第399話
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【エギル視点】
フィールドに飛ばされる前、ヤマモトがなんか微妙な顔をしてた気がしたが……。
まぁ、もう始まっちまった以上は聞き返すこともできねぇか。
「で、俺様の相手はどこだ?」
とりあえず、下を通る島に移動するのは簡単そうだと思って、一番上にあった島から始めたんだが……。
なんというか、鬱蒼としたジャングルで見通しが悪いこと、この上ねぇな。
この感じだと、ダク郎とかにとっては天国なんだろうが、俺様にとっては戦い難くて仕方ねぇや。
「燃やすか……?」
島ひとつ焼け野原にしちまった方が戦い易いかもな、と考えていたところで、ちょっとした開けた広場のような空間に出る。
そこで見つけた――。
綺羅びやかな着物を身に付けた紫髪の女を……。
「俺様の運がいいのか、テメェの運が悪いのか」
「だったら、後者だな、小僧」
女が立ち上がる。
と同時に、女の背後に何本もの剣が突き刺さっているのが見えた。
近接戦闘系か。
まぁ、苦手な相手じゃない。
「一応、名前ぐらいは聞いておいてやろうか、小僧? 私は帝王学園のミョウイン。見ての通り、剣客だ」
「俺様が小僧なら、テメェはババアか? 貴族の礼儀として、名乗りは返してやる。チェチェック貴族学園のエギル・ヴァーミリオン。ただの【天才】だ」
「ババア、ね。……口のなってない小僧だ。その性根を叩き直してやろう」
「やってみろよ、クソババア!」
地面に刺した剣の一本を引き抜くクソババアを前に、俺様はビッと◯指をおっ立ててやるのであった――。
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【ツルヒ視点】
できるならば、私の相手は近接戦闘が得意な相手が望ましかったのだがな……。
「久し振りだな、ノワール嬢」
「セルリアン殿……」
深い森の中で出会ったのは、かつて同じ学園に通っていたシーザ・セルリアン殿であった。
斬り掛かるには密集した木々が邪魔な地形。
まぁ、それは向こうも魔法の射線が確保できないので、同じようなものか。
互いに大変なところで、出会ったものだな。
「セルリアン殿はやめてくれ。私は既に家から勘当された身だ。今はただのシーザとして、扱って欲しい」
「…………。シーザ殿は、何故帝王学園に? あのイザクは、貴方の憎き敵ではないのか?」
そうだ。
元々チェチェック貴族学園を辞めた原因だって、あのイザクにあったはずだ。
それが、何故、イザクの配下のような立場になって平気な顔をしていられるのか。
それがわからなかったので聞いてみたが、
「そのイザクに請われたから、ここにいるんだ。この魔将杯で、彼……? 彼女……? はどうしても勝ちたがっている。だから、私は受けた恩義を返そうと思って、ここにいる。……それに、ヤマモトが負ける瞬間というものも、この目で見たかったからな」
「そうか」
なんとなく、昔の高慢ちきなシーザ殿とは違うと感じる。
勘当されたからだろうか。
私の知ってるシーザ殿と違って、角が取れて丸くなったイメージだ。
「シーザ殿は変わったな」
「そうだな」
――ザンッ!
突如として、背中に走る衝撃と共に、私はその場に吹き飛ばされる。
そして、追撃するように、地面を次々と貫いて出てきた氷の槍を、素早く地面を転がることで躱していく!
くっ、魔法の射線がないと油断していたか……!
「確かに、戦い方が少しセコくなったかもしれない」
「くっ……!」
慌てて剣を鞘から抜こうとして、その鞘が近くの木の幹に引っ掛かる。
あちらは遮蔽物を無視して攻撃できるというのに、こちらはこれか……!
