第216話

<匿名のプレイヤーの手によって、冥府の番人の一人が退治されました。>


<一部プレイヤーによって冥府の世界の存在が明らかにされました。>


<冥府の世界に行くには冥府の番人を討伐する必要があります。プレイヤーの皆さんは世界各地にいる冥府の番人を探して討伐してみましょう。>


 ▶特殊ダンジョンボス『ボクデン』を初討伐しました。

  SP10が追加されます。


 ▶特殊ダンジョンボス『ボクデン』をソロ討伐しました。

  SP5が追加されます。


 ▶称号、【天下無双の兵法家】を獲得しました。

  SP5が追加されます。

  以降、ボクデンとの戦闘が任意で選べます。


 ▶経験値6234158を獲得。

 ▶褒賞石5535212を獲得。

 ▶薄墨色の鬼神衣を獲得。

 ▶鬼神の黒足袋を獲得。

 ▶ヤマモトはレベルが4上がりました。


 ▶【バランス】が発動しました。

  取得物のバランスを調整します。


 ▶褒賞石698946を追加獲得。

 ▶鬼神刀来国俊きじんとうらいくにとしを追加獲得。


 ▶ボクデンを倒したことで特殊スキル【地獄門】を獲得しました。

 ▶地獄門を使用することで好きな時に冥府の世界へと移動できます。


 冥府の世界?


 というか、ワールドアナウンスを聞く限りだと、ボクデンみたいなのが他にもいるってこと?


 私でもこの状態なのに、一般プレイヤーに、それ討伐しろとか運営は鬼かな?


 まぁ、とにかく……。


「ふぅ〜、勝った……。やったぁ……――あいたっ!?」


 リザルトが出たことでようやく安心して気が抜けた私は、その場に座り込んで……お尻にマキビシが突き刺さって跳ね起きる。


 おー、いてて……。


「邪神ドリルは強い武器だと思うんだけど、片づけが大変な武器だね……」


 というわけで、本体である細身剣を持って、マキビシを回収するためにその場を歩き回るよ。


 まるで、磁石に吸い付く砂鉄のように、私の集まれ〜という意思に従ってマキビシが細身剣の剣身に集い、やがてドリルの形状へと戻っていく。


 ちなみに、なんでドリルの形状かというと、マキビシが群体で動いた場合に有効な武器は何かって考えた時に閃いたのがドリルだったんだよね。


 だから、イメージがしやすいのもあってずっとドリルの形状にしてる。


 ま、別にチェーンソーでも丸ノコでもなんでもよかったんだけどね。


「うーん。ちょっと減った……?」


 少し量が少なくなってるかもしれないけど、そこはまぁ、設計上の欠陥として大目に見ることにしよう。


 うん。


 オリハルコンを捨てるとか超勿体ないけどね!


「それにしても……やったぁ……勝てたぁ……」


 改めて、パタンと地面に寝転がる。


 お行儀は悪いけど、誰もいないし……いいよね?


 勝てると思ってなかったわけじゃないけど、ここまで一方的にやられてきた相手を倒せたというのは、何ともいえない達成感がある。


 なんだろう?


 難易度の高いクエストをクリアした時の達成感よりも、もっとこう充実感に包まれてるような?


 充実感というよりも解放感?


 やってやったぞ! という気持ちで、今も心臓がバクバクドキドキしてる。


 うん。


 アバターだから、気のせいかもしれないけどね!


「あ」


 そこまで、考えたところではたと気づく。


「もしかして、運営がやりたかったことはこれなの……?」


 VRMMORPGというと、プレイヤーがクエストに失敗して死んだ時には多くの場合がデスペナを背負って、最後にセーブした街や村に戻されるケースがほとんどだ。


 だから、プレイヤーも自分の今の装備でクリアできないような難易度の高いクエストに挑んだ場合なんかは、消費アイテムの使用を控えたり、ある程度モンスターの行動パターンを引き出した上で、死ぬ前提で行動するところがあったりする。


 そこには緊張感の欠片もなく、次に向けて装備を整えよー、ぐらいの軽い気持ちがあるわけなんだけど……。


 だからこそ、普通のVRMMORPGでは、ここまでの緊張感や解放感は味わえないんだよね。


 いや、難易度の高い敵をなんとか撃破できた時なんかには、それなりの達成感は味わえるよ?


 けど、死んだら終わりのデスゲームの中で、ギリギリのラインでの死闘を制した場合に比べたら、その緊張感や達成感は比ぶべくもない。


 むしろ、比較すべきは格闘ゲームの世界大会とかかな?


