City Guardians~みんなの味方~

はいむまいむ

序章

第1話

 「レッドさん、あなた正義の味方なんでしょ? どうして助けないんですか?」

 「そうだよ、俺は正義の味方だよ。だから助けない」

 「は?」

 「俺は”正義”の味方なんだよ」

 

 そうか、正義の味方か。そうだった、正義の味方なんだった。


  正義の味方。幼い頃はよく見ていたし、幼稚園でもよく真似をしていた。

 特別大好きだってことはないし、今でもたまに動画サイトとかを見ているときに、切り抜きとかがあればちょっとだけ見て、懐かしいなぁと思う程度だ。

 ただ、その時の正義の味方の動き方や考え方というのは言うまでもなく幼かった頃の僕には響き、一種の正義の心的なものは芽生えたのである。ただそうだからと言って、自分自身がそれに成り代わろうとなんてことは思わず、幼い頃が過ぎたときには正義の味方の気持ちなんてものはどこか深くに沈み込んでしまったのだった。


 小学校へ進学し、そのまま中学へと。友だちと楽しく遊び、適度に学び、行事なども積極的に参加するなど非常に笑顔あふれる生活を送っていたが、なんというか、人生というのは何があるかわからないものだ。

 

 この世界には近年症例が発生した一種の病が存在する。その名は狂人病というものだ。

 狂人病に罹った人間は、通常の身体能力を超えた力を持ってしまい、またその力を制御できずに、力が脳を支配し、狂人と化していしまう病なのだ。

 これは、人間のもともとの潜在能力が影響している病であり、潜在能力が高い人間が狂人病を発症するウイルスなどに感染すると狂人病となってしまうのだ。

 ある程度世界では狂人病に対して対策ができており、現在は殆どの国で感染者は見れなくなったが、日本においては現在も尚確立された治療法が見つかっていない。その理由というのは、2つ存在する。一つは日本の狂人病発症の原因となるウイルスというのが日本にのみ存在しないウイルスであり、発症者も少ないため研究があまり進んでいないということ。そして2つ目は日本が様々な国際機関から脱退してしまったからだ。脱退した頃、世界的に国際機関の枠組みや制度自体に不信感を持つ国家が多数存在しており、市民による政権奪取や革命により政権崩壊というものが相次いでいた。そして、日本においても長年政権を担当してきた党、そして国会に存在していた党ではない、第三の党が政権を奪取し国際機関からの脱退をしてしまったのだ。

 それにより国際的な交流や国際的な保険情報の交換が出来なくなり、世界的に収まりつつある狂人病の対応ができなくなってしまったからだ。また、現在民間人による海外への渡航や、インターネット免許制度による実質的な検閲により海外の情報が手に入りにくくなってしまった事も原因である。


 これにより、日本は狂人病が未だに蔓延る先進国になってしまったわけだ。なぜ、日本だけが狂人病が流行っているかというのを知っているのは、報道機関は海外の情報を伝えることが特例で許されているからである。

 

 この日本においては狂人病の感染者は差別的な扱いを受けることが、法律的に定められている。 狂人病感染者は、通常の思考能力を持つことが出来ず、また人間に対して著しい危害を行うため、戸籍を制限し、準戸籍に移すことが出来るとされており、最高裁でこの法律が審判された際に、判断として、差別ではなく区別であり、身体の拘束を認める法律ではなく自由行動が認められており、且つ一定の制限は受けるが権利の制限が完全にされているわけではないとし、また司法は原因不明の症例を法律によって制限をするということに対しての拘束力を持たず、現段階では医師会及び行政府の判断に任せざる負えない。と、してある。

 つまり、狂人病感染者はとてつもなく住みづらくなってしまうのだ。

 

 ただ、狂人病感染者はもともとの潜在能力が高いと先程話したが、狂人病研究の副産物として、人間の潜在能力を数値で測ることが出来ることが分かり、どの人間がどれくらいの力を持っているのかというのを生まれた段階である程度把握することが出来、たとえ成長をしたとしてもそれらは基本的に変わることがない。ただ、成長をしている段階で少しずつ伸びるタイプや、狂人病に感染したために潜在能力の数値が異常上昇をするということは確認されている。

 狂人病に感染せず、潜在能力値が生まれつき高い場合に関しては政府が推奨しているワクチンを優先投与され、その能力を活用するために世帯に対して補助金なども出されている。

 それ故、生まれつき潜在能力が高い人というのは必ず有名なスポーツ選手になったり、学者になったりと、それはそれは素晴らしい人材となっているのである。


 その反面僕みたいな人種というのは、非常に平凡な人間であり、狂人病やスポーツ選手とか全くもって関係ない存在であった。

 あったはずだった。


 中学卒業し、高校の入学まで暇だったある日のこと。いつも通り起きて、いつも通りの日常を歩もうとした、ちょうどその時不思議な感覚に包まれたのだった。


 「え……?」


 なんだか分からないが、地面に足がついていない、というか足が浮かんでいるような感覚がしたのだった。 


 これが、僕にとってのいつも通りの終わりの瞬間だったのだ。

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