第38話
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結局、海の藻屑亭に一泊してしまった。
【光魔術】Lv2の【キュアライト】という、毒、混乱、魅了を治す魔術をちょいちょい挟みつつ食べると、何の問題もなかったのでムンガガさんの美味しい料理を堪能した形だ。
「料理自体は、他に類をみないくらいに美味しいんだよ? だけど、それ以外が問題ありすぎなんだよね……」
ぶつくさと言いながらも、ベッドから起き上がろうとしたところで、視界の端に何かが光っているのが見える。
何だろうと思って意識を集中すると、
▶【毒耐性】スキルLv1を取得しました。
▶【恐怖耐性】スキルLv1を取得しました。
▶【バランス】が発動しました。
スキルのバランスを調整します。
▶【麻痺耐性】スキルLv1を取得しました。
▶【石化耐性】スキルLv1を取得しました。
▶【スタン耐性】スキルLv1を取得しました。
▶【混乱耐性】スキルLv1を取得しました。
▶【盲目耐性】スキルLv1を取得しました。
▶【魅了耐性】スキルLv1を取得しました。
▶【呪い耐性】スキルLv1を取得しました。
▶【即死耐性】スキルLv1を取得しました。
▶称号、【鉄人】を獲得しました。
SP5が追加されます。
▶耐性系スキルを全種取得したため、スキルが統合されます。
すべての耐性系スキルを失いました。
【状態異常耐性】スキルLv1を取得しました。
▶【バランス】が発動しました。
スキルのレベルバランスを調整します。
▶【状態異常耐性】スキルがLv5になりました。
▶[重要]ワールドイベント開催のお知らせが届いています。
「久し振りに【バランス】さんが荒ぶっておられる」
久し振りの【バランス】さん無双に、そろそろ現実を直視すべきかと考える。
こう、ね。
本当にヤバくなる前に、ちょっとずつでも現実を受け入れようというね、努力が必要だと思うんですよ。
というわけで、ステータスオープン……。
チラッ。
名前 ヤマモト
種族 ディラハン(妖精)
性別 ♀
年齢 0歳
LV 22
HP 2130/2130
MP 2130/2130
SP 31
物攻 337(+124)
魔攻 300(+87)
物防 228(+15)
魔防 226(+13)
体力 213
敏捷 213
直感 213
精神 213
運命 213
ユニークスキル 【バランス】
種族スキル 【馬車召喚】
コモンスキル 【鍛冶】Lv5/ 【錬金術】Lv5/ 【調合】Lv5/【鑑定】Lv5/ 【収納】Lv5/【火魔術】Lv5/【水魔術】Lv5/【風魔術】Lv5/【土魔術】Lv5/ 【光魔術】Lv5/ 【闇魔術】Lv5/ 【料理】Lv5/ 【ヤマモト流】Lv5/ 【採掘】Lv5/ 【採取】Lv5/ 【細工】Lv5/ 【革細工】Lv5/ 【木工細工】Lv5/ 【彫金】Lv5/ 【彫刻】Lv5/ 【釣り】Lv5/ 【追跡】Lv5/ 【逃亡】Lv5/ 【魔鋼精製】Lv5/ 【魔神器創造】Lv5/ 【隠形】Lv5/ 【隠蔽】Lv5/ 【魔力操作】Lv5/ 【魔甲】Lv5/ 【状態異常耐性】Lv5
うん。前回見た時よりも、そこまで酷くなってないかな……?
物攻と魔攻が300にまで届いてるけど、これはガガさんの剣のおかげだし。
短期間でスキルが七つぐらい増えて、それがいずれもレベル5だってことに目をつぶれば、割と普通のペースの成長なんじゃないかな?
というか、今は【魔鋼精製】スキルや【魔神器創造】スキルでMPを大量消費することが多いので、SPを全部ステータスに入れたい衝動がムクムクと湧いてきて……。
いやいや、ダメダメ。
SPはもっと計画的に使うものだって、毎回言ってるからね。
このスキルが必要ってなった時に、SPが枯渇しているとか笑い話にもならないもん。
そういう、いざって時のためにSPはきちんと残しておく必要があるんだよ。
というわけで、今回は温存。
今日は、昨日カッツェさんに教えてもらった素材の自生場所やモンスターの生息域に行って、素材があったらそれを入手してくる予定だ。
「ん?」
何かステータスの上昇に隠れて運営からのお知らせメールも届いてるね。
えーと、なになに?
あー、昨日カッツェさんが言ってた大武祭のお知らせかー。
へー、ワールドイベントとして開催されるんだね。
「イベント……。デスゲームだけど、イベント開催するんだ……。ここの運営ってアホだけど、変なところに力入れてるよね……」
予想の斜め上というか……。
でも、今回のイベントは私には関係ないかな?
