最終話 背中を押してくれたもの

 マンションに帰ればパトカーが停められていた。たくさんの野次馬と、四人の警察官と、警察になにかを話している両親の姿。

 両親が凜花に気づく。

 警察官を突き飛ばして、なりふり構わずに凜花に向かって走り寄ってくる。

 今までにないぐらいに強く抱きしめられた。

 痛いし、息苦しかった。

 抱きしめられた手が離されると、両親は裸足でずぶぬれで泥に汚れた凜花の全体像を見る。

「こら! いったいなにしてたの‼」

 母の怒鳴り声は明らかに怒り慣れていない人のそれで、続く言葉もたどたどしく、母はそのもどかしさに涙を流しているかのように見えた。そんな母を宥めるように父は母の肩に手を触れ、もう一度だけぎゅっと凜花のことを抱きしめて、帰って来てくれてよかったと聞こえるか聞こえないかぐらいのぎりぎりの声で凜花に呟いた。

 二人の優しさに凜花は泣いた。

 気づけば、野次馬も警察もいなくなっていた。

 いつの間にかマンションまで一緒に帰っていた空乃の姿も消えていた。

 家に帰って、お風呂を浴びて、電子レンジで温め直されたからあげを食べる。両親が異様なぐらいにやさしくて、恥ずかしくなるぐらいに距離が近くなっていた。おなかがいっぱいになると、急に眠気が襲ってきた。

 明日はいったい、どんな顔をして空乃に会おうか。

 ベッドの上で、凜花の頭はそのことでいっぱいになった。

 しかし答えを導き出さぬままに、疲れ切った頭と体は、凜花を抵抗する間もなく眠りの世界にいざなう。



 両親に今日ぐらい学校を休んでもいいと言われたが、凜花は両親の提案を振り切って学校に向かった。

 空乃に会ったらなにを言おうか、それはまだ決まっていない。

 空乃に会うんじゃないかと、内心でびくびくしながら登校した。

 しかし空乃に会うことなく、ついに教室の前までたどり着いた。

 教室のドアに手をかけて、半身だけをドアに隠して、中の様子を片目だけでうかがった。

 友達と談笑している空乃がいる。

 あの中に行くのを恐れている自分を感じる。

 深呼吸一つ。

 背中に感じる視線が一つ。

 ——見ててね、花蓮。

 勇気を出して、

 一歩、

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