【桔梗学園オカルト研究部には気をつけろ】

三角さんかく

君は誰だい?

 部室の前で、メモを拾った。


「4月8日入学式というイベントに参加する。同じ日付に同年代の子供が、同じ教育機関に入るのは何故なのか。『地球人』というのは集団行動が好きなようだ。ただ、頭脳レベルの近い者たちを集めて均一の教育を施すシステムには、少し感動している。我が国では考えられない」


 そんな風に書かれている。


 初めは「宇宙人」が僕の通う高校……桔梗ききょう学園がくえんに居て、ソイツが偶々たまたま落としたメモを拾ったのだと思って吃驚びっくりしたけれど、よく考えてみれば日本語で書かれていたので、そんな可能性は低い。誰かが冗談か何かで書いた物だろう。僕は残念だな、と思ってオカルト研究部の部室に入った。


「やあ、長谷川くん」

 オカルト研究部の部室には、部長の水上みずがみうさぎと、部員でクラスメートの山田やまだ里佳子りかこが居た。水上うさぎは、僕を見て微笑んで、コーヒーでも飲むかい?と尋ねてくる。僕はいただきます、とうなずいて、部室に足を踏み入れた。


「長谷川くん、砂糖は要る?」

「結構です」

 僕は甘いコーヒーが飲めない。


 長谷川はせがわりん。16歳、高校一年生、オカルト研究部在籍。これと言って特徴のない僕だが、交友関係は割と広くて、何故か頭のネジのぶっ飛んでる奴らに好かれるという特異体質がある。オカルト研究部部長の水上うさぎも山田里佳子もそうだ。こいつらはヤバい。


 水上うさぎは性別は女性だが、バイセクシャルを公言していて、男子からも女子からも人気がある生徒だ。しかし男癖?女癖?……その両方ともが悪くて、いつも恋愛でトラブルを抱えている。何度か刺された事もあるらしくて、腹にある傷を僕に見せながら、勲章みたいなもんさ!と笑いかけてきた時には恐怖すら感じた。


 山田里佳子も負けず劣らずのぶっ飛んだキャラクターで、有名企業の令嬢という立場なのに、夜な夜な違法カジノに足を運んでは、高レートのギャンブルに手を出す博徒ばくとである。金に困っているはずもないし、普通に海外のカジノに行けばいいじゃないか、と思っているのだが、彼女曰く他人が破滅する姿を見るのがたまらなく好きなようで、カジノ通いを止める気配はない。異常者だ。


「ところで……」

 水上うさぎは僕の手元を指さして、微笑んだ。


「その紙きれは何だい?」

「ああ……さっき部室の前で拾ったんですよ。面白い事が書いてあったんですけど、唯のイタズラですね」

「見せてくれるかい?」

 僕は水上うさぎに、さっき拾ったメモを渡した。水上うさぎは、窓の方へ移動しながら、ふむふむと呟いてメモに目を通す。オカルト研究部の部室の窓からは、葉桜が見えた。もう春も終わる。


「へえ、面白いじゃないか。ひょっとすると、宇宙人が書いた日記かレポートみたいな物の切れ端かも知れないね」

「日本語で書かれてるんですよ?そんな訳ないじゃないですか」

「宇宙人が日本語でメモを取らないっていう理由は?」

「もしも宇宙人なら母国語で書くと思います。日本語で書いてしまうと、誰かにバレたりする危険性リスクがあるじゃないですか」

「想像力の欠如だね」

 水上うさぎは、僕の目を見て少しきつめの口調で言った。


「例えば、その宇宙人の国にとしたら?」

「……」

 僕は水上うさぎから手渡されたブラックコーヒーを口にして、次に発する言葉を探した。確かに水上うさぎの言っている事には一理ある……。


「君は先月、入学式に参加したよね?新入生なんだし。そこで変わった事が起きたり、何か違和感を覚えたりしなかったかい?」

「いえ……何も感じませんでした」

「そうかい」

 水上うさぎは飄々ひょうひょうとした口調で、再び僕に質問をし始めた。


「メモを拾ったのは、さっきだね?」

「はい」

「この部室は校舎から離れていて、部員以外の学生が通る事は滅多にない」

「そうですね」

「ところで……」

 部長は半ば確信した様な目で、呟く。








 その一言に、僕は凍り付いた。



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