第30話 対決、砂の巨神 【後編】

 エゲツナールと 砂巨神サンドゥームになったダークは高笑い。

 2人は勝利を確信していた。


「ぎゃははは! 無能のデインがぁああ!!」


「ほほほ! 動くんじゃあないざんすよ。少しでも動けば子供の命はないざんす!」


 ふむ。

 動くつもりは毛頭ない。

 なぜなら、


「お前たち、さっきも言ったがな……」


「なんの話ざんす?」


「俺の生徒は優秀なんだよ」


「しまった! エゲツナール後ろだぁああああ!!」


 ダークの叫びは遅かった。

 エゲツナールの後ろにいたのはマイカとロロア。


 ロロアが股間に蹴りを入れる。


「えい!」


「あぎゃああああああッ!!」


 飛び上がったエゲツナールに声をかけたのはマイカである。


「元はあんたの生徒でしょ。それを人質にするなんてね。最っ低!」


 と、頬を打った。


「ぶべらぁああああああッ!!」


 やれやれ。


「これで人質はいなくなったな」


 再び、 蝶の効果バタフライエフェクトを発生させる。


 蝶ホワイトストーンで終わらせてやる。


「ク、クソが! そうはいくかよ!!」


  砂巨神サンドゥームが豪風を起こす。

 それは 蝶の効果バタフライエフェクトの蝶を吹き飛ばした。


 やれやれ。

  蝶の効果バタフライエフェクトの弱点を突かれてしまったな。

 蝶が飛ばされては 聖竜の指示棒ドラゴンポインターを5倍の威力にできない。


 そうなると、他の方法だな。

 さて、どうやって倒そうか。


  砂巨神サンドゥームのパンチが俺を襲う。


「死ね! デイン!!」


 お断りだな。


 俺は 魔神技アークアーツ兎走を使って避けた。


 単純な攻撃を交わすのは、注意さえしていれば可能だ。

 しかし、それも時間の問題。俺の体力が尽きれば終わってしまう。

 いち早く、奴の核を破壊する方法を考えなければならない。

 奴は核である【巨神の心臓】を凄まじい速さで移動させられる。

  蝶の効果バタフライエフェクトを使った蝶ホワイトストーンが使えなくては動きを止めることができない。

 通常のホワイトストーンでは瞬時に粉砕して再生してしまうからな。

 もっと、他に奴の動きを封じる方法があればいいのだが……。


「砂が再生するのが面倒だよな」


『それ故に無敵の巨神と言われているのだ』


 うーーむ。

 無敵ねぇ。


「でもさ。無敵ならどうして眠りについたんだ? この世界にずっと君臨すればいいじゃないか」


『うむ。確かにそうだな。 砂巨神サンドゥームは14日間、地上に君臨し、眠りについたとされている』


「14日間は無敵だったんだな。その日に何があったんだろう?」


『きっと、人類を滅亡させたのだと思う』


「……いや。それだと子孫が残らないはずだ。俺たちが存在するには理由があるんだよ」


『なるほど』


 砂の巨神が眠りにつくきっかけ……。

 砂の……。


 砂……。


「もしかして、雨かな?」


『雨?』


「14日後に雨が降った。砂は雨によって固まった。そう考えれば辻褄が合うよ」


『うむ。流石は 主人マスターだ。しかし、我は雨を降らすことができないぞ?』


 ここからだと川は遠いしな。

 大量の水を手に入れる方法……。


「そうだ!」


 俺は 聖竜の指示棒ドラゴンポインターを地面に突き刺した。


「伸びろ!」


 凄まじい速度で棒は地下へと伸びる。


主人マスター!  雨は上空の雲が作る物だぞ! 地面に棒を突き刺してどうするのだ? 逆ではないのか?』


 ここいら周辺は森が豊かだ。 

 川も池もないのに、木々だけが生えている……。


「ぎゃははは! どうしたデイン、降参かぁあ!?」


 手応えはあった。

 この感触……。間違いない。


 棒を元に戻す。




「降参するのはお前かもな」


 


 ゴゴゴと地響きが鳴り響く。


「な、なんだ地震か? デイン。貴様、何をやった!?」


「お楽しみの時間さ」


「何ぃ!?」

  

