猫歴29年その4にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。何度も言うが、王様であって医者ではない。


 生体肝移植は勉強になったのだが、レントゲン魔法を見せてからは、ここに揃った医者とナースがわしのことを大先生とか言うので聞いてられない。移植したのはお前たちじゃろうが……

 そんなこともあったのでワンヂェンと一緒に逃亡しようとしたけど、2人ともララに尻尾を掴まれて逃げられなかった。


「もう一件だけ! もう一件だけ付き合って!!」


 理由は、わしに治してほしい患者がいるから。ララは生体肝移植を教えてあげたとか痛いところを突いて来るので、渋々付き合うことになった。


「にゃんでわしまでMRIに入ってるんにゃ~」


 場所を移動して、わしは目を開ける素振りのない痩せた女性と一緒にMRI装置の中に押し込まれたのだから、なんだか死人と棺桶に入れられた気分になってしまう。


「その患者さん、植物状態なの。前みたいに治せないか試してほしいのよ」

「んで、その写真を撮りたいと……」

「そうよ。これで脳のどの部分が破壊されたかが精密にわかるかもしれないの。だからお願い!」

「だったら先に言えにゃ~」


 ララが必死にお願いしてくれたら、多少文句は言っても協力したのに、このやり方は酷くね? とりあえずやらないことにはここから出してもらえないので、患者の頭からできるだけ離れてわしは回復魔法を使うのであった。



「何このモンスター!? ギャアアァァーーー!!」

「かわいい猫にゃ~。治してあげたんにゃから、暴れるにゃ~」


 植物状態の女性、復活。目を開けた瞬間、わしに驚いてめちゃくちゃ暴れ出した。なんとか落ち着かせようとしてみたが、めっちゃ引っ掛かれた。ララたちもMRI画像を見ていて助けてくれない。

 なので大声で「MRI装置を破壊するぞ」と怒鳴り続けたら、焦った技師さんが助け出してくれた。でも、女性は技師に抱き付いて感謝していたので、どう見てもわしが加害者にしか見えなかった。


 そんな感じで尻尾を垂らしてララたちの元へ行ったら、わしは愚痴。


「酷い目にあったにゃ~。それで、にゃんかわかりそうにゃ??」


 いや、結果は気になるので質問してみた。


「ちょっとこれは時間が掛かりそう……でも、変化はあるわよ」

「おお~。苦労して治した甲斐があったにゃ~」

「え……治ったの??」

「にゃに見てたんにゃ~~~」


 患者は暴れまくっていたのに、ララたちはMRI画像に釘付けだったので気付いていなかったっぽい。ワンヂェンも脳の説明を夢中で聞いてやがった。歩く患者を見て、全員いまさら驚いてやがる。


「でも、二度も奇跡を起こせたんだから、治せる病気だとはわかったわ。ありがとう」

「もういいにゃ。うちも脳死や植物状態の患者の対応は決まったからにゃ」

「魔法、いいな~。それさえあれば、もっと助けられるのに」

「それはこっちのセリフにゃ~。医学の蓄積がまったくないんだからにゃ~」


 2人で無い物ねだりをしていても時間は過ぎて行くので、そろそろわしもお暇する。


「あ、そうにゃ。ひとつ頼まれてくれないかにゃ?」

「ええ。これだけしてもらったんだから、いくらでも返すわよ」

「じゃあお言葉に甘えて……オニヒメの精密検査をやってくんにゃい?」

「あ~……心配だもんね。わかったわ。連れて来なさい。極秘でやってあげるわ」

「それは助かるにゃ~」


 ララもオニヒメが死にかけたことは知っていたみたいなので、二つ返事で了承してくれた。ただ、あの顔はオニヒメというか鬼の検査がしたいのかも? わしもやるかと聞かれたから、間違いなさそうだ。

 それは断って、わしとワンヂェンはリータたちの待つホテルに転移して、すぐに眠りに落ちるのであった……



 平行世界2日目は、お買い物。ついて来たい人だけ集めたら、ニ度目の人はほとんどホテルで遊ぶとのこと。できるだけインターネットをしたいそうだ。コリスとリリスはエサ目当てでわしから離れない。

 大勢の黒服に囲まれてやって来たのは、大型家電ショップ。今回も爆買いしてやるつもりだ。まずは子供たちのために、オモチャ売り場からだ。


「てか、きんも売ってないのに、支払いどうすんの?」

「フッフ~ン♪ これにゃ~」

「それって……ブラックカード!?」


 わしが懐から取り出した黒いカードにベティはビックリ。わしが持っているはずがないというのも驚きの理由だけど、これさえあれば戦車でも買えると聞いたことがあるから驚いているのだろう。


「なんであんたがそんなの持ってるのよ?」

「にゃんか、天皇陛下が作ってくれてたんにゃ~。リータとメイバイの分もあるんにゃよ~?」

「私のは!?」

「あるわけないにゃろ~」


 ベティが噛み付いて来たからちょっと説明。このブラックカードのお金がどこから出ているかというと、わしの銀行口座。

 何故そんな物まであるかというと、天皇家に譲った猫王様シリーズの小説が売れすぎたから。各国の言語に翻訳した書籍や電子書籍を世界中で販売したら、全シリーズ合わせて一兆冊も売れたんだって。


 なので、著作権料が半端なく振り込まれたから、天皇陛下もこれは貰いすぎと考えて、わしが来た時に使えるように手配してくれていたのだ。3枚も作ってくれたのは、別行動してもいいようにと至れり尽くせりだ。

 カードを作るだけではお金が減らないので、わしが欲しがりそうですぐには手に入らない物を買って倉庫に保管しておいてくれたので、天皇陛下様様だ。億単位の物なんて、わしだとビビッて絶対に買えなかったと思うし……

 ちなみにわしの第三世界の住所は、東京都千代田区千代田一番一号。皇居だ……おそれ多い!!


