猫歴67年その2にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。後光ってどうやったら差せるんじゃろ?
ウロだけ異常な光が差しているので、ベティが「聞いて来て~!」ってうるさかったから質問したら、本人は気付いてない。なので両親から変なこと言われてないかと聞いたら、これもなし。
謎が謎を呼んでいるので、ふとわしは普段の喋り方はどうなのかとやらせてみたら、後光が消えた。どうやら子供っぽく振る舞うと消えるらしい。
「うっそだ~」
「本当にゃ~。元の喋り方してみてにゃ~」
「そんなことで変わらないと思いますよ?」
「ほら! 写真にも映ってるにゃ~!!」
「本当ですね……」
後光はスマホでも撮影可能。だからみんなでウロを背中に隠して後光の写真を撮りまくって遊ぶ。そんなことをしていたら、ウロがいらんことを言い出した。
「アレって、まだ落ちて来るのですか?」
「アレにゃ?」
「タライです。久し振りに見たいのですが……」
「あぁ~……アレにゃ~」
わしが嫌そうな顔をするとメイバイたちも目を逸らしたので、今度はウロが不思議に思って首を傾げた。
「あんなに楽しそうにしていたのに、何かあったのですか?」
「一時期にゃ。子供たちがハマってやれやれうるさかったんにゃ。それでわしが頑なに断っていたらにゃ。そのコールを家族全員でやってしまってにゃ~……」
「はあ……それでどうなったのですか?」
「怒ったアマテラスが全員に落としたんにゃ~」
これは大事件。皆で「アマテラスのアーホ、アーホ」と大合唱していたら、全員に「ガィィィン」とタライが落ちて来たから、ぷく~っとタンコブを作ることになった。何も言ってないわしにまで落としやがったの!
それからはしつこく言われなくなったけど、誕生日の日にはリクエストがあり、仕方なくわしは応えている。やらないと誕生日の人が自分に落とすと脅して来るんじゃもん。たぶんこれを断ったところで、わしにも来ると思うし……
「では、もう見れないのですね……」
「うんにゃ。やめておいたほうが賢明にゃ~」
「そうですね。アマテラス様のアホ」
「ぎゃっ!?」
諦めたと思った瞬間、ウロはアマテラスの悪口を言ってわしの頭にタライ「ガィィィン」。天皇陛下の必殺技は健在だったみたい。
そのせいでわしの頭にお餅みたいなタンコブが作られると、皆の目が「キラーーーンッ」と光って超怖い。
「も、もうやめとけにゃ。絶対アマテラスは怒るにゃよ? みんにゃも、めっちゃ痛いの知ってるにゃろ??」
「「「「「アンコール、アンコール!」」」」」
「みんにゃにも被害行くにゃ~~~!!」
「アマテラス様のアホ」
「ぎゃっ!?」
「「「「「あははははは」」」」」
「「「「「にゃははははは」」」」」
無傷でわしにタライを落とせるのだから、皆が見逃してくれるわけがない。こうしてわしは、ウロに何度もタライを落とされ、タンコブを作り続けるのであっ……
「「「「「ぎゃっ!?」」」」」
「つつつ……だから言ったんにゃ~」
でも、5回目で全員にタライが落ちたのでこれは禁じ手となり、仲良く涙目で集合写真を撮ったのであった。
「そういえば、昔は名前を呼ぶだけで落ちて来にゃかった?」
「確かに……どうして私は悪口を言ってしまったのでしょうか。ということは……」
「しにゃった!?」
「アマテラス様」
「「ぎゃっ!?」」
いらぬことを思い出したわしがいらぬ知識を与えたせいで、ウロはチャンスだと名前だけでタライを落とそうとしたけど、わしとウロだけ無駄にタライを喰らったのであったとさ。
だからなんでわしまでなんじゃ!!
