【相談スレ】ワイ悪の組織の科学者ポジ、首領が理不尽すぎてしんどい【掲示板形式】

祭りの準備のこと

　アムソラル族

　名は“魂の御子”を意味し、古い時代に精霊のような高次霊体と人が戯れに子を成したことで誕生した、自ら性別を決める希少種族である。

　男でも女でも無性でも構わない。

　それは自分の願った形で愛を紡ぐためであり、この特性からアムソラルは“愛の種族”とも呼ばれた。

　もっとも、謂れはともかく、私自身は尊ばれるような存在ではない。

　上層と下層で区別された明確な格差社会。

　私ことヴィラベリート・ディオス・クレイシアは、下層の犯罪者の子供として生を受けた。

　神霊結社デルンケム、首領セルレイザ。

　私は直接悪事を見ていないけれど、その悪名は広く知れ渡っているらしい。

　アムソラル族の父は男になることを選んだ。膂力が強くなるからという単純な理由だそうだ。

　母親の顔は知らない。父がただ笑ったので、聞いてはいけないのだと思った。

　下層は魔獣や怨霊などの害魔こそいるが、食うに困るほど困窮する場所でもない。

　しかし好き勝手やりたい者はどこにでもいる。

　父は現状を良しとせず、搾取する上層に反発しデルンケムを立ち上げた。

　アムソラルは魂の質に優れており、高純度の魔力を生成できる。剛腕と魔力によって戦う父は、飛び抜けた強さを誇る戦人だった。

　しかし実子である私は違う。

　空気に過敏反応する奇病に侵され、息を吸うだけで体が軋むほど脆弱な子供だ。

　なにもしなくても体が軋む。だから呼吸が荒れないようベッドの上で全く動かない生活をしていた。

　遊ばない、美味しい食事もいらない。誰かと話すなんてもっての外。

　会話を楽しめば笑うことになり、結果として沢山の空気を肺に入れてしまう。感情を抑えつけて一日中天井を見つめるのが私にとっての日常だった。

　父に責められたことはない。でも辛かった。

　物心がついた頃から、生きることはただただ苦しいモノでしなかった。

『ほら、大丈夫だ。ここでならきっと楽な呼吸ができる』

　……それが一変してしまうなんて、幼い私は考えもしていなかった。

　誰か助けてと何度も願った。

　助けてくれる誰かが来てくれるなんて、信じていなかった。

　なのにいきなり現れたその人は、私のために基地を一つ作るなんてとんでもないことをしてくれた。

　当たり前のように私を救い、すっと見守ってくれていた。

　そんな彼を、私の心はどう感じていたのだろう？

　◆

826:ハカセ

　ひっさびさの理不尽命令来ました

827:名無しの戦闘員

　お、ブラック首領登場？

828:名無しの戦闘員

　なになに？　ハカセが弄られんのが俺らの楽しみ

829:名無しの戦闘員

　最悪なこと言われとるやんけｗ　

830:ハカセ

　もう今さらワイの立ち位置って変わらんのやろな……

　ある日、ワイは統括幹部代理として謁見の間に呼び出された

　まあ幹部ってワイと猫耳くのいちだけやから毎回寂しい感じなんやけど

　今回は何故かＩ奈ちゃんもその場におった

831:名無しの戦闘員

　ほんとになんでＩ奈ちゃんおるん？

832:名無しの戦闘員

　メスガキちゃんがおるとなんか問題起こしたとしか思えん

833:ハカセ

　首領「特別に同席を許しておる」

　Ｉ奈ちゃんがグイグイ来るようになったのはここ最近みたいやね

　ハカセ様→冷たくない　　ということは首領も……？

　みたいな感じで接触を持ったらしい

　Ｌリアちゃんがワイ付きになって伝手もできたしな

　うぅん首領に友達が増えてワイ感無量……

834:名無しの戦闘員

　相変わらずの謎の保護者目線

835:名無しの戦闘員

　先代もアニキもいないし完全に保護者

836:名無しの戦闘員

　そう考えると首領ちゃんの理不尽ってある意味甘えでもあるんかも

837:ハカセ

　まあ意識的にそういう役割やっとるところはあるわな

　首領「ハカセよ、よくぞ来た」

　ワイ「はっ！」

　首領「呼び出したのは他でもない。おぬしにしか頼めない、非常に重要な任務があるのじゃ」

　ワイ「それはいったい……」　

　首領「わたし、お祭り行きたい」

　堂々と、ワイや猫耳だけでなくＩ奈ちゃんがいるにも拘らず堂々とそんなことを仰られた

838:名無しの戦闘員

　威厳もなんもねえなｗ

839:名無しの戦闘員

　首領ちゃんにそんなもんいらん！

　俺は気ままにハカセに甘える首領ちゃんが見られればそれでいい！

840:名無しの戦闘員

　同じく！　我ら首領ちゃんの幸せを応援し隊にとっては我儘もご褒美！

841:名無しの戦闘員

　妙な団体できとるけど首領ちゃん一応悪の首領やでｗ

842:名無しの戦闘員

　これもう首領ちゃんがアイドルになって歌って踊れば一定数戦闘員確保できん？

843:名無しの戦闘員

　悪の組織の首領でのじゃっ子でアイドルで無性で甘えっ子

　属性が大渋滞しとる

844:ハカセ

　首領がアイドルになって魅了することで日本侵略……意外とありか？

　いや、そうなるとフィオナたん・エレスちゃん・ルルンちゃんによるアイドルユニット“ロスト☆フェアリーズ”が台頭する可能性も

　そして最後には覚えておりますか手と手が触れあった時

845:名無しの戦闘員

　マジメに考えんなｗ

846:名無しの戦闘員

　全然マジメじゃないから　むしろ全力でふざけてるから

847:名無しの戦闘員

　トミーノだけでなくマーク〇スにも手を出したか

848:ハカセ

　当然首領の部屋で一緒に見たで

　わりと気に入ったらしく、お部屋で歌いつつダンスしながら「キラっ☆　なのじゃ！」していたと猫耳くのいちより報告が上がっております

849:名無しの戦闘員

　それ絶対バラしちゃダメな奴だろｗｗｗ

850:名無しの戦闘員

　猫耳ちゃんえげつねえｗ　そこは内緒にしてやれよｗ

851:名無しの戦闘員

　首領ちゃんｶﾜ(・∀・)ｲｲ!!

