猫歴27年にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。ソファーでもベッドでもクッションでもない。


 わしの元のサイズがデカくなっていると知られたからには、リータたちがモフりまくり。寝る時には猫型・大を強要されて、わしとコリスの間で暑そうにする毎日。

 皆は興奮しているけど、これはモフモフ好きならいつもの反応だからちょっと怖い程度で済んでいるが、1人だけ違う目をしている女子がいるから超怖い。


「ホロッホロッホロッホロッ。ジュルッ」


 コリスだ。なんだか毎晩わしにのしかかり、舌なめずりするどころかヨダレまで垂らしているのだ。


「わしのこと食べたいにゃ?」

「ジュルッ。ホロッホロッホロッホロッ」

「その反応は、にゃに~~~!?」


 これでは怖すぎて寝てられないので、リータたちを起こして家族会議。朝起きた時にコリスのお腹の中にいたら嫌なんじゃもん。


「にゃんかコリスが興奮してるんにゃけど、どうしたんにゃろ?」

「コリスちゃ~ん?」

「お話しようニャー?」

「ホロッホロッホロッホロッ」


 リータとメイバイが優しく話し掛けても、コリスはわしをロックオンしたまま喋ろうとしない。目もハートだ。


「これって……アレじゃないですか?」

「アレ? あ~……かもしれないニャー」

「アレってにゃに??」


 2人はモジモジしながら発表する。


「「発情期……」」

「にゃ……」

「ホロッホロッホロッホロッ。ジュルッ」


 そう。わしがコリスと同サイズになったことで、コリスが盛っちゃったのだ。でも、わしの貞操が奪われそうなのに、2人の顔がなんか妖しい。


「にゃにその顔……もしかして、わしにヤレとか言わないだろうにゃ?」

「責任取るしかありませんね」

「シラタマ殿のせいニャー」

「にゃんで~~~!?」


 そして、わしのお尻をグイグイ押して来やがる。たぶん、わしとコリスの子供が見たいのだろう。コリスもなんかお尻を向けてフリフリしてる。


「ちょ、ちょっと待つにゃ! わし、ヤリ方わからないにゃ~!!」

「何をいまさら言ってるんですか」

「何人妻がいると思ってるニャー」

「獣とは初めてなんにゃ~~~!!」

「「にゃんとかなるにゃ~~~」」


 というわけで、長い人生というか猫生で、初めての経験をしたわしであった……



「なんかあの猫、放心状態になってるけど、昨夜なんかあったの??」

「ヨダレまで垂れてるんだよ~」


 翌日わしが食堂にも現れずに離れの縁側で口を開けたままボーっとしていたら、ベティとノルンがリータたちに質問している姿があった。そして話を聞いたベティたちは、ニヤニヤしながらわしの隣に座って肩を叩く。


「よっ。男になったって? いや、獣かな?」

「うっにゃ~~~!!」

「「キャハハハ」」


 ベティにからかわれたわしが顔を両手で押さえて倒れたら、ベティはノルンと一緒に大笑い。さらに2人でわしの周りをグルグル回っておちょくるので、立つこともできない。

 そんな乙女みたいな反応をわしがしていたら、リータとメイバイも同情してくれたのか、ベティとノルンの首根っこを掴んで屋上から投げ捨ててくれた。

 ちなみにベティはエルフにクラスチェンジして長く経っているから、11階の屋上から落ちてもかすり傷程度で済むと思う。ノルンは羽があるからもう戻って来てる。



「もう、人として生きていけないにゃ~」


 静かになったらリータとメイバイが近付いて来たので、わしは涙目で顔を上げた。


「元々猫ですよ」

「何も間違ったことしてないニャー」


 でも、普通のことだって。確かに猫だけど~~~!!


「それより、コリスちゃんの立場をどうしますか?」

「立場にゃ?」

「このまま子供ができたら、王妃じゃ説明できないニャー」

「まだ考えたくないにゃ~」


 リータとメイバイの言い分はもっともだが、コリスとの間に子供ができるなんて信じられない。もしかしたら種族の壁に邪魔されて、一生子供は生まれない可能性もある。

 それなら、このことは無かったことにできるかも?


