第50話 間幕〜女奴隷のひとり言〜
あたしの名前はティルルカ。ティルルカ・マルソー。
ドワーフの血筋を持つ母と人間の父との間に産まれた、所謂ハーフドワーフです。
両親は共に冒険者で、今は遠く離れた場所でお気楽に暮らしていることでしょう。
死ねばいいのに。
母は魔法使い、父は二刀剣士の悪名高い冒険者コンビで、ランクも高位、借金の額も高位の絵に書いたような、小説の登場人物のような人達ですが、それだけにひと癖もふた癖もある取扱説明書が必須級の人達なのだ。
なにせ、高難易度の
死ねばいいのに。
もしかしたら、こんな毒突きをするあたしを親不孝者と罵る方が居るかもしれませんが、娘に犯罪の片棒を担がせて奴隷商人に売っぱらうようなクズ共には、この程度の毒突きは屁でもないのでご安心下さい。
そう、あたしの今の身分は奴隷です。詳細は思い出すと腸が煮えくり返るので省きますが、要するに両親の所為であたしの経歴には傷が付き、奴隷身分に落とされてしまったのです。
両親は、あたしを売って得たお金で何処かへと逃げ延び、おそらく今はまたお気楽に冒険者家業に勤しみつつ、ギャンブルに明け暮れている事でしょう。
死ねばいいのに。
視力が弱いあたしを見捨てず、冒険者として育て上げてくれた事には感謝しています。魔法使いの母からは魔力の扱い方から読み書き算術をひと通り、父からは冒険者としての基礎を叩き込まれました。
ところが、二人はそれで満足したのか、その後とんでもない暴挙にでました。
あたしの冒険者ライセンス取得後初の依頼を出してくれたまでは良かったんですが、実際にはあたしを囮に使った借金取りからの脱出計画だったようで、借金取りが手配した街の警邏の包囲網を突破しながら、唖然と見送るあたしに向けて、やり切った後の清々しい笑顔と力強いサムアップをして寄越しながら逃げて行きやがったんですよあのクズ親どもは。
警邏に捕まったあたしは、既に売買契約が済まされていたらしい奴隷商にそのまま引き渡され、今に至ると言う訳です。要するに借金のカタに売られたんだよコンチクショー。
そんなあたしは今、とあるお方に奴隷としてお仕えしている。
ご主人様のお名前は、クロウ・ソーサルス様。
詳しい事情は聞き及んでませんが、かつてこの街………いえ、王都にまでその手を伸ばしていた商会であるソーサルス商会に名を連ねる方であったと、旦那様………奴隷商の店主様にお聞きしました。
それがどうして冒険者へと転身されたのかは、あたしの口からお話することは憚られるので止めておきます。
ご主人様の、世間での評判は酷いものです。悪人顔で、その顔に似合った所業を繰り返していた為、常に世間から遠巻きにされている………と噂されています。
そう、あくまで噂です。ご主人様がそんなお人ではない事は、付き合いの短いあたしでも分かる事です。あたしは極端に視力が悪く、そのご尊顔を拝見する事は叶いませんが、例えお顔がゴブリンのように醜くとも、御心がチョロ………好ましいものである事は、すぐ理解出来ました。
なにしろ、ご主人様は、奴隷であるあたしに対して、普通の少女のように接してくれるのです。
あたしはハーフドワーフで、容姿は人族の好みとはかけ離れているので、初めはそれが原因で、少し距離があるのかと思っていました。奴隷として引き取られ事になった経緯も、要するに奴隷商の旦那様に押し付けられた訳で、それを理由に拒絶されても文句は言えない状況でした。
ですがご主人様は、奴隷であるあたしの身を案じて下さるのです。
戦闘奴隷であるあたしの役割は、ご主人様の盾となる事です。ご主人様が敵より受ける攻撃を全て肩代わりして受け止めるのが仕事です。奴隷である以上、使い捨てにされても文句は言えません。ハッキリ言えば奴隷はその主の道具なのです。
ですがご主人様は、決して道具にしようとはなさりません。そして道具であろうとする事を許してはくれません。
まだ、冒険者としては駆け出しで、経験も浅いあたしが成長するのを見守ってくれてます。それどころか、その手助けをしてくれます。自身もまだあたしと同じ駆け出しで、自分の事で精一杯な筈なのに、自分の成長を優先させて奴隷のあたしを便利な道具にしても許される筈なのに、ご主人様は頑なにそれを拒みます。
奴隷商の旦那様が怖いから、周りの目が気になるから、次の奴隷を買うのが大変だから………そう、ご主人様は言い訳を並べてあたしを奴隷として扱っては下さいません。ひとりの人間として、ひとりの女の子として接して頂けます。
そんな人間が、噂通りの悪党であるはずないじゃないですか。
あたしのこれからの一生は全てご主人様に捧げます。きっとご主人様は、必要ないと嫌がるでしょうが、絶対に逃すつもりはありません。
顔に似合わずチョロ………いえ、情に厚いご主人様なら一線を越えてしまえば離れろとは言わないはずです。最近はだいぶ気安く扱って頂けるようになりました。拳骨もグリグリも愛が入り混じってき始めています。受けるあたしが言うのだから間違いありません。
ご主人様………あたしは絶対、貴方の側から離れませんからね!
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