舌切りすずめちゃん

髙 文緒

1話

 すずめちゃんには舌が半分ない。すずめちゃんはいつでもマスクを付けている。

 すずめちゃんはレディースチーム天ノ雀あまのじゃくの総長だ。


 舌が半分ないうえにマスク越しなものだから、すずめちゃんの言葉は聞き取りづらい。だから隣にいつもナンバー2のオタケが居て、すずめちゃんの言葉をチームの皆に伝えている。チームに気炎を上げさせるための演説も、号令も、すずめちゃんがぼそぼそ伝えたことを、過剰に装飾を付けて、自らをメガホン代わりにして叫ぶのがオタケのつとめだ。

 天ノ雀と筆書きされたすずめちゃんのマスク姿はクールだ。

 レディースなものだから、イカしたマスクを付けて周囲を威嚇したい子もチームには居るのだが、すずめちゃんと被るとオタケにシメられるので付けられない。

 すずめちゃんは舌が無いからマスクつけてんのに、テメーはチャラついてニセマスク付けようてのか? というわけだ。


 すずめちゃんに舌が半分無いのは、ウナ先輩が切り取ったからだ。

 ウナ先輩は地元最恐にして最凶のレディースだった。舞米maimaiを率いて一帯をシメていた。他の市のチームにも名を知られていて、遠征を称して走りにいけば、舞米との衝突を恐れてその地のチームは走らなかった。

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