そういうことかと気付いてしまった
「じゃ~ん♪ どうかな兄さん」
「可愛い最高好きだあああああああああああ!!」
「きゃあ♪」
俺の前で制服姿の血染がクルっと一回転し、俺はそんな彼女に素直に感想を叫んで飛びついた。
既に七月になり、俺も血染も衣替えを終えた。
まあ衣替えを終えたからといっても、カッターシャツに切り替わっただけなのでそこまでの変化はないのだが……何をしても血染は可愛い! 俺は血染の頬に自分の頬をスリスリと擦り付けた。
「もうくすぐったいよ兄さん♪」
「嫌なら離れるぜ。でも嫌じゃなさそうだから離れない」
「嫌なわけないじゃんか。兄さんはあたしのことを良く分かってるね!」
「兄貴だぞ? 恋人だぞ。分かるに決まっておろう」
「うんうん♪」
これから学校に行かないといけないというのに、俺たちはギリギリまで家の中でイチャイチャしていた。
「二人とも、イチャイチャしすぎ。遅れちゃう」
呆れたような表情を真白に向けられ、俺たちは揃って苦笑しながら家を出た。
さてさて、こうして七月という時期になればもうすぐ夏休みがやってくるわけで、そうなると目下のイベントとしては期末テストだ。
「血染は……ま、テストの心配はないか」
「そうだねぇ。でも、ちゃんと勉強はするつもりだよ?」
「そりゃそうだ」
血染の場合は勉強しなくても出来るタイプの人間なので本当に羨ましい。
俺は全く出来ないというわけではないが、それでもテストが近づいてきたら一生懸命勉強はしないと良い点は取れないタイプだからなぁ。
「極端な話、卒業して働かなくても生きていけるよねあたしたちは」
「……あ~、まあな」
うちには莫大なお金が残り続けているので、本当に将来の心配は全くない。
もちろんだからといって働かない選択肢はおそらく取らないだろうが……って、最近になってちょっと気になることがあるんだよな。
「なあ血染、うちにあるお金が血染のお母さんからってのは話したけど」
「うん……あ、もしかしてあれのこと?」
「だと思うぜ」
何が気になったのか、それはただでさえ残る莫大なお金が全く減らないのだ。
生活費に関するものであったり、お互いに必要なものや趣味にお金は使っているものの、ひと月を目安に必ず一定の額までお金が再度振り込まれているのである。
「兄さんに関わらないって言ったはずなのにあの人は……」
「まあ文句なんてあるはずもないのは確かだ。血染に対して色々言っていたことに反論はしたけど……本当に助けられているよ」
「……………」
あの人は血染を傷つけて捨て去り、そして化け物だと罵った……でも、あの最後に見せてくれた笑顔だけは娘を想う母親のような顔にも俺は見えたのだ。
俺の場合は既にクソ親父は死んでしまったものの、仮に生きていたとしても関係の修復は絶対に無理なのは分かっていた。
(血染とあの人は可能性がないとも言い切れない……完全に親子に戻れなくても、一度だけでも話が出来る機会があればな)
俺はこのことを血染に伝えることはない。
それは全て彼女が決めることであり、このまま何も母親に関して口にしなくても俺は構わない……だが、その時が来れば俺は全力で血染を支えるつもりだ。
「……ま、機会があれば話してみたくはあるかもね。あたしは今、最高に幸せなんだってあたしの口から言ってやるんだから」
「……そうか」
「血染、偉い」
よしよしと真白が血染の頭を撫でる。
真白は俺よりも血染のことを見守ってきたんだし、今の血染の変化と成長は本当に感慨深いんだろう。
「頭まで撫でる必要はないって真白」
「照れてるの?」
「そりゃ照れるでしょうが!」
「……お兄様、血染が可愛い」
「今更だろ。いつだって血染は……あぁいや、真白だって可愛いんだからさ」
「も、もう兄さんまで……っ」
「……えへへ」
つうかあれだな、夏なのにこのやり取りをしてると更に暑くなっちまう。
それからいつものように学校に向かったのだが、ギリギリに出たという割には時間に余裕はそこそこ生まれていた。
二人揃って校門を潜って少しした時、俺の肩をトントンと血染が叩く。
「うん?」
「あれ、見てみて」
「え?」
血染が控えめに指を向けた先、そこに居たのは一人の男子だった。
「あれ、あたしと同じクラスの男子」
「ふ~ん?」
「あたしに告白しようとした男子」
「……………」
はい、俺の機嫌が急降下しましたっと。
ただ……血染の様子は俺を不安にさせたり、或いは不快にさせたりする意図がないことだけは分かった。
(……面白がってる?)