タライ事変が終わると、世間話。第三世界のことを聞きたいけど、この目で見たほうが面白いはずなのでここはグッと我慢して、ウロの質問ばかりを聞いてあげる。
「あれから38年ですか。昔見た猫市の写真と比べられないぐらい発展してますね」
「にゃろ~? これもそれも国民の頑張りのおかげにゃ~」
嬉しい質問をしてくれたので、わしはウロを屋上の端に連れて行って自慢話。
ここ猫市では車が多く走っているので、土埃が立たないように魔法で地面を固めるだけじゃなく、道路や信号、横断歩道まである。建物は電力の関係上エレベーターを設置できないので背の低い建物しかないが、綺麗な建物が多い。
夜には街灯や家々から光が漏れているので、どの国より明るい。全ての建物には太陽発電を設置義務化して、もしもの場合は電池魔道具をレンタルしているのでなんとか光を維持できるようになっているのだ。
「それに若者が多くて活気があります。ベビーブームが起こったのですか?」
「人口は着々と増えてはいるけど、これは猫市の特性にゃ」
「特性というと?」
「猫市は、世界中から留学生がやって来る学園都市なんにゃ~」
第三世界から持ち帰った知識で学校を作り、世界金融会議で圧倒したがために、世界は危機感を覚えて留学生を猫市へ送り込んだことが始まり。
その留学生が知識と猫市の暮らしを持ち帰ってから、猫市は大人気。お金持ちがこぞって子供を送り込み、自分もやって来たりしてる。
その理由は、高度な学習もさることながら、最先端の電気のある暮らしができること。テレビも長く視聴できるし、便利な家電もある。さらにウサギ族をモフれる施設もある。女子が多い理由は、ウサギ族のせいみたい。
最初はそのような理由であったが、さすがに年を重ねる事に他国も発展して飽きられはした。しかし、猫大卒というブランドが定着したので、いまでも多くの若者が留学しているのだ。
「なるほど。だから日本語も聞こえていたのですか」
「日ノ本だけじゃないにゃ。アメリカやオーストラリア、アフリカにゃんかからも来ているにゃ。部族のようにゃ暮らしをしている者には、わしのポケットマネーで迎えているんにゃ~」
「それは素晴らしい試みですね。貧困層も無償で受け入れるなんて、さすがシラタマ王です」
「ちょっと儲かり過ぎてるだけにゃ~」
天皇陛下にベタ褒めされると照れちゃう。なのでお金の話で照れ隠ししたら、引かれた。長者番付け、ブッチギリの1位だもん。こんなに使ってるのに減らないし……
このままではウロにケチ扱いされそうなので、お金の話を避けて宴を続けるわしであった。
翌週からは、ウロと遊ぶ。両親は王家の暮らしにビビってついて来なかったよ。
どこに行きたいかリクエストを聞いてみたら、猫の国を見て回りたいそうだからまずは猫耳族のルーツである猫耳市に連れて来た。
「穴? いえ、下にも町があるのですね。壁がベランダみたいになっている場所は棚田ですか?」
「そうにゃ。昔はドーム状のフタがあったんにゃけど、もう隠れて住む必要がなくなったから取っ払ったんにゃ」
「それはよろしい考えで……素晴らしい景色です」
猫耳市は大穴を中心に町が作られてはいるが、こんな歴史的に素晴らしい物を隠しているのはもったいない。地下はそこで商売する人ぐらいしか住んでいないけど、猫市やラサ市に住む猫耳族が観光をする場所になっているのだ。
ひとまずわしたちも軽く観光。大型エレベーターで地下に下りると、郷土料理の露店が出ていたのでわしたちも買い食い。ワンヂェンの根城だった建物や棚田、大きな溜め池ぐらいしか見るモノはないのですぐに終了だ。
ここへ来たらわしは必ず寄る場所があるので、ウロにも付き合ってもらう。
「こちらは誰のお墓ですか?」
「猫耳族の族長たちが眠るお墓にゃ。まぁここには猫耳族の戦士や奴隷被害者、知り合いも多く眠っているから、作法は悪いけど歩きながらの墓参りになっちゃうけどにゃ~」
「その気持ちだけで充分でしょう。私も祈りを捧げさせてもらっても?」
「是非ともにゃ~」
この墓場は広いので、6歳児にはキツいからわしのおんぶでくまなく回る。よっぽど関わりがあった者のお墓の前では数秒止まって顔を思い出し、最後には慰霊碑の前で、ウロに長めの祈りを捧げていただいた。
墓参りが終わったら、車で行くのは面倒なのでウロを背負って北東へ移動。あまりのことに変なことを言ってるよ。
「牛牛、人間、牛牛牛。人間、ウッシッシ……」
走るのが早すぎたから壊れたのかと思ったけど、大きな壁で囲まれた町の中はのどかな風景と牛しかいないので、ウロはこっちのほうが気になるっぽい。その笑いはツッコミ待ちか?
