第22話

 おはよーございまーす。


 ヤマモトです。


 意識を強制的に手放されてから、随分と時間が経ったのかな?


 起きたら、もうすっかり暗くなっててビックリだよ!


 ここは客間? ガガさん、ちゃんと運んでくれたんだね。偉いぞぉ〜。


 私は夜目の利く魔物アイ(妖精アイかも?)で、平然とベッドの上から起き上がると部屋を出て食堂へ向かう。


 食堂には淡いオレンジ色の光が溢れており、そこから、ちょっと焦げ臭いニオイが漂ってきているようだ。


 マンションでやろうものなら、完全な異臭騒ぎだね、コレ……。


「ガガさん、おはよー。焦げ臭いねー」

「おはよーじゃねぇよ。もう夜だぞ。いつまで寝てんだよ。あと、そういう時は、思っていても『香ばしいニオイですね』っておべっか使えってんだ」

「そんなこと言ったら、ガガさんに『うるせー』って殴られるでしょ?」

「うるせー!」


 ポカリとはやられなかったけど、起き抜けにガガさんの苛立った声は良い気付け薬になるね。ハハハ。


 ん、あれ……?


「というか、ガガさん、自分で夕食作ったの?」

「おう」


 食卓に並ぶのは、どこか焦げた炭のような鰻(?)と、硬い黒パンに具が少ない干し肉スープという、質素な、だけどガガさん的には頑張ったであろう夕食だ。


 それが、超高級な銀のカトラリーに乗っている姿はいつ見ても違和感しかない。


 私はガガさんの対面に座りながら、頬杖をついて口を尖らせる。

 

「お腹空いたなら起こしてくれれば良かったのにー。簡単な物なら用意したよー?」

「明日から、自分で作るんだ。その予行演習には丁度いいだろ」


 ん?


「いや、明日は私が作るよ?」

「いいや、それは必要ねぇ。つーか、言ってなかったな。お前さんは破門だ」


 破門……?


 破門!?


「いや、私、ガガさんの弟子だったの!?」

「そこからかよ!?」


 ガガさんは面倒くさそうに頭を掻いてるけど、私、その辺のこと全然説明してもらってないからね?


 むしろ、いきなり破門にされてビックリだよ!


 そもそも、破門にされる要素あったっけ?


「あー。説明するのもメンドくせー」


 そこは、頑張ろうよ!


 でも、そんなこと言いながらもちゃんと説明してくれるガガさん、マジツンデレ。


「元々、将来性のある生産者を囲い込もうってことで、商業ギルドには師弟制度ってのがあるんだ。現役バリバリである職人は次代に技を残し、弟子は独り立ちするまで、安定した環境で面倒を見てもらえるってのがコンセプトの奴だな」


 詳しく聞くと、駆け出しの職人というのは、客とのトラブルが多発したり、生産物の品質の低さから侮られたり、施設や素材の代金が高くて、金銭的に困窮したりするケースが多いらしい。


 そういうのを無くそうというのが、商業ギルドの師弟制度――ってことみたいだよ?


 で、私はいつの間にか、それに組み込まれていたんだって。


「その制度を利用して、レミーナさん? レミーネさんだっけか? ――も将来性豊かなお前さんに目を付けて、俺に預けてきたってわけだ。そして、あわよくば、なり手の少ない鍛冶師って職業に就いてもらおうと考えた……ここまでは分かるな?」

「うん。私が才能豊かだって理解した」


 120%【バランス】さんが起因だけどね。


「そこは謙遜しろよ! ……まぁ、お前さんだから仕方ねぇか。それで、フツーの鍛冶師なら自分の後継者って形で弟子を育てていくわけだが」

「うん」

「でも、お前さんは俺の技受け継ぐ気ねぇから、破門な」


 理由、雑〜!


「別に受け継ぐ気、無くもないよ! 教えてくれれば受け継ぐよ!」

「そんな姿勢の奴に教えるわけねぇだろ!? というか、お前さん、俺のこと師匠とも思ってないだろうが!」

「うん」

「そこは、否定しろよ!」


 チュートリアルのオニーサンだと思っておりました。


「そもそも、お前さんは俺が何かを言うよりも先に、適当に素材調達してきちゃ、勝手にカンカン剣打ちまくって、自分自身で創意工夫して進んでいけるだろうが。放っといても伸びるような奴に師匠なんて要らねぇよ。つか、むしろ、邪魔だ。だから、俺は放逐することにした」


 そんな鶏を放し飼いで飼ってる養鶏家みたいなこと言わないでさー。


「まぁ、言っちまえば、テメェの才能が豊か過ぎんだよ。俺んトコのような小さな工房じゃ収まりきらねぇってことさ」

「ガガさんの工房、私は好きだよ?」

「この工房はよ――」


 ガガさんはゆっくりと食事を摂りながら語ってくれる。


 というか、その黒い鰻みたいなの、どうやら蛇みたいだね。黒くなってたから、判別つかなかったよ。美味しいのかな……?


「魔剣作りの研究をする為にわざわざ建てたんだ。忙しすぎず、定期的な収入があり、良い水と良い炭が取れる。そういう場所を選んだ」

「うん」

「で、お前さんのおかげもあって魔剣を作れるようにもなった」

「良かったよね」

「あぁ、良かった。それで報われた。魔剣を作りたくて、魔剣を研究してきた人生だ。魔剣が作れてハッピーだし、これからも、より凄い魔剣を作り上げていくつもりだ。けど、お前さんはどうだ?」


 私……?


「お前さんは別に魔剣を追い求めてきたわけじゃないだろ?」

「それはそうだけど」

「世界には、俺が追い求めてきた魔剣よりも、もっとスゲェ武器があるかもしれないし、俺たちの想像を遥かに越えるとんでもない防具だってあるかもしれない――」


 私は想像する。


 ライトなセイバーな剣だとか、魔力を弾にして撃ち出す魔銃だとか、一瞬で鞭のようにしなる蛇腹剣だとか、空中を浮いちゃうシールドのようなファ○ネルだとか。


 そんな私の表情を見て、ガガさんは黒パンを齧ってから、フッと笑みを漏らしていた。


「やっぱりな。お前さんは魔剣だけをやってるような器じゃねぇよ」


 違うと言いたいところだけど、LIAの中でなら色んな夢の武器や武装があったり、もしかしたら自分で自作出来るのかもと思ったら、もうダメだ。


 顔が自然とニヤけちゃうよ。


「相変わらず、顔に出やすい奴だな。だからこそ、コイツを作ったんだが……」


 ガガさんが食事をする手を止めて、足元にあったソコソコ大きな箱を取り出す。


 装飾は少なめだけど……これって宝箱?

 

「開けてみろ」


 言われるがままに開けると、バンっと何かが飛び出してきて、そのまま空中に固定された。


 え、ナニコレ? どういう技術? 凄い!


 というか、ほとんど原型がないけど、これって私が作ったサークレット……?


 私は思わず【鑑定】する。


====================

【フロートサークレット】

 レア:5

 品質:中品質

 耐久:200/200

 製作:ガガ、ヤマモト

 性能:物防+7 (斬属性)

    魔防+12(全属性)

    自動回復(小)

    【隠蔽】Lv1

 備考:名工の手によって能力を底上げされたサークレット。材料に特殊な鉱石と特殊な錬金素材を使っているおかげか自然と浮く。

 ※自動回復(小):4秒ごとに最大HPの3%を回復する。

====================


「ガガさん、これ……」


 元々のデザインは薄っすらと残っているけど、超絶技巧によって調整されたそのサークレットは、もはや王族が着けていてもおかしくない豪華さとなっている。


 アニメ作画から入って、原作のきめ細かい絵に違和感を覚えちゃうくらいの豹変っぷりだ。


 あと、サークレットの下部分にものスゴくきめ細かいヴェールが付けられてる。これが、【隠蔽】のスキルを付与するのに役立っているのかな?


 それに……材質も変わってるよ!


 ベースとなる鉄に絡み合ってる半透明なコレって、どう見ても【水晶鋼】じゃん!


「ガガさん、これ【水晶鋼】使ってる!」

「おう。お前さんの頭が飛ばないようにする仕組みに使ってみた。ちと面白い仕掛けにしてやったぞ」


 ガガさん曰く、【水晶鋼】に【獄炎草】ではなく、別の素材を混ぜて打つことで、別パーツとの距離が一定以上離れないようにし、なおかつ、浮くように作ったらしい。


「何混ぜたら、そうなるの!」

「何でもかんでも教えてたら面白くねぇだろ! 自分で探しな!」


 だってさ! キビシー!


「別パーツの方はチョーカーネックレスにしておいた。首にかけてもいいが、心配なら手首に巻きつけておいてもおかしくないデザインにしてある」


 そういうトコは細かくて、結構ガガさん味あるね。


 けど、色々疑問もあるんだよ!


「凄く嬉しいけど、サークレットにヴェールが付いてるのは何なの?」

「お前さんは考えていることが、すぐ表情に出るからな。表情隠しだ」


 何という無駄機能!


 私ほどポーカーフェイスが似合う人間もいないのに!


「無駄な機能だって思ってやがるな? そういうトコだぞ?」


 え? 本当に私の感情って分かりやすい感じ?


 なんかショック……。


 まぁ、前向きに考えよう!


 現状、ヤマモト探しとか流行ってるもんね。それから逃れるためって考えれば、有り寄りの有りだよ!


「まぁ、その装飾品は俺からの破門の餞別だと思ってくれ」

「破門の餞別って初めて聞いたけど?」

「別にしたくて、破門にしたわけじゃないってことさ。あえて言うなら、お前さんが魔剣程度に収まらない器だったのが悪い」

「そんなー」


 ガッカリする私。


 ガガさんはそんな私を真っ直ぐに見つめると、静かに食器を置く。


 え? 何、この感じ……。


 まさか告白!?


「ヤマモトよぉ、お前さんはもっと世界を見て回ってこい」


 告白じゃなかった! ですよねー!


「世界は広い。その広い世界の中だったら、きっとお前さんを満足させるものもあるはずだ。人、物、出来事、何でもいい。全てを感じ、全てを取り込んでこい。そして、全てを昇華したその先にある『究極』を作ったあかつきには、ソレを俺に見せに来い。その時は、俺も究極の魔剣って奴を作ってるだろうからよぉ。そしたら……」


 そこで、ガガさんはニッと子供っぽく笑ってみせていた。


 本当、こういう顔が似合う人なんだよなー。ガガさんって。


「それを肴に飲み明かそうぜ!」

「いいですけど、ちゃんとしたお酒のツマミは私が用意しますからね?」

「はっ! 世界中の珍味を食いながら飲み明かすってのも悪くなさそうだ!」


 御機嫌にガガさんは笑うけど、どうせなら美味しいものを取り揃えたいなー。


 何だかんだ、このゲームで美味しいものを探し求めたり、作ったりするのはライフワークになりつつあるからね。


 そこまで考えたところで、ふと気付いてしまった。


「ガガさん……。私、鍛冶師じゃなくて、将来的に料理人になってたらどうしよう……?」

「そこは、鍛冶師一本でいきますって言えよ!?」


 ガガさんに怒られながらも、楽しい時間を過ごす。


 でも、ちょっとだけ、この時間が終わっちゃうのかと思うと、寂しいものがあるのも事実だ。


 少しだけ、感傷的になっていると、


 ▶イベント『剣匠ガガの追い求めるもの』をクリアしました。

 ▶ガガとの信頼度がMAXのため、称号【剣匠の盟友】を獲得しました。

  SP5が追加されます。

 ▶イベントをトゥルーエンドで終えた為、下記のスキルを継承します。

 【魔剣創造】スキルLv1を取得しました。

 【魔鋼精製】スキルLv1を取得しました。


 …………。


 運営ー!


 私、特にスキル継承してないのに、スキル継承されてるよー!


 どういう判定してるのー!


 ガバガバだよー!


 ▶【バランス】が発動しました。

  スキルのバランスを調整します。


 え。


 待って? それ以上はやめてあげて?


 お願い、【バランス】さん!


 ▶【魔装創造】スキルLv1を取得しました。

 ▶【魔具創造】スキルLv1を取得しました。

 

 ▶【魔剣創造】【魔装創造】【魔具創造】スキルを統合します。

  【魔神器創造】スキルLv1を取得しました。


 ▶【バランス】が発動しました。

  スキルのレベルバランスを調整します。


 ▶【魔鋼精製】スキルがLv5になりました。

 ▶【魔神器創造】スキルがLv5になりました。


 アカン。これ、ガガさんに教えたら憤死ものの奴だ……。


 頼むから空気読んでよ、【バランス】さーん!


 ■□■


 そう。この時の私はまだ気付いていなかったのだ――。


 ガガさんが、魔剣を作成していた理由は『S級の鍛冶師』を目指すためであって、関連するスキルを全て取得した上に、スキル統合までして【魔神器創造】などという前代未聞なスキルを持ってしまった私がどういう存在になってしまったのか……。


 この時の私は、全く理解していなかったのである!


====================


 以上で、第一章は終わりになります。


 次回、掲示板回あたりを挟んでから、第二章開始予定です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る