852:ハカセ

　なおワイも俺の歌を聞けやってみたい模様らぶはーと

853:名無しの戦闘員

　なんの報告だｗ

854:名無しの戦闘員

　祭りの話どこいった

855:ハカセ

　837の続き

　ワイ「お祭り、ですか」

　首領「うむ。我らは日本に来たが現状一部の者しか基地の外に出られておらん。ここらでレクリエーションを行いガス抜きが必要なのでは、ということじゃ」

　まあワイとかＮ太郎くんとかは外に出られとるけど内勤の子達はそんな機会はない

　メンタルケアとしてはそんなに悪い案ちゃうかな　

　首領「ちなみに今回の発案者は戦闘員Ｉ奈じゃ」

　Ｉ奈「はぁーい！　私、Ｍ男お兄ちゃんとぉ、縁日デートしたいんです♡」

　そういうのは隠してもらえませんかね？

　Ｉ奈「あと最近分かったんですけどぉ、ハカセ様って男女問わず子供に甘いから私が上目遣いで頼んだら企画通るかなぁーって♡」

　だから隠せ

856:名無しの戦闘員

　もう戦闘員にも見切られてんぞ

857:名無しの戦闘員

　というか舐められとる

858:名無しの戦闘員

　メスガキちゃんに舐めてもらえる⁉

859:名無しの戦闘員

　おまわりさんこいつです

860:ハカセ

　ワイの最低ラインは成人してるかどうかです

　そもそもＭ男くんの恋人やからね？

　それはともかく企画自体はええんちゃうかな、首領も乗り気やし

　首領「正直私も縁日に行ってみたいしのう。全面的に賛成なのじゃ」

　ワイ「なんならお忍びで行ってみますか？」

　首領「やだ。おそと怖い」

　ワイ「えぇ……」

　ぶっちゃけおった

　Ｉ奈ちゃんにも気を許しとる証拠かな

　ということでお祭りには行きたいけど基地の外は怖い首領のために第一回組織祭りの開催が決定した

　企画：首領・Ｉ奈ちゃん　

　準備：ワイ

861:名無しの戦闘員

　傍から見てると首領ちゃん理不尽で草、で済むけど

　実際にハカセの立ち位置になったらたまったもんじゃないぞこれ

862:名無しの戦闘員

　ぶっちゃけやりたいことを言うだけで他全部丸投げする上司やからな

863:名無しの戦闘員

　これに関してはハカセも悪いというか

　たぶん首領ちゃんって基本いい子っぽいから、駄目なら駄目で諦めると思うんだ

　だけどハカセは文句言いつつ大抵の無理難題を解決しちゃってる

　上が「ならこれもいけるんじゃね？」的な発想になるのも自然っちゃ自然

864:名無しの戦闘員

　首領ちゃん目線だと困ってもハカセに頼ればなんとかなる、みたいな感じだし

865:ハカセ

　そこらへんワイも自覚ある

　ただ好き勝手出来ること自体が尊い子からどうしてもなぁ

　お祭り準備スタート、でもワイは独りやない

　　猫耳「調理は任せる、にゃ」

　Ｌリア「お任せくださいハカセ様」

　Ｎ太郎「可能なところは僕達が担当を」

　　首領「わーい、お祭りお祭り」

　　Ｉ奈「えぇ、私もですか？」

　イカしたメンバーを紹介するぜぇ！

866:名無しの戦闘員

　普通に首領ちゃんおるぞｗ

867:ハカセ

　ワイ「お祭りって……皆で作り上げるものだと思う。その苦労も過ごした時間も、いつか大切な思い出になるんじゃないかな」

　首領「な　る　ほ　ど！」

　わりと簡単に手伝ってくれることになりました

868:名無しの戦闘員

　チョッロ過ぎぃ！

869:名無しの戦闘員

　将来が心配になるレベルのチョロっぷり

870:名無しの戦闘員

　でも首領ちゃんはチョロインでこそ輝くって聖典に書かれてた

871:名無しの戦闘員

　聖典ってなんだ

872:ハカセ

　まあ正直お祭りの準備自体はそんなに大変やない

　日本でやろうと思ったら自治体とかに許可とって近隣住人に挨拶伺いもせなあかん

　でも基地内でならスペースもあるし面倒な折衝もない

　やぐらを作って出す屋台決めて人員配置、その他もろもろ

