猫歴60年その6にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。大怪獣ネコゴンなんて作りたいワケがない。


 銃の不法製造や密輸をしていたギャランテ一家のドンのトニーを捕まえてみたらわしのことをまったく恐れていなかったから、ちょっとしたお仕置き。

 巨大な恐竜でも作ってアメリヤ国民をビビらせてやろうと思ったのに、当時を知っているリータたちから「ネコゴンじゃないと怖がらないに決まってる!」と説得……

 いや、脅されて、高さ100メートルもあるわしそっくりの石像を作らされたの。


 ネコゴンを見たことのない猫クランメンバーは、全員大爆笑。ズーンッ。ズーーンッと地響き立てて歩いているのに、足にしがみついて登って行った。

 アメリヤ軍やギャランテ一家たちは尻餅ついて「あわあわ」言ってるので、このままではアメリヤ王国は大パニックになりそうだ。


 なので、シャーロット女王に電話。「猫王が面白い余興をしてるから生放送してくれ」とヘリコプターを飛ばしてもらった。けど、電話の先ではシャーロット、大絶叫。ネコゴン、デッカイもんね~。

 アメリヤ王国の高い壁からネコゴンの顔を見せたところでわしは謝罪して消そうとしたら、猫クランが襲い掛かって来た。まだ遊びたいらしい。


 仕方がないのでネコゴンは寝転ばせて、わしはトニー・ギャランテを担いでお城へ。シャーロットと面会したけど……


「ヒッ……ネコゴン!!」

「かわいいおじ様にゃ~」


 わしまで恐怖の対象。スリスリして、なんとか落ち着いていただいた。


「おじい様が言っていたことは事実だったのですね……」

「にゃ? 信じてなかったにゃ??」

「はい。写真も見せられましたけど、ジオラマか何かかと思ってました」

「シャロちゃんまでにゃ~? ま、だと思ったから、わしはこんにゃことができると見せてあげたんにゃ」

「おじい様が怯えていた理由、知りたくなかったですぅぅ」


 ネコゴンを見せたのは、なかなかの正解。これで王族は、いつまでもわしに頭が上がらないし、国民も怖くて銃の密売に手を出さないだろう。

 こうしてわしは、やり遂げた顔でアメリヤ王国を立ち去るのであっ……


「帰らないでくださいよ~。国民に説明してくださいよ~」

「にゃ……にゃはは」


 涙目のシャーロットに捕まって、一緒にテレビの生放送に出るわしであったとさ。



 大怪獣ネコゴンの件は、わしがアメリヤ国民を楽しませるためにやったことにして、「大きく作りすぎちゃった。てへ」とかわいく謝ってみたけど、テレビ局に苦情がめっちゃ来たらしい。だろうね。シャーロットからもしばかれました。

 それでもこれでパニックは収まったので、ネコゴンを消しに行ったら猫クランにはばまれた。まだ遊びたいんだとか。


 わしが「そろそろどうですか~?」とやっていたら、アメリヤ国民も町の外に出て来て、子供が「乗りたいよ~!」とか泣き出したので困ったモノだ。

 ここはネコゴンに登って遊んでいた猫クランメンバーに責任を取ってもらおう。手すり付きの階段を作って、頂上までの案内役になってもらった。


 わしはシャーロットと城に帰って、トニー・ギャランテの取り調べ。わしが知りたいのは銃の製造数と販売先だったので、それだけ聞いたら用済み。契約魔法の権限をシャーロットに貸し与えて、全ての罪を聞き出せるようにしてあげた。

 ギャランテ一家の件も片付いたので帰ろうとしたら、「ネコゴンはどうすんの? オオ??」とシャーロットに凄まれた。逆にどうしたらいいかと聞いたら「何かに使えそう」とのこと。とりあえずネコゴンを見に行ったら、大人気だな。


