無事に終わった一日、それはこれからも

「……あれ、一緒になったのか」

「うん。外である以上、それを食べるのはね」


 放課後、アイスを買って血染の元に戻ったのだが、彼女は真白と融合したのが分かる見た目に変化していた。

 銀髪の中に黒髪が混じり、襟の辺りから僅かに赤い線が皮膚に浮かんでいるのも見えて中々やはりかっこいいものを感じる。


「はい」

「ありがと♪」


 何故融合する形になっているのかだが、単純に真白も一緒に血染と授業を受けて頭を使いすぎたらしい。

 もちろん生徒として参加したわけではなく、血染の隣で先生が喋っていることを必死に理解しようと頑張ったみたいだが、先に真白の頭の方がオーバーヒートしたとのこと。


「さっきまであんなに元気で一人の男子のズボンを下げたってのに」

「あはは、一気に疲れが出たみたい。本当に可愛いよねぇ」


 そうだなと俺は頷いた。

 少しでも血染に近づこうと真白は人並みの生活に慣れるために頑張っている、それは普段の彼女を見ていても良く分かることだ。


「血染に近づくために……か」

「うん。そんな必要は全くないのにね」


 血染には血染の、真白には真白だけの魅力がちゃんと備わっている。

 無理に血染に近づこうとしなくても、真白は既に自分を持ってこの世界にしっかりと存在している……だから真白は真白のペースで色々と覚えていってほしい。


「今日の夜にでも真白には伝えようかな」

「そうだね。あの子にはあの子の良さがある……むしろ、あたしよりも兄さんに好かれようってくらいの勢いじゃないと!」

「それは良いのか?」

「ふふっ、あたしは負けるつもりないけどねぇ♪」


 そう言って血染は俺の腕を抱きながら、手に持ったアイスを食べ始めた。

 以前に初めて彼女とエッチをした時にもそうだったけど、この状態の血染たちはどんなものでさえも感覚が共有されているため、今ダウンしている真白もちゃんとアイスを食べたという記憶は残るらしい。


「ねえ兄さん」

「なんだ?」

「今のあたし……その、チラッと鏡で見たんだけど」

「うん」

「めっちゃかっこよくない?」

「かっこいいよ。ちなみに俺はあの日から思ってた」

「だよねぇ……なんかこう、超常的な力を振るえそうな凄みがあるもん!」

「使えるじゃん」

「あ、そうでした♪」


 てへへと笑った彼女が可愛くて愛おしくてたまらない。

 パクパクと美味しそうにアイスを食べる血染を見つめながら、俺はこれからのことを漠然としながら考えた。

 これから先、俺は彼女とずっと一緒に過ごしていくつもりだ。

 今はまだお互いに子供なので考えることはそこまで多くはない……それでも、この世界に生きる俺たちは更に先に進んでいく。


(だからこそ、もう少ししたら真剣に血染たちとの将来を考えないとだ)


 そんなことを考えていたらアイスを食べ終えた血染が正面に立っていた。

 彼女はニコッと笑って俺の両頬に手を添え、そのまま自身に胸元に誘うようにして抱き寄せてきた。


「血染?」

「な~んか難しそうな顔してたから。こうするとリラックス出来るかなって」

「……俺はそんな単純じゃないぞ」

「そうかなぁ? 兄さんのことを単純だなんて言うつもりはないよ。でも、あたしにこうされるの大好きでしょ?」

「……………」


 すまん、お兄ちゃん単純だわ。

 それから血染の胸元に抱きしめられて落ち着きつつ、手に持っていたアイスが溶け始めて慌てて……とにかくそんな楽しい放課後を彼女と過ごした。


「真白が進藤のことについて言ってたんだけどさ」

「あぁ気に入ってるって話?」

「うん」

「そうだよ。確かに一瞬怖いなとは思ったけど、あの人ほど馬鹿みたいにあたしたちのことを祝福してくれる人は初めてかな。たぶんだけど、あの人は絶対に悪いことはしないと思う」

「それは俺も思うよ」


 元々、美空は壮馬に対してお姉ちゃんになろうと迫る女の子だった。

 あの子も他のヒロインと同じでヤンデレであることに変わりはなかったが、何故か俺との出会いによって彼女は兄を好きに……そして兄妹というものに対して強い憧れを抱くようになった。