「ふつう動物って、同族間、もしくは近い種族としか子をすことができないんにゃけど……」

「シラタマさんなら大丈夫ですよ」

「人間とだって子供ができたニャー」

「にゃ……」


 無かったことにはできないっぽい。だって、わしは奇妙な生物を量産してるもん。こうなってはわしも逃げられない。


「側室かにゃ~?」

「う~ん……王妃がいいんじゃないですか?」

「にゃんで~?」

「たぶんというか絶対、シラタマさんと一番長く一緒にいるのはコリスちゃんですよ」

「そうニャー。私たちがいなくなったあとに繰り上げるより、先にやっておいたほうがいいニャー」

「そんにゃ悲しい話、やめてくれにゃ~」


 これも考えたくないこと。2人がいなくなるなんてまだ考えたくないので、わしは泣きそうだ。


「まだまだ先なんですからいいじゃないですか」

「たぶん、そのうちこの話は忘れているニャー」

「そうにゃけど~」


 でも、2人はまったく感傷的にならず。死ぬなんて200年以上も先の話なんだから、想像もできないのだろう。


「じゃあ、第四妃でいいですね?」

「第四妃で決定ニャー!」

「にゃ~~~」


 わしが泣いていては話にならないので、2人は勝手に決定して結婚式も行い、対外的にもコリスは王女から王妃に鞍替えしたのであった……



「猫王様、子供に手を出したんだって」


 ただし、そんな発表したせいで、わしが近親相姦したとおばちゃんたちからコソコソ言われ……


「コリス様、125歳だって。凄い年の差婚ね~。イサベレ様といい、年下の男なんてうらやましいわ~」

「ホントよね~」


 たけど、年齢や養子にした詳しい説明を新聞に載せたので、わしがお婆ちゃんと結婚したような噂話に変わるのであったとさ。



 と、そんな激動の猫歴26年も過ぎ、猫歴27年にもなると家族が増えた。


 まずはイサベレとの子供。また猫耳女の子が産まれて来たので、やはりどっちが主導権を握るかで猫か人間かの違いが出るのかも? 次はわしが頑張って、白猫を産み分けられるかやるみたい。この案は、わしの案ではないぞ?


 次はお春とつゆ。どちらも前回と同じく黒い赤ちゃんで性別が逆になっただけ。キツネ尻尾とタヌキ尻尾の猫らしき生き物が産まれて来たから、おそらく先に産まれた子供と同じような姿になるはずだ。

 ちなみにつゆは高齢出産となってしまったが、母子共に無事だ。なんかもう機械を作ってる。


 最後はコリス。お腹がとんでもなく膨らんでいたからいっぱい産まれて来たらどうしようとか考えていたけど、レントゲン魔法を使ったら1人だったのでホッとした。

 皆がご懐妊を祝してイロイロ与えるから、たんなる食べ過ぎだったみたい。出産前は狩りにも行ってなかったから、運動不足だ。


 そして産まれて来てくれた子供は、白い猫かリスかわからない50センチほどの赤ちゃん。顔はコリス似で耳は猫。尻尾はリスそのもので背中には縦縞があるから、ややコリスの血が多く出ていると思う。

 ただし、指や関節を調べたところ、完璧な四足歩行の生き物。ちょっとショックに思ったけど、わしとコリスの子供なら当たり前。どっちも獣じゃもん。


 子供を産んだお母さんたちの体調はいつも通り悪いので、魔力濃度の高いソウの地下で1ヶ月の静養を取らねばならない。

 しかし、コリスだけは元気いっぱい。白い獣と人間との差があるのだろう。獣だと母親が死にかけたままでは子育てができないからな。

 ただ、わしの母親の場合は3匹も産んで弱体化していたらしいから、体は動くけど生命力じたいは弱っているのかもしれない。だけどコリスに聞いてもまったく何も変わっていないと言うので、これが強者の無理のない出産方法だと結論付けた。


