第5話 零戦奮迅
1942年6月12日
燃料・銃弾補給を終えた3航戦の艦戦隊が再び母艦を発艦し、展開を終えたところで、第2次空襲が始まった。
「海軍機と陸軍機の混成編隊か!」
「龍驤」艦戦隊の隊長東条清隆大尉は、第2艦隊上空に迫ってきている多数の敵機を見て呟いた。敵機の機種は海軍機のF4F、ドーントレス、そして、陸軍機のB25、B17の4機種であり、機数は110機前後といった所だ。
3航戦から出撃した零戦の数は、「隼鷹」より19機、「龍驤」より12機、計31機。数の上では著しく不利であったが、東条を始めとする零戦搭乗員の士気は極めて旺盛であった。
零戦隊に気づいた敵機の動きに異変が生じる。F4Fが攻撃機の前方に展開し、攻撃機を守る姿勢を取り始めた。
「今野1番より全機へ。目標前方の敵編隊、かかれ!」
直衛隊の総指揮官に任じられている今野丈一郎少佐の声が、東条機のレシーバーに響き、東条は膝下11機の零戦にバンクによって合図を伝えた。
零戦隊と敵編隊の高度差はほとんどなく、第1撃目から真っ正面激突となった。
東条は20ミリ機銃の発射把柄を握り、F4F1番機に向かって20ミリ弾を発射し、F4Fの両翼からも発射炎が閃いた。
東条は機体を巧みに操り、被弾を許さなかったが、後続の「龍驤」隊の零戦1機が被弾した。
被弾の瞬間、華奢な造りをしている零戦は木っ端微塵に砕け散り、多数の破片が蒼空にばらまかれた。
この時には、彼我の戦闘機隊は乱戦に突入している。
東条が直率する第1小隊の2番機、3番機、4番機は東条機に付き従っているのがバックミラー越しに確認でき、東条は新たなF4Fの編隊に狙いを定めた。
第1小隊に背後を狙われている事に気づいたF4Fの編隊は離脱しようとしたが、東条の決定は迅速且つ適切であった。
「このまま距離を詰める!」
東条は零戦のエンジンをフル・スロットルまで開き、零戦が最高速度の時速521キロメートルにまで加速した。
零戦の機体が最高速度に耐えかねたかのようにグラついたが、東条はそんなことに構うことなく、敵機との距離を詰め、20ミリ弾を発射した。
機銃弾を発射したのは東条機だけではない。後続の2番機、3番機、4番機の順次機銃弾を放ち、F4F1番機、2番機が立て続けに被弾した。
1番機は両翼、エンジン、胴体、あらゆるところに20ミリ弾を撃ち込まれ、力尽きたように墜落していった。2番機はコックピットを粉砕され、搭乗員を射殺され、糸が切れた
残った3番機と4番機が1番機と2番機の仇を取るべく反転してきたが、東条はその2機を相手にせず、本命のドーントレスを狙う事を決めた。
ドーントレス編隊の動きに乱れが生じた。F4Fとの戦いを優位に進めている零戦に狙われている事を察知したドーントレス操縦員の一部が平常心を失ったのであろう。
ドーントレスの機首に装備されている固定機銃から射弾が発射され、東条機に殺到してきたが、その時には、東条は操縦桿を前に倒している。
ドーントレスの機銃弾を巧みに回避することを成功させた東条はすぐさま機体を突き上げるように上昇させ、ドーントレス1機を目一杯まで肉迫にした。
照準器の白い環の中にドーントレスの機体がすっぽりと入り、発射把柄を握った。
両翼に発射炎が閃き、重々しい連射音がコックピットに届いたと思いきや、次の瞬間には赤い火箭がドーントレスに吸い込まれた。
東条機がドーントレス群の後ろに抜けたとき、後方から爆発音が聞こえた。
反射的に後方を見た東条の目に、墜落してゆく3番機の姿が飛び込んできた。
「畜生! やられた!」
僚機、それも、日中戦争の時から一緒に戦ってきた搭乗員が乗っていた3番機を墜とされ、東条は叫んだが、仇を取るべく直ぐに気持ちを切り替えた。
この時には、4番機とははぐれてしまっており、東条機に付き従っているのは2番機のみになっていたが、機体を反転させた東条は、3度、機銃の発射把柄を握った。
最初の1連射でドーントレス後部の旋回機銃が沈黙し、続く第2射が機首のプロペラを吹き飛ばし、敵機は炎と黒煙を引きずりながら墜落していった。
2機目のドーントレスを撃墜した所で、東条は機体を上昇させ、空戦空域全体を見渡した。
空戦は明らかに米側優勢に進んでいた。零戦とF4Fでは零戦の方が僅かに機体性能は勝っていたが、敵編隊の4分の1の機数とあっては、多くの零戦が敵攻撃機に攻撃を仕掛けるどころか、F4Fを拘束するだけで精一杯だったのだろう。
ドーントレスの機数は僅かに減っていたが、ドーントレスよりも防御力が優れている陸軍機のB25、B17はほぼ全機が健在のように見えた。
そして、ドーントレス、B25、B17が一斉に加速を開始し、狙われたのは、3航戦の「隼鷹」「龍驤」、4航戦の「祥鳳」「瑞鳳」、そして第2戦隊の戦艦4隻であった・・・
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霊凰より
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