鳥獣革命

多部智梁

第1章 幼馴染

第1話 飛行

 風切り羽一本一本の先から、空気が糸状に流れてゆく。眼下には青々とした広葉樹林が広がり、その緑は、人型でいる時よりも遥かに鮮やかに感じられる。良い心地だ。   

 こうしてオオハヤブサに変化し飛行している時、タハトは最も自由を感じ、幸福感に満たされる。

 前方を見ると、切り立った斜面が立ち塞がり、その表面を撫でるように上昇気流が吹き上がっていた。タハトはめいっぱいに翼を広げ、気流を受け止めて一気に高度を上げた。

 数秒で、山頂に立てられた木柱が視界に入った。赤く塗られ、周囲の岩肌から浮いている。

 これの周りを最低三周しなければならない。急速旋回が得意ではないタハトにとっては最後の難所である。

 二周目を数えた時、二番手の選手が数秒前の自分と同様、斜面に沿って駆け昇ってくるのがチラリと見えた。思ったよりも差を詰められている。

 タハトは最後の一周を急いで廻り、急降下の姿勢に入った。反対側の崖を降りきれば決勝線はすぐそこだ。風圧で羽毛という羽毛が風圧を受け、ぴたりと体に張り付くのを感じた。

 急降下の際の緊張感は何物にも代え難い。この姿勢をとった時のオオハヤブサの最高速度は、時速三百キロを超える。地面が見る間に迫り、心地よい恐怖で毛先がチリチリと焦げるような錯覚を覚えた。

 地に激突する寸前、タハトは衝突を回避できるギリギリのところで一気に翼を広げ、そのまま決勝線を通過した。

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