第300話
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さて、世界会議まであと一週間というタイミングで私たちは海を渡って、ファーランド王国、始まりの街ファースにまでやってきた。
ちなみに今回の世界会議に出席するためにやってきたのは、リンム・ランム共和国を征服しちゃった私と、リンム・ランム共和国の現状を説明してくれるであろう村長さんと、護衛のために付き添ってくれてる愛花ちゃんたち黒姫御一行の総勢八名という小ぢんまりとした集団だ。
そう。
本来なら、SUCCEEDに護衛を頼むつもりだったんだけど、
ミタライくんには悪いんだけど、残ってもらうことにしたよ。
というか、アスラがミタライくんたちを気に入り過ぎでしょ! なんか最近、『SUCCEEDはワシが育てた!』みたいにドヤッてるし!
いや、実際に神様相手に模擬戦してスキル経験値をモリモリゲットしてるから間違っちゃいないんだけど!
あと、アスラは
そんなわけで、今回は愛花ちゃんたちと虚無僧.comスタイルで久し振りにお出かけとあいなりました!
リンム・ランムにいる漁師さんに話しかけて、船を漕いでもらってどんぶらこ〜とファーランド王国にまで到着。
そのまま名もなき漁村で休まずに、強行軍でファースの街まで辿り着くという、なかなかタイトな行程をこなしたよ。
というか、私たちとしては夜間もぶっ通しで歩き続けてもいいんだけどね?
流石に、村長さんが限界だったから、本日はファースの街で一泊することにしたんだ。
ちなみに、ファースの街――。
私としては、ゼクスさんに犯罪者扱いされて追いかけ回された嫌な思い出しかない街なんだけど、愛花ちゃんたちにとっては長らくホームにしてた土地なだけあって、感慨深いものがあるみたい。
街の人に声をかけられたりして、楽しそうにコミュニケーションを取ってるところをみると、立ち寄って良かったなーと思うよ。
というわけで、本日はファースの街の愛花ちゃんたちの馴染みの宿に部屋を借りることにして、その宿の一階にある食堂で今後の予定について話し合いだ。
もう外は真っ暗で移動には向かないし、村長さんの晩御飯兼任なのでテーブルがいっぱいになるまで料理を頼んで、みんなで食事をする姿は本当にファンタジー世界に迷い込んだみたいでちょっと楽しいね。
それにしても、移動だけで一日が終わると、ちょっと損した気分になるなぁ。
まぁ、寝て起きたら日付変わってたみたいなケースよりはマシと考えようかな?
ちなみに、話し合いの内容は明日以降の日程の確認が主だ。
私たちの計画としては、明日以降はファーランド王国を北上。
現在は港町セカンにいるであろう魔王御一行と途中で合流する予定になっている。
そこで世界会議前の事前の打ち合わせをしながら、一緒にガーツ帝国に向かう予定だ。
「それにしても、村長さん本当にいいの? 魔王国に従属するって……」
「ははは、その話はリンム・ランムを出る時に他の村長たちとも十分に話し合いました。そして、満場一致で決まったのです。神様代理が心配することは何も御座いませんよ」
「そうは言うけどさぁ……」
それ、人族国家からしたら、普通に裏切り行為なんだよね。
どうも、リンム・ランム共和国では、私が過労になってしまうぐらいに一生懸命働いたせいで、魔王国統治の評価が急上昇してしまい……もう魔王国の属国でいいか、となってしまったらしい。
まぁ、元々、人族国家連合の中でリンム・ランムの立ち位置が微妙っていうこともあるみたいなんだけどね。
「そもそも、人族国家の中で我々リンム・ランム共和国の扱いがおかしかったのです。同じ人族国家を標榜しておきながら、国教を邪教と罵られ、あまつさえ海を越えた隣国のメルティカ法国には仮想敵国として常に睨みを利かされてる状態ですし……ファーランド王国を通ることは事前に告げてるはずですのに国賓として扱われてもいません。正直、人族国家としてあり続けることにメリットがないんですよ」
どうもメルティカ法国が主導して、リンム・ランム共和国をイジメ続けた結果、人族国家連合から離反する決意を固めることになったみたいだね。
まぁ、魔王国の属国になったとしても、メルティカが敵対的なのは変わらないし、リンム・ランムは他国との交易で儲けたりもしてないから、なんのデメリットもないしね。
魔物族側としても、現魔王の融和政策が続く限りはリンム・ランム共和国をどうこうしようってつもりはないだろうし。
むしろ、アスラとかいうワガママ神に首輪が付けられて、尚且つ、頼めばあっという間に河川工事なんかをしてくれる便利な重機の私と懇意になっといた方が得と考えたんだろう。
メルティカ法国が攻めてきても、私とアスラがいれば普通に撃退できるだろうし、番犬という意味でも優秀なので、魔王国側につかない理由がないんだろうね。
まぁ、そんなわけでリンム・ランム共和国側としては属国化を希望しているんだけど、それをやられると困る人が一人いるんだよね。
「まぁ、魔王がなんていうかねぇ……」
そう、魔王だ。
魔王的にはリンム・ランムを人族に返して、めでたしめでたしにしたいだろうし、それが何故か魔王国の飛び地にして下さいと言ったら、なんでやねーん! と叫ぶ未来が見える。
その辺をどうするか、相談しに行くのも含めて、魔王御一行に接触を図りたいところなんだけど……。
「でも、本当に大丈夫なの、お姉ちゃん? 魔王って魔王国の一番偉い人なんでしょ? 気分次第で私たち殺されちゃったりしない?」
「魔王が? ないない!」
むしろ、魔王は乱暴な魔物族を押さえつけてる人格者だしね。意味もなく、相手を攻撃するようなことはしないと思うよ。
「魔王はそういうタイプじゃないから」
「いや、でも魔王ってアレだろ? 角生えてたり、牙生えてたり、翼生えてたり、ゴツくて筋肉ムキムキで、貴様らの腸を喰い破ってやろうか! とか言っちゃうタイプのゴツいオッサンじゃないのか?」
アラタくんの偏見が酷い。
というか、魔王は普通に可愛い女の子だし。
むしろ、武闘派じゃないダウナー系女子だし。
…………。
いや、あれは仕事でやつれてるだけかな……。
「オッサンじゃないよ。可愛い女の子だよ」
「えぇ、そうなの? 意外〜」
「あえて言うなら、ブラック企業に勤める目が死んでる系女子かな」
「なんだろう、すごく親近感を覚える……」
え、ミクちゃん、もしかしてブラック企業勤務なの? それは、その……お疲れ様です……?