 負けたら終わりの一発勝負の中で、ずっと勝ち抜いていかなきゃいけないという緊張感。


 そんな緊張感の中で優勝をかっさらった時の達成感。


 それを味わうことができるのが、現在のLIAなんだと思う。


 VRMMORPGの醍醐味っていうと、フレと協力して何かを行ったり、徐々に装備やスキルが充実していく充足感を得たり、未知の世界を探検するワクワク感を覚えたりだとか、そういった要素が強いと思うんだけど……そこに心臓が跳ね上がるほどの緊張感を覚えるってことはほぼない。


 でも、それだけの緊張感があると、緊張感に比例するようにクリアした時の達成感や解放感もハンパないわけで……。


 佐々木たちは、もしかしてそれをプレイヤー全員に味わわせたかったんじゃないの? と、ふと思ったんだよね。


「運営はデスゲーム開始の時に、なんか真剣にゲームを楽しむように言ってたし……。運営自身が、プレイヤーに立ちはだかる高い壁となって迎え討つことで、それを倒した時の脳汁ドバドバの達成感を味わわせようとしてるのかな……。私に立ちはだかったボクデンのように……」


 その結果、プレイヤーたちが勝てば、私が今感じている以上の達成感や充足感が得られるはずだ。


 それこそ、それを以て世界最高のゲームとプレイヤーたちが感じてしまうぐらいには気持ちよくなっちゃうんじゃないかな?


 それは多分運営にとってみれば、最高の褒め言葉でもあり、最終的な目標でもあるんだと思う。


 LIAは現時点でも、世界最高峰に面白いゲームだとは思うけど、それは『現時点では』という但し書きが入る。


 そこに、デスゲームという劇薬を投入することで、プレイヤーにとっては歴史的にも類を見ない唯一にして最低最高のゲームへと上り詰めようとしているのではないだろうか?


「その割には運営の殺意が高いけど……」


 LIAを後々にも語り継がれていくゲームにするためには、運営の負けをもって完成するはずだと思うのだけど、運営も本気でプレイヤーを殺しにきてるような気もする。


 冒険担当クラブの話では、結構なプレイヤーが運営に殺されたんじゃないかって話だし……。


 本気の殺し合いだからこそ、ストレスもすごいし、それが終わった時の解放感カタルシスもすごいってことなのかな?


「もしかして、運営的にはLIAの名が歴史に刻まれれば、悪評であろうとも全然構わないのかも……」


 とにかく、苦労して作った自分たちのゲームの名を後世にまで轟かせたい――それを最終目標として動いてるのだとしたら、あり得る話なのかもしれない。


 そもそも、デスゲームを行った世界初のゲームとして、LIAの名前は後世に語り継がれることになるだろうし、それを作った佐々木たちの悪名も業界ではずっと語り継がれることだろう。


 死んだ後でも、LIAが、佐々木たちの名前が語り継がれていくかぁ……。


 …………。


 それは、多分、すごいことなんだろう。


 私の絵なんか、私が死んだって別に後世に語り継がれたりすることもないだろうし。


 それこそ、今生きてるどれだけの人が後世にまで語り継がれることをしてるのかって言われたら、ほんの一握りぐらいの人しかいないだろうしね。


 すごいことには違いないと思う。


「けど、そのためにデスゲームを行うなんて絶対に間違ってる」


 デスゲームに巻き込まれたせいで、一体どれだけの人が死んだのか。


 他人に迷惑をかけてまで、そんなことをやる意味があったのか。


 LIAはデスゲームなんてなくても、すごいゲームなんだし……ちょっとバグ多いけど……十分、ゲームの歴史を変えたゲームとして、後世にも名を残すゲームだと思える。


 それなのに、デスゲームというエッセンスを加えられたことで、悪魔のゲームとして後世に名を残すことになるっていうのは……。


 …………。


「LIAは本当に面白くて楽しいゲームなんだよ? それなのに、運営の自尊心を満たすためだけに、後世にまで史上最悪のゲームだってずっと言われ続けるのって……」


 なんか、涙出てきた。


 折角、この世に生み出されたゲームなのに、史上最悪のゲームだって、やったことない人たちからも誹りを受けてさ、このゲームが終わったらサービスを継続することもできないだろうし……。


 LIAは何のために生み出されて、そして何のために消えていくんだろうって考えたら、唐突に悲しくなってきちゃったよ。


 こんなにグラフィックが素晴らしくて、自由度も高いし、面白いゲームだってことはきっと後世には伝わらない。


 ただ悪名だけが語り継がれていくんだとしたら……。


「そんなの悲しすぎる……」


 ▶【バランス】が発動しました。

  天意への道標どうひょうを獲得しました。


「……ふぇ?」


 慌てて涙を拭いながら立ち上がる。


 天意への道標?


