくれたのも母親は自分よりも僕を気遣ってほしいと言っていたのだという。
ようやく母親が離婚するとなって雪矢さんも業界を上がって「普通の人」に戻ろうとした時にうまくいかなくなって逃げだしたとの事だ。
「星奈君・・・前に写真で見せてもらった時より大きくなったね。ずっと会いたかったんだ。もっとよく見せて・・・。」
あぁ・・・この人は・・・。
不思議な人だな。
さっきまで僕の中では不審者だったのに、今では黒髪の爽やかな・・・紳士に見える!
そうだ。
良く見たら太ってもないし、臭くもないじゃないか!
小顔で脚も長い!
何より僕と母を大事にしてくれる(かもしれない)人!!
雪矢さんはあのゲームをくれた人だったんだ。
「私、別に恨んでないから。」
「え?」
「・・・あなたに会えてよかった。幸せだった。恨んでない。」
母親の涙を見たのはまだ父親が居た時以来だ。
でもあの時のとは違う。
初めて見たかもしれない。
母親の・・・女の顔。
「俺もずっと会いたかった・・・。内勤さんに頭下げて舞の住んでる所聞いたんだ。」
「あぁ・・・あの人たまにファミレスで会うのよね。」
何だこの2人の世界・・。
「星奈君、今度ママと3人でどっか行こうよ!」
「え・・」
僕はこの人となぜだか初めて会った気がしないのだ。
嫌なら全部、捨てちゃえば? まろん @9mayukko9
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