夢宮夢子の夢日記
ぽんぽこ太郎
少女と獣と夢の話
第1話
「おい、起きるのじゃ」
そんな声で目を覚ました。
「む。起きるというのは違うか。……えい、ほら、しゃきっとせい」
そう。起きるのとは少し違っていたかもしれない。カメラのピントが合っていくように、目に映る景色の輪郭がはっきりとしてきて、周りが一挙に鮮明になった。
……なにが起こったの?
自分が今までなにをしていたのか思い出そうとするけれど、うまく頭が動かない。自分の行動を振り返ろうとしても、頭が今この瞬間にだけ引っ張られるような感じがして、思考がまとまらない。
ここ、どこだろう。とにかく今の状況を確認するのが大切だ。そう思い周りを見回す。私は自分の部屋のベッドに腰掛けていた。なにをしようとしていたのかは、忘れてしまった。でもベッドの中は暖かくて心地良さそうだ。このまま横になるのも悪くない……。
「しゃきっとせい!」
誰かの声がして、私はびっくりして体を震わせた。さっきも聞いていたけれど、いつの間にか意識から抜けていた声だ。驚いて、硬直し、そして自分が驚いているという事実にまた驚く。予想だにしていなかった出来事が起こるということへの強い違和感があった。
声のもとを探して再び周りに視線を巡らす。けれどどこにも姿はない。ふと気配を感じて上を見て、そして私はまたびっくりする。天井に、女の子がいた。見た目は私よりも幼い。小学校高学年か、発育の悪い中学生くらいに見える。長い白銀の髪が幻想的な空気を醸し出していた。彼女は重力に逆らって宙にふよふよ浮いていて、足を天井に、頭を床へと向けている。天井から吊るされているのかとも思ったが違う。女の子の髪は垂れ下がっておらず、天井に向かって伸びている。明らかに物理法則を無視していた。
「わ。なに、幽霊?」
「違う。……だが、まあいい。どうじゃ。意識ははっきりしてきたか?」
「え、それは……」
どうだろう。言われてみれば、驚きの連続ですっかり寝ぼけたような頭からは解放されたかもしれない。
でも、目の前に広がっているのは寝ぼけていると言われてもおかしくない光景だ。これでは、本当に目が覚めたと言えるのかしら。
「当然じゃ。お主はまだ目覚めてなどおらんからな。ここはお主の夢の中で、お主の体は今眠っている」
「……夢?」
「そう。そしてわしの名はねね。お主の夢の中で暮らしている獏じゃ」
「ばくって……」
「獏というのは夢を食う生き物じゃ。お主ら人間や、他の動物が毎晩せっせと生み出す夢を食ってやる。動物にとって夢は放っておいても忘れるだけの、普通必要とは呼べぬもの。だからそれを食べる獏も、お主らにとって本来害はないはずの存在じゃ」
「えっと……」
「しかし、今のお主にはその本来あり得ない問題が起きてしまっている。お主は、自分の体に入り込んだ獏をなんとかせねばならん」
女の子の早口の説明を、私は混乱したまま聞き流す。夢とか獏とか、なにがなんやらだ。それでも混乱する頭の中で、私はとりあえずわかることから整理していく。
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