 そのコリスは、妊娠直後に発情期は終わったから助かった。毎日何時間も大変だったんじゃよ? 他の妻も襲って来るし……

 その話は置いておいて、コリスは赤ちゃんの世話も頑張り、モリモリ食べてる。出産の影響ですぐお腹が減るって言うんじゃもん。でも、日に日に太っているように見える。

 なので、ここはリータたちにも協力してもらって、コリスのダイエット。わしもコリスのじゃれ合いという本気の攻撃を捌いて、元の体型と体力に戻るように付き合う。


 それと平行で、赤ちゃんのお世話。イサベレたちの子供は慣れたモノなのだが、コリスの子供はどうしていいかわからない。ペットみたいにゲージに入れたらいいのかどうか……


「おなかすいた~」

「もう喋ったにゃ!?」


 と、驚いたけど、これは念話。よくよく思い出してみたら、わしも生まれてすぐに母親たちと喋っていたから、ここにも獣と人間の差が出たみたいだ。

 なので、めっちゃ楽。ミルクもトイレも教えてくれるから、泣くことも少ない。せいぜい夜中にお漏らしした時に夜泣きするぐらいだ。もう歩いてるし……


 このこともあって、他の赤ちゃんにも念話を使ってみたけど、どうもよくわからない。単語から知らないから教えてみたけど、寝て起きたら忘れてしまう。今回こそは、初めにパパと喋ってほしいのに~~~!



 そんなこんなで皆1ヶ月の静養が明けて、コリスもお腹が引っ込んだらキャットタワーに帰ると、さっちゃんが出産祝いとか言ってプレゼントを持って訪ねて来た。


「わ~。これがコリスちゃんとの子供? かわいいね~」


 さっちゃんの好みは、得体の知れないモフモフ。膝に乗せてずっと優しく撫でてる。


「いちおう言っておくけど、ペットじゃないからにゃ?」

「わかってるよ~」


 この話は外せないので注意したけど、撫で方はどう見ても猫。わかってないな、あの顔は……


「それで性別はわかったの? 名前は??」

「まぁ……女の子だったにゃ。リリスって名付けたにゃ」


 性別の判断はちょっと娘には悪いけど、性器を見ないことにはわからなかったので、わしもガン見してしまった。ゴメン。いまのうちに謝っとく。


「へ~。いい名前。アレでしょ? キルスト教のアダムのお嫁さんから取ったのね」

「よくわかったにゃ~。ちょっと悪いいわれはあるけど、さっちゃんが名付けたコリスの『リス』を残したんにゃ」

「あっ! そんなこともあったね~。懐かしい」


 コリスの名前には、さっちゃんが関わっていたのだから嬉しそう。昔話も弾んでしまう。それと、あの話。


「エティはサクラちゃんと付き合い出したんだ……」

「そうにゃの……うちのサクラが~~~!!」

「シラタマちゃんが反対したら、私が反対できないじゃない! 私もサクラちゃんと暮らしたいのに~~~!!」


 残念なことに、サクラとエティエンヌはいい感じになってしまったので、わしは悲しい。さっちゃんもエティエンヌというかサクラが猫の国に残るのは悲しいみたいだけど、こうなっては仕方がない。2人の婚約が成立した。

 だが、東の国では次期女王が出産するまでは、その他の王女や王子の結婚はできない慣習があるらしいから、先送り。わしとしては、その間に破局することを望む。



「それで~……」


 そうしてわしがくだを巻いていたらたら、さっちゃんはゲージに入ったモフモフわしのこどもたちを見ながら舌なめずりしてモジモジし出した。


「どの子もやらんからにゃ?」

「わかってるよ~。シラタマちゃんって、おっきくなったんでしょ??」

「誰から聞いたにゃ!?」


 子供を催促すると思って釘を刺したのに、さっちゃんの目的はわしの体。新スパイ、エティエンヌから聞いてたんだって……


「あのアニメの名シーンやってよ~。となりのシラタマちゃ~ん」

「そこまで大きくないにゃ~~~」


 さっちゃんはワガママどころかヤバイことを口走るので、わしは元の姿に戻ってお腹に乗せてあげるのであったとさ。

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