 猫クランからも消すことは大反対されて、アメリヤ国民からも大反対されたので、邪魔にならない砂浜まで移動したら、中に螺旋階段を作ってモニュメントに改造。


「わしの恐れていたことが……」

「自由の女神みたいでいいじゃないですか」

「自由の猫ニャー!」

「こいつの名前、大怪獣ネコゴンじゃにゃかったっけ?」


 こうして巨大なわしが片手を上げている石像が、アメリヤ王国の観光スポットになるのであった……


「自由の猫? 不自由の象徴の間違いでは?」

「わしもそう思いますにゃ~」


 シャーロットだけは、リータとメイバイの発言にツッコンでくれるのであったとさ。



 アメリヤ王国ではなんだかんだあったけど、銃規制は継続されたので上々。でも、猫の国に帰ったらネコチューブを見た記者やテレビ局が待ち構えていたので、「ちょっと遊んで来た」と言って逃げた。

 猫クランメンバーは、これはBAN対象じゃないと思って視聴回数稼ぎにやったらしい。よけいなことしやがって……


 ネコチューブの件は激怒したけど、こんなことしている場合ではない。今回の件のデータをフユにまとめるように言ったけど、自分でやれとのこと。

 わしはヒーヒー言いながらデータをまとめたら2日後に、猫の国国営放送の生放送に顔を出した。


「先ほど紹介に与ったシラタマにゃ。1週間前に、猫耳市で起こった悲しい出来事を説明させてもらうにゃ~」


 わしから語られるテロ事件の概要。首謀者や銃の写真を出して順を追って坦々と語る。


「これだけを見ると、テロリストが勝手にやったように見えるけど、事態はもっと複雑だったにゃ」


 次に、猫耳市のシンタン社長とソウ市のソウヒン貿易会社社長をさらけ出し、金銭目的の利害の一致から銃の密輸をやって、猫耳テロリストに武器を与えてしまったと説明する。


「それをそそのかしたのが、こいつにゃ」


 最後にトニー・ギャランテの顔や工場の写真、アメリヤ王国のシャーロット女王の証言も出して、猫耳テロリストの話に戻る。


「こんにゃことをしようとしてたんにゃから、帝国人の末裔は猫耳族が怖く感じる者もいると思うにゃ。でも、ソウ市を襲おうとしたのは極一部の過激派だってことは忘れないでくれにゃ。

 それに、傷付いたのは猫耳族にゃ。手を貸した者の中にはソウ市の商人もいたにゃ。一概に猫耳族だけが悪いんじゃないってことは理解してくれにゃ。お願いしにゃす」


 わしは一度頭を下げたら続きを喋る。


「正直、この事件での量刑をわしは悩んでいるにゃ。テロリストの目的は一切果たされず、その後ろには金儲けをたくらんだ3人が歪に絡み合っていたんだからにゃ。もちろん、過去に酷い仕打ちをされていた猫耳族に同情してるってのも、わしが悩んでいる理由のひとつにゃ」


 帝国人の末裔からしたら、わしがとんでもないことを言っているように聞こえただろう。


「だから、量刑は、各市にいる裁判長と議員に話し合ってもらい、全てを委ねるにゃ。君たちが選んだ議員もメンバーも入ってるんにゃから、公平にゃ量刑になるとわしは信じているにゃ。わしだと、テロリストをにゃにもない荒野に置き去りにするしか思い付かないしにゃ~」


 この発言の前半は、カメラマンはウンウン頷いていたけど、後半の発言には「そっちのほうが厳しくない?」って顔に書いてた。


「最後に……もしも同じようにゃ事件が起きたら、わしが必ず止めてみせるにゃ。だから、同じようにゃことをやろうとしても無意味にゃ。だから、国民のみにゃさんは安心して暮らしてくれにゃ。わしがいる限り、猫の国は永遠に平和にゃ~」


 わしが両手を広げて宣言すると、スタジオ内は拍手の音で包まれた。それほどわしの言葉は心に響いたのだろうが、ここまで上手くキマッたことのないわしは、照れくさそうにスタジオを出たのであった。



