猫歴11年その後にゃ~


 一時混乱の生じたソウ市であったが、わしの大岡裁きで通常運転に戻り、ソウ市長のヒショウも市民の為に大いに働いてくれている。


 そんななか真ソウジャーナルはというと、週刊紙としてリニューアル。記事の内容は、主に市長の見張りと国の見張り。といっても、こんな本では絶対に売れないので、わしが抜本改革してやった。


 まずは運転資金。ソウ市は猫の国きっての商業都市ということもあり商店が多くあるので、チラシを使った広告収入を得る方法を伝授してやった。

 もちろん、真ソウジャーナルがまったく売れないのでは商店がお金を出してくれるわけもないので、内容もちょっとイジル。


 猫の国にはキラーコンテンツがひとつあるのだから、これを使わない手はない。そう、猫王様の旅行小説だ。


 未公開となっている旅日記も数多くあるので、これをゴーストライターに見開き1ページ程度にまとめてもらえば、そこそこ読み応えのある内容となる。

 この原稿を商人に読ませて、真ソウジャーナルの予想購買数を教え、その一割から二割が新規顧客に成り得ると教える。さらには、多く仕入れてしまった物を安売りと称して売れば、在庫処分になるとそそのかしてやった。

 これで乗って来るかと思ったが、初めてのことで慎重になっていたので、初回に限り大盤振る舞い。タダにしたらダメ元で広告を出してくれた。


 その結果、真ソウジャーナルは初日に完売。翌日には広告を出した商店も大繁盛。この波に乗った商人と出版社は、わしと一緒に悪い顔で「にゃしゃしゃしゃ」と笑うのであった。



 真ソウジャーナルは出資者が急増したので、その他の町でも販売に漕ぎ着け、さらに出資者が増えているから、もうわしの手伝いはいらない。

 わしのポケットマネーもストップしたので、完全に民間紙へと移行できたと思う。まぁナメたマネをしたら小説を止めるとも言っているから、しばらくはわしを非難する記事は出て来ないだろう。


 いちおう社長のウロには、猫王様シリーズ以外にも稼げる物を考えておくように言っておいたので、早く見付かることを望む。

 もしくは、民が情報の面白さに気付いて、進んで購入してくれたら一番いいことなのだが、もう少し先になるだろう。


 そんなこんなでここ2ヶ月は真ソウジャーナルに掛かりっきりになっていたので、ソウの商人からわしは「王様じゃなくて週刊紙の営業マンじゃね?」とかコソコソ言われたのであったとさ。



「お疲れ」

「ゴロゴロ~?」


 ようやく一息つけるとキャットタワーでゴロゴロしていたら、べティがやって来てわしを撫でた。


「広告なんて、ちょっとやりすぎたんしゃない?」

「まぁにゃ~。でも、そうでもしないと週刊紙にゃんて作れないからにゃ~」

「確かにそうだけど、王様みずから政府批判する物を作るのも、どうかしてるけどね」

「にゃはは。わしはにゃにをやってるんだろうにゃ~。にゃははは」

「きゃはは。シラタマ君は、ホント見てて飽きないわ。きゃははは」


 しばし二人で笑いながら真ソウジャーナルがどうなって行くのかと語り合っていたら、急にべティが真面目な顔に変わった。


「ところで……」

「にゃ~?」

「エミリはどうするつもりなの?」

「あ~……」


 いまさらだけどエミリが愛人になったことを思い出したので、わしは正座して頭を下げる。


「お義母さん……娘さんをくださいにゃ~」

「猫なんかにやるわけないでしょ! お義母さんとか呼ぶな!!」

「べティが裏でコソコソするから、こんにゃことになってるんにゃろ~」


 いちおうケジメを付けるために頭を下げたのに、べティは喧嘩腰。いらないと言っても怒るだけ。どちらにしても怒るので、わしは代案を出す。


「愛人ってのも聞こえが悪いし、側室に迎えるってのはどうにゃろ?」

「たいして変わらないわよ」

「あと、身内だけで結婚式みたいにゃのもやろうかにゃ? エミリの文金高島田、見たくにゃ~い??」

「エミリにはウェディングドレス着せてよ!」

「わかったから怒るにゃよ~」


 くして、わしはしばらくダラダラしようと思っていたのに、また忙しくなるのであったとさ。



「猫さんどうですか?」

「私も綺麗ですか?」

「うんにゃ。二人とも綺麗にゃ~」


 今日はエミリとお春の輿入れの日。知り合いに作ってもらったウェディングドレスを着た二人は嬉しそうに質問して来たので、わしは本心から褒める。


「着物もよかったですけど、これもいいですね~」

「フリフリでかわいいニャー!」

「だにゃ。わしたちの結婚式も、もう少し時間があったらいろいろ用意してあげたのににゃ~」


 何故かリータとメイバイもデザイン違いのウェディングドレスを着ているので、こちらにもヨイショ。二人の結婚式は、わしがほとんど嵌められたような物だから、ちゃんとした衣装に袖を通したのは初めて見たからまぁいっか。

 リータたちも一通り褒めて写真を撮ったら、日を改めて式をしようと言って脱いでもらう。主役は二人じゃないんじゃもん。



 今日はエミリとお春の晴れ舞台なので、ご家族も猫の国に呼び寄せた。といっても、エミリの母親はすでにいるので、東の国にある孤児院の院長と仲が良かった友達を数人、わしのポケットマネーで招待してあげた。

 お春も両親と死別していたので、代役は池田屋という宿で女将をしている大きなキツネ女。お春を引き取って育てていたのだから、これ以上の人はいない。お春と仲の良い友達も、わしが旅費を出してあげた。

