猫歴67年その1にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。普通の人間の命は短い。
アンジェリーヌの退位が近いと聞いてちょっとは協力してあげたい気持ちになったわしであったが、為替はチンプンカンプン。首相に相談して「胴元は儲かるから」と言ってみたら、超協力的になってくれた。
ただ、このじいさん首相はラサ市から選ばれた人族で、笑い方がちょっと不気味。あまり干渉したくなかったが、契約魔法を掛けて為替チームに圧力が掛からないようにしておく。年末に国政選挙があるから負けませんようにっと。
さらにアンジェリーヌも説得して、両国の為替チームにも契約魔法。為替をマネーゲームの温床にできないようなやり方はないかと模索する方向にしてみた。
少し資本主義に制限を掛けすぎているかもしれないが、国や富裕層の都合のいいように操作されては適わない。アンジェリーヌもわしの口八丁の怖い未来予測を信じてくれたから、なんとか賛同してくれたよ。
為替はどうなっていくかわからないが、そればっかりに時間を費やしていたらわしも賢くなってしまうのでダラダラお昼寝。
それがバレて狩り時々墓荒らし。じゃなかった。遺跡発掘。各地でボランティアをしたり久し振りに宇宙旅行なんてしていたらあっという間に時が過ぎて、猫歴67の春になった。
為替チームはまだ議論ばかりしているので放っておいて、わしは猫市の桜並木を見ながらブラブラ。一時期、猫市を歩くと市民が群がるブームはあったけど、わしがすぐに消えるから、長く見るためには近付きすぎてはダメだと学んだらしい。
出店でサクラモチを買って「どこで食べよっかな~?」と歩いていたら、後光を背負った猫耳少年が前から来たので、ちょっと気持ち悪い。その少年は尻尾をフリフリ笑顔でわしの下へ駆け寄って来た。
「シラタマ王。お久し振りで御座います」
名指しで挨拶をされても、わしはこんな男の子は知らない。
「すまないにゃ。他の子供たちからもよく挨拶をされるから、顔も名前も覚えてないんにゃ。前に何か喋ったのかにゃ?」
「そうでしたね。この姿で初めて会ったのですから、久し振りはおかしいですね」
「にゃ~?」
わしは知り合いが変身魔法で化けているのかと思い、カメラがどこかにあるのではないかとキョロキョロ探した。
「私です。私……令和天皇と言ったほうがいいでしょうか」
「令和天皇……あ、子供の姿に化けてドッキリ仕掛けてるにゃ?」
「こちらではまだ御存命でしたか。私は第三世界の令和天皇でございます」
「第…三……にゃ!?」
「はい。異世界転生しちゃいました。フフフフ」
わし、ビックリ。そりゃ第三世界の天皇陛下とは今生の別れをしたのに、猫耳少年になってこんなところにいたらドッキリ成功しますがな~。
「にゃんでまたこの世界に来たにゃ?」
「アマテラス様から、徳が高いから選り取り見取りと言われましてですね。本当は日本の行く末を見守ろうと思ったのですけど、先に逝った弟が自由に楽しめと言伝をアマテラス様に残していたので、お言葉に甘えることにした所存です」
「ほへ~。兄弟揃ってとは、さすがは天皇家にゃ~。平和を祈り続けた甲斐があったにゃ~」
「そんなことのために祈っていたワケではないのですけどね」
ここで立ち話をしていたら、いろんな人がジリジリ近付いて来ていたのでわしたちは場所を変えるのであった。
せっかく桜の季節だし、元天皇陛下を背負って町の外にある穴場まで超特急でやって来たら、レジャーシートを広げてお花見だ。
「町の中も綺麗に咲いていましたが、外にも桜が自生していたのですね。チベット原産ですか?」
「いんにゃ。これはわしたちが接ぎ木して増やしたんにゃ。町中だと、王族はゆっくりできないからにゃ~」
猫市の桜並木はキャットタワーや大通りの一角と、内壁を出た一角にある桜の密集地。全て日ノ本から貰った苗木を急速成長させて、接ぎ木して増やしたモノだ。