 それから数日後には、シラツユが作ってくれたオンラインシステム「ニャーム」で、議員と裁判長によるオンライン会議が始まる。

 その内容は「ネコチューブ」でライブと録画が流れ、国民からも「ネコイッター」に意見が寄せられているけど、わしはながら見。てか、また猫の付いたシステムが増えたな……なんじゃこの猫が痛がってそうな名前は……


 ほとんど寝ていたので妻たちにツッコまれたから、アメリカ大陸に逃げて来た。


「みんにゃ死にかけてるにゃ……」


 たった10日、テロリストを放置しただけでボロボロ。刑の執行まで持ちそうにないので、今日だけはパンとスープを支給。

 元気になったらリュウホを呼び出して話を聞いてみる。


「今までにゃにをしてたにゃ?」

「それが……ハンターの連中、全然獣を狩って来ねぇんだ。だから問い詰めてみたら、ハンター証を見せびらかして、弱者からカツアゲするようなヤツらだったんだ」

「エセハンターだったんにゃ……ま、まぁ、それでもにゃよ。猫耳族はそれにゃりに身体能力は高いはずにゃ。獣の1匹や2匹、狩れないわけないにゃろ? 魚だってとれたはずにゃ」

「獲物を追い回したけど、収穫ゼロだった……」

「おお~い。今までにゃにを学んで来たんにゃ~~~」


 猫の国では各種教育に力を入れて来たつもりだけど、テロリストたちは落ちこぼれ揃い。特に若者は座学を選択する生徒が増えていたので、自分1人で生き抜く力が薄れていたらしい……



「え~……君たちは、アホで馬鹿でどうしようもにゃいから、刑が確定するまで持ちそうにないにゃ。だからちょっとだけレクチャーしてやるにゃ~。助言は今回限りにゃから、死ぬ気で聞かないと、わしは知らないからにゃ~」


 わしの罰は思ったより重すぎたので、狩りのやり方をレクチャー。人数が多いんだから追い込み猟を試してみたら、何匹か逃がしやがった。

 川魚でも同じようにやらせて、解体の仕方を教えてあげているのに、汚い物でも見るような顔。これをいつもハンターギルドの職員や料理人がやっておるんじゃ。


 下手なりに全ての下処理が終われば、塩を振って焼くだけ。それでもここ数日、新鮮な物を食べていなかったテロリストたちは涙。これらは隠し撮りしておいたので、ネコチューブに流してやる。


 翌日からは、わしは見るだけ。そんなことをしていたら猫ファミリーも気になったのか、暇な人がゾロゾロついて来た。


「懐かしい風景ですね~」

「うんニャー。懐かしいニャー」

「にゃ~?」


 リータとメイバイは薄汚れたテロリストを見て何故か懐かしそうにしているので、意味がわからない。


「ほら? 猫市の始まりは、みんなこんな感じだったじゃないですか」

「雨風凌ぐ建物、食べ物はお肉しかなかったニャー」


 わしも周りを見てみると、テロリストたちはキャットトレインを家の代わりにし、肉を焼いたりしている姿が目に入った。


「あぁ~……そう言われると、懐かしい感じがするにゃ~。ジャガイモでも植えてみるにゃ?」

「いいですね!」

「農作業は久し振りニャー!」


 60年振りに、あの貧乏生活をやってみる猫ファミリー。狩りに行く者には弱い獣を頼み、その他はわしと一緒に農作業。これはリュウホたちを呼んでレクチャー。

 この日は猫ファミリーも猫耳テロリストもドロドロになって、農作業に勤しむのであった。


 ちなみに農作業を誰かがネコチューブにアップしたら何故かバズり、同じ頃にアップした猫耳テロリストが狩りとかする動画には、哀れみの声が多く寄せられてたよ。


 こんな所に取り残されたら、誰も生き残る自信がないんだとか……

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