そもそも、こういうのは冒険者向けの奴だしね。
生産系の生産物コンテストとかあれば参加するんだけどなぁ……。
今回は特にそんな話でもないのでパス。
参加する皆さんは、どうぞ頑張って下さいって感じだ。
「さてと、ムンガガさんは、朝は食料調達に行くから朝ご飯は用意できないって言ってたし、この間の蒲焼きの屋台にでも行って買い食いしてこよっかなー」
私は乱れたベッドのシーツなどを軽く直すと、そんなことを呟きながら海の藻屑亭を後にするのだった。
■□■
「おはよー、お兄さん。昨日の奴、美味しかったから今日も買いに来たよー」
「お、嬉しいこと言ってくれるねぇ、お嬢ちゃん!」
「美味しかったから今日は四つお願いね」
「あいよ!」
というわけで、ウナギウツボが焼けるのを待ちながら、お兄さんと店頭でお喋りだ。
「そういえば、大武祭が開催されるらしいけど、お兄さんは知ってる?」
「あたぼーよ! その時は街がお祭り騒ぎになるだろうからな。そこへ向けての新メニューも開発中よ!」
あぁ、そっか。
人族側のプレイヤーも、このフォーザインにやってきて混雑するだろうから、屋台としても大武祭の時期はかき入れ時になるのか。
「いいねぇ、屋台。大武祭の時だけでも、私も出してみよっかなー」
「人が多く集まるからな! それを狙って普段は屋台を出さないような奴らも出すようになるし、チャンスっちゃあチャンスだぜ!」
お祭りとかイベントだと、どうしても財布の紐が緩くなるからねー。
そういう時だけを狙って屋台をやるのも面白いのかもね。
そんなことを考える私の目の前で、ウナギウツボがひっくり返されてタレが塗られる。あぁ、鼻孔をくすぐる良い香りだよ。嗅いでるだけで生唾ものだね。
まぁ、昨日は名状しがたい美味しい物を食べたけど、それはそれ、これはこれだ。
ムンガガさんの料理が、最高級A5ランクのステーキだとしたら、このウナギウツボの蒲焼きはポテチ&コーラみたいなものだ。そもそも、ジャンルが違うし、甲乙付けられるものでもない。
「あいよ、待たせたな!」
「あれ? 一本多いけど?」
簡単な木皿に乗せられた蒲焼きは全部で五つ。注文した数よりもひとつ多い。
「サービスだ! 持っていきな!」
「そう? ありがと。――【収納】」
代金を渡してから、私はひとつを残して、あとの四つを【収納】にしまう。
「じゃあ、また小腹が減ったりしたら寄るね」
「おう、待ってるぜ!」
というわけで、私は蒲焼きを軽く齧りながら、昨日カッツェさんに教えてもらった【調合】の希少素材が生えると言われている丘へと向かうのであった。
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元々地面があった場所が地殻変動なのか何なのかは分からないけど、何らかの形で陥没して、空きスペースができた。
そこに街を作ったのがフォーザインである。
つまり、フォーザインの街の端っこの方まで行くと見上げるような大きな崖があり、その周辺は危ないからと人家があることもない。
つまり、植物と動物が自生する空間となっているわけだ。
そんな中にも一際小高い丘となっている部分があり、そこに一輪だけ大きな花を咲かせる植物がある。
それこそが、【調合】の希少素材である【
何でも、【調合】で混ぜる素材によって色々と性質を変える花らしく、調合の依頼にもちょいちょい必要素材として記載がなされていた。
けど、カッツェさんが言うには、最近はその【千変万花】の入手がすごく難しくなっているようだ。
なんでも、冒険者による集団が【千変万花】を独占しているらしくて、彼らが転売ヤーよろしく高額な値段で売りに出しているせいで、なかなかお手軽には入手できないらしい。
それを知ってなお、ここに来たのは、運が良ければ、【千変万花】が咲いてないかなーと思ってきたのと、フォーザインの端の方の崖をその目で見たかったからである。
うん、崖の方は予想通り、迫ってくるような迫力があるね。
色々と感覚に良い刺激を与えてくれるよ。
宇治拾遺物語の絵仏師良秀は、自分の家が火事に巻き込まれた時に、その燃える家を見て火の表現のヒントを掴んだというけど、やはりこうやって本物を見ることは良いことだと思う。
絵師の中には、時折、想像で描いたりしてツッコまれてる人も大勢いたりするからね。こういうのは実際に見たり、写真に撮ったものを参考にしたりして描いたりするのが良いと思うんだ。
というわけで、参考資料としてスクリーンショットを何枚か。パシャリ。
ちなみに、エヴィルグランデの街並みやフォーザインの町並みなんかも何枚か撮っていたりする。
もし、現実に戻れたのなら、これらの画像データからLIAの風景を描き起こして、記念に持っておきたいとは考えている。
多分、このゲームは一度クリアされたら、二度と遊べるゲームじゃないだろうからね……。
でも、私はLIAの中で十分に楽しんでるし、辛いことばかりがあったんじゃないということを記憶として、記録として残しておきたいと思ってるんだ。
まぁ、【バランス】さんの荒ぶりと、運営のアホさ加減は忘れようにも忘れられないものだとは思うけど……。
「あれ?」
――と、【千変万花】が咲いている丘にまでやってきたら、どうやら先客がいる。
一人は角と蝙蝠の羽を持つ背の小さな女の子。そして、もう一人は全身に白い毛を生やした大柄な魔物だ。ただし、大柄な魔物は右腕がない。部位欠損状態なのかな?
私が眉をひそめていると、大柄な魔物が小さな少女をいきなり突き飛ばす。
「あ!」
私が思わず声を出したことに気づいたのか、大柄な魔物が顔を歪めて足早にこちらへと向かってきた。何? 何? 何? 何かされちゃう?
けど、大柄な魔物は小さく舌打ちをするだけで、何もせずにその場を去っていってしまった。
何なんだろう……?
あ、それよりも!
「ちょっと大丈夫?」
私は突き飛ばされた女の子の方に近寄るのであった。
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