第394話
【パウエル視点】
「さて、ついに魔将杯も残すところ僅か二試合となりました。本日は解説に大の魔将杯好きとして名高いパウエル・ノーマン卿を招いて、準決勝第二試合、チェチェック貴族学園VSゴダ中央学園の模様をお伝えしたいと思います。ノーマン卿、よろしくお願い致します」
「はい、よろしくお願いします」
今年の魔将杯も残すところ僅か。
だが、その残りのカードはいずれも歴代の魔将杯でも類を見ないほどの好カードに恵まれている。
「まずは、先日行われた帝王学園VSセルリアン魔法学園の戦いですが……やはり、帝王学園が強かったですねぇ!」
「えぇ、リーダーのイザク選手を筆頭に、この魔将杯で改めて、その力を見せているセルリアン領の麒麟児、シーザー選手、ドレイク種の強さを如何なく発揮する特攻隊長のデレック選手、他の選手も別のチームではいずれもエース級と呼ばれる選手を取り揃えていますからね。セルリアン魔法学園も健闘したのですが、魔法一辺倒では帝王学園の牙城を崩すのは難しかったようです」
「やはり帝王学園を倒すのには、特化した戦力だけでは難しいということでしょうか?」
「戦力を特化すると、相性によって相手を一方的に倒し易くなりますが、逆にいえば対策もしやすいということです。そこをどう補うかという話にもなるのですが……帝王学園はセルリアン魔法学園と戦うにあたって、装備を魔防が高いものに変えて挑んできていました。それに対する対抗策を消費アイテムでバフを掛けるなどして、セルリアン魔法学園も抗っていたのですが……」
「結果としては、三百点以上の大差がついてしまいましたね……」
「装備、消耗品の性能差が出てしまいましたね。セルリアン領はあまり豊かな土地ではありませんので、強力な消耗品を揃えられなかったということもあるでしょう。むしろ、三百点ほどで収めたのが、セルリアン魔法学園の強さと言えるのかもしれません。個の対決では、ほぼ勝てないと割り切り、後半戦からは完全にベースクリスタル狙いに切り替えて、範囲魔法を連打して点差を縮めましたからね。この魔将杯が始まって、あれだけ帝王学園から得点を重ねたのは、セルリアン魔法学園が初めてなのではないでしょうか?」
「そうですね。ですが、結局、前半に取られたリードを取り返し、逆転するまでには至らず、セルリアン魔法学園は敗れてしまいました。オッズからすると下馬評通りということになるわけですが……」
「思ったよりもセルリアン魔法学園は頑張ったという印象を抱く者も大勢いたと思いますよ。ちなみに、私もその一人です」
だが、それ以上に脅威を覚えたのは、今年の帝王学園だ。
先に出した三人の活躍はもちろんだが、脇も状態異常攻撃を得意とするリュアーレ選手を筆頭になかなか隙がない。
今年の帝王学園は戦力だけでいうなら、歴代最強と言われているが、あながちそれも間違いではないのかもしれない。
そんな帝王学園と戦うことになるであろう、決勝の相手がこの準決勝第二試合で決まるわけだが――、
「さて、準決勝第二試合の方ですが、ゴダ中央学園とチェチェック貴族学園の対決になります。こちら、ゴダ中央学園は下馬評通りといった感じですが……、チェチェック貴族学園の快進撃については、ノーマン卿はどのようにお考えでしょうか?」
「実は、私、チェチェック領の予選で解説としてチェチェック貴族学園の戦いぶりをいち早く見ているんですよ」
「おぉ、そうなんですか!」
こういう時に、予選試合の解説を引き受けていて良かったと感じる。
ちょっと得意げになりながら、解説を続ける。
「試合を見てもらえばわかりますが、パッと見では魔王軍特別大将軍のヤマモトのワンマンチームに見えます。ですが、脇を固めるのが【剣姫】と呼ばれるツルヒ・ノワールに、【天才】と名高いヴァーミリオン領次期当主であるエギル・ヴァーミリオンがいます。しかも、チェチェック貴族学園は魔漏病にチームメイトが罹った関係で、万全な戦力で臨めていないのにも関わらず、普通に準決勝にまで駒を進めてきましたからね」
「マーマソー領の天空騎士学園との対決は不戦勝ながら、非公式で戦い、圧倒したという記事もありました。そして、魔将杯決勝の実質的な初戦ではメロウィ領の百鬼機構学園を相手に四百点以上の大差をつけての勝利。これで万全ではないというのが、そら恐ろしいですね……」
「総合的な力からいえば、帝王学園にも匹敵すると私は考えています」
「一方のゴダ中央学園はどうでしょう? 毎年、帝王学園のライバルとして注目されていますが、今年は特に強いと言われていますよね」
そう。そうなのだ。
今年に限ってはゴダ中央学園もかなりのタレントが揃っている。
