第22話 ダーク、教師になる


〜〜ダーク視点〜〜


 俺は魔剣士クーダとして、勇者学園ブレイブバレッツの教師になることができた。

 今はデインに学園を案内してもらっているところだ。


「それじゃあ、君が担当するクラスを案内するよ」


「よろしくお願いします」


 俺の担任は高等部だ。

 グフフ。

 高等部の女子といったら16〜18歳の食べ頃じゃないか。

 たまんねぇぜ。


「ここが君の担当するクラスだよ」


 教室の扉を開けると、汗臭い臭いがムワッと鼻口に広がった。


 う!

 なんだこの臭いは!?

 女子生徒って意外と臭いんだな。

 そういう意味では興奮するか!

 ヒョッホー、パラダイス!

 


「おい新しい先生が来たぞ!」

「なんか真面目そうだな」

「フン! フン! 一に筋肉、二に筋肉!」


 上半身は裸。

 ムキムキマッチョな男子生徒が俺を熱い眼差して見つめていた。

 半数以上が筋トレ中。蒸発した汗がもやと化していた。


 ゲロゲロ〜〜!

 全然パラダイスじゃねぇ。

 じょ、女子がいないじゃねぇか。


「デ、デイン副園長……。ここは?」


「え? ここが君の担当するマッスル組だけど?」


「「「押忍! 先生、よろしくっす!」」」


 全員筋肉かよ……。


 1人の男子生徒が俺の前で筋肉を見せた。


「自分、学級委員です。上腕二頭筋が自慢であります! フン!」


 アピってくるなよ、興味ねぇから。


「ふ、副園長……。随分と生徒が特殊だと思うのですが?」


「このクラスの男子は全員戦士タイプなんだ。中々にやんちゃだが大丈夫かな?」


「……え、ええ。ま、任せておいてください」


「じゃあ、あとは任すよ。これは生徒のプロフィール。ま、みんな熱い生徒ばかりだからさ。仲良くしてやってくれよ」

 

 そう言って去って行った。


 うう。

 想像を遥かに超えるクラスの担任になってしまった……。


「先生! 熱い学園生活にしましょう!」

「先生よろしくたのむっす!!」

「そんな堅っ苦しい服は脱いで、先生の筋肉を見せてください!」


 ち、近づくな!


「「「 先生!! 」」」


「うぎゃぁああ! 服を脱がすなぁああ!!」


 俺は筋肉質の男子生徒にもみくちゃにされた。

 

 密着してる!

 

「股間とか密着してるから!!」


「違います! 大腿筋膜張筋を比べているのです!」


「どうでもいいから離れてくれぇえええ!!」


 生徒たちの情熱は止まらない。


「まずは筋トレしましょう!」

「先生はどこの筋肉の部位が好きなんでしょうか?」

「まずは胸鎖乳突筋について朝まで語りませんか?」


 筋肉なんて興味ねぇよ!

 こんな野郎ばっかりの担任になるとは思わなかった。

 クソが! めちゃくちゃ汗臭い!




〜〜デイン視点〜〜


 勇者ダークが魔剣士クーダとして、この勇者学園に入って来た。

 その動機は不明だが、おそらく俺に復讐でもしたいのだろう。


 入校を拒否しても良かったが、動機が不純すぎる。

 ここまで狂った人間をそのまま放っておくのも忍びないからな。


 偽造された履歴書にはギルドの協力が必須だ。

 この調査には数日かかるだろう。

 判明次第、しっかりと罰を与えるつもりだ。

 それまでは高等部マッスル組の担任として働いてもらおうか。


 ダークを赴任させて数日が経った。

 何事もなく、教師の仕事をしてくれている。


「デイン副園長、知っていますか? 赤身肉は筋肉に良いんですよ」


 もうすっかり生徒たちと打ち解けているようだ。

 もしかしたら、改心して本当に真面目な教師になってくれるかもしれない。


 来週には学校の発表会がある。

 マッスル組の成果が楽しみだな。


 そんなある日。

 俺は国王に夕食を誘われた。


 王都リザークのブリザ国王は美しい女である。

 鋭い目は知的さを感じさせる。そしてなにより、胸のデカさはモーゼリアといい勝負だ。

 思わず、その谷間に吸い込まれそうになるよ。

 そんな人と食事。

 豪奢な部屋に彼女と2人きりである。


 豪華な料理に高いワイン。

 生まれて初めての贅沢と言っていいだろう。

 そして目の前には美女。

 最高かよ。

 