首を傾げる俺の耳元に彼女は顔を近づけてこう言葉を続けた。
「映画を見に行った時にさ、路地裏にあたしが兄さんを連れていったことがあったの覚えてるよね?」
「あぁ」
「その時にあいつ……あたしたちを見てたの」
「……え、まさか――」
つまり、あの時の濃厚な俺たちのやり取りを見られていたと……しかも血染に想いを寄せていた彼にってことだよな。
「俺さ、最初は俺の彼女に色目を使うなって思った」
「うん♪」
「でもさ……ちょっとスカッとしたし優越感があったわ。嫌な奴だな俺」
「そんなことないよ。気付いてて誘導して見せつけたあたしの方が何倍も嫌な奴、嫌な女だよ」
「嫌な女じゃないって。血染以上に魅力的な子を知らないからな俺は」
「なら兄さんも嫌な人じゃない。兄さん以上に魅力的な人をあたしは知らないもん」
これが家ならもう離れられなくなるぞマジで。
仲間外れにしないでと真白が背中に抱き着き、血染と別れた後も真白はずっと俺の背に引っ付いたままだ。
「やれやれ、困ったもんだ」
「お兄様と血染が悪い。私もイチャイチャする」
とのことだ。
真治と幸喜はまだ来ておらず……あいつら遅刻じゃないだろうな、なんてことを思っていると美空が近づいてきた。
「おはようございます大河さん……? あぁそういうことですか」
美空は何かに気付いたのか俺に近づいた。
「真白さんもおはようございます♪」
「……え?」
「おはよう美空」
美空さん……?
真白は普通に挨拶を返したけど、他のクラスメイトを見る限り間違って真白が実体化しているわけでもないはず……なので美空にも見えていないはずだ。
「見えてないよな?」
「見えていませんわ。ですが、そこに真白さんが居るのは分かっています」
「……………」
そう言えば血染が言ってたっけか。
美空は別に霊感が強いとかそういうものはないのだが、どうも真白という異能の力を感じ取る敏感さが培われているらしいのだ。
『まあたぶん、常人じゃないからだと思うよ? 兄さんの友人であり、あたしにとっても友人の美空先輩にこういうことを言うのはアレだけど……あの人おかしいもん』
結論、美空はおかしいで全てが納得いった。
「ま、美空が言ったように真白は今傍に居る」
「やっぱり! ふふっ、大河さんに引っ付いているのでしょうか……それはきっと可愛くて癒される光景なのでしょう♪」
「……やっぱりおもしれえ女」
そうだね、これはもう面白いと受け取った方が気が楽そうだ。
「おっはよう大河に美空! それに……真白ちゃんも居るねこれは♪」
「お~♪」
「……君たち、段々と人外に近づいてるよね?」
隣のクラスから遊びに来た結華も真白の存在に気付いたようだ。
それから真白の言葉は俺が伝える形で話をすることになり、朝礼が始まるまで四人で楽しむのだった。
途中から真白は見えない状態ながらも美空の膝の上に座りリラックスをしており、美空はそんな透明状態の真白を抱きしめてニヤニヤしている。
「私にも真白ちゃんは見えてないけど凄い光景ねこれは」
「だな……まあでも、他の人に見えない角度でデレデレしてるのは流石だわ」
っと、そこで結華が耳元に顔を近づけた。
「ねえ大河、三年の茜についてちょっと思ったことがあるのよ」
「……聞こう」
茜、それは間違いなく年上のヤンデレヒロインになるあの人だろう。
「原作だと、壮馬と茜はすぐに付き合わない。でも出会いは結構早くて、本来なら今の段階から仲は深まってるのよね」
「そうだな」
「うん。それでね? 本筋にはあまり出てこなかったけど、確かこの時期の茜ってストーカーの被害に遭ってるはずなのよ。でも壮馬へのクソデカ感情が強すぎて逆にストーカーを撃退するんだけど……」
「……まさか、最近の暗い顔ってそういうことか?」
「たぶん」
どうやら、壮馬が関わらないことで乗り越えられるべき壁を越えることの出来ない茜が生まれてしまったようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます