第379話

 ■□■


学園担当ジャック視点】


 私たちが辿り着いた抽選会会場は、わかりやすいイメージでいうと日本武道館に似ていた。


 でっかくて、大きくて、平たい、八角形の建物。


 その抽選会会場の入り口まで飛び込んで、とりあえず追跡者がいないことを確認してから、安堵の息を吐く。


 いや、白昼堂々いきなり命を狙われるなんて思ってもみなかったからビックリしたよ。


 そして、事情を知らない抽選会会場の係員さんからしたら、私とリィ先生の行動は不審過ぎたみたい。


 白い目で見られてる。


 とりあえず、気を取り直して、大企業の受付かってぐらいに広い受付に向かう私たち。


「えーと、すまない。チェチェック貴族学園の者だが……」

「抽選会に来られた方ですね? でしたら、左手ドアを開きまして中にお進み下さい。席は沢山ありますので自由に座ってもらって構いません。抽選会が始まりましたら、学園名が呼ばれますので、名前が呼ばれたら壇上に上がって魔道クジを引いて頂ければ結構です」

「あぁ、ありがとう……。それとは別件でいいか?」

「別件ですか?」

「ウチの生徒が命を狙われた」

「……承知しました。お話を伺いたいのですが、どなたか別室まで来て頂けますか?」

「ならば、私が行こう。ヤマモトは抽選会の方に参加しといてくれ。……多分、ここの警備であれば、賊も中までは追ってこれないだろう」

「おけまる水産」


 リィ先生の言う通り、抽選会会場の警備は厳重そうだ。


 背の高いオーガの上位種や、腕が六本もある三つ目の偉丈夫、首が二本あるライオンなどが、侵入者がいないかと目を光らせて巡回してる。


 これなら確かに、侵入してくるのは難しいかもしれない。


「おけ……何?」

「わかったよ、ってこと。じゃ、行ってくるね」


 リィ先生と別れて、私は左手側のドアから中に入る。


 中はすり鉢状になっており、やっぱりなにか日本武道館とか、野球場、コンサートホールなんかの感じを思わせるね。


 ちなみに、全体的な照明は暗いんだけど、抽選会会場の中央部分はぼんやりと明るい。


 ほんやりと明るいというか、魔道具によって巨大なトーナメント表が空中に投影されてるみたいで、それが淡く光ってる。


 それによると――、


 ①━━━━━┓

       ┣━━━┓

 ②━━━┓ ┃   ┃

     ┣━┛   ┣━━━┓

 ③━━━┛   天 ┃   ┃

           ┃   ┃

 ④━━━━━┓   ┃   ┃

       ┣━━━┛   ┃

 ⑤━━━━━┛       ┣〘優勝〙

               ┃

 ⑥━━━┓         ┃

     ┣━┓       ┃

 ⑦━━━┛ ┃       ┃

       ┣━━━┓   ┃

 ⑧━━━┓ ┃   ┃   ┃

     ┣━┛   ┃   ┃

 ⑨━━━┛   地 ┣━━━┛

           ┃

 ⑩━━━━━┓   ┃

       ┣━━━┛

 ⑪━━━━━┛


 天ブロックと地ブロックに別れてるのかな?


 で、天ブロックの方が二回戦から始まるところが多いから、お得と。


 どちらかというと、天ブロックに割り振られればいいんだけど……。


 こればかりは運だしねぇ。


「どけ」


 そんなことを通路の真ん中で考えてたのがいけなかったのかもしれない。


 背後から近寄ってきた相手に肩を強く押されて、私はその場で回転ドアのようにグルンと回転してしまう。


 で、その勢いを利用して、回転しながら座席に――ストン。


 十点満点の着地だ。


「…………」


 上手く着席できたことを喜んでると、私の肩を押してきたであろう相手が睨んできてることに気づく。


 額にバッテンマークの傷に、紫色の髪と、何故か上半身裸で肩にマントを掛けている、その姿は……。


 まさか……。


「【皇帝カイザー】……?」

「誰だ、貴様」


 あ、その反応は合ってたっぽい?


 いや、だと思ったんだよねー。


 何がとは言わないけど、凄い皇帝な感じあったもん。


 確か、皇帝って二つ名なのは、ゴダ中央学園のミヒャエルくんだっけ?


 その後ろに、神経質そうな顔をした秘書みたいな女の人が立ってるけど、彼女が引率の先生かな?


「行きますよ、ミヒャエル。……ミヒャエル?」

「…………」


 秘書みたいな人にそう声を掛けられるも、皇帝は私から視線を外さない。


 これは、答えなきゃ行ってくれない感じ?


「チェチェック貴族学園のヤマモトだよ」

「チェチェック貴族学園? 代表はエギルではないのか?」

「エギルくんなら、チームメイトだけど?」

「フン、田舎の学園ですら牛耳れんようでは底が知れるな……」


 そう言って、皇帝は去っていく。


 なるほど。


 新聞記事で、私たちとは全然関係ないゴダ中央学園がチェチェック貴族学園をライバル視してるとか書かれてたのが謎だったんだけど……。


 どうやら、エギルくん目当てってことみたいだね。


「相変わらずミヒャエルはおっかないや。顔が怖いんだよね、顔が」


 そして、私の席の隣に突如として現れる気配。


 いきなり何!? と驚いたんだけど、帽子を目深に被った人物が隣の席に腰掛けてるのを見て納得する。


「イザク」

「覚えててくれてたんだ。嬉しいなぁ」


 いや、忘れるわけないじゃん!


 当て逃げみたいに、私から勝利をもぎ取って逃げた相手だからね!


 しかも、凶悪な、時間を止める系のユニークスキルの持ち主!


 それに先代魔王の息子だか、娘だかって話でしょ?


 これだけ属性てんこ盛りで、なおかつ土を付けられた相手を忘れるわけがないよ!


「そして、ボクの言葉を信じて、魔将杯を勝ち上がってきてくれただなんてね」

「別に、イザクの言葉を信じて勝ち上がってきたわけじゃないけど」


 どちらかというと、頑張ってきたユフィちゃんとか、仲間たちのために戦ってきた感じ?


 まぁ、でも、それは些細なことだったみたい。


 イザクが口の端を持ち上げる。


「勝ち上がってきたということが重要なんだよ。ある程度強いということが証明されるしね」

「どういうこと?」

「そこで、ボクからの提案なんだけど……」


 いや、答えてよ。


 こっちの話を全然聞かないね。


「ボクとあたったら、負けてくれないか?」


 ……は?


 それって、帝王学園にあたったらわざと負けろって言ってる……?


 つまり、八百長しろと……?


「それって……帝王学園の名誉を守るためにとか、そういう意味で言ってる?」

「そんなちっぽけなもののためじゃないさ。この魔王国の平和を守るために言ってるんだ」

「魔王国の平和?」


 それってどういう――、


 だけど、私が聞き返す前にイザクちゃんくんの姿は、私の隣から消えていた。


 代わりに息せき切ってリィ先生が走り寄ってくる。


「ヤマモト、大丈夫か!」

「え? 大丈夫ですけど……どうかしました?」


 そう答える私の顔をマジマジと見た後で、リィ先生が私の隣の席を睨んでから、その席にドカリと座り込む。


 リィ先生が来るのがわかって、イザクちゃんくんは姿を消したのかな?


 そりゃ、八百長を持ちかけてくるんだもん。


 他人の目があるところでは、話しづらいよね。


「お前を狙うように指示したのが、同じ魔将杯の出場校である可能性を考えろ……! 迂闊に気を許すことで、またさっきのようなことが起こってもおかしくないぞ……!」


 あ、そっか……。


 直接的な襲撃犯と、指示した人間が別という可能性も考えられるんだ。


 そして、油断したところを今度こそ爆散してくるとか?


 どういう原理かは知らないけど、私のステータスを抜いて、手首を完全に吹き飛ばすような相手だからね。


 油断したところにもっと規模の大きい攻撃を食らえば即死だ。


 …………。


 そっか、そうだよね……。


 なんか、普通に手首が吹き飛んでも「痛い」で済んでたし、強力な攻撃を食らってもビクともしなくなってたから、緊張感を失くしてたけど……。


 私が死ぬのは、多分即死のこういう時なんだ。


 それを考えると、襲撃された前後の動きを思い出して寒気が走る。


 ひとつ対応を間違えれば……、


 当たりどころが悪ければ……、


 ……死んでいた。


「…………」

「おい、大丈夫か?」

「今頃、怖くなってきました……」

「それがわかったのなら、あまり迂闊な動きはするな。誰が敵で、誰が味方なのかわからん」

「は、はい」


 キョロキョロ……!


