勇者学園の最強てんてぇ〜魔神の技で目立たずに補助をしていたのだけれど、無能と笑われて勇者パーティーを追放されました。俺は教師になって順風満帆だからさ、戻って来いってどの口が言ってんだよ〜

神伊 咲児

第1話 無能賢者は教師になる

 俺はデイン・クロムザート。

 20歳。職業、賢者だ。


 俺は 魔神魔技族アーククラフターという一族の末裔で、魔神の力が使えたりする。その力は特殊で、魔法の威力を倍化したり、魔神の拳技を使えたりと、まぁ色々と冒険には役に立つ。


 そんな力を使って勇者パーティーで活躍していたわけだが、今、とんでもない事態になっている。


「デイン。無能のお前はクビだ。ひゃは!」


 と、笑うのは勇者ダーク。

 そんな彼に解雇通達をされたのだ。


「おいおい。なんちゅう顔で俺を見るんだよ。これは正当な評価だぜ。お前は無能なんだよデイン」


 呆れているというのが本音かもしれない。

 コイツの指示で、みんなが死にかけるシーンは数知れず。

 その度に、俺が持つ、 魔神魔技族アーククラフターの力を使って切り抜けていたんだ。後衛の敵を殲滅したり、補助魔法で味方をサポートしたりと、戦闘の度に助けていた。


 それに、目に見えて強力な技を使うとダークから嫌味を言われるんだよな。「俺が目立たねぇだろうが、出しゃばんな! クソが!!」と。

 故に俺はこっそりとフォローするようになったんだ。


「お前は何もしてないお荷物野郎だよ。この無能賢者! 俺のパーティーから出て行け! ぎゃははは!!」

 

 いやいや。

 表立って助ければ嫌味を言われ、隠せば無能か。

 どうすればいいんだよ。


「俺は後衛からパーティーのフォローをしていたのだが?」


「ギャハハ! 後衛って言い訳が見苦しいな。それに俺が見てない所ならなんとでもいえるだろうが、この嘘つき無能賢者が!」


 む、無能賢者……。


 女魔法使いがほくそ笑む。 


「ぷぷぷ。見苦しいですわね」


 彼女は勇者の取り巻きだ。


「ダーク様。こいつは戦闘の時は何もしていませんわ。私たちばかりに戦わせるのですから、とんだ穀潰しですわ」

「だよなーー。俺の寛容も底を尽きた。もう面倒みきれねぇよ」


 うーーむ。

 この状況はまずい。

 なんとか理解してもらわねば。


「俺は戦闘以外ではちゃんと働いているじゃないか。掃除、洗濯、飯の準備。全部、俺が当番だぞ?」


「ひゃは! んなもん当然だっての。無能は雑用しかできねぇんだからな!」

「プクク。本当、無能賢者って嫌ですわね。ダーク様」


 はぁ〜〜。

 こりゃ、反論したところで聞いてくれそうにない。



「勇者パーティーから出てけーー! 無能賢者がぁ! ギャハハハーー!」



 無能賢者か……。

 仲間に理解されなかったからな。

 本当に無能なのかもしれん。


「はぁ〜〜」

 

 と、大きなため息をつきながら勇者パーティーを去った。


 まさか、勇者パーティーをクビになるとは思わなかったな。

 さて、これからどうしよう?

 生きる為には金がいるしな。


 俺は次の仕事を探した。


 賢者ならば、仕事に困ることはないだろうと思っていたが、どこのパーティーも受け入れてくれなかった。それどころか、ギルドからも爪弾き。仕事を貰えなくなってしまう。

 どうやら、裏でダークが手引きをしているようで、俺に仕事を回さないようにしているようだ。なにやら、無能賢者にはサボった分の罰が必要、とダークが風聴しているらしい。


 ほとほとまいった。

 仕方がないので山に入り、獣を狩って生活することにした。

 マイホームは洞穴だが、住めば都である。

  魔神魔技族アーククラフターの力を使えば、生活に困ることはないのだ。

 

 山には食料が豊富にあった。

 山菜、魚、獣。

 それらを狩って生活する。


 初めてやってみたが案外良いものだ。

 人付き合いもなく、のんびり暮らせる。

 自分の性に合っているのかもしれない。


 そんな生活が1週間続いた。そんなある日。


 1人の女がゴブリンの群れに襲われていた。

 金髪、巨乳の美しい女。歳は20歳くらいだろうか。

 耳が尖っているのでエルフ族だ。


 女は50体以上のゴブリンに囲まれていた。

 息も絶え絶えで、傷だらけである。


「はぁ……はぁ……」


 うむ、助けてやろう。


 と、彼女の前に立つ。


「あ、あなた1人で? む、無茶です。一緒に殺されてしまいますよ! 私に構わず逃げてください!」


 ほぉ。

 自分のことより俺の心配か。

 優しいんだな。




「フレア」




 俺が出す無数の火球でゴブリンたちを殲滅する。

 その爆風は彼女の美しい金髪を揺らした。


「す、すごい……。い、一瞬で……」


 何を驚いているんだろう?