「まさか、障害物のないところでないと戦えないとは言わないだろう? ノワール嬢?」
「そうだな。ノワール流の戦い方の真髄を見せてやる……」
私はひとつ息を吐いて気持ちを落ち着かせると、鞘を立て、剣をゆっくりと引き抜くのであった――。
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【ダク郎視点】
「っしゃおらぁぁぁぁ! ごぁぁぁぁ!」
「だりゃあああぁぁぁ! こらぁぁぁ!」
巨体のドレイク族の男……確か新聞記事にも載ってたデレックとかいう奴と、ゴン蔵くんが互いに両手を組み合わせ、叫び声を上げて力比べをしてるっぺ!
けど、力比べは五分というわけにはいかねぇ!
ゴン蔵くんの足元が滑り、徐々にゴン蔵くんが近くの森の中へと押し込まれていくっぺよ!
「吾輩に力で対抗しようとする、その胆力は見事! その胆力に応え、森ごとお前を押し切ってやろう! がぁぁぁっ!」
「ふざけんなっぺよ! トロール種族がトカゲ種族なんぞに力勝負で負けねぇっぺ! ぬごぁぁぁっ!」
あぁ、クッソ……!
俺とゴン蔵くんのコンビだったら、向かう所敵なしだと思って開始地点を一緒にしたってぇのに……!
よりにもよって、初っ端から相手のエース級とあたっちまうなんて、ついてねぇっぺよ……!
「さて、あちらはあちら。こちらはこちらで楽しみましょうか?」
そう言って、俺の前に立ち塞がるのは、ウエーブの掛かった髪を肩まで伸ばした美人さんだっぺ。
けど、そのウエーブの掛かった髪は見る間に顎を開く蛇の群体となり、下半身が立派な蛇のそれになっていくべ……。
あの髪と足はゴーゴン種族だっぺな……。
ゴーゴン種族は相手を状態異常にすることを得意としてる厄介な種族だっぺ。
普通の魔物族だったら、正面から戦おうとはしねぇっぺな……。
まぁ、状態異常が効かねぇ、ダークゴブリン種族には戦いやすい相手かもしれねぇっぺが……。
「私は帝王学園のリュアーレ。あなたは――」
女……リュアーレが名乗りをあげる中を、名乗り返しもせずに、あっという間にその辺の森の中に逃げ込むっぺよ!
「あ、ちょっと!?」
悪ぃけど、お前さんと遊ぶのは後だ!
どっちかっつうと、俺はゴン蔵くんの方が心配だからな!
森の奥まで力比べで押し込まれていったゴン蔵くんを助けるために、後を追うっペ!
というか、ゴブリン種族は単体で一騎打ちをするような種族じゃねぇっぺよ!
もっとずる賢く、汚く立ち回ってこそだべ!
「くっ、待ちなさ――……キャア!?」
そして、お前らと出会う前に、森にはトラップをいっぱい仕掛けたんだぁ!
追っかけてくるなら、相応の覚悟で挑んで欲しいっぺなぁ!
「畜生……、ゴン蔵くん……!」
俺たちは、チェチェックの片田舎で小さな種族の次期リーダーに収まるような器じゃねぇって言ってたっぺよぉ!
それに、俺がこの魔将杯にチェチェック貴族学園の代表として出ていられるのも、ゴン蔵くんが最後の最後に協力してくれたおかげだぁ!
だから――、
「俺が行くまで持ち堪えるっぺよ〜!」
今度は俺がゴン蔵くんに力を貸す番だっぺ……!
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【マーガレット視点】
なんとなく、なんとなくですけど……。
みなさんがバラバラに開始位置を決めると聞いた時点で、嫌な予感はしてたんですのよ?
私、こう見えても魔法の名家アモン家の出自ですから、魔法の腕にはそれなりに自信がありますの。
ですけど、こう言ってはなんですけど……。
――運が悪いのですわ!
魔将杯もようやく試合に出場出来たのが、この決勝戦ですし……。
魔法が得意な魔物族としてじんわりと名前が売れてきたと思ったら、同世代にシーザ・セルリアンとかいう麒麟児がいたせいで、私の名声は埋没していきましたし……。
この魔将杯のチームでもリーダーを狙っていましたのに、初日からスコットさんがリーダーみたいな空気で、口を挟む余地がなかったですし……!
そんな不運な私だからこそ、知恵を使わねばならないと思って、決勝は一計を案じましたのよ?
魔将杯の決勝戦は基本的にはレシオを全員に割り振って、十対十の対決をするのがセオリーですわ。
ですから、ビーさん、ポールさんを誘って、三人一組で同じ島の同じ開始位置にしましたの。
全員が同じレシオであるというのであれば、人数が多い方が優位なのは必定。
そこで、私は三対一で戦いながら、帝王学園の相手を一人一人倒して、ポイントを稼ぐ手立てを考えましたのよ!
やり方はセコいかもしれませんけど、これを見てる魔王軍の幹部にアピールするには、負けるよりかは勝つ方がアピールできますもの!
ですから、恥も外聞も捨てて、ビーさんとポールさんと組んで、帝王学園狩りをする予定……、でしたのに……。
「カハッ……!」
真っ黒焦げになったビーさんが、地面に倒れて、やがて光の粒子になってしまいますわ……。
「あぁぁぁぁーーーっ!」
そして、【内蔵】で帝王学園の生徒の一人を取り込んだはずのポールさんも、鎧の内側から無数の槍で貫かれ、ハリネズミのようになって悲鳴をあげていますの……。
「これで二ポイントか? 他愛ないな、チェチェック貴族学園も」
ビーさんを空中戦で丸焦げにした、巨大な
「元々、組んで動いていたような輩だ。そこまで腕に自信がないんだろう……ブブブ……」
ベルゼと名乗った、アフロヘアにバンダナを巻いた男が外套で口元を隠し、ブツブツと呟きますの。
そして、ポールさんに【内蔵】されながらも、そのポールさんの鎧をズタズタの穴だらけにしたロッゾさんという仮面を付けた方が、ポールさんの体の中から、低い声で笑いますわ……。
「私のユニークスキル【武器庫】は取り込んだ武器を瞬時に体の表面に現出させられるスキルだ。取り込む相手を間違えたな。ククク……」
あぁ、なんてこと……。
本当なら三対一で相手を楽勝に倒す予定でしたのに!
あたった相手が三人組で、更には、ビーさんとポールさんがあっさりとやられてしまって、私の方が三対一で戦うことになるだなんて……!
「本当、不幸ですわ!」
私はそう自分の境遇を嘆くしかありませんでしたの……。
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【ユフィ視点】
エギル様やツルヒ様は、下の島に移るのが容易いということで、上の方の島を開始位置として選択しました。
そして、ゴン蔵さんやダク郎さんは、慣れ親しんだ山や森があるということで中段辺りの島を開始位置として選びました。
マーガレット様やビーさん、ポールさんは相手がすぐにどこにいるか判断できるようにと、障害物が少ない下層の島を開始位置に選んでいます。
そして、スコットさんは、丁度真ん中辺りにある、なんの特徴もなさそうな平原メインの島を開始地点に選んでおられました。
恐らくは地形を利用したりせずに、自分の力での勝利を存分にアピールできる場として選択したのでしょう。
そして、私は――、
ヤマモト様のスタート地点に一番近い島を開始地点に選びました。
中央部分より外れた場所にある島で、フィールドの中では上方の島です。
障害物もない小さな島で、足場には玉石が敷き詰められており、歩くだけでもジャリジャリと鳴るのが特徴でしょうか?
この島を開始地点に選んだことで気が付いたのですが、ここからだとフィールドの全景がよく見えますね……。
それこそ、目立った動きをする選手がいるようならすぐに気づけそうに私には思えます。
だからでしょうか?
私は、アタリを引いてしまったのです。
「イザク様……」
「おや、君は確かいつもヤマモトと一緒にいた……」
「ユフィです」
「そうだ。そんな名前だったね。あぁ、丁度いいや。ヤマモトはどこにいるのかな? 是非とも彼女と戦いたいんだけど?」
そう、ばったりとイザク様と遭遇してしまったのです。
私は思わず身を強張らせますが、あちらは戦闘体勢にも移らず気楽なものです。
やはり、私などは眼中にないということなのでしょうか?
