32-2 真実

 目を開けると、そこは光のない真っ暗な世界だった。

 視界は完全に機能しておらず、得られる情報は嗅覚、触覚、聴覚に限定される。

 嗅覚からは、グラウンドの倉庫のような埃臭い臭いが感じられる。

 触角からは、何も感じない。それほど広い空間にいるのだろう。地面は恐らく石だ。

 聴覚からも、何も感じられない。きーんと鳴る静寂に包まれていた。

 1年7組のいじめられている生徒、周藤さらを追って第三美術室へ行った私は、いじめを目撃している最中に何者かに気絶させられた。

 最後に視界に映ったのは、緑色のリボン。この学校では、制服のリボンの色で学年が分かる。緑は3年の色だ。

 いじめの加害生徒は全員が1年だった。あの3年の女が、周藤さらをいじめている1年とグルなのかはよく分からない。

 グルでないとしたら、私を襲う動機も不明だが


「ここから出るのが優先だな」


 真っ暗の空間。喋った声は微かに反響した。

 気絶してから目覚めるまで、そう時間は経っていないはずだ。だとすると、ここは校舎の中ということになる。

 この学校に、一切の光を通さない場所などあるのだろうか。

 足元を触ってみると、学校の床材とは明らかに異なる物質だ。冷たい石。そしてざらついている。

指の臭いを嗅いでみると、微かに焦げたような香りが漂った。

 

「——相手に殺す気はないみたいだな」


 1年7組は芸術科。そして第三美術室からほど近い場所にあるのは、技術棟を出てすぐにある——。


「ここは、陶芸コースの使う窯の中だ」


 1年7組は、芸術科の陶芸コース。恐らく3年のあの女も、芸術科の女なのだろう。

 自分の周りで手を動かしても、作品のようなものが見当たらないということは、今日、この窯が使われることはない。

 開校当時からあるドーム状の石窯。ドーム状なら、出口を見つけるのは簡単だ。

 端まで歩いて壁に手を添える。壁を伝ってドームを回り、材質が異なる壁が窯の扉だ。

 しかし、どれだけ歩いても壁の材質が同じだった。全て冷たい石造になっている。

 どうやらここの学校の窯は、扉まで石で造られているようだ。そうなると、光源がないと脱出は不可能に近い。

 昼休みはとうに終わっているはず。私を探す人間もいるだろうが、ここに辿り着く人間はまずいないだろう。

 此処から脱出するには、光源の確保が最優先だった。

 ここは窯の中。実験室でもない限り、化学反応から明かりを作るのはまず不可能に近い。


「シュウ酸ジフェニルと過水がないから、ケミカルライト案は却下」

 

 後は自分の持ち物次第。白衣のポケットを漁ってみる。

 ハンカチ、なんかのプリント、絆創膏3枚、実験室からパクった単4の乾電池、華音から貰ったガム、ポケットティッシュ。


「こりゃぁ華音に感謝だな」


 あの時、咄嗟に差し出されてもらったガムがここで役に立つとは思わなかった。

 ガムの包み紙はアルミニウムだ。

 ガムの銀紙を細長くし、真ん中をよじらせる。そしてその両端を乾電池の+と-にくっつければ、電池から流れる電気がアルミニウムに集約され、火が灯る。それをプリントに点火させれば、簡易的な光源の完成だ。

 微かに窯の壁が照らされる。一部分だけ、明らかにすすが少ない場所があった。

 火を消した後で煤の少ない壁に体当たりをすると、簡単に扉が開け放たれた。

 今まで暗い場所にいたせいで、太陽の光がとても眩しく感じる。

 校舎に設置された時計を見ると、時刻は14時40分だった。気絶してからかなり時間が経っている。


「この休み時間に周藤さらと会えなかったのは痛いな」

 

 周藤さらと話をして、薬の入手経路を吐かせる算段だったが、思いがけないタイムロスのせいで計画は完全に狂った。

 このまま華音と帰路に着くのもありだが、仮に華音を殺したのが周藤さらでなかった場合、通常の世界線に戻すのは困難を極めるだろう。そんな最悪の事態だけはどうしても避けたい。

