第91話

 ゼクスさんに案内されて、連れてこられたのは割りと広い一室だ。


 しかも、内装も結構豪華。


 白い壁に絵が飾られていたり、金の燭台に蝋燭が灯されていたり、暖炉ありの、分厚いベッドありの、ふわふわソファや鉄製のテーブルが置かれている部屋。


 見た目がほぼ砦だったから、内装も無骨かと思ってたけどそうでもないみたい。


 まぁ、王族の住まいでもあるのなら、それなりに豪華に造るってことなのかな?


「本来でしたら、殿下と共に饗食の席を設け、あなた方の功に報いたいところですが、今宵はこちらの都合もありまして、晩餐を共にすることができません。その代わりと言ってはなんですが、とびきりの御馳走を用意して饗させてもらいます。パーティーメンバー水入らずで楽しんで頂ければと……。では、準備ができましたら侍女が呼びにくると思いますので、それまでお寛ぎ下さい」


 ゼクスさんはそう言って、私たちを部屋に押し込めて去っていく。


 ちなみに、私とエンヴィーちゃんは同部屋で、ツナさんには隣の部屋が割り当てられている。


 けど、まぁ、今後のことを相談する意味合いもあって、今はツナさんも私たちの部屋でくつろぎ中だ。


「そういえば、串焼き渡せなかったなー」

「部屋に案内されての第一声がそれというのもどうかと……」

「余ってるなら食うぞ」

「これからとびきりの御馳走が出ると言ってるのに、串焼き食べます?」

「そういえば、エンヴィーちゃんはお腹の方は大丈夫? まだ入りそう?」


 私たちはアバターだから、満腹感とかはないんだけど、エンヴィーちゃんはNPCだからね。そういうところは注意しないといけない。


「むしろ、夕飯バーベキューが始まって、すぐに襲撃されたせいで、全然食べれてないのでペコペコです。そして、細かな気遣いありがとうございます、四天王ポイントマイナス1」


 じゃあ、今用意されてる御馳走も食べれそうなんだ。良かった良かった。


「それにしても、不可解なことが多い襲撃でしたね」

「そもそも何故襲撃されたのかが良くわからん」


 エンヴィーちゃんが首を捻り、ツナさんがソファに背を預けながら天井を見上げる。


「まぁ、言えるとしたら、第三王子が狙われてたってことでしょ? 私たちはそれに巻き込まれた」


 ゾンビの動きも王子を狙って動いてたからね。


 多分、そこは確定。


 問題はそこに魔物族が関わってること。


 人族国の王位継承権争いってことなら話はわかりやすいんだろうけど、なんで魔物族が関わってるのかって話な上に、第三王子をかばう魔物族と、第三王子を狙う魔物族の二種類がいるというのがわかりにくい。


 狙ったり、かばったりされてるってことは第三王子自身に何かあるのかな?


 実は魔物族を殲滅する光の勇者だったりとか?


 いや、でも、それなら何で魔物族がかばうのよって話で……。


 うーん。よくわかんない。


 でも、色々と現状で問題があることはわかる。


「問題は第三王子を狙ってた奴の中に魔物族がいたってことだよ。襲撃が成功してたら、国際問題案件。下手すれば戦争だよ。勘弁して欲しいよ」

「戦争になれば、プレイヤー同士で戦うことになるかもな。そうなれば、ゴッドの独壇場だろう」

「人殺しの現場での独壇場とか嬉しくないんだけど?」


 というか、私は生産職です。


 殺し屋じゃございません。


「戦争は魔王様も望むところではありません。できれば、阻止して頂きたいのですが……」

「そう言われてもねぇ。誰が狙ってるのかも、どうして狙われてるのかもよくわからない現状じゃ動きようがないよ。それに、今回の一件で王子も狙われてるのがわかったから、しばらくは引き篭もって大人しく過ごすんじゃない?」

「どうだろうな」


 私の意見に異を唱えたのはツナさんだ。


 いつの間にか、天井を眺めるのをやめたのか、こっちを見てる。


「あのきかん坊な王子が大人しくしてるとは思えん」

「ですよねー」


 一理どころか、百理あると思う。


 とはいえ、あの王子をずっと見張ってるってわけにもいかないしなぁ。


 そもそも、王子の身の安全は兵士の人が守ればいいんだから、私たちが気にすることでもないとは思うんだけど、これ、多分イベントだろうしなぁ……。


 NPCに任せておいたら、どう転ぶか分からないのが怖すぎる。


「あぁぁぁ! 自由に動きたいのに! イベントが! イベントが私を苦しめる!」

「イベント? 急にワケのわからないことを叫びだして怖い。四天王ポイントプラス1」

「まぁ、ゴッドのいつもの発作だ。気にするな」

「そんな発作持ってないもん!」

「あのぅ、お食事の用意ができましたが……御忙しいようでしたら、後にしますがどうしますか?」


 私たちがキャイキャイやっていたら、いつの間にか侍女さんが呼びにきてたらしい。


 扉を開けて、少しだけ呆れたような表情を見せる彼女に、慌てて態度を取り繕うと、やたらとイケボな声で――。

 

「「「勿論、頂きます」」」


 そう、返すのであった。


 ■□■


 【ゼクス視点】


「爺がそんなことをするわけがあるまい!」


 開始当初から熱を帯びた会議ではあったが、ここに来て更にもう一段階、会議の熱は上がるらしい。


 第三王子セイル様が、港町セカンに向かったのは元々ちょっとした私用のためであった。


 目立たず行動したいとの仰せだったので、数は少なくとも精鋭をつけての外出を許可したのだが……そこで、殿下が謎の勢力に命を狙われたという。


 その戦いにおいて、護衛としてつけておいた何人かの兵士が死亡。お目付け役として付いていたフォスター殿も負傷なされたようだ。


 しかも、ゾンビ化しているというおまけ付き。


 殿下は、そんなフォスター殿を救うために行動したいのだろうが、街の中にモンスターを入れたと考える者もいて、会議の場は相応にピリピリとした雰囲気から始まった。


 まずは、殿下の御意志としては、フォスター殿を救いたいという。


 そして、そんなフォスター殿を救うためには、【メティクス草】という薬草が必要なのだそうだ。


 それを殿下は自ら探しに行きたいという。


 だが、それは警護の観点からも許可できない。


 それをやんわりと伝えるのだが、殿下を御せるのはフォスター殿のみ……私の意見は簡単に却下されてしまう。

 

 とにかく、今は薬草に詳しい者を屋敷へと呼び寄せ、それと共にフォスター殿がゾンビになってしまうまでに、どれほどの猶予があるのかを医師に診てもらっていたのだが……。


 そのフォスター殿を診ていた医師から、驚きの発言があった。


 なんと、フォスター殿が魔物族だと言うのだ。


 魔物族は人族と違って体が丈夫であり、そのおかげもあってかゾンビ化の進行は遅いものの、殿下のすぐ近くに魔物族がいたというのが問題となった。


 一部の将校などは、フォスター殿を助けずに、このまま殺した方が良いのではないかと言い、殿下を殺そうとしたのは魔物族に通じていたフォスター殿ではないかとまで言い出す始末。


 そもそも、フォスター殿が殿下をかばって傷を受けられたのだから、フォスター殿陰謀論は的外れも甚だしいだろう。


 結局、殿下を狙った者の正体はフォスター殿ではないのかといった意見が交わされたところで、殿下が激昂した。


 当然だ。


 フォスター殿が犯人であれば、今頃、殿下はこの世にいないであろうから。


 ならば、殿下を狙ったのは誰か。


 一番怪しいのは、第二王子派であろう。


 第二王子派は三つの騎士団を味方に引き込んでおり、それもあってか、軍事関係の貴族たちが第二王子派になびいている現状だが、第一王子派は王都守護の二つの騎士団を制御下においており、我ら第六騎士団は第三王子の守護に回っている。


 つまり、第一王子と殿下が手を結べば、騎士団の数としては第二王子派に引けを取らないものとなる。


 それを恐れての犯行と考えれば合点がいくが、実際に襲われた兵士の話を聞くと、死体を蘇らせて死兵として襲わせる【死霊術】が使われたという話だ。


 【死霊術】を扱えるのは、モンスターか魔物族の者に限られるというのが、一般的な知識であり、そうなると第二王子が魔物族の国と結んでいることになるが……。


 あの魔物族嫌いで知られる第二王子が、魔物族と手を組むとは考えにくいだろう。むしろ、滅ぼしてやろうと思っているぐらいではないのだろうか。


 ならば、殿下を狙ってきたのは、一部の魔物族の暴走か?


 いや、それとおかしい。


 殿下を狙うメリットが薄過ぎる。


 人族憎しで狙うなら、第二王子、もしくは第一王子を狙った方が効果的だ。


 我が第六騎士団以外、何の後ろ盾も持たない第三王子であるセイル様を狙う意味合いが薄過ぎる。


 …………。


 現状では、犯人を絞るのは難しいか。


 とりあえず、殿下が狙われているという事実だけを受け入れよう。


「殿下、いいですか」

「何だ、ゼクス? 申してみよ」

「現状では犯人探しは難しいと考えております。ですが、殿下が狙われているのは事実です。できることでしたら、その薬草探しも配下の兵にやらせ、殿下は屋敷から出ずにいて欲しいのですが……」

「育ての親が病に掛かり、その治療のために奔走せぬ子がおるか? 余はそんな薄情な男ではない!」

「……わかりました。その代わり、護衛の兵士を増やしましょう。あと薬草探しは、兵士としては専門分野ではありません。その薬草がどこにあるのか次第ですが、信用のおける冒険者を雇い入れるとよいでしょう」

「ふむ、冒険者か……。なるほど。余の危地を救った先の冒険者は抱き込めぬか?」


 危機を救われたということで、殿下はあの冒険者たちに信を置いているようだが……。


 私としては、魔物族というだけで怪しく感じてしまう。


 もしかしたら、殿下に取り入るために、ひと芝居打ったのでは? とも考えられる。


 申し訳ないが、あの者たちを全面的に信用することはできないだろう。


「ふらりと現れた彼らを全面的に信用するのは危険でしょう。それよりも、冒険者ギルドの信頼も厚く、我々騎士団とも何度か依頼をこなし、実力も素行も信用できる者たちがいます」

「ほう、ゼクスがそこまで言う冒険者か。興味深いな」

「その者たちのパーティー名は、【黒姫】――【聖女】を中心としたパーティーにございます……」

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