 リィ先生に注意されたこともあり、私は周囲を一生懸命に警戒しまくるのであった。


 ■□■


【イザク視点】


 ……参ったな。


 何故か、凄く警戒されてる。


 本来ならば、誰にも気付かれずにヤマモトと接触し、ボクが彼女と戦った場合には、彼女にそれとなく負けてもらう予定だった。


 ボクの目的は魔将杯で勝つことじゃなく、ボクが誰よりも強いということを母に証明することなのだ。


 だから、チームの勝ち負けでなく、個人間の戦いが起こった場合に負けてもらおうと思って、ヤマモトと接触したんだけど……。


 ちょっと部外者がやってきたことで、中途半端な説明になってしまった。


 その結果、ヤマモトの警戒心を引き出してしまったというのであれば、それはボクのミスだ。


 でも、ここで諦めるわけにはいかない。


 この行動の正否で、魔王国の存亡がかかってるんだ。


 簡単に諦めていいものじゃないだろう。


 …………。


 それにしても、先生遅いなぁ。


 トイレに行くって言ってから、まだ戻ってきてないみたいだけど……。


 そう思っていたら、先生が慌てて戻ってきた。


「イザクさん、今、受付で聞いたんだけど、魔将杯決勝トーナメントの参加者の一名が何者かに襲撃されたそうよ!」

「え……!?」


 瞬間的に思い浮かんだのは母の顔。


 そして、その想像は十中八九間違っていないだろう。


 だが、母に襲撃されたら、普通は生き残ることができない……。


 私は先程まで話していたヤマモトの姿を思い出す。


 彼女は見た限りでは、何のダメージも受けていなかったように思える。


 だとすると、ヤマモト以外の選手が襲われたのか?


 それとも、母の凶行ではない……?


 判断が難しい……。


「後で正式に発表があるらしいけど、イザクさんも気をつけてね? あなたはウチの大エースなんだから……」

「ボクは予選には出てませんよ?」

「それでも、よ。あなたが帝王学園の大エースとして長い間存在してくれているから、帝王学園に入学するって子も多いんだから」


 それは母への対策として、在籍してるだけなんだけどな……。


 それよりも、襲撃の話の方が気になる。


 ボクの直感を信じるのだとしたら、恐らく母が動いてる。


 そして、それを前提で考えると、外でヤマモトと接触するのは避けた方がいい。


 恐らく、母はヤマモトの行動を監視してるだろう。


 そんな状況下で下手にヤマモトと接触すれば、ヤマモトに八百長を持ちかけたことが母にバレかねない。


 そうなったら、きっと母はヤマモトを試すために行動を起こす。


 ヤマモトだって抵抗するだろうし、周囲一帯が焼け野原になってもおかしくはない。


 そもそも、ヤマモトは魔王軍特別大将軍という地位にある。


 それを母が討ったとなったら、今度は魔王国と母とで全面戦争になる可能性だってある。


 国は疲弊し、パワーバランスが崩れることで、それに乗じて動き出す者も多いだろう。


 そうなってくると、時代は戦乱の時代へと進んでいく。


 それだけは避けなければ……。


『魔将杯決勝トーナメントに参加する各学園が揃いました。それでは、これより抽選会を始めたいと思います。名前を呼ばれた各学園の代表は中央ステージに上がり、クジ引き用の魔道具に触れて下さい』


 だが、どうする?


 ヤマモトが警戒してる今の状況だと、話を持ちかけても袖にされる可能性が高い。


 かといって、ヤマモトとの接触に手間取れば、母に勘付かれる可能性だって出てくる。


 それに、上手くヤマモトと接触できたからといって、ヤマモトが八百長に乗ってくれない可能性もある。


 母に知られることを覚悟で、一か八かで勝負に出るか?


 だが、失敗した場合のリスクがあまりにも高過ぎる。


 となれば、どうする……?


 接触の機会を狙いつつ……ヤマモトを倒す方法を考えるしかない。


 対ヤマモト用の装備も手に入れたんだ。


 畏れずに立ち向かう覚悟を決めよう。


『それでは、前年度優勝者である帝王学園はステージ中央に来て下さい』

「イザクさん」

「行ってきます」


 ボクは拳を握り締めながら、ゆっくりと立ち上がるのであった。





 ■□■


本編とは関係ないCM劇場。


デスゲームに巻き込まれたヤマモトさんの2巻が発売中となります。


お買い上げ頂いた皆様、誠にありがとうございますm(_ _)m


興味はあるけど、まだという方は是非手に取ってみて下さい。


なんか厚い……ですよ?


自分も発売したとあって、その姿を見てみようと思って近所の本屋さんに行ってみました。


今回、1巻と2巻を同時に飾れる二面販売台というのが設置してあるかもということで、ワクワクしながら行ってみたんですが――、


今回も近所の小さな本屋さんには置いてありませんでした!


いつか、あの書店で自分の本を見る日は来るんだろうか……。


それでは、この辺りでノシ

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