第2話 鬼神化

目を覚ますと知らない天井が見えた。

何故だろうか、昨日死ぬまでの自分よりも頭が冴えている。



ここは、魔王城かと思った城の一室だ。

辺りを見渡してみると、昨日話したメイドが傍で私を見守っている。



「目が覚めたのね」



「こんなに良い目覚めは初めて」



いつも嫌な夢を見て起きる。

その夢は憎き家族や学園の汚らしい奴らばかり。



「それもそうね…

 吸血鬼になれば、肌も艶やかに、

 髪も容姿さえも変化するわ…」



公爵家でありながら地味な顔に生まれ、

王家の血が流れているのにも関わらず醜いと馬鹿にされてきた。

私は公爵家の面汚しと言われていたのだ。



「まあ、種族が変わったからと言って、

 そんなに変わるわけ……」



傍にある全身鏡を見た瞬間に驚愕した。

鏡に映る自分に見惚れてしまったのだ。

そして未だ信じられない…



「き、綺麗…」



自分の顔に対して思わず口にしてしまう。

長髪の銀髪、赤目、透き通る程の白い肌。

そして元々、大きかった目は可愛らしさを残している。

目の前にまさに美少女と呼べる存在がいた。



「う、嘘でしょ…」



「ふふふ、吸血鬼になると、

美しさではサキュバスに引けを取らないわ」



淫妖魔サキュバス、その魅力で男を狂わせる存在と聞いたことがある。

吸血鬼は、そのサキュバスと同程度の美貌を持つとメイドは言っている。

私はそんな存在になった事が信じられない。



「でも、その姿でいられるのは、

 鬼神化した時だけよ…」



「鬼神化?」



聞いたこともない単語に驚いてしまう。

神の名の付く言葉に恐ろしさを感じる程だ。



「私達、吸血鬼は魔力を使い、

 その姿と力を極限まで引き出すの…

 鬼神化してる時は誰にも負けないわ」



美しさと力を手にする吸血鬼にだけ許された固有スキル、鬼神化。

そのスキルを使うと最強の存在へと至る。



「ずっとこの姿でいたいけど、

 そういうわけにもいかないのね…」



「貴方は人間だからね、

 元々の魔力が少ないのよ…」



魔力が無くなると元の姿に戻ってしまう。

限られた時間だけ許された変身スキル。



「そうね…

 人間の血を吸うと魔力が上がるわ」



「へぇ…」



吸血鬼らしい特殊能力ね。

でも、魔力を上げてこの姿でいられるなら…



「でも、相性があるのよ…

 後、回復魔法使いが理想的ね」



私は一瞬、天性の素質を持った回復魔法使いを思い出してしまった…

それは、後に聖女になる存在であり、

この物語の主人公だ。



「それは良いことを聞いたわ…」



あいつ以外に私の食事はあり得ない…

最高の回復魔法使い。

その血を吸えば、もっとこの姿でいられる。



「ふふふ、どうやら

 吸血鬼を受け入れるのも早かったわね」



「まあね…

 これだけ綺麗になれるなら許せるわ」

 


メイドは微笑みながら私に服を着せていく。

その瞬間が今の私には至福の時だった。

そして、私はメイドと他愛もない話をしながら時を過ごした。



「これから、私はどうするの?」



「この城にいる間は魔力が減らないから、

 しばらく…と言いたいところだけど、

 貴方をよく思わない派閥がいてね…」



吸血鬼の中にも私を疎ましく思う奴がいる。

しかし生まれてそれが日常だった私には、

そんな事は、別に気にならない。



「いいわ、

 こんなに素晴らしい力を得たのだもの…

 貴方達には感謝しても仕切れないくらい」



「そう言ってくれると助かるわ…

 別れの選別に、これをあげる」



渡されたのは血液の詰まった小さな瓶だ。

魔力が無くなり危機が訪れた時に飲むように言われた。



「来た時と同じようにすれば、

 元の場所に帰れるはずよ…」



メイドがそう口にすると、私はここに来る時に使った錬金術Xを思い出す。



「分かったわ…

 色々良くしてくれて、ありがとう

 最後に、貴方の名前は?」




「私は、サラ…

 吸血鬼の王、シルヴァ様の専任メイド…

 また会えたら嬉しいわ」



その言葉を聞き、私は錬金術Xを発動して、

目の前にゲートを発生させた。

そしてルミナスに帰ろうと黒い渦に飛び込んだ。



ゲートが消え去った後に、メイドのサラが、表情を少しずつ変えて本性を露わにする。












「魔王様は認めても、

 私は貴方を認めないわ…

 瓶に入った毒の血で死になさい」








邪悪な笑みを浮かべながら、サラは消え去ったゲートの方角を見つめながら呟いた。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





ゲートを出ると、そこは迷いの森だった。

私は自分の血を媒介に錬金術Xを使うと、

吸血鬼の城と迷いの森の行き来が出来ると理解した。




「鬼神化の影響で魔力が一気に減っていく…

 このままでは、すぐに魔力がなくなる」




魔力が尽きてしまうと判断した私は、

元の人間の姿に戻す。





「そういえば、この瓶の血…」





あのメイドが、危機に陥った時に飲めと言っていた。

この状況を考えれば飲むのは今なのだろう。

しかし、私は…










「私は、悪意を見抜けるのよ…

 貴方が瓶を渡した瞬間に、見抜いたの

 この毒で殺そうとしたのをね…」







そうだ…

疎まれて生きてきた私は人の悪意を見抜く。

ルキア・リーベルトは、そういう人間だ。



「飲んであげないわ…

 錬金の素材にして私の糧にする」

 


そして私は錬金術Xを発動して、瓶の血液を素材にした。

すると、目の前に新たな血液の入った小瓶と漆黒の鎧が現れる。



「冥界の鎧と吸血鬼の血液ね…」



早速、血液を口に含んでみると、

聞いたこともない声が頭を駆け巡る。



スキルがレベルアップしました。

スキルがレベルアップしました。

スキルがレベルアップしました。



新スキル獲得成功しました。

魔剣創造Lv.1

鑑定Lv.1




「ち、力がみなぎってくる…」



恐らく錬金術Xの効果で毒と血液が分解されたのだろう。

更に毒を素材に漆黒の鎧を創造した。

そして吸血鬼の血液により、私はレベルアップを繰り返したようだ。



「馬鹿ね…

 わざわざ私を殺すために渡した毒で、

 私をこんなにも強化してしまうなんて」




新たに獲得した鑑定スキルで自分自身の力を確認してみた。




ルキア・リーベルト

Lv.42

MP:9402

スキル:

錬金術X Lv.5

鬼神化 Lv.4

魔剣創造 Lv.1

鑑定 Lv.1



私の元々の魔力は、せいぜい100前後だったがあっという間に5桁に近い数字になっている。

その強さに笑いを抑えきれない。




そして、私のメスの匂いを嗅ぎつけたオーク共が寄ってきた。

その存在を以前は恐怖していた…

非力な私では、慰み者にしかされないと。





でも、今は違う…

私には最強とも思える力が手に入った。




私に集まるオーク共も…

私に害を及ぼす全ての者も…






「私が全てを蹂躙してやる」







鬼神化スキルを発動して姿を変えて、

私はオーク共に向かって森を駆け抜けた。





私は、悪意を向けた者に容赦しない。

例えそれが魔物や家族であっても、

更にそれが吸血鬼であったとしても…

私に害なす存在は、必ず後悔させてみせる。





「メイドのサラ、お前も必ず後悔させる…」





ルキアは、そう言い放ち、

瞬く間に迷いの森にオークの死体を積み上げていくのであった…

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