最初は桜の下で宴会をする文化はここになかったから、人々は目で見て楽しむだけだったけど、わしたち王族が酒を片手に騒いでいたら民もマネするようになり、この時期はどこも満員だから外に穴場を作ったというワケだ。
「自分たちと仰いましたけど、王族がこれを?」
「うんにゃ。日ノ本の職人から接ぎ木を習ってにゃ~」
「そういうことではなくて……」
「言いたいことはもうわかったから、その先は飲み込んでくれにゃ~」
わしだって馬鹿ではない。というか、散々植木職人とか言われてるからわざとボケただけ。その目は気になるけど、元天皇陛下は黙ってくださったので助かります。
「しかし猫耳族とはにゃ~……それを希望したにゃ?」
「はい。立って歩く獣を選ぼうかとも思ったのですが、小説にウサギ族の痴漢被害が載ってましたのでこちらにしました。耳や尻尾を動かす感覚は不思議で面白いですね」
「気に入ってるにゃら、わしも皆まで言わないにゃ~」
ひとまず一番気になっていたことを聞いたら、質問タイム。元天皇陛下の異世界転生したその後を聞いてみた。
生まれは猫市。名前はウロ、6歳。母親は猫耳族で父親は人族。父親が母親にゾッコンの、猫市では平均的な収入の普通の家庭らしい。
わしから一番近い場所を転生地にしたのはわかるが、もう少しお金持ちを選べなかったのかと聞いたら、本当はもっとお金持ちも選べたけど一般的な暮らしをしたかったから満足しているそうだ。
「にゃるほどにゃ~。自由のない暮らしをしていたら、憧れもあるだろうにゃ」
「はい。初めての自由を噛み締めて暮らしています。両親がラブラブなのは、少し見てられませんけどね」
「にゃはは。仲良きことはいいことにゃ。かわいがってもらってるんにゃろ?」
「はい。一人っ子なもので、それは多くいただいております」
どうやら両親はなかなか子供ができなかったから、ウロにもゾッコンだから少し迷惑に感じてるらしい。さらに1人で外に出してもらえないから、6年もわしに会いに来れなかったそうだ。
「ところで、元の世界ではいくつまで生きたにゃ?」
「110歳です」
「おお~。生きたにゃ~。わしより10も長生きにゃ~」
「生きたというより、生かされたというか……」
「にゃかにゃか死なせてもらえなかったんにゃ……」
「はい。高価な医療を様々受けて……天皇も引退しているのに国民に申し訳なく思います」
延命はわしもやりたくないとは思うが、天皇陛下には長生きしてもらいたいとも思うので、仕方がないと2人で納得する。
「まぁシラタマ王がまたやって来る前に死ねてよかったです。今生の別れをした手前、生きていたら恥ずかしいですからね」
「そりゃカッコつかないにゃ~。にゃははは」
「フフフ。本当に。今度はいつ参られるのですか?」
「えっと……こにゃいだ宇宙旅行しちゃったから、エネルギーが溜まってからかにゃ?」
「忘れていたのですね……」
その通り。10年は覚えていたけど、30年は長すぎてすっかり忘れてた。ウロは一時も忘れていなかったとブツブツ言ってるので、ここは話題をムリヤリ変えてやる。
「そういえば、いつもそんにゃ口調にゃの?」
「いえ。できるだけ子供に寄せてはいるのですけど、なかなか難しいですね」
「だよにゃ~。わしも苦労したにゃ~」
「あぁ~……森の話ですね。猫がリフォームしたり料理までしてたらやりすぎですよ」
猫王様シリ-ズの小説のエピソードゼロでは、わしの生まれた時からの失敗談が多く載っているのでウロも笑って読んでたんだって。
わしだってやりたくてやってないのに……ステルス機能搭載のエリザベスにバレたのが全ての元凶だから、わし、悪くない。
「そっちもやらかしてないにゃ~?」
「シラタマ王ほどでは……少し早く喋りすぎて天才と言われてるぐらいです」
「その少しとはにゃん歳? にゃあにゃあ??」
「えっと……」
思った通り、0歳からペラペラ喋ってしまったところを両親に見られてしまったから、ウロも口が重そうだ。
「それもこれもシラタマ王のせいですよ」
「にゃんで~?」
「ほら? 惑星探索です。テレビでやっていたので見ていたら、両親がチャンネルを変えるから、つい……」
「いや、わしのせいじゃなくにゃい??」
そりゃ元の世界でもやっていない惑星探索なんて流れていたなら、宇宙好きなら喉から手が出るほど見たいだろう。わしだって楽しすぎて行ってるもん。
「あ、そうにゃ。陛下にゃったら学力高いし、飛び級して大学に入らにゃい?」
「飛び級ですか……」
「うち、まだまだ人材不足でにゃ~。その力を貸してほしいんにゃ」
「嬉しいお誘いですが、小学生も体験したいのでお断りさせていただきたいのですが」
「あぁ~……普通の暮らしがしたいんだもんにゃ~。うんにゃ。忘れてくれにゃ。でも、相談に乗ってもらうことは可能かにゃ?」
「それぐらいでしたらいつでも。こちらもお願いしたいことがありますので」
王様の相談役には持って来いの人材なので、6歳児のお願いなんてなんでも聞いちゃう。
「まずは猫の国やこの世界の主要都市を見て回りたいですね。そして部族や黒い森を見て回り、宇宙旅行にも連れて行ってほしいです。あ、週末は王家にお邪魔して美味しいお肉なんかも食べたいですね。そして大人になってからでいいので、エルフになって猫パーティに加入したいです」
「にゃんでもとは言ったけど、多過ぎにゃい??」
中身がジジイなの忘れてた。ウロは遠慮が一切ないしまだまだ増えるので、聞いてるだけで日が暮れて来たから、お花見が台無しになるのであった。
ウロのお願いは時間も時間なので一旦保留。急いで家に送り届けたら両親に誘拐犯扱いされたけど、王様です! 両親に言ってなかったんか~い。
勝手に家を抜け出したクセにめちゃくちゃ笑うウロの説明でなんとか疑いは晴れたので、スカウト。「もしかしたら天才かもしれない」とボカシながら「週末に王家に遊びに来ないか」と言ってみたら、また誘拐犯扱い。
この日は疑われたまま別れて、週末にはウサギ運転手に操縦させた豪華なリムジンで迎えに行ってやった。
驚く両親と共にウロを積み込み、キャットタワーに御案内。空中庭園で超高級肉を振る舞ったら、緊張マックスの両親はそのままぶっ倒れた。旨すぎたのだろう。
まぁこれはわしの狙い通り。倒れた両親はメイドウサギ4人に運ばせて看病。またウサギさんが増えたな……
メイド担当のお春が亡くなってから王族居住区にウサギが増殖しているのは気になるけど、わしは大人組にウロのことを紹介する。
「天皇陛下の、おにゃ~り~~」
「またふざけて~。シラタマさんから聞いてますよ。お久し振りです」
「第三世界にようこそニャー」
「その節はお世話になりましたね」
ここからが本番。わしのボケはリータとメイバイに潰されて、ウロと握手。疑うことなく歓迎会が始まった。
ただし、まだ信じていない者はいる……ベティだ。
「マジで? マジで天皇陛下なの??」
「にゃんでわしが噓つかないといけないんにゃ~」
「だってシラタマ君だし……」
「わしを嘘つき扱いするにゃ~。ベティも挨拶して来たらすぐにわかるにゃ~」
「えぇ~。天皇陛下と喋るの緊張するぅぅ。後光差してるように見えるしぃぃ」
「いや、それってただのミーハーにゃのでは??」
どうやらベティは、明治大正、昭和世代のアイドル天皇陛下に緊張していただけ。クネクネして気持ち悪いわ。
「てか、ベティにも後光見えてるんだにゃ……」
「え? シラタマ君も? 私の見間違いじゃないの!?」
「どうなってるんにゃろ……アマテラスのサービスかにゃ?」
「魔法じゃない?
「まだ6歳にゃよ? さすがに無理じゃにゃい?」
謎が謎を呼ぶウロの後光。リータたちにも聞いたら見えていたのでさらに謎が深まり、わしとベティはずっとヒソヒソ言い合うのであったとさ。
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