第73話
■□■ 十八時間経過 ■□■
深夜三時です。こんばんは。
月が綺麗な夜に何でこんなことやってるんだろうとは思うけど、私はまだ絶賛イカと格闘中だ。
でも、その勝負もそろそろ大詰め。
恐怖すら感じる真っ黒な海の表面に、恐ろしいぐらいに巨大な黒い影が見えてきたからね。
あと、海面が泡立って、ちょいちょい青緑色のイカの腕らしきものが見えてきてるし。
「そろそろだな」
昼間は大勢の人がいた岩場も、今はツナさんと二人きりだ。
見物しようとしていた釣り人も何人かいたんだけどね。流石に十二時に差し掛かったところでポツポツと帰る人が現れ始め、ツナさんが「残る以上、巻き込まれて死んでも知らんぞ」とか言い始めたら、誰もいなくなっちゃったよ。
まぁ、ここまで残って見物しているのは、釣り好きの人たちだろうし、そんな人が戦闘系のスキルを充実させているとも思えないからね。逃げて正解だと思うよ。
「うん、相手も大分弱ってると思う。釣り上げたら、一気にやっちゃおう」
返ってくる手応えで、なんとなく相手がどういう状態かわかるんだよね。そして、手応えの感覚からいうと、相手は結構弱ってる。
まぁ、針ぶっ刺された状態で何時間も藻掻いているわけだから、弱ってないと困るんだけど。
というか、相手はEODなのかな?
私は何となく違う気がするんだけど……。
ほら、EODってこっちを発見すると、一目散に向かってくるイメージが強いんだよね。なんというか、プレイヤー殺すマン(?)みたいな。
なのに、この相手は逃げよう、逃げようとする。
それが、なんとなくそんな思いを抱かせたのかもしれないね。
「――ッ! 動きが止まった! 上げるよ!」
「いつでもいいぞ!」
相手の動きが止まったところで、私は【半狂神降臨】を発動。猛る気持ちを【並列思考】で処理しながら、思い切り竿を引き上げる。
物攻600近くの膂力を思い知れ!
ずずっ……。
まるで、海面が浮き上がるかのように、巨大な輪郭が現れたかと思うと、青緑色をした巨大な胴体が一気に空中へと引き上げられる。
「【鑑定】!」
▶???を【鑑定】します。
▶【鑑定】に成功しました。
名前 巨船堕としのディーパ
種族 ヘルテンタクルス
性別 ♂
年齢 324歳
LV 214
HP 2451/5150
MP 867/1720
物攻 352
魔攻 276
物防 273
魔防 268
体力 515
敏捷 148
直感 138
精神 172
運命 165
ユニークスキル 【暴食】
種族スキル 【物理半減】【水棲生物】
コモンスキル 【部位再生】LvMAX/【多重思考】Lv7/【締め付け】Lv8/【連続攻撃】Lv9/【毒霧】Lv7/【毒耐性】LvMAX/【水魔術】LvMAX/【水魔法】Lv9
つっよ!
というか、多分EODじゃない!
だって、ステータスにEODの文字が見つからないもん!
いや、これアレかな?
初めて会ったけど、ネームドってこんなに強いの!?
ぶっちゃけ、EODと何も変わらないでしょ!?
危険度でいえば、どっこいどっこいだよ!?
「見えたか?」
「体力高めの、多分、ネームド! 【物理半減】とかあるから、物理攻撃は効きにくいかも!」
というか、【水棲生物】っていうスキルも嫌な予感しかしない。
今、空中にいるんだから、ここで一気に片付け――うわぁっ!?
ディーパが空中から触手を伸ばしてきて、その触手が私に巻き付く。
そして、いきなり【締め付け】で私の体を砕こうとしてきたよ!
そして、そのまま海の中に落ちて、私まで海の中に引きずり込もうとしてくる!?
「ぬぐぐっ!」
【
そして、厄介なことに私の足元がずるずると滑っていく!