 こんなこと、勇者パーティーの時は普通だったからな。

 ……まぁ、隠れてやっていたから誰も気がつかなったけどさ。


 1体だけ、体高5メートルを超える大きな奴が残っていた。


「ゴブリンキングに魔法は効きません!」


「え? あ、うん……」


 知ってるけど。


「あらゆる物理耐性を持っていてとても強力です! あなた1人ではとても──」


「ははは。大丈夫だよ、っと」


 俺は女の方を見ながらゴブリンキングに一撃を噛ました。

 大きな体は10メートル以上吹っ飛び、そのまま動かなくなった。


  魔神技アークアーツ  牙狼がろう

 魔神の力が付与された拳は鉄より硬くなる。


 物理耐性なんてさ、それを超える打撃力があれば問題はないんだよね。

 勇者パーティーの時は陰ながら倒していたが、今は隠す必要がないから楽だな。


 女は「はぁ……」と空いた口が塞がらなくなっていた。

 恐怖がまだ残っているのだろう。きっと、状況が理解できていないんだ。


「全部倒したからさ。安心してよ」


「……す、すごい」


 ん?

 なんのことだ?

 勇者パーティーで働いていた時は、もっと強い敵と戦っていたからな。俺のことじゃないよな。きっと、まだ混乱しているんだ。

 

 あと、これだけは言っておかなくちゃ。


「君を助けたのはさ。君が傷だらけだったからだよ」


「え? は、はい。ありがとうございます!」


 腰を曲げる彼女の胸は重力にしたがってプルンと垂れた。

 

 うむ。


「くどいようだが、困っている人を助けただけだからね」


 そう、やましい気持ちは1ミリもないんだ。

 

 俺は自分にそう言い聞かせた。

 目線は彼女の谷間に釘付けだったが……。

 


 俺は、女を洞穴で介抱することにした。

 彼女が洞穴に入ると良い匂いが充満する。

 香水だか石鹸だかはわからないけれど、とにかくめちゃくちゃ良い香り。

 山の幸に囲まれた獣臭い洞穴が、まるで違う場所になったみたいだ。


 俺の回復魔法と食事によって、彼女は元気になった。


「私の名前は、モーゼリア・アルバイン。勇者学園の学園長をしております」


 勇者学園とは初耳だ。

 どうやら、次世代の勇者を育てる学校らしい。

 エルフが学園長をしており、学園には様々な人種がいるそうだ。


 彼女は遺跡の調査で出向いていたらしく、そこをゴブリンの群れに襲われたのだ。


 ニコニコと笑う彼女は女神のように美しかった。

 その立ち居振る舞いは知的で、淑女である。

 あと、胸が大きい。


「デインさんはお強いですね。ゴブリンを倒した技は非常に洗練されていました。一体どういったお方なのでしょうか?」


「先週まで勇者パーティーにいてね。そこで賢者として働いていたんだ」


 と、俺の経緯を話す。


「まぁ、でしたら相当な実力者ではありませんか!」


「いや、クビになったからね。大したことはないよ」


「そんな! ゴブリンを倒した技は相当洗練されておりました! その技能を眠らせるなんて勿体無いです!」


 そう言われてもな。

 仲間には散々、無能賢者と蔑まれた。

 きっと、その程度なんだ。

 実力なんてたかがしれてる。


 モーゼリアは、大きな胸をプルルンと揺らしながら俺の手を握った。


「是非! 学園の教師になってください!!」


 きょ、教師!?

 ……無能の俺にはとても務まらないだろう。

 人に教育するなんて不可能と言っていい。

 それに、食うには困っていない。

 のんびりと山の暮らしを続けるのは楽しかったりするんだ。

 平和で争いがなく、豊かだ。

 マイホームは洞穴だがそこがまたいい。

 穴居生活こそが、俺にとってマイベストライフ!

 

 遠慮します。

 と言いかけたところで、


「頼れる男の人が周りにはいないのです」


 そう言うと、彼女の大きな胸が、もう一度プルルンと揺れた。






「わかりました。やりましょう」






 自然と言葉が出ていた。


「教師の仕事は、私がサポートさせていただきますので安心してくださいね」


 そう言って、女神のような笑顔を見せる。


 彼女が側にいるなら毎日に張りが出そうだ。

 穴居生活が無味乾燥なものに思えるな。

 無能な俺でもやれることがあるだろう。

 少しだけがんばってみようか。


 ということで、ここに来た。




 この、勇者学園ブレイブバレッツ、に。

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