 棒を抜いた穴から大量の水が噴き出した。

 ドラゴンは目を見張る。


『こ、これはどういうことだ?』


「地下水さ。何キロ下なのかは検討もつかないけどな。いくらでも伸びるお前のおかげで探すことができた」


『なるほど! その手があったのか! 流石は 主人マスターだ!』


 大量の水を浴びた 砂巨神サンドゥームはドロドロになっていた。

 

「ぎゃああああああ! 溶けるぅううう!! 俺の体がぁあああああああ!!」


「砂だらけだから丁度いいだろう。地下水で洗い流せよ」


「くぅうう! 泥になると再生できない!!」


 やはり弱点は水だったようだな。

 さて、止めを刺しますか。


「ク、クソがぁああああ!! ただで死ぬもんかぁあああ!!」


  砂巨神サンドゥームは最後の力を振り絞って、巨大な球体を発生させた。

 

「サンドバースト。ククク、この技は巨神の出せる最大の技だ。これを喰らえば一溜まりもあるまい」


「無駄だ。ここいら一帯はレナンシェアのダブルディフェンスによって守られている。お前の攻撃は通じない」


 とはいえ、奴の 魔源力マナは強大だ。

 最後の力をあの球体に込めているのだろう。

 まだ、膨れ上がっている。

  魔源力マナ40万はあるだろうか。


「先生、安心してくださいですわ! なんとか、私たちだけで持ち堪えてみせますわ!!」


「ミィたんがんばる!!」


 レナンシェアに 魔源力マナ移しを行っているミィの 魔源力マナが、10万まで膨れ上がっていた。

 あそこまで潜在 魔源力マナを引き上げるなんて努力の賜物だ。

 しかし、それでもサンドバーストの力には及ばない。

 この会場にサンドバーストが放たれるとまずい。俺の力をレナンシェアと合わせて会場を守るのが得策か。

 俺の 魔源力マナは30万以上は出せるだろう。

 彼女と合わせて40万位上。なんとか防げるギリギリのライン。

 防御に専念しながら奴を倒す。


「観念するんだな、ダーク」


「うぐぅ……。だ、だったら貴様を後悔させてやんぜ」


「…………」


「俺様を敵に回したことをなぁあああ!」


 ……早く終わらせよう。

 嫌な予感がする。


 俺は 聖竜の指示棒ドラゴンポインター 砂巨神サンドゥームに向けた。

 狙いは頭部にある巨神の心臓。

 棒を伸ばそうとしたその時である。




「はぁぁああッ!!」




  砂巨神サンドゥームは上空に向かってサンドバーストを飛ばした。


「検討違いの方向に……何故だ?」


「ははは! ただで死ぬもんか! 王都の人間を道連れにしてやる!!」


 そうか!

 王都に向かって投げたのか!


 ダークはわからなかったんだ。

 サンドバーストの 魔源力マナがレナンシェアの 魔源力マナを大きく上回っていることを。

 奴はレナンシェアのダブルディフェンスで防御されるのを恐れた。

 だから、王都に向かって投げたんだ。


 サンドバーストは凄まじい速さで王都に向かう。

  魔源力マナ40万を超える強力な技だ。

 衝突すれば王都は滅ぶ。


「ぎゃははは! 俺を怒らせたからこうなるんだぜぇ! デイン! お前のせいで大勢の人が死ぬんだぁああああ!!」


 しまった!

 俺が移動するには時間が足りない。

 瞬時に40万以上の 魔源力マナを高めて王都を防御する手段がない!


 会場が騒つく。

 全員が王都に向かうサンドバーストの行方を目で追っていた。

 命中すれば王都民300万人が死ぬ。


「先生! わたくしのダブルディフェンスでも無理ですわ! 王都までは遠すぎて、とても 魔源力マナが足りませんわ!!」


 そうなんだ、圧倒的 魔源力マナ不足。

 強大な 魔源力マナさえあれば、遠く離れた王都にもダブルディフェンスが張れる。

 しかし、それをするには時間が足りないんだ。

 象火も 蝶の効果バタフライエフェクトも秒でやるには時間がかかりすぎる!


