大好きな幼馴染と私

氷河 雪

幼馴染と恋人になる

 桜が散り、高二に無事進級出来て、毎日少しずつ気温が上がっていく四月のある日の昼休み。いつも一緒にいる幼馴染が委員会の用事で居なくて、暇を持て余していた私は女子たちの所謂「恋バナ」に巻き込まれていた。あまりこういう話はしたことがないので、自分から話す事がなく黙って話を聞いている。


「エミリー先輩、美しいよね……」

「わかるっ、まさに高嶺のフラワーって感じ!」


 外国から留学してきて、綺麗で優しい方だと評判の三年生の先輩の話題が挙がっている。目立つので私ももちろん知っているが、確かにあの先輩は綺麗だった。


「小桜さんは、気になっている人とかいるの?」


 先輩の話題が終わり、話をふられてしまった。気になっている人。特にそんな人はいないので、返答に困ってしまう。その時、予想だにしていなかった言葉が一人の女子から発せられた。


「そういえば優ちゃんは去年小桜さんとは別のクラスだったし知らないのかな? 小桜さんには彼女いるよ」

「え、嘘!? 誰?」

「園部さんだよー。今日は委員会だからいないけど、いっつもくっついてるんだよ」

「そうなんだ……」

「いや、ひなちゃんは彼女じゃないよ!?」


 私、小桜こざくら 木乃華このかには園部そのべ 陽凪ひなぎという幼馴染がいる。家が隣で家族ぐるみの付き合い。仲もよく基本いつも一緒だが、決して彼女なんかではない。


「えっ!? アンタらまだ付き合ってなかったの!?」


 そんな事を言われ、硬直する私に別の女子が畳みかけてくる


「いやいや、登下校のときはいつ見ても手繋いでるし、お弁当はしょっちゅう『あーん』なんて言いながら食べさせ合ってていちゃいちゃしてるし、よく互いの家に泊まって一緒に寝てるって聞いた事あるんだけど、それで恋人じゃないの?」

「それって普通恋人同士でする事なの?」

「うん、そりゃそうでしょ」

「え、じゃあハグしたり、たまにほっぺたとかおでこにちゅーしたりされたりするんだけど……」

「いやそれで彼女じゃないってどういうことなの……」

「う、嘘ぉ……」

「嘘って言いたいのはこっちなんだけど……」


 なんとも言えない空気のまま、そのまま恋バナは終わってしまった。




 放課後、いつものように、いや、いつもとはちょっと違う形で一緒に帰り、今日はひなちゃんの部屋に二人でいる。


「なるほど、それは一大事ですな。あ、だから今日は手を繋ぐのを躊躇ってたのか」


 基本的に私達はいつも一緒に帰った後は、夜ご飯の時間までどちらかの部屋で一緒にいる。そこそこの長さの髪を寝る時以外はポニーテールで纏めている彼女は、ベッドに座り、顎に手を当てながら神妙そうな、そうでもないような顔でそう呟いた。


「ひなちゃんはおかしいと思わなかったの?」

「いや、今までしてきた事に普通恋人同士でする事があったはわかってたけど、私はてっきり幼稚園とか小学校あたりで私とこのちゃんは恋人とかなんかそれっぽい感じになってると今まで思ってた。なんなら子供時代のなんてことない口約束かもしれないけど、『大人になったら結婚しよう』とかもう既に言ってたりするんじゃない?」

「え、えぇぇ……」


 彼女の大雑把さに私は少し困惑してしまう。ただこれは昔から変わらない。私が幼稚園の時にこの辺りに引っ越してきて、出会った時から何かと振り回されがちだ。


「それで、このちゃんはこれからどうしたいの?」

「どうしたいって?」

「恋人同士じゃないからハグとかちゅーとかあーんとかをやめるか、それともこのまま続けるか、あるいは、私の彼女さんになっちゃうか」

「か、彼女……」


 なんだかんだ言ってひなちゃんのことはもちろん大好きだが、恋愛に疎い私にはこれが恋の好きなのかわからない。私は黙り込んでしまう。


「私としては、とりあえず最初の案は嫌だなー。十数年一緒にいるのにこのちゃんと今更変に距離を置くのは寂しいから」

「私も、それは嫌だな……」

「……」

「……、……」

「ねぇ」

「何?」

「私はこのちゃんのこと好きだけど、このちゃんは、私の事好き?」

「ひなちゃんのことは大好きだけど、これが恋愛的な好きなのかはわからない」

「私のこのちゃんへの好きは、恋愛的な好きも混ざってるよ。頑張ってこのちゃんと一緒の高校に行くために、頭が悪いなりに頑張って、このちゃんにも頼って猛勉強してさ。このちゃんと一緒に合格できたとき、とっても嬉しかった」

「あの時は、ひなちゃんいっぱい嬉し泣きしてたね」

「うん。少なくとも私は、恋人にするならこのちゃんがいいし、このちゃん以外と恋人になるのは嫌だね。今までの関係のままがいいなら、それでもいいんだけどね」

「そ、そっか……」

「それで結局このちゃんは、私とどうしたい?」

「わ、私は……」


 恋愛に疎いけど、ひなちゃんの言葉を聞いて、私のひなちゃんへの好きは、恋愛的な好きだったらいいなと思った。いや、そんな事を思った時点で、きっとこれは恋愛的な好きなんじゃないかな。なんて自分に言い聞かせる。


「色々考えたけど……私は……ひなちゃんと恋人になりたい……です……」

「……! うん! 改めてよろしくね! このちゃん!」

「よ、よろしくお願いします……」


 一緒に過ごしてきて十数年。私とひなちゃんは恋人になった。

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