 そのことを羨ましくするベティと、ノルンと家康を連れてお買い物。その他はオモチャ売り場のちびっ子コーナーで買い与えたオモチャで遊んでる。

 ベティがついて来たのは、調理器具が欲しいから。めっちゃスリ寄って来るから、女を使ってわしに買わそうとしてるっぽい。買うからまな板押し付けるな。

 家康は、わしに質問がしたいがためにストーカー状態。でも、わしも忙しい身なので、ノルン任せ。たまに噓つかれているのか、確認しにやって来る。


 今回も全商品を2個ずつ発注したら、スマホ、パソコン、ハードディスク、テレビ、記録媒体、その他周辺機器も追加発注。ベティが欲しがった調理家電や家康が欲しがった茶釜なんかは即購入。

 オモチャ売り場に戻ったら、この14年間に発売されたゲームを2個ずつ発注する。FF21って……すげっ。


 大型家電ショップでの買い物を終えると、本屋やCDショップも回る。前に買ったマンガや小説、映画の続編が気になるからな。

 皆が欲しがった物はニコニコブラックカード払い。でも、わしの記憶が正しければ、このコンビニアイスって百円ぐらいだったはずなんじゃけど……ぼったくられてる?


 ちょっと気になることはあったので、帰ってからコンシェルジュに聞いたところ、日本ではめっちゃインフレしてるんだって。

 その物価の上がり具合は、2倍。そんなの生きていけないと言ったら、給料は3倍に上がっているから、これでも安く感じるそうだ。


 なんだったら税金も安くなっているので、手元に残るお金は……あんまりないの? つい使ってしまうんだ。老後の不安とかは~……ないんじゃ~。


 コンシェルジュが楽観的とかではなく、年金も現役世代ぐらい貰える制度になっているから、そこまで貯め込む人はいないらしい。

 と、コンシェルジュ談。ネットで調べたら、1人あたりの貯蓄額はけっこうありました。

 ちなみに教育や福祉といった給料が上げづらい職業の場合は、政府が労働に見合った額を直接マイナンバーカードに振り込んでいるとのこと。事業者に補助金を中抜きされないようにしてるんだって。



 その深夜は、わしは寝ずにオニヒメとお出掛け。アメリカに転移して、ララの家でピンポン。家に来るなとか電話しろとか怒られてから、2人とも背負って病院の屋上で下ろす。


「「モフモフ~」」

「いや、早く下りろにゃ~」


 猫型・大だったので、2人はしばらくわしを全身でモフモフしてから中へ。VIPの病室で、できる検査からララがやってくれる。今日は休みだと言うのに有り難いこって。

 わしはと言うと、ベッドで寝ているオニヒメの隣でぐ~すか。だって眠いんじゃもん。オニヒメも寝てるもん。


 そうして何時間経ったかわからない頃に、わしは顔に濡れタオルをかけられて目覚めた。叩いても何しても起きなかったからって、それは酷くない?

 ひとまず検査の結果を聞いてみたけど、時間が掛かるらしいのでララの予想だけ聞いておく。


「いまのところ、老化としか言えないわね……」

「それはわかってるんだけどにゃ~」


 現在のオニヒメの姿は、子供のままシワやたるみが出て来ているから背の低いオバサンみたいなので、わしにだってわかる。


「まぁあなたが帰る前には結果が出るように急がせるから、その時まで待ってて」

「うんにゃ。できれば治療法もお願いにゃ~」

「それは期待しないでよ~」


 老化では治療の仕様がないが、わしは無茶振り。とりあえずララはアンチエイシングの論文を集めてくれるらしいので、それに期待しながらわしたちは日本に帰るのであった。



 平行世界3日目は、某・夢の国で遊び倒す。ただし、わしは寝不足なので皆が乗り物に乗っている間はベンチにて爆睡。マスコットや野次馬に囲まれて写真を撮られていたっぽい。

 ちなみにリータたちは、前回時間が足りなくなった海のエリアから回り、楽しかった乗り物を中心に乗ったとのこと。その乗り物を降りたらわしを回収して次へ。

 今回もお客さんが譲ってくれたから、多くの乗り物に乗れたと電気パレードを見ながら教えてくれた。わしはあまり記憶にない。


 その深夜は、またアメリカに行ってオークションの確認。火星グッズはとんでもない高値がついていたので、目が飛び出した。わしの口座に振り込みを頼んでその場をあとにしたけど、膝が震えていたのはバレなかったかな?



 平行世界4日目は、世界中の記者による質疑応答。誰かついて来たい人はいるかと聞いたら、玉藻とノルンしか手を上げてくれなかった。

 残りはホテルで引きこもろうとしていたので、初めての人も多いんだからと、リータに東京観光に連れ出してもらう。ブラックカードもあるし、皇室公報部隊がバスを出してくれるから、なんとかなるはずだ。


 そうしてわしたちがやって来たのは、神宮球場。満員御礼のなか着席したら、質疑応答の始まりだ。


「「「「「うちのペットと喋ってください!!」」」」」

「そんにゃことに時間を使うにゃ~~~!!」


 猫や犬を抱いている人が多いな~と思ったら、前回わしが猫と喋れると知った記者が連れて来たっぽい。

 このままではペットの鳴き声が酷いので、抽選で5人だけペットの通訳をしてあげると言って、ジャンケン大会が始まるのであったとさ。

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