「ここは牛の楽園、ウシ市にゃ~」
「牛の楽園? 牛のためだけに、こんなに立派な外壁を建てたのですか?」
「昔は牛を労働力で使ってたんにゃけどにゃ~……」
猫市の初期は、大量の牛を手に入れたから農業従事者として働かせていたけど、わしがトラクターを作ってから出番が激減。このままではタダ飯食らいの肥料製造機に成り下がるので、猫市から東の危険地帯に移動してもらったのだ。
「牛ならば、食用として飼ってもいいのでは?」
「それがにゃ~……ここのボスはわしの部下でにゃ~。食べるために仲間を育てるのって、かわいそうにゃろ?」
「うっ……私もそんなことできません」
「ミルク製造と国の防衛ってことで、手を打ってるんにゃ」
昔は使い勝手がよかったけど、牛と喋ってしまったことが
「ミルクはわかりましたけど、国の防衛とは?」
「あっちのほうに行ったらわかるにゃ~」
とりあえず見たほうが早いと、町の東から出て黒い森に近付いたら、ウロも納得。
「大きいですね……あ、これが猫の町を襲った暴れ牛『シユウ』ですか」
「おお~。よく知ってるにゃ。他にも黒い牛がいるにゃろ? 猫の国、三番手の戦力にゃから、最前線の防衛を任せているってワケにゃ」
「なるほど。シラタマ王が手放さないわけです」
ウロが完全に納得したら、ウシ市の観光。といっても牛しか見る物がないので、猫軍が少数と酪農家が少数常駐していると説明してさっさと次へ。
続きましては、猫市を素通りした場所にあるラサ市。けっこうな速度で走ったけど、ウロは早くも慣れてるな。
「農地ばかりですね」
「ここは猫の国きっての農業都市にゃ~」
ラサ市は中に入るまでが遠い。360度見渡す限りの農地が広がっており、そこで人々がトラクターに乗ったりしながら働いている。
「中は猫市と代わり映えしませんね」
「そりゃそうにゃ。国民には同じ暮らしをしてもらいたいからにゃ。村もほぼ同じ生活水準にゃ~」
「それはまた素晴らしい。ですが……」
「見る物は少ないんだよにゃ~。あ、猫軍の総本部があるにゃよ?」
観光地としてはラサ市は弱々なので、猫軍基地にも御案内。訓練風景を見せてあげた。
「アメリヤ王国は銃を作っていたのに、まだ剣で戦っているのですか?」
「うち、重火器は持ち込みも使用も禁止なんにゃ。それに弱いから使い物にならないんにゃ」
「銃が弱い? ロケット弾なんかもですか??」
「うんにゃ。火薬を大量に使わないことには、5メートルクラスの黒い獣も殺せないんだよにゃ~」
「そういうことですか。獣に使えないならば、人間に使ってしまうのですね」
ウロが銃規制に納得したところで次へ。猫穴温泉市にやって来た。
「エベレスト、これほど近くで見たのは初めてです。けど、この名前は……」
「リータたちが勝手に付けたんにゃ~」
雄大なエベレストの
その時、第三世界ではUFOで近くまで来ていたから見えたのじゃないかと聞いたら、わしたちが
よけいなことを思い出したわしがウロからグチグチ言われていたら、町の一番奥にある大きなトンネルに到着した。
「これが東の国と繋がるトンネルですか……手作業で掘ったのですか?」
「手作業と魔法らしいにゃ。繋げるのに200年ぐらい掛かったらしいんにゃ」
「凄まじい執念ですね。繋がらないかもしれないのに……」
「それほど切羽詰まってたんにゃろ。調査したら、東に古い町跡がいっぱいあったんにゃ。だから黒い森に押し潰されるのは時間の問題だったのかもにゃ」
「そこにシラタマ王が降臨して、押し返したのですね」
「神様みたいに言わないでくれにゃい?」
とりあえずここでお昼になったので、足湯をしながらランチ。ウロにこの町に温泉と付いている理由を納得していただいたら、わしは背負って走り出すのであった。
「ここは猫市ぐらい活気がありますね」
「ソウ市は、猫の国きっての商人の町にゃ~」
次にやって来たのはソウ市。昔から人口が一番多く、お金持ちが多い町。
お城型の市役所兼キャットトレインの整備工場があり、どの町よりも歴史的な建造物があるのでウロも満足だ。現代の知識があるウロにはショボく見られるかもと思っていたから、喜んでくれてホッした。
これだけでもよかったが、ウロには秘匿の約束をして猫の国の秘密中枢にも御案内。大型エレベーターに乗って、地下空洞にやって来た。
「運送会社みたいな場所ですね。隠してるようなことを言ってましたけど、知られると何か不都合があるのですか?」
「ここは小説に出て来た白い森並みに魔力が漲っていてにゃ。先に説明した電池魔道具を置いておくと、1日ぐらいで補充されるんにゃ」
「ということは、電気が無限に産出される施設……」
「うんにゃ。言うなれば発電所だにゃ。猫の国と日ノ本ぐらいしかこんにゃ施設がないから、バレるわけにはいかないんにゃ」
「それは取り合いになってもおかしくないですね」
地下空洞の危険性と他にも何に魔力を補充しているかを説明していたら、別宅のほうから金属音が聞こえた。ウロも気になっていたので、仕方なしに案内してあげる。
「コリスさん?」
「うんにゃ。ここは猫クラン御用達の、秘密訓練場にゃ~」
「何かブンブン動き回っているように見えるのですが……」
「あぁ~……メイバイとか子供たちが走り回ってるにゃ」
残念ながら、6歳児の動体視力では猫クランの動きは捉え切れない。唯一動いてないように見えたコリスも、誰かと戦っているから両手が消えて見えるんだって。
「ま、あそこに入るには早すぎるにゃ。つぎ行こうにゃ~」
「はい。挽肉になる自信あります……」
猫クラン入りを要望していたウロであったが、異次元すぎる動きを見て悩み出したのであったとさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます