第一章 二人だけの生活
Ⅰ 仮面のメイド
港近くの街に貿易商と学者の夫婦が建てた屋敷があった。オレンジの木が植えてある庭があって、いつも屋敷唯一の入り口である大きな鉄格子の門が閉じていた。
街の人間は今、誰がその屋敷に住んでいるのか知らない。
屋敷の人間が出てきたこともなく、街の人間が屋敷に入ったこともないからだ。
ただ、噂話として、屋敷に仮面を付けたメイドが居ると言われている。
誰も見たことのないお宝を狙って、空き巣が屋敷に忍び込んだことがあった。
その空き巣は夜中、屋敷に侵入して探索していたときに屋敷の住人に遭遇した。
その住人はメイドで、仮面で顔を隠していた。
だが、それよりも目を惹くのは、頭に生えた二本の角とスカートをめくり上げているトカゲの尻尾。
――メイドのフリをした怪物が屋敷に棲んでいた。
空き巣は恐怖に駆られて逃げ出して、自ら警察に飛び込んできた。そして、事情聴取で一連のことを話したが、酔っぱらって見た幻覚だと誰にも信じてもらえなかった。
ただ、空き巣のホラ話は酒の席の噂話として街に残ったのである。
噂話が広まったのも九年前。
既に風化して、やはり街で屋敷の住人を知る者は誰も居ない。
仮面のメイドと若い当主が二人だけで暮らしているなど知る由もない。
当主はまだ子供で、屋敷のことは全て仮面のメイドが一人で切り盛りしている。
持病を抱えている当主は表に出られず、メイドもその存在を隠していた。
何故、二人だけで屋敷に住んでいるのか。
何故、メイドは仮面を付けて正体を隠すのか。
そして、メイドが当主の存在を隠す真意は。
二人の奇妙な生活にまぎれる謎の真実は、レディ・オブ・ザ・ランドにある。
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