 え、今、私何かやった?


 というか、そういえばボクデンを倒した時にも何か変なスキルを取得していたような?


 とりあえず、ちょっと調べてみようかな……。


 ■□■


 というわけで、調べてみた。


====================

【地獄門】

 冥府の世界へ出入りできる出入り口を作る特殊なスキル。

 取得するためには、世界各地にいるいずれかの冥府の番人を倒す必要がある。

====================


====================

 【天意への道標】

 レア:―

 品質:―

 耐久:―/―

 製作:―

 性能:物防+1 (全属性)

    魔防+1 (全属性)

    【即死耐性】

 備考:あなたが全てに満足し、全てをやり遂げたと思った時に使用できます。その時、あなたはきっと天意に導かれることでしょう。

====================


 と、まぁ、こんな感じ。


 しかし、全然意味がわからない。


 ワールドアナウンスでも冥府の世界がどうこう言ってたような気がするけど、明確な説明がないんだよね。


 うーん。こういう時は……。


「冥府の世界ってなんだろう? 【森羅万象】わかる?」


 【魔力感知】と【多重思考】と【心眼】をスキルレベルMAXにすることで取得できる上級スキル【森羅万象】に頼ってみる。


 その効果は、


『冥府の世界とは、この世界の地下にあるといわれている地上とは理を異にする世界です。具体的には冥府の世界ではプレイヤーのステータスが大幅に減少し、プレイヤースキルのみが重視されることでしょう』

「オーケー、わかった。ステータスパワーで無双できないってことは、ボクデンとの殴り合い再びみたいな世界が広がってるわけね。うん、しばらくは絶対に行かないかな」


 まぁ、見ての通り。


 私が尋ねると回答してくれる便利なヘルプスキルって感じだ。


 勿論、中級スキル3個をレベルMAXにして取れる上級スキルなのでただのヘルプスキルってわけじゃない。


 私の尋ねたことには、エンドコンテンツっぽい情報であろうとも、結構ベラベラと情報を喋ってくれるのである。


 ただし、あらかじめ開発段階で登録された情報しか引き出せないのか、運営プレイヤーの場所は今どこにいるかわかる? と聞いても『わかりません』としか返してくれなかったりもする。


 リアルタイムの情報検索には弱いみたい。


 また、【森羅万象】は私の質問に答えるのスキルなので、【森羅万象】側からアドバイスを送ったりとか、そういったことがないのも使い勝手が悪い。


 つまり、私が知りもしないし、思いつきもしないような情報は調べようがないということだ。


 この辺は、私の地頭の良さでスキルの便利さ加減が変わってきそうなんだけど……現状ではあまり便利に使えてないということで、色々と察して欲しい。


「まぁ、【地獄門】についてはわかったよ。ボクデンを倒した後のオマケコーナーみたいなものだね」


 より強い難敵を求める修羅道に落ちたプレイヤーに対しての救済措置ってところかな。


 本来は武術系のスキルを極めたプレイヤーが、ボクデンと戦ってヒャッハーするはずだったと考えれば、ボクデンを倒して【地獄門】のスキルが得られたのもなんとなくわかるかも。


 あれでしょ?


 俺より強い奴に会いに行く的な奴でしょ?


 まぁ、私にはあんまり関係ないスキルかなー。


 それでも、一度くらいは試すとは思うけど。


「で? こっちもよくわからないね。【森羅万象】、天意って何?」

『天の意思です』


 言葉の意味を聞いてるんじゃないんだけど……。


 聞き方が悪いのかな?


 改めて尋ねてみる。


「このゲームには天と呼ばれる存在がいるってこと?」

『天使種族と呼ばれる種族を束ねる存在として神がいます。また、宗教国家メルティカ法国で信奉されている亜神や人造神もいます。それらは、時折配下の者から尊称として、天と呼ばれます』

「神様系統からの道標みちしるべってこと? でも、あのタイミングで、このアイテムが取得できるのっておかしくない?」

『また、この世界をゲームとして俯瞰した場合に、開発チームのことを天とも呼べるでしょう』


 開発チームを天……。


 天意への道標を取得したのは、LIAのことを私が悲しんだタイミングだった。


 タイミング的には、開発チームを天と考えるのが正しそうな気がするけど……。


 …………。


 もしかして、いるの?


 デスゲームを仕掛けた運営とは別に、このLIAを見守っているであろうまともな運営が……?


 もしかして、この天意の道標はにコンタクトするための鍵?


 …………。


「天意の道標よ、私に道を示し給えー!」


 ▶天意の道標の発動条件を満たしていないため、発動しませんでした。


 うん。


 知ってた。

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