「ぎゃははは! 全員、道連れだぜぇえええええええええ!!」


 みんな諦めそうになったその時である。


先生てんてー。この蝶々……」


 あれは……。

 さっき、 砂巨神サンドゥームが豪風で飛ばした、 蝶の効果バタフライエフェクト

 偶然……。いや奇跡か。

 伝説の勇者は運も最強だと聞いたことがある。

 ミィ……。お前は本当に伝説の勇者になるのかもな。


「その蝶を取り込め! その蝶は味方だ!」


「う、うん!」


 彼女は蝶を両手で優しく包み込んだ。

 その瞬間。

 凄まじい 魔源力マナが会場を埋め尽くす。

 

 ミィの 魔源力マナが5倍に膨れ上がったのだ。

 その 魔源力マナは、ミィの 魔源力マナ移しによってレナンシェアへと移動する。


「せ、先生! 凄まじい 魔源力マナですわ!」


 俺の烏眼はレナンシェアの 魔源力マナが50万以上に膨れ上がっているのを確認した。


「王都を守るんだ!」


「はい! ダブルディフェンス!」


 それは 蝶の効果バタフライエフェクトの効果を得た防御魔法。

 つまり、蝶ダブルディフェンス。

 遠く離れた王都全体を包み込んだ。


 サンドバーストは蝶ダブルディフェンスに当たって大爆発を起こす。

 その影響で巨大な地震が起こった。

 それはこの会場の大地をも揺らす。


 やがて、それが治まると、王都が光の膜で包まれて、無事なことが確認できた。


 良かった……。遠巻きだが、建物に被害は出ていないようだ。


「ダーク。悪は滅びるって、言葉知ってるか?」


「クソがぁああああ!!」


「あの世で学ぶんだな」


  聖竜の指示棒ドラゴンポインターが伸びると、巨神の心臓を一瞬にして貫いた。






「ぎゃあああああああああああああッ!!」


 




 ダークの悲鳴と共に 砂巨神サンドゥームは消滅した。

 と、同時。

 砂に変えられた観客は元の姿へと戻る。


「あは! 先生てんてーが勝ったぁあああ!!」

「凄いですわ! 伝説の巨神を倒してしまいましたわ!!」


「お前たちの協力のおかげさ」


「でも、あの先生てんてーが出した黒い蝶がいなかったら王都は守れなかったよ」


「だな。俺とお前たちとで王都を守ったんだ」


「あは! 先生てんてーやったね!」


「ああ」


「じゃあ、なでなでして」


「ふふふ。よしよし。偉いぞ」


「えへへ」


 レナンシェアがソワソワする。


「あ、あの……。わたくしも頑張ったのですが……」


「ああ。お前のおかげさ」


 上目遣いでなでなで待ちをしているようだ。


「よしよし」


「うふふ……。嬉しいですわ」


 続いてロロアとマイカがやってくる。


「僕も活躍したんだよ」

「あ、あたしだってねぇ。役には立ったんだからぁ」


 やれやれ。


「じゃあ、お前たちもだ」


 俺が2人の頭を撫でると、彼女らは満足そうに喜んだ。

 そんな傍ら、俺たちから遠ざかる男が1人。


「はわわわわわ! ま、まさか、 砂巨神サンドゥームを倒すなんて、信じられないざんす!」


 そういえばコイツが残っていたな。


「逃げるが勝ちざんすぅうううう!!」


 そうはいくか。


「ホワイトストーン」


 石化の呪い。

 その脚はチョークになる。


「ひぃいいいいいッ!! 脚が動かないざんすぅうううう!!」


「さぁて、お前にも教育が必要だな」


「あ、あーしを殺す権利は、あーたにはないざんすぅうう!!」


「大勢の命を狙っておきながら、権利を主張できる立場かよ」


 俺は 聖竜の指示棒ドラゴンポインターを振り上げた。


「ひぃいいいいいいッ!!」


 エゲツナールの尻に向かって振り下ろす。



 



「教育ッ!」






 ビシィイイッ! とけたたましい音が場内に鳴り響く。








「あぎゃあああああああああああああああッ!!」








 奴はそのまま気を失った。


 それを見ていたブリザ国王は立ち上がる。


「見事だ!! 流石はデイン!! 素晴らしい!!」


 国王の指示により、エゲツナールは衛兵たちに連行された。

 投獄されて、その罪を償うのだろう。


 こうして、事件は解決した。

 当然、発表会の続きなんてできるわけもなく。後日、正式な続きをやることになった。


 翌日。

 俺たちは王都にあるリザーク城に呼ばれた。

 今回の事件を解決した報酬を受け取る為である。

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