「学園は上手くいっているようだな」


 国王には学園の運営は筒抜けのようだ。

 そりゃそうか。一応、国営の学校だからな。


 しかし、国の運営機関は他にもたくさんあるだろう。

 一学園の、しかも学園長ではなく副園長が、国王と2人きりってのはな。

 なんとも複雑な気分だよ。


「今日は無礼講だからな。気軽にしてくれ」


 そう言われても緊張するがな。

 じゃあ、ざっくばらんに聞いてみるか。


「国の状況はどうです? 平和ですか?」


「うむ……。それがな。少し困っていることがある」


 うん?


「どういう意味です?」


「ソンナ遺跡を知っているか?」


 そこはモーゼリアが以前に探索に行った場所だ。

 たしか、学校の文化遺産になるんだったな。

 でも、国の管理下で違法探索だったんだ。

 まぁ、これはエゲツナールが仕込んだことだったけどさ。


「知っていますよ。その遺跡がどうかしたのですか?」


「うむ。実は、そこに調査団を送ったのだ。国の兵士500人をな」


「へぇ、随分と大きな計画ですね。それはどういった理由ですか?」


「周辺の村民から苦情が来ていてな。何やら不気味な声がするというのだ」


「声ですか?」


「高熱を出して寝込む者も出ているという」


「それは大変ですね」


 あの周辺は俺が住んでいた洞穴があったからな。

 強力なモンスターは粗方狩ったつもりだったが、モンスターが呪い攻撃でもしているのだろうか?


「それで、調査の結果は?」


「うむ……」


 と言って顔を顰めた。


「音信が途絶えた」


 ほぉ。500人の兵士が音沙汰なしか。


「それは困りますね」


「うむ。更に30人の兵士を確認のために向かわせたのだがな。その者らも帰ってこなくなってしまった。ほとほと参っている」


「ふむ……」


 これも何かの縁だ。

 学園の仕事は弟子のマンティスに任せて、調べてみるか。


「俺が行ってみましょうか?」


「おお! そうしてくれるか!! 助かる!」


「……あれ?」


 もしかして、これが目的か?

 そのために俺を食事に誘ったのかな?


「か、勘違いするなよ! 今日の食事は、そなたを利用するのが目的ではない!!」


「へぇ……」


「お、男と女のコミュニケーションだ!」


「ほぉ〜〜」


 どうだかな。

 計算高い人だから、おおよそ、こうなることはわかっていただろう。


「な、なんだその顔は! 完全にわらわを疑っているではないか!」


「別にそんなつもりはありません」


「そ、そもそも、わらわが男を誘うなんて初めてなんだからな!」


「へぇ……」


 意外だったな。

 肉食系女子かと思った。

 

 俺がワインを口にした時だった。


「きょ、今日は泊まっていっても良いのだぞ」


「はい?」


「男と女のコミュニケーションは食事意外もあるだろう」


「んん?」


 国王は真っ赤な顔になって体をくねらせた。


「わ、わらわの初めてをもらってくれぬか?」


「ぶぅうううううううううッ!!」


 俺はワインを吐いた。


「と、とにかく。俺がソンナ遺跡を調査しますんで、調査結果を待っていてください」


「う、うむ。助かる」


 そういって胸を寄せた。

 巨乳の谷間が俺を誘う。


 うう、最高すぎる。

 

「きょ、今日のお泊まりはどうするのだ?」


 530人の兵士が行方知れずなんだ。

 美女とイチャコラしてる場合ではなかろう。


「ま、また今度で」


「う、うむ。……待っているからな」


 そういうわけで、俺はソンナ遺跡を探索することになった。

 

 次の日。

 弟子のマンティスに引き継ぎを頼む。


「530人も兵士が行方不明なのですか!? 師匠お一人では危険では!?」


「学園の運営も大切さ。お前には俺の代理をしてもらいたいんだ」


「ええ勿論。師匠の代理ならば誇り高いことですが……。なんだか心配です」


「ヤバければ直ぐに引き上げるさ」


「決して無理をなさらずに。お気をつけて!」


「ああ、ありがとう。行ってくるよ」




  魔神技アークアーツ 兎走!



 ドン! と地面が爆ぜる。


 俺は兎の如く飛び上がり、高速移動でソンナ遺跡へと向かった。

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