チェチェック貴族学園が強いといっても、ゴダ中央学園もまた強く、勝敗の予想が難しい状況なのである。
「ゴダ中央学園はリーダーの【皇帝】こと、ミヒャエル選手を中心によくまとまっています。特に、他の学園に比べて攻撃力が高く、予選大会はいずれの試合も四百点以上の大差をつけて勝利しています。また、決勝トーナメントでも
「この攻撃力の高さは一体どこからくるものなのでしょうか?」
「やはり、ミヒャエル選手の【無敵】がキーになるのでしょう。そのミヒャエル選手の両腕と言われるベルン、ケルンの双子の兄弟も油断ができません。特に、ベルン選手の【継続】のユニークスキルは、ミヒャエル選手の【無敵】時間を永続化させますし、ケルン選手の【跳弾増幅】もベルン選手の【継続】のおかげで、恐ろしい威力にまで跳ね上がります。この三人が核となって、相手の陣地に攻め込んで、一切自陣に戻ることなくベースクリスタルと相手選手を蹴散らしていきますからね。得点能力が低いはずがないんですよ」
「ですが、攻撃力の一方で防御力の低さが問題視されることも多いですよね」
「そうですね。攻撃側にはミヒャエル選手やベルン選手、ケルン選手といった目立つ存在がいるのですが、防御側はなかなか目立った選手はいません。そうした理由から、相手の学園も点の取り合いを選択する場合が多いのですが……」
「どうしても、押し負けると」
「はい。やはり、ミヒャエル選手の【無敵】が大きいですね。彼の前進を止めることは難しく、逆に相手側はゴダ中央学園の
「となると、今回の試合としては、どちらも得点能力が高いチーム同士、点の取り合いになるのでしょうか?」
「それは――」
「おぉっと、ここで、本試合の
「奇策が仕掛け難いですからね……。どちらのチームも実力者のみを選んで、真っ向勝負を仕掛けることになるのではないでしょうか?」
「となると、レシオの振り方が肝になりますか?」
「そうですね。どちらのチームもどのようなメンバーを選び、レシオを振ってくるのか注目しましょう」
恐らく、ゴダ中央学園に戦術の変更はない。
彼らは戦術の多様性を捨てて、最強の一手を押し通す戦い方をしてきた。
だから、ここにきて、その矜持を捨てるとは思えなかったからだ。
問題はチェチェック貴族学園の方である。
こちらは、ヤマモト卿をフリーに動かすとして、あとはどう戦うのか?
平原の戦場は障害物がない分、移動できるエリアが広く、見通しもかなり良くなる。
恐らく、ゴダ中央学園側は開始と同時にベースクリスタルの位置を確認し、そちらに向かって突撃していくだろう。
それを無視して、チェチェック貴族学園側も攻めるのか、それともゴダ中央学園側の侵攻を阻むために、防御を固めるのか……。
果たして、どういった選択を取るのか、興味が絶えない。
「さぁ、中央クリスタルが映し出す立体映像の方に注目です! 両チーム、作戦がまとまって配置につきました――っと、これは!?」
「まさか、そう来ますか!」
戦場に現れたゴダ中央学園の生徒は、ミヒャエル、ベルン、ケルンの三人だけ。
そして、チェチェック貴族学園側も、ヤマモト、エギル、ツルヒの三人だけであった。
図らずとも、両チーム共に少人数での戦闘を選んだ形になる。
「これは、一体どういうことなんでしょうか! ノーマン卿!?」
「恐らく、見通しの良い草原フィールドということで互いに
「つまり、どちらもベースクリスタルの破壊狙いで、点の取り合いを行うつもりということでしょうか!? ですが、それだとベースクリスタルに辿り着くまでのスピード勝負になるかと思われますが!」
「それだけではありません! 相手がどこにベースクリスタルを再配置するかによって、破壊するまでの時間に差が出てくる可能性もあります! これは、どちらのチームにとっても賭けになる部分が大きいですよ……!」
そう解説しながらも、私の頭の片隅に浮かんだのは、もしかしたら、チェチェック貴族学園はヤマモトが防御に回るのではないかということだ。
ヤマモトがミヒャエル、ベルン、ケルンの三人を抑え、エギル・ヴァーミリオン、ツルヒ・ノワールの両名で相手のベースクリスタルを破壊しに走れば、恐らく簡単に勝てるのではないかと私は思ったのだが……。
「さぁ、ようやく試合開始――……えぇっ!?」
「何故そうなる!?」
ゴダ中央学園の三人がチェチェック側の陣地に攻め込んできたのは予想通り。
だが、チェチェック貴族学園側は、ヤマモト一人を敵陣に送り込み、ツルヒ・ノワール、エギル・ヴァーミリオンの両名を、攻めてくるゴダ中央学園の三人の迎撃へとあてがう作戦に出たのであった。
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