「ゴッド!」
ドスッ!
「ありがと、ツナさん!」
ツナさんが岩場に銛を刺してくれて、滑り止めにしてくれて助かった! それで、何とか耐えながらも、私は竿を握る手を離さない。
「いや、構わん。……ん? なんか、ネームドの腕が光ってないか?」
もう一度、【鑑定】でディーパの腕を確認すると、HPが回復してる……?
「与えたダメージ分、HPを回復してるの!? これ、まさか【暴食】の効果!?」
だったら、トロトロとやってられない!
「ふんっ!」
私は力を込めて巻き付くディーパの足を引き千切って脱出すると、釣り竿を握る手に力を込めるよ!
だけど、ディーパもディーパで即座に千切られた足を再生すると、そのまま、もう一度私に巻き付きにくる!
けど、それを素早く躱して、釣り竿を大きく弧を描くように――。
私は力任せに、ディーパを釣り上げる!
「このぉ、地上に来い!」
ザバァ!
またも海から浮かび上がってきて、空中に浮かんだディーパの体。
今度は油断せずに、そのまま力任せに引き寄せて、ディーパの体を磯の岩場の上へと叩き付けるよ!
ずどぉぉぉぉん!
もの凄い音がして岩場が砕け散るけど、それにも関わらず、ディーパは巨大な触手を私に向かって伸ばしてくる。
グゴォォォオオォぉぉ……!
そんなディーパの触手が一瞬だけど動きを止めたね。
どうやら、ツナさんが【狂神降臨】を使ったみたい。
岩場に刺していた銛を手に取るなり、狂ったようにディーパを滅多刺しにしていくよ!
そして、ディーパのヘイトがツナさんに向かう。
よし、今がチャンス!
「【フレア】!」
【火魔術】レベル10。帯状の業火が私の意のままに動き、ディーパの全身に絡みついて、その体を燃やし尽くそうとする!
どうだぁ! イカ焼きになっちゃえ!
「キィアアアァァァァ……!」
けど、ディーパのひと鳴きで、突如として上空に雨雲が集まったかと思うと、一気に土砂降りの雨が降り出す。
多分、【水魔術】レベル9の【コールレイン】かな?
雨を降らして、水属性を強化するとしかテキストに書いてなかったから、あんまり使えない魔術かと思ってたけど、火属性の魔術を防ぐには有効かぁ……。
【フレア】の炎は消えはしないけど、弱くはなってるしね。
「やっぱり、こうなると封印した武器で戦うしかないか……」
つい先日も封印を破った気もするけど、気にしない。
私はガガさんの魔剣を【収納】から取り出す。
ギラリと鈍く光る魔剣には、私でも即死しかねないパワーがある。これで倒せない相手は、そんなにない! ……はず!
「ここからが本番だー!」
スパッ――。
魔剣を抜いた私を拘束せんと、迫ってきたディーパの足を容易く切り落とす。
やっぱり、この魔剣の攻撃力は異常だ。
切った先からディーパの足の切断面を燃やし、再生するのを妨害している。
更にいえば、【物攻半減】なんてものは最初からなかったかのように、簡単にディーパの足を切り落としてるし。
けどまぁ、ディーパもネームドなだけあって、コレぐらいじゃ怯まない。
大木のように太い足が私に向かって何本も向かってくる。
本来なら背筋に悪寒が走るほどの恐怖を覚える光景なんだろうけど……。
「遅い!」
私の目には、ディーパの攻撃がまるで止まっているように見える。
というか、徐々に動いているかな程度にしか感じない。
多分、敏捷値と直感が五倍以上の差が開いている上に、【高速思考】が働いているからだろう。
私は魔剣を高速で振るいながら、迫ってくる足を切り砕き、燃やし砕きながら前進する。
「キィアアアァァァァ……!」
体を切り刻まれる痛みにディーパが吠えたと思った瞬間、私の背筋にゾクリと嫌なものが走る。
「【ダークアバター】!」
瞬間的に影の私を作り出し、ディーパの相手をさせながら、私は直感に従って背後を振り向いていた。
そこには、五階建てのビルよりも巨大な大津波がこちらに向かってくる姿が――。
「まさか、【水魔法】!? これもう、天変地異のレベルじゃん!?」
これ、私が何とかしないと街が壊滅しそうなんですけど……?