 授業中の教室に戻ると、数学の教師は「取りあえず職員室に行ってこい」と静かな声でそう言った。どうやら、私の捜索はそもそも行われていなかったらしい。大丈夫なのかこの高校は。

 せっかくだし、担任に会ったらこの学校の警備体制と危機管理について問いただしてやろうと腹に決め、職員室に向かった。

 

 煤だらけの白衣で職員室に入ると、多くの教師が私を見て驚きの表情を浮かべる。それもそのはず、ただでさえ拘束破りのチャンピオンが泥遊びでもしたかのような格好で職員室に入ってきたのだから。場違いにもほどがあるだろう。

 担任の目の前に行くと、担任は校長室を指さした。

 3回ノックし、「失礼します」と言って校長室へ入った。

 校長はいつもと変わらない微笑を浮かべており、私に座るよう指示した。

 流石に煤がついたまま本革のソファに座るのは行儀が悪いと思い、白衣を脱いで腰を掛けた。


「1年7組、周藤さらのいじめの件は君もよく知っているはずだ」


 まさか、校長の口からその事柄が出てくるとは思わなかった。一応、学校側も把握してたということだろうか。あれだけ酷い痣を見れば、教師も疑って当然か。


 席を立った校長は、私の向かいに座って、今までに見たこともないような下衆な表情で——。


「周藤さらの件は調査中だ。これ以上、この件に関わるな」


 と、一言述べた。

 それはどういう意味なのだろうか。調査中と称して、学校側はいじめを黙認するつもりなのか、それとも、何か別の動きに私が関わっていると思われているのか。下劣な校長の瞳から、その解は読み取れなかった。


「周藤さら及びその周辺生徒への接近を禁じる。もしも君が今後も彼女と絡むよなことがあるなら、その時は君を退学に処する。異論は認めない」


 校長は私を鋭くにらみつけ、すぐに元の柔らかい表情に戻してソファから立ち上がった。

 

