チャラ男俳優と堅物女

遠野めぐる

1.オタクの人生で最も最悪な日

『──ここで速報です。先程、俳優の二ノ上昴さんが、自身のホームページで、結婚を発表されました』

「……は?」

 昼休みに休憩室で流れる情報番組をつまらなさそうに見ていたはずの私は、突然の速報により、処理のし過ぎでおかしくなったパソコンの様に固まった。

「にのかみ……って、あのお騒がせ俳優だよね──あっ」

 隣でサンドイッチを頬張っていた同僚は、何も考えていない様子でぼんやり喋っていたが、途中で何かに気づいて、可哀想な人を見るような目で私を捉える。

 だけどそんな事気にする余裕が全く無いくらい、硬いもので激しくぶん殴られたような衝撃が頭を襲っていて、目の前が真っ白になりかけた。

「……私の、推しが……結婚……?」

 画面には速報の文字と共に、私の大好きな男の顔が映し出される。

「嘘……女遊びが激しすぎて、数々のオタクを担降りに追い込んだ、あの昴が……結婚……?」

「あんた本当にファンなの……?」

 あまりの言い種に、同僚は怪訝な顔をしている。オタクではない人なら、それが正常な反応なのだろうが、この評価には、嘘偽りなどないのだから、どうしようもない。

 衝撃を受けたまま、アナウンサーがホームページの内容を読みながら話しているのを、ただ聞いていたが、その中に、とてつもなく引っ掛かることがあった。

『ホームページに載せられた文書によりますと、お相手は一般女性だということです』

「一般女性って……絶対にプロ彼女じゃねぇかよ! いやもー、マジで萎えたんだけど……ねぇ早退していい……?」

「こらこら、そんな早まるなって」

「だってぇ……同業者の女優なら、百パー勝ち目無いって分かってるから、まだ諦めつくけどさ、そういう訳でも無く、一般人という名の、芸能人とばっかり付き合ってるプロ彼女と結婚するんだよ……? マジで無い……ほんっとうに無い……」

「プロ彼女に対するヘイト高すぎでしょって。でもさ、できちゃった婚ってわけでもないんでしょ。そんな女遊び激しい人に、結婚したいって思わせた相手って、一体どんな人なんだろ?」

「そんなの知らないよ……はぁ……上司に早退するって言ってこよっかな……」

 本気で萎えている様子の私を、同僚は哀れみの表情で慰めてくれる。

 勿論、相手がどんな人だろうと、昴が決めた人な以上、私がとやかく言うことではないのは十分わかっている。だが、感情というのは理屈でどうにも出来ないのだ。こればっかりは開き直るしかない。

 せめて私は、彼の幸せと、結婚しても女遊びが依然治らず、結局スピード離婚、という最悪なシナリオにならないことを、強く願うしか出来なかった。

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