いや、何とかって……。
できる?
「これぐらいしか、思いつかない……」
私は【収納】からコグワンを取り出すと、ガガさんの魔剣に装着する。
これで、ガガさんの魔剣の攻撃力が3倍に跳ね上がるから、攻撃力は15000くらい?
あの津波を迎撃することはできるだろうけど、多分コグワンは十秒ももたないで自壊すると思う。魔鉄製だからね。せめて、オリハルコン製にしておけば……。
はぁ……。
ゴメン、コグワン。
今度はもっと頑丈な素材で作るから、許してね?
それと、根本的な問題として、光の刃を伸ばしても二十メートル程度にしかならないから、視界いっぱいに広がる津波に対処できないんだよね。
どうしよう……。
▶【バランス】が発動しました。
射程距離のバランスを調整します。
射程距離が124倍まで拡張されました。
任意で伸縮させることが可能です。
……え?
待って。
このクソ忙しい時に……いや、ナイスタイミング?
というか、何とバランスを取ったら、射程距離が124倍にも増えるの?
もしかして、ディーパ?
ディーパの触腕が124メートルなの?
そして、私の片腕の長さが大体1メートルとか、そういう話?
それで、射程距離のバランス取っちゃったの?
いや、むちゃくちゃだよ!?
でも、ありがとう!
コグワンを付けた光の刃は元々二十メートル。
それが、124倍になれば、2480メートル。
「スカイツリー凡そ四本分の射程距離だ! 喰らえぇぇぇぇ!」
私はコグワンを起動させると同時に、海に向かって魔剣を振るう。振っている最中にもグングンと成長していった光の刃は、津波の根本を断ち切るようにして、横一線に巨大な津波を切り飛ばす。
切り飛ばされた津波はその場で勢いを失くして、滝のようになって海へと落ち、剣身に張り付いていたコグワンがボンッと音を立てて爆発する音を私は聞く。
うぅ、コグワン、ゴメンよ……。
次に作る時は、もっと丈夫に、更に高性能に作るからね……。
あと、ガガさんの魔剣の耐久値も下がっちゃったかな……。
もう、踏んだり蹴ったりだよ……。
「それもこれも、アンタが悪い!」
私は振り向いて、その場で魔剣を振るう。
すると、刀身が124メートルの長さに伸びて、スパッとディーパを縦真っ二つに切り裂いていた。
流石に脳みそまで真っ二つにされたら、再生もできないのか、ディーパはその身を二つに割って息絶えたようだ。
どろりとした気持ち悪い内蔵? みたいなものが垂れ流れてくる現状を見て、私は気分が悪くなってきたよ。
というか、普通に【解体】で残っちゃったのか。大怪獣サイズのイカ……。
<匿名のプレイヤーたちの手によって、ネームド『巨船堕としのディーパ』が退治されました。>
<一部地域での船舶の航行が可能になりました。>
▶ネームド『巨船堕としのディーパ』を初討伐しました。
SP10が追加されます。
▶称号、【英雄】を獲得しました。
SP5が追加されます。
▶称号、【ジャイアントキラー】を獲得しました。
SP5が追加されます。
▶経験値45602を獲得。
▶褒賞石24583を獲得。
▶ヤマモトはレベルが2上がりました。
▶【バランス】が発動しました。
取得物のバランスを調整します。
▶褒賞石21019を追加獲得。
わー。また、ワールドアナウンスだー。
とりあえず、今が夜中で誰もいないのは救いなのかなー。
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