「何ら変わらない生活をしてくれればいいだけだ。この事は、決して口外しないように」


 校長はそれだけ言って、授業に戻るようにと校長室から私を追い出した。

 どうも腑に落ちない。いじめを黙認するのであれば、わざわざ私に口止めする必要はあるのだろうか。校長の真意がまるで分らない。

 これはいじめ以上の何かが絡んでいるとしか言いようがない。そして、その渦中にいるのが周藤さらという人物だ。

 関わるなと言われても、私には別個で関わらなくてはならない案件がある。

 『SG-944』の回収と、いじめの件とは話が別だ。


「だから私は、別個で関わらせてもらうとしよう」


 これ以上、自由時間を作ることは出来なかった。つまりは、華音が死亡するあの瞬間まで待つことになる。殺人鬼と会って頂上決戦というところだ。

 しかし、この期に及んで華音の残したヒントが見いだせていない。

『ヒントは1』

 その直後、親指と人差し指と中指を立てた華音。あれは一体何のハンドサインなのだろうか。

 タイムリミットは刻々と迫っている。このままヒントを活かせなければ、また世界線が増えることになってしまう。

 華音が立てたのは3本の指。仮にあれが、私を気絶させた女を示す暗号なのだとすれば、1はクラスか出席番号だろうか。

 しかし、なぜ華音はあの場で私にヒントを寄こしたのだろうか。薬の時と言い、まるで私の先廻りをしているかのように事を当てる。



 放課後を告げる鐘が鳴り、私は校舎で華音を待ち伏せた。


「早いですねぇ先輩」


 今日は何も食べていないようで、手持ち無沙汰にしていた。


「ありがとうな、ガム。命拾いした」

「そうですかぁ、それはよかったです。窯に閉じ込められるなんて思わないでしょうけどねぇ」


 華音は鋭い眼光でこちらを見つめたあと、すぐに交差点に視線を移した。


「華音、お前は一体どこまで知ってるんだ。周藤さらのことも、何か知ってるんだろう」


 私の問いかけに、華音は何も返さなかった。聞いてはいたようだが、こちらを数秒見つめただけだ。


「お前は、何を考えているんだ。私にはお前の思考が読めない。お前はこれから、死ぬんだぞ。そもそもなんでそれは予見できなくて...」


 本来の世界線の今日、華音はこの帰路で何者かと待ち合わせていた。もしくは、この後落ちあうように計算していた。そしてその人物と対面し、何かアクションを起こしたが、自分の予想とは外れた。そして、翌日、殺されて初めて真実に辿り着いたんだとすれば。

 本来の世界で華音が会う人物とは、別の人間が華音を殺したことになる。


「——華音、お前はこの後、誰と会うつもりだ」


 華音は、私の鬼気とした様子に踊りきながらも、すぐに冷静を取り戻した。


「1年6組の加来瀬那からいせなですよぉ。さらをいじめてる、あの子ですよぉ」


 華音が指さした先、そこには電柱の下でスマホをいじっている加来瀬那の姿があった。第三美術室で周藤さらをいじめていた主犯の女だ。


「会って、どうするつもりなんだ」

「先輩は見ているだけでいいんですよぉ」

「そもそも、お前と周藤さらは繋がりがあるのか」


 華音は私の唇に人差し指を当てた。

 

「先輩はここで待っていてくださいねぇ」


 華音はそう言って、加来瀬那の元へ駆け寄って行った。スマホに表示された時刻は、華音の死亡時刻の5分前だった。

 何がヒントだ。なにも重要なことを教えずに、遠回しなヒントばかり与えて。あれが何者なのか暴くまでは、華音を殺してはならない。

 とりあえず、犯人は加来瀬那ではない。1と3本の指が意味するあのヒントが解ければ——。


『1年5組の楠井華音です。よろしくお願いしますねぇ』


 ふと、自己紹介が脳裏を過った。5組。なんて初歩的なことに気が付かなかったのかと、自分に落胆する。

 この大西高校、5組以降は専門学科になっている。1年は5組と6組が情報科、そして7組が芸術科、8組がグローバル科。

 あの3本指は、二進法を覚える時に使う指折り法だ。そして、親指と人差し指と中指は00111。つまりは7を意味する。

 1と7。1年7組。そして、周藤さらをいじめる加来瀬那とその取り巻きは6組だ。この件に関与している人物の中で、1年7組の人物は周藤さらしか存在しない。

 つまり、華音を殺したのは——。



「お前だ、周藤さら」


 謎の女に背後を取られて以降、ずっと自分の背後には気を配っていた。校門を出てからずっと、私たちを尾行していたのだろう。


「誰ですか、あなた。華音ちゃんの友達ですか」

「あぁ、中学からの知り合いでな。ところで、お前は華音とどういう繋がりなんだ」


 周藤さらが華音と同じ中学校だったら一発アウトだったが、どうやら別だったらしく命拾いした。

 

「あれは、私をいじめた人ですよ」

「なんだと」


 華音が周藤さらをいじめた。それは、とても容認しがたい発言だった。あの華音がひとをいじめるだろうか。人は見かけによらないという。確かに、あの女には知られざる秘密があるだろうが、そこに悪意はこもっていない。


「なんかの気のせ」

「気のせいなんかじゃない!」


 周藤さらは、鞄に隠し持っていたサバイバルナイフを取り出して振るった。

 身を引いたことで間一髪、白衣が少し切り裂かれただけで済んだ。


「あれは怖い怖いいじめっ子です。私をよなよなストーカーして、先週は電車内で盗撮までしてきました。これを見れば、分かりますから!」


 周藤さらは悲鳴に近い声でまくし立て、私にスマホの画面を見せた。それは、不特定多数の人とメッセージをやり取りするSNSのスクショだった。


 周藤さらのアカウントの他愛ないつぶやきに対して、初期アイコンの人物が電車内でスカートの中を盗撮したであろう写真が返信されていた。さらにその下には、「やばすぎw」「これ大西高校の制服じゃねw」「こんなの上げて許されるわけないでしょ」と返信が続いている。

