キッチンの下の秘密
@pc03
第1話 誰もいない
それは毛布はもういらないかな、でも、たまに冷える夜もあるし、片付けるにはまだ早いかな。
そんな時期に起こった出来事。
その日、私は何度目かの寝直しを終えて起きる意思を固めた。
空腹に耐えられなくなってきたためだ。
今日は早朝、なんだか騒がしかったな。
おかげで、何回か起きてしまったではないか!
そのようなことを覚醒しきらない頭で考えながら、totoと書かれた便器の蓋を持ち上げ、
昨日飲んだ牛乳をひねり出した。
余談では、あるが私はこの瞬間が割と好きである。
虚ろな頭で特に何も考えるわけでもなく、ただ放尿の快楽に身を任せている時間が
好きだ。
さて、出すものを出したおかげで、頭もスッキリしてきたようだ。
今日は遠方に住んでいる祖母がこの家に顔を出す日であることを思い出した。
ああ、だから朝うるさかったのか。
祖母が来ているのかぁ。
別に仲が悪いわけではないが、そんなにベタベタするほど距離が近いわけでもない。
特別苦手というわけではないが、何か心を開いてもらえていないと感じることがある。
だから、こちらも少し身構えてしまう。
少し憂鬱な気持ちになりながらも、階下に降りる。
普段であれば階段の中頃で、キッチンから食事の匂いが漂ってくる。
階段を降りてすぐ右手にキッチンがあるからだ。
そのにおいを元に今日のご飯が何かを当てるという、クイズを一人でやっているのだが、今日は匂いがしなっかった。
違和感を覚えながらも降りる。
おはようと口に出しながら、右手のキッチンを見る。
しかし、誰もいない。
キッチンの上には、これから料理を作るために用意された食材や調味料類が置かれているだけだ。
そのまま視線を正面に戻して、居間をみる。
正面のテレビに寝巻き姿の自分が反射しているのが分かる。
テレビの前のソファーには誰も座っていない。
普段であれば、父親がソファーで新聞を読んでいるのだが、新聞は机の上に読んだ形跡はあれど、畳まれて置かれている。
そのまま左へと視線を泳がせる。
居間の左は和室となっているのだが、ふすまは閉まっている。
別にいつも閉まっているので、特に普段と変わらない。
ふすまを開けてみてもやはり人はいなった。
特段変わった点は無いように思えた。
祖母は和室に持ってきた荷物(だいたい旅行のお見上げや菓子類である)を置くのだが、定位置に荷物も置いてあった。
いつもよりは幾分か大きいバックであったとは思ったが、その時はあまり気に留めなかった。
和室から外の様子を見た。
車庫に車が二台と道路沿いに一台。二台は両親で一台は祖母のものだ。
どうやら外出はしていないらしい
いつもと変わらない。おんなじ風景だ。
ただ一つ誰もいないことを除けば。
場所はキッチンに戻る。
流石にお腹が空いてきた。
冷蔵庫からコップ一杯の牛乳を飲みながら考えた。
今日なんかあったかな?
普段両親ともに出かけるときは、一言私に声をかけていくし、私が寝ているときは書置きを残していくことが暗黙の了解であった。(逆も然り)
こういった相手への所在確認の行為を、口酸っぱく教えられた家庭である為に、
今回のことが特段不可思議に感じた。
状況を整理しよう。
今日は祖母が来る日である。
バックがあるために、祖母はこの家に来ている。(車があるので外出もしていないであろう)
父親も新聞を読んだ形跡があるため、起きていることは確かだ。(この家で新聞を読むのは父親しかいない。)
そして、台所には、料理をするための食材が並べられている。
来客である祖母に食事を作らせないであろうし、父親は下手に手伝うと文句を言われるために基本炊事に関して関わらないので、あれは母親であろう。
彼らはどこへ消えた?
何故私に何も言わないのか?
いつの間にか牛乳を飲み終えていることに気が付いた。
蛇口をひねり水を出しながら、コップを洗う。
コップを洗い終え、背後の棚にコップを戻そうと振り返った時、視線の端に違和感を覚えた。
カーペットがめくれあがっている。
キッチンの下にカーペットを敷いているのだが、
その床のカーペットがめくれあがっている。
別にめくれあがっているだけなら、何も問題はないがそのめくれ上がったカーペットの端を床下収納の扉が噛んでいる。
元々ここに床下収納があるのは知っていたが、今まで私が知る中では片手で数えるほどしか開けてことがない。
普段の光景の中での唯一の確かな違和感
もしかしたらここに何かがあるのではないか。
そう思い、私は固唾をのんだ。
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