私の迂闊な一言でミクちゃんの目が死んでしまった。
私がどうフォローしたものかなぁと考えていると、私たちのテーブルに誰かが近づいてくる。
私の視線に気づいたんだろう。
ユウくんが片手を上げて制止する。
その合図は、敵じゃないってこと?
「ワッツじゃないか。どうした? 久し振りだな?」
「よお、ユウ」
どうやら、知り合いだったらしい。
人族の敵になるって話をした手前、ちょっとピリついてたかもしれないね。反省反省。
それにしても、どんな間柄だろうと訝しんでいたら、愛花ちゃんが「ファースをホームにしてた頃にお世話になってた鍛冶師の方よ」と説明してくれた。
なるほど。
プレイヤーなのに今も一番初めの街に留まり続けてるのは珍しいなぁと思ったけど、生産職だったら
ワッツさんは、しばらくユウくんと世間話を交わした後で少しだけ真剣な口調へと変わる。
どうやら、ただの世間話をしにきたというわけではないらしい。
「そういえば、お前さんらって前に駆け出しのLIAプレイヤーをセカンの街まで送るみたいなことをしてただろ?」
「まぁな」
へぇ、そんなことやってたんだって感心してたら、
「人族側プレイヤーにお姉ちゃんがいないか、確認を兼ねてやってたのよ」
と、愛花ちゃんに言われてしまった。
つまり、善行ではなく私を捜索するための行動の一環だったらしい。
いや、それはその……御迷惑お掛けしました……?
「そのお陰で俺は助かった」
そう言うのは荒神くん。
ソロでやってた荒神くんは、モンスターと戦って死にかけてたところを弾丸ツアーしていた愛花ちゃんたちに救ってもらった過去があるんだって。
そう考えると人の縁って不思議なもんだよね。
「それでちょっと相談なんだが、ひよっこプレイヤーを一人、次の街まで護衛してやってくれないか」
「護衛か」
どうやら、それが本題みたいだね。
今更だけど、引き籠もるのに飽きたプレイヤーとかがいるのかな?
でもなぁ……。
私たちは途中で魔王御一行と合流する予定だし、その後はガーツ帝国に向かうことになるし。
次の街までとなると、ファーランド王国の北西にある港町フォーズにまで行くことになるんだけど……。
それでもいいのかな?
そのことをササッとユウくんに伝えると、ワッツさんの後ろで話を聞いていたらしい背の高い男の人がぬっと割って入ってくる。
「お話し中失礼します。私としては人の大勢いる地域でしたら、どの街でも構いません」
「それはまた……不思議な話だね?」
ユウくんが困り顔を浮かべて、男の人を見る。
この人が護衛を望んでいる人なのかな?
それにしても、人が多ければどの街でもいいというのは確かに変な話だ。
普通、ゲーム攻略をしようと考えるのなら、その街の近辺にいるモンスターの強さだとか、物価の高さだとかを気にするもんなんだけど、人の多さを気にするだなんて聞いたことがないよ。
すると、その男の人は頭をかきながら続ける。
「いや、実は情報を集めてましてね。それで、人の多い場所に移動しようと思っていたんですよ。そこで、ワッツさんに相談したら港町セカンまで送ってくれるかもしれないパーティーがいるということで、紹介してもらおうかと思いまして……」
「ワッツ、俺たちをタクシーみたいに使おうとするんじゃない」
「悪いな。けど、お前さんらぐらいだろ。見返りもなしにタダで護衛をやってくれる奴らなんて」
「そういうのは、依頼を出して他の冒険者にやってもらえよ。俺たちは今依頼を受けてる最中なんだ。悪いが二重依頼になるから受けることはできないぞ」
まぁ、依頼者は私なんだけどね。
別に同道するくらいなら問題ない気はするけど。
「わかりました。もしかしたらという話でしたので、忙しいようでしたら諦めます。御迷惑お掛けしました。それと、迷惑ついでになんですが……」
男の人はそう言いながら、私たちの前に一枚のスクリーンショットを提示する。
それは、やたらと不鮮明な画像であった。
なんていうか、ボケた画像をなんとか鮮明にしようとして、明度と解像度を上げた結果、むしろ白光りして見づらくなったような……そんな印象である。
それでも、なんとかわかることといえば、銀髪で巨乳な女の子ってぐらい? あと、小顔で可愛いような……? それとなんかキグルミみたいなものを着てる? あと周囲は洞窟? 地下牢? なんか石壁でできてる部屋に見えるけど……。
「これ、お姉ちゃんじゃん」
え?
愛花ちゃんに言われて、私はもう一度画像をマジマジと覗き込む。
「あ、これ、私だわ」
そう発言した瞬間、目の前の男がニコリと微笑む。
「すみません。少し二人だけで話せませんか?」
うん。
なんかとても嫌な予感と共に、なんでこの人は私の写真なんて持ってるんだろうと、急に不安になってくるのであった。
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