 盗撮されている人の鞄には大量のアニメグッズが付けられていた。

 恐らく、周藤さらの鞄が荒れていたのはこのグッズを乱雑に剥がしたからだろう。いじめと決定づけるには早計だったわけだ。


「でも、この写真だけじゃ華音がやったとは言えないだろ。車内で華音を見たわけじゃないんだろ」

「でも、これならどうですか」


 周藤さらは、もう一度スマホの画面を見せてきた。

 そこには、別日の盗撮が送り付けられていた。今度は返信ではなく、DMに直接送られてきている。

 周藤さらは、送られてきた写真の端を拡大した。そこには、微かに情報科の使うテキストが映っており、名前欄に「楠井華」と見える。


「これはもう、あの人しかいないじゃないですか。もう私、2か月もストーカーされてるんです。昨日は家の前の写真まで送られてきました」

 

 周藤さらは大粒の涙を流しながら、ナイフを持つ手に力を込めた。


「瀬那はSNSのフォロワーだから、相談した。そしたら、華音って人を教えてくれたの。だから、もう怖くて、怖いから!」


 周藤さらは再度ナイフを振り、私に道をあけるようにとアイコンタクトを送る。


「いくらなんでも、殺しは容認できない。そのナイフを仕舞え」

「できるわけッ」


 今の周藤さらは正気を失っている。日々の盗撮により彼女の精神状態は不安定なのだろう。元の性格に加え、不安定な精神状態が重なって、道徳を見失っている。

 しびれを切らした周藤さらは、私に向かってナイフを突き立ててきた。

 鮮紅色の液体が、コンクリートと制服に飛び散った。無論、煤だらけの白衣に新たな色が加わった。

 

「なに、して」


 周藤さらは目元に涙を浮かべながら、同時に制御を失っていく自分に恐怖を感じている。

 私は、周藤さらが胸元に突き立てたナイフを横から素手で掴んだ。不思議と手は痛みを感じていない。アドレナリンが分泌しているのだろうか。

 周藤さらの力が緩んだのを確認して、ナイフを没収した。


「落ち着け、周藤さら。まずは事実確認だろ」

「でもあれは、あいつのだろ!」


 泣いているのか、怒っているのかは、その場にいる誰もが判断がつかなかった。この大声を聞いて、ようやく瀬那と華音もこちらに気が付いたようだった。

 

「さら、なんでここに、あなたも血が」

「安心しろ。ただの切り傷だ」

「それは、ただの、で済むのかなぁ」


 瀬那は喚く周藤さらを落ち着かせ、私は華音に絆創膏を貼ってもらった。


「華音、最近テキストを無くさなかったか」

「あれぇ、なんで先輩が知ってるんですかぁ」


 瀬那によって落ち着いたさらは、華音に全てを打ち明けた。そして、華音もテキストを無くしたことを伝え、自分の犯行ではないと無実を訴えた。


「というかぁ、私、さらちゃんの味方なんだよぉ」


 そう言った華音は、おもむろにスマホを取り出して、SNSを開いた。さらのアカウントをタップすると、相互フォローになっていた。

 

「やっぱり、あのせんべいお前だったんだな」


 さらの盗撮画像の返信についていた3つのメッセージの1つはおせんべいアイコンだったのだ。

『こんなの上げて許されるわけないでしょ』は、華音だったのだ。匿名性のあるSNSなだけあって、さらは気が付いていなかったようだが。

 華音も、この盗撮が送付されるまでは気の合うネッ友だと認識していたようだ。盗撮画像の特徴的な鞄を見て、廊下でよくすれ違っていることに気が付いた。

 さらに、瀬那と華音は同じ中学の出身らしく、そこも繋がったというわけだ。


「本当は瀬那がいじめて投稿したと思ってたんだけど、違ったみたいだねぇ」

「ほんっと、余計なお世話なんだけど」

「ごめんよぉ」


 どうやら3人は和解したようで、それぞれが笑っていた。


「でも、今日の昼休みに美術室で会ってたのは。かなりの音が聞こえたが」

「私、自傷癖があって」


 周藤さらは小さい声でそう言って、自分の足を見つめた。どうやら足の痣はいじめによるものではなく、ストレスが溜まった際の自傷行為でついたもののようだ。ひたすら私の推理が空回りしていたのが判明する。