 キツネ女将は初めての海外旅行ということもあり、けっこうテンション高いが、お春のウェディングドレス姿を見たら号泣していた。やはり、愛情を持って育てていたようだ。


 そんな皆が集まっている場所は、教会。といいたいところだが、猫会。うん。わしも変なことを言っているのはわかっている。

 しかしべティが「どうせなら元の世界の式をやらないの?」とかいらんこと言うので、教会みたいな建物を建てさせられたのだ。


 当然、教会だから見た目はそんな感じだが、所々わしがいる。屋根には十字架に乗るわし。外観にはわしがくっついていたり隠れていたり。内装にもわしが至る所に。

 式を行う大部屋の一番目立つ場所には、ステンドグラスにわしが奇麗に描かれ、十字架に張り付けられたわしまで……


「にゃあにゃあ? これじゃあわしが悪さして罰を受けてるみたいじゃにゃい?」

「いいじゃん。イエスさんみたいでかっこいいわよ。ププッ」

「やっぱりわしをおちょくるためにやったにゃろ!!」


 べティが笑っているので、間違いなくわしをおとしめる罠。どうりで装飾作業はわしが外されたわけだ。

 しかし、エミリとお春に「変だろ?」と聞いても「最高」としか言わない。王妃や子供たちに聞いても、「どこが変なの?」とのこと。変だと思っているのは、わしとべティとノルンしかいないみたいだ……



 変な建物になってしまったが、いちおう教会なので、式典も教会風。神父っぽい姿をした猫耳族のお爺ちゃんセイボクと、白いタキシードを着たわしの元へ、エミリとお春が送り届けられる。

 後方の扉が開くと、エミリとお春のウェディングドレス姿。それと2人の手を引く黒いタキシードの紳士が2人。


 1人は、エミリの父親役の、東の国の料理長。エミリも料理長も親子のように親しくしていたので、もってこいの人選だ。すでに泣いてるし……


 もう1人はお春の父親役の元天皇名代、九尾の狐、玉藻だ。日ノ本から来ている適当なキツネを使う予定だったのに、どこで聞き付けたか「国を越えた繋がりにわらわがやらんわけがあるまい!」とか言って乗り込んで来たのだ。

 別に正式な式でもないし、形にこだわる必要もないから任せることにした。服装は、考えるのが面倒なので黒いタキシード。

 超が付くほどの日本美人なので何を着ても似合うが、どうせ変化へんげの術で人間に化けてるんだからその大きな胸を小さくしたら、そんな破廉恥な格好にならないのに……


 玉藻のことは置いておいて、その2人にエスコートされたエミリとお春は、一歩一歩、ゆっくりと歩を進め、両側に座る人たちから祝福の言葉を掛けられて笑顔で返す。


 そうして時間を掛けてやって来た二人は、料理長と玉藻からわしに手渡された。


 料理長が嗚咽しながらに渡して来たのは、感情移入してしまったのだろう。お春がホッとした顔をしているのは、日ノ本きってのお偉いさんと腕を組まされていたから緊張していたのだろう。


「ナンジ、シラタマは……」


 ここでようやくセイボクの出番。なんか英語とカタコトの日本語で同じことを聞かれたけど、笑いそうだからやめてほしい。こんな大事な場面で、べティのドッキリに引っ掛かるわけにはいかないんじゃ。


「この結婚に正当な理由で異議のある方は、いま申し出なさ~い」


 わしが笑いを堪えてなんとか最後まで持ったと思った矢先、後方の扉が「バーンッ!」と開いた。なのでわしは、またべティの仕込みかと思って、気持ちを落ち着かせてから振り返った。


「はぁはぁはぁはぁ」


 そこには、立って歩く茶色いタヌキ女性、平賀つゆの姿。走って来たのか、息を乱している。なので何をしに来たのかと聞こうとしたら、キッと睨まれた。


「この式典、なんで愛人の私は呼ばれてないんですか~~~!!」

「「「「「……あっ!!」」」」」


 超うっかりミス。というか、つゆは専用工房にこもっている時間が長すぎるので、完全に忘れられてた。

 この背の低いつゆ25歳の女性は、真ソウジャーナルに載っていた愛人候補の1人。なのに、皆から完全にスルーされていたことにすんごい怒ってらっしゃる。

 ちなみにわしは、時々つゆの前に顔を出していたが、愛人にした覚えもないので言うつもりもなかった。


「私も側室に入れてくださ~~~い!!」


 というわけで、式典は最後の最後で大荒れ。つゆは警備の者に羽交い締めにされて連れさらわれ、今日のところはエミリとお春とキッスして、式典は滞りなく終わるのであった。



 それから数日、つゆも何故か側室入りを王妃から許された。理由はもちろんタヌキのぬいぐるみに見えるから。エミリ以外は、わしの側室に来たのかリータとメイバイの側室に来たのかわからん。毎晩モフッてるし……

 いちおうつゆの家族も呼んで式典はやってあげたので、つゆも満足してくれたようだけど、それ以降は工房にこもることが多いから、あまり代わり映えのしない関係になるのであった。


 ちなみにこの式典は、スパイから東の国に漏れて、後日イサベレとさっちゃんもやりたいとか言って殴り込んで来たので、2人分のウェディングドレスを用意させられた。


「てか、さっちゃんはさっき旦那さんとやったにゃろ?」

「遊びみたいなモノだからいいじゃな~い」


 関係ないさっちゃんとも、新郎役をやらされるわしであったとさ。

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