「もしも進藤先輩が兄さんに妹になっても良いですかって言ってきたらどうする?」

「それは……ないとは思うけどそうだなぁ。取り敢えず断るよ」

「え~、ちょっと面白そうなのにぃ」


 確かに血染たちとは別に兄と慕ってくれる可愛い子が増える、そのこと自体は男として少しばかりそそられるものがあるのは確かだ。

 でも相手はどんなに美人でおっぱいが大きくても同級生であり、ちょっとおかしくなってしまった子なので……うん、ちょっとその未来は御免被るぞ。


「そろそろ帰ろうぜ」

「は~い」


 それからすぐに家に帰り、起きた真白も一緒に過ごして夜になった。

 いつもと同じ血染の美味しい夕食を腹に収め、寝室のベッドの上で二人を両の手に抱いていた。


「兄さん♪」

「お兄様」


 左から血染の声が、右からは真白の声が聞こえてくる。

 二人は出来るだけ俺に体を押し付けるように引っ付いているので、その温もりはもちろん大きな胸の柔らかさまでこれでもかと伝わってくる。


「……ふわぁ」


 そのことに対して興奮するのは確かにするのだが、それ以上に二人に包まれているこの感覚が心地良過ぎてすぐに眠気が襲い掛かってくるのだ。


「二人とこうやって寝るようになってからすぐに寝るようになったなぁ……健康には全然良いんだけど、もう少し二人との時間を楽しみたいところなんだが」

「あはは、眠くなるんじゃ仕方ないんじゃない?」

「うん。お兄様が眠くなるとこっちも眠たくなるし」


 そうして真白は大きな欠伸をしたかと思えば、そのまま瞳を閉じて動かなくなり小さく寝息を立て始めた。


「……って早いな」

「言ったでしょ? 今日はいつも以上に頭を使ったって」


 あれ? 確か結構寝たと思っていたんだが……まあ良いか。


「あたしのことばかりだったけど、兄さんの方はどうなの? クラスとか」

「あぁ……まあ真治に幸喜も居るし、何なら進藤も居るしで賑やかだよ」

「あたしが誰かを喰うことはなさそうかな?」

「結構軽く言うね……」

「あははっ♪ でも最近全然喰ってないから勘が鈍ってるかもぉ」

「やめなさいって」

「いやん♪」


 たぶんだけど、もしも俺に何かあったらこの子は躊躇することなく力を行使するはずだ。

 ある程度のことなら抑えが効くようになったとは思う……でも、そうならないためにも俺自身色々と気を付けないといけないわけだ。


「……なんかあたし、贅沢だな」

「え?」


 血染に目を向けると、彼女は俺の胸とツンツンと突きながら言葉を続けた。


「兄さんはとにかくあたしたちのことを心配させないようにって気を付けてるよね。そんな風に気を張り詰めないで、常にリラックスして良いんだよって思う反面、そこまで思われることに嬉しさを感じちゃってる」

「……そっか。まあでもこればっかりはなぁ」

「そんなにあたしたちのことが?」

「当たり前だろ。もう二人が欠ける日常は考えられないぞ」


 だからこれから先、何があっても傍に居たい……そして傍に居てほしいと俺は伝えるのだった。


「あ~あ……本当にあたし、この世界のことを大好きになっちゃうよ。兄さんが居るだけで、全部が華やいで見えるんだから」

「そいつは嬉しい限りで」

「……だから兄さん、ずっと傍に居てね?」

「もちろんだ」

「これ、フラグとかじゃないよね?」

「違うんじゃないか? 仮にフラグだとしても血染が圧し折りそうだ」

「そうだねぇ。兄さんやあたしたちに迫りくる何かがあるのだとしたら、徹底的に叩き潰すもんね♪」

「……ほんと、頼りになるな」

「兄さんの妹だもん」


 そんな話をしていると、ついに我慢の限界が訪れた。

 俺は血染に見つめられる形で眠りに就き、お互いに次の日の朝は盛大に寝過ごしてしまうのだった。

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