「あの時も、盗撮について相談されたんだけど、自傷し始めたから止めに入ったの。かなり暴れたから、ね」


 さらはしゅんとして、ひたすら瀬那に謝った。どうやらあれもいじめではなかった、そもそもいじめなんて言うのは私の客観的な思い過ごしに過ぎなかったのだ。

 そして同時に、私を気絶させた女が瀬那たちとグルじゃないことも判明した。


「ただ、華音の無実が晴れただけで真犯人はまだ見つかってない」


 私の言葉に、3人が顔をしかめた。

 華音の無実といじめの有無が判明したのは良しとして、盗撮の犯人が別にいるのは看過できない。

 真犯人を突き止めるまでは、私の仕事ではないのだが。ここまで不遇な扱いを受けた人間を放っておくわけにもいかない。


「盗撮に心当たりはないのか」

「うん。全くないです。帰り道を変えても先回りされてるみたいで、毎日盗られて、だから余計こわくて」


 手がかりはゼロ。既にスマホの時刻は18時30分を指していた。


「そういえば、さら、お前、薬を飲んだだろ」

「え、あ、はい」

「どこで手に入れたんだ」


 さらは一度口を開いたが、言いたくないというよに口を噤んだ。だが、私の手を見たあとで罪悪感に押しつぶされたのか、観念したような表情を浮かべて口を開いた。


「ポストに投函されてたんです。宛名は無くて、でも楽になれるってあって、死んでもいいと思って、飲みました」


 さらの声のトーンはだんだん低くなり、改めて自分がやっている事の愚かさに気がついたようだ。

 『944:副作用として一定時間後に自我喪失レベルの報酬欲求が顕あらわれる場合あり。その他の副作用あり』

 いつか、『SG-944』の添付文書に書かれてた内容を思い出す。今回の、さっきのさらの症状は、この文書と部分的に該当するところがある。自我喪失レベル。あの添付文書の信ぴょう性を高める機会だったというわけか。


「とりあえず、これを飲め」


 私は、さらに『SG-944α』を渡した。


「お前が行ったのは世界を歪ませる行為だ。これを飲めば、元の世界に戻れる」


 私とさらは薬を飲んだ。さらと私は、激しい頭痛に襲われた。元の世界に戻る代償だから仕方ない。意識はゆっくりと薄れゆく。



 目が覚めると、コンビニの前で倒れていた。元の世界線に戻ってこれたようだ。

 しかし、その場に華音の姿はなかった。

 スマホの時刻は、前回私が薬を飲んだ時刻と同じだ。

 つまり、それは、華音と一緒に帰っていた時間と同じことを意味する。そのはずなのに、華音はいない。

 考えられる可能性は一つだった。


「あの世界、四十三世界にもう一人服用者がいるのか」


 四十三世界が正常に軌道修正できていないから、華音は戻ってこなかった。


『帰り道を変えても先回りされてるみたいで、毎日盗られて、だから余計こわくて』


 帰り道を変えても先回りされる。『SG-944』を使って1日ずつ世界を渡っているのだとすれば、1日はストーカー、そして1日遡及しているとすれば、彼女を先回りして盗撮することができる。

 それが事実なら、この世界は四十三世界でない可能性すら出てくる。既に50に到達している可能性すらある。

 これ以上は、収集がつかなくなるだろう。

 どのみち、私の目標は、真犯人の確保だということが決まった。

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