第11話 ある見習い冒険者の食糧調達 その壱
「………クロさんが書物に目を落としている姿は、違和感しかありませんね」
「放っとけ」
と言う訳で、俺はリリーヌ嬢の勧めに従い、素材採集のノルマと鍛錬を熟した後は食料の採集へと乗り出す事にした。
先ずは情報収集だ…と意気込み、ギルドの資料室で見繕った資料をロビーの隅で閲覧している所でのさっきの
人のやる気を削ぐような発言は止めろっちゅーに………命知らずにもそんな言葉が口から出かかるが、それをグッと抑えてカーフの森で食用として採取出来る野草やきのこの一覧表に目を落とす。
大して目を引く物はない。こう言っては何だが、どれも当たり前に採れる物だ。あの森で食べられる種類の野草はそれ程多くはないのだが、見た目が分かりやすく失敗が少なそうだ。きのこの類いは種類が多いが毒キノコと見分けるのが難しい物が多いので、よっぽど自信がある物以外は避けたほうが無難だろう。
その中でも目玉となるのは山芋だ。栄養価の高い山芋は、それだけではなく、葉っぱや、茎が肥大化した肉芽…むかごなんかも食用として採取できる。
あとはやっぱり肉類だろう。と言っても、この森で見習い冒険者が手を出せる獲物は数が限られ、更にその中でも俺が仕留められそうな獲物は二種類しかない。
ひと種類目は、リリーヌ嬢の話にもあった一角兎を始めとする兎の類だ。野兎なんかは警戒心が強く、専門知識のない俺ではなかなか捕らえられないだろうが、一角兎ともなれば、魔物なだけあって敵とみれば見境なしに襲い掛かってくるので、これを上手く迎撃できればゲット出来るだろう。
一角兎はその肉が食用として人気があるだけじゃなく、角は細かく砕いて煎じれば様々な種類のポーションの原料となるし、骨は占いの道具として需要があり、毛皮も一般庶民の防寒具の材料として重宝されているなど、余すことなく活用できるのでコストパフォーマンスが高い獲物なのだ。一匹狩れれば三日はしのげる。
ふた種類目は蛇類だ。木の枝なんかに擬態してるので、見付けるには経験が必要なんだけど、俺は何故か昔から蛇と遭遇する機会が多く、多分見分ける事が出来ると思う。
こっちは、魔物に分別されている様な大蛇は大味で、素材としては有用だが食用には向かない。食用に適しているのは小型の一般的な蛇の方で、噛まれないように立ち回れば捕まえるのも容易だろう。
後は、鳥類なんかも候補に入るが、俺には飛ぶ鳥を落とす程の飛び道具のスキルが無いので、獲物の候補からは外した。捕まえることが出来たらラッキーだろう。
そうやって一通り資料に目を通したあとは、カーフの森の地図に目を落とす。
問題は狩場だった。流石に一般人も利用する森の入り口付近じゃあ、対した成果は得られないだろうし、何よりその一般人の取り分を奪うような行為をしては、この先冒険者を名乗るようになっても後ろ指さされ続ける事になるだろう。
かと言って、あまり深くまで潜り込むと、強めの魔物や魔獣と遭遇する危険がある。
確かにこのカーフの森は、成り立て冒険者や見習い冒険者の訓練場所として指定された初心者用の探索エリアだが、奥の方まで足を伸ばせば、それなりに厄介な魔物が存在する。
ゴブリンは群れ(と言っても十匹程度だが)での行動が基本になるし、中には力に特化したジェネラルや魔法を使うシャーマン等の上位ゴブリンも住み着いているらしい。時として大型の魔狼の類が住み着く場合もあると聞いた
こいつ等はソロで活動している初級冒険者では太刀打ち出来ないし、パーティを組んだとしても、やはり経験不足では返り討ちになる可能性が高い。
なので発見したら即中級以上の冒険者案件になり、ギルド幹部に近い冒険者が討伐してしまうそうだ。
あと、なるべくなら他の冒険者と鉢合うようなことは避けたい。他の冒険者達や見習い達と諍いが起きた場合、どうせ何の調査もせずに、俺を一方的に悪に仕立てて罪を被せてくるだろうし。
俺は地図と睨めっこしながら、これ迄の素材採集の経験を活かして理想的な狩場を特定する。
「ここにするか………」
地図をトントンと指先で叩きながらそう結論付けた場所は、今まで通った採集場所から更に一時間ほど森の奥へと進んだ場所だ。
元々、今まで採集していた場所は、他の冒険者達があまり立ち入らない場所だった。採集を生活の糧としている見習いの中でも、ある程度目利きが出来る人間じゃないと、目的の薬草を見つけ出す事が困難な場所だったからだ。
その奥地に進めば、他の冒険者達とかち合うリスクを限りなく低く抑えることが出来るだろう。
「まぁ、その辺りが妥当ですね」
リリーヌ嬢から、そうお墨付きを貰った所で、今日の所は情報収集を切り上げたのだった。
「あ、私、むかごは好物の一つですので」
だから何だっちゅーんねん。
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