「また、ヤマモト様を卑怯な手で陥れようとしているのですか?」
「卑怯な手だなんて。あれは、正々堂々とした勝負だったじゃないか」
「ヤマモト様はルールもよくわかっていない状態で、あなたと戦ったんですよ? それを正々堂々と言われるのはどうかと思いますが……」
「見解の相違だね。それで? 君はヤマモトの居所を知っているのかい?」
「知っていても教えませんよ。それ以前に、私があなたを倒します」
私の言葉に一瞬、虚を突かれたように停止するイザク様。
ですが、次の瞬間には弾かれたように笑い出します。
そんなにおかしい……ですかね?
「それはなかなかに楽しい提案だ。だけど、生憎とボクには時間が無くてね」
「逃げるのですか?」
「いや、君の相手は彼女に任せるよ」
次の瞬間、私は背後に殺気を感じて、慌ててその場を飛び退きます。
そんな私の動きを待っていたかのように飛び込んできた、黒く、長い、鞭のようなものが、ジュウッと地面に敷かれた玉石をグズグズに溶け焦がすではありませんか……!
これは、あまり受けたくない攻撃ですね……。
攻撃してきた相手に視線を向けると、そこには二人の帝国学園生がいました。
一人は前髪で両目を隠した黒のジャージ姿の背の低い少年。
そして、もう一人は黒の喪服とトークハットを被った貴婦人です。
その貴婦人の黒い髪がうねうねと蠢いては、周囲の玉石を打って、溶け焦がしているようです。
「イザナ、悪いけど彼女の相手をお願いできるかな? ヤマモトは……そっちから見える景色の中にもいなかったんだよね?」
「――――」
イザナと呼ばれた喪服の女性が、凡そ言語とは思えない言葉を発し、イザク様は満足したように頷かれます。
今ので、なんと言ったのか聞き取れたのでしょうか……面妖ですね。
「そう。じゃあ、違う島を探してみよう。タキ、行くよ?」
「……あ、はい」
次の瞬間には、イザク様とタキさんの姿が消え失せ、私の目の前にはイザナさんと呼ばれた女性だけが残ります。
ヤマモト様から、イザク様が時を止めることができるという話を聞いていなかったら、今頃は大変混乱していたことでしょう。
「――――」
イザナさんが何を言ったのかはわかりません。
ですが、真夏の陽炎のように揺れる黒髪を伸ばし、こちらを威嚇していることを考えると、恐らくは敵対的な発言をしているのでは? と考えることができます。
「なるほど。貴女はどうやら、イザク様の期待に応えたいと思う程度にはイザク様を敬愛しておられるようですね。そういうことでしたら、私もヤマモト様を崇拝する者として、お相手致しましょう」
以前にも増して強まった魔力……魔漏病のおかげでしょうか?……を両手に集めて、魔力の手袋を作ります。
実体のない相手を掴む場合や、相手の攻撃を肉体ではなく魔力で受ける場合などに有効な【魔甲】程度でしたら、私でも使うことができますので、これでなんとか対抗しようと思います。
シュルリと伸びてきたイザナさんの黒髪を、私は魔力を纏わした拳で迎撃しますよ……!
「「!?」」
驚きました……。
イザナさんの髪を弾き返すことはできたのですが、私の魔力を込めた【魔甲】がイザナさんの髪に触れた瞬間に形を保てずに消えてしまったのです!
あの髪は、どうやら見た目以上に触れるな、危険! といった攻撃のようですね……。
こんな相手に勝てるのでしょうか……。
「えぇっと、ここは同じ信奉者ということで、一時的に仲良くするみたいな選択肢はありませ――」
私の言葉を遮るようにして、髪の鞭が飛んできます。
それをなんとか躱す私。
ヤマモト様のおかげでステータスが驚く程に上がっていますが、私には戦闘用のスキルや戦闘経験がないのです!
だから、あまり虐めて欲しくないのですが……!
「どうやら、そういう選択肢はないということのようですね……」
「――――」
さて、私の貧相なスキルで、果たして彼女を倒せるのか……。
少しずつ試していくしかないですね……。
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