第46話 墓場にて

 陽が沈み、月光が鬱蒼うっそうと茂った森を照らす。


「……ッ」


「その地」に辿り着いた途端、ランドルフの内側で「魔獣」が騒ぐ。

 懸命に抑え付けながら、ランドルフはディアナに視線を投げかけた。


「ここは……」

「ああ……。……間違いない」


 夏場だと言うのに、辺りには冷たい空気が満ちていた。

 ディアナは顔をしかめ、周りを観察する。


「この感覚……おそらく、この一帯を通るだけで、生物には影響が出る。魔獣が増えた原因の一つだろう」

「……まじか……」


 セレナは黙って、じっとある一点を見つめていた。

 二つ並んだ石の隣、無惨にも掘り返された土がある。


「……そうか。セレナが自力で増やしただけでは、魔獣が増えだした時期の計算が合わない。最初の方は『魔獣騒ぎ』のせいだとしても、空白の時間が長すぎる……」

 

 魔獣が増え始めたのは、サン=クライムヒルでの「魔獣騒ぎ」が発端だったのだろう。「魔獣」への感染事例が発生したのにもかかわらず、腕のいい狩人が一気に減ったのだ。当然の結果と言える。

 その後、セレナの思念がランドルフの「呪い」に当てられ、セレナを含む数多あまたの魔獣が「この地」にて誕生した。そのままセレナは復讐に走り、人為的じんいてきにも魔獣を増やすようになった……。


「でも……前より寂しくないね、ここ」


 セレナの呟きに、ディアナは静かに頷く。


「確かに……今は、落ち着いているようだな。セレナの感情と連動しているのかもしれない」

「……これで、落ち着いてるのかよ」


 ランドルフが呆然と呟く。

 ディアナは意を決したように、一歩、前に進み出た。


「想定外ではあるが……問題は根元から絶つのが一番だ。私がどうにかする」

「……頼む」


 空中に手をかざし、ディアナは目を閉じる。


「……ッ、く……少々……範囲が、広い……な……」


 ……が、苦戦しているのは門外漢であるランドルフの目にも明らかだった。


「……お姉ちゃん、ボクも手伝うよ」

「……だが……」


 セレナは明るく振る舞うが、彼女のからだは限界が近づいているはずだ。

 この土地に長居すれば寿命は伸びるだろうが、「変質」の可能性も高い。……そんな中で力を使わせるべきだと、ディアナには思えなかった。


 ディアナの葛藤を目の当たりにし、ランドルフは辺りを見回す。


「……ディアナ、キツいのは範囲か」

「……ああ、そうだな」


 ランドルフの問いに、ディアナは冷や汗を流しつつ答える。


「俺は『魔術』には詳しくねぇ。だから、間違ってるかもしれねぇが……そのつもりで聞いてくれ」


 ランドルフの言葉に、姉妹は二人揃って笑みを浮かべた。


「大丈夫だ。間違っていれば訂正する」

「そうそう。ここには天才魔術師もいるしね!」


 心強い言葉に背を押され、ランドルフは「……よし!」と力強く頷いた。




 ***




「……あ?」


 最初に、「それ」を視たのはデイヴィッドだった。


「あれは……何でしょう」


 やがて、隣のサイラスも同じ事象に気付く。


「……パトリシアを呼ぶか?」

「そうですね。……あの方角は、ディアナ様たちが向かった方角ですから」


 サイラスは表情を強ばらせ、自身の「魔力」を手繰たぐり始める。

 森の中に突如あふれた光を、視線の先に捉えながら。

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