　ワイの独断で店の並びまで決められるのはデカい

　物品の搬入はもうＮ太郎くんやＬリアちゃんに任せられるしな

873:ハカセ

　ただ屋台の準備を覗いてみればちょっとびっくり

　猫耳（たこ焼き）「たこ焼きは経験済みにゃ」

　猫耳（焼きそば）「ソースが香ばしいにゃ」

　猫耳（焼きとうもろこし）「秘伝の醤油ダレにゃ」

　猫耳（チョコバナナ）「かかったチョコは厳選品にゃ」

　猫耳（ベビーカステラ）「にゃ」

　猫耳（りんご飴・フランクフルト）「にゃ」「にゃ」

　猫耳（綿あめ・イカ焼き・焼き鳥）「にゃ」「大好きにゃ」「にゃ」

　お料理に自信ありな猫耳が分身の術的なのを使ってまで全ての屋台におった

　当然止めました

874:名無しの戦闘員

　卓越したくのいちスキルの無駄遣い

875:名無しの戦闘員

　ちょっとしたホラーじゃんｗ

876:名無しの戦闘員

　その術をハカセが覚えれば平和になるのでは？

877:名無しの戦闘員

　一人につき一人のハカセ……いけるやん！

878:名無しの戦闘員

　前の生放送で映った銀髪のすげーきれいな女の子が猫耳ちゃんなんだろ？

　いっぱいいるなら一人くらいくれませんかねぇ……　

879:名無しの戦闘員

　ワイも欲しいンゴ

　いっぱい食べるンゴ

880:名無しの戦闘員

　＞876　天才のそれ

881:ハカセ

　猫耳が望まない限り誰も認めません

　首領もお手伝いしてくれたで

　と言っても子供のお手伝いちゃうけど

　ワイやＬリアちゃんについてもらって全体の進行を把握してもらう

　監督役は慣れてもらわんとな

882:名無しの戦闘員

　お前幹部やめて教師とかになったら？

883:名無しの戦闘員

　ハカセって自分がいなくなっても問題ないように首領ちゃんを指導してる気がして時々不安になる

884:ハカセ

　＞876　絶対ムリ

　猫耳くのいちはファンタジックNINJAの宗家の生まれで

　しかも十歳の時点でその奥伝まで極めたっていうすっごい子やぞ

　教わったところで同じこと出来る自信ないです

885:名無しの戦闘員

　はえー　猫耳ちゃんすごいんやな

886:名無しの戦闘員

　ハカセ先生とエレスちゃんの禁断の恋……それもまたよきかな

887:名無しの戦闘員

　新しい情報が出てくるたびに思う

　普通の商家の生まれなのに幹部に名を連ねてるせくしーさん何者なの？　って

888:ハカセ

　ワイって教師は性に合わん気がする

　そんな感じで開催にこぎつけた組織祭り

　準備を頑張ってくれたからな

　当日は首領もＩ奈ちゃんたくさん遊んでもらうつもりやった

　Ｌリア「ハカセ様もどうぞ、今日は楽しんでください」

　( ,,｀･ ω´･)ﾝﾝﾝ？

　どうやらＬリアちゃんはワイも休めるように手筈を整えとってくれたらしい

　首領「ということじゃ！　さあハカセ、屋台を回るぞ！」

　ワイ「え、あ、はい」

　そうして手を引っ張られてワイも首領と一緒に屋台巡りや

889:名無しの戦闘員

　縁日デート！

890:名無しの戦闘員

　やはり首領ちゃん……

　首領ちゃんはデルンケムにて最強……

891:名無しの戦闘員

　おいやめろ縁起でもない

　その流れで行くと最期氏ぬじゃん

892:ハカセ

　首領「うむ、やはりたこ焼きは美味しいのう」

　首領「おめん買ってー、あと金魚すくいも！」

　猫耳（クジ屋）「おう、めんこい子なのにゃ。クジ引いてかない？」

　首領「それも！　三等のおっきいプラモは私のなのじゃ！」

　我儘な美女のプラモとか首領作れるんやろか……

　まあ楽しんでくれるのは嬉しい

　ちなみにワイはビールじゃなくラムネと焼きそばでプハァよ

　せくしーの手作りとは趣が違うけどこういう焼きそばも美味い

　首領「ハカセ、射的で勝負なのじゃ！」

　ワイ「ほう？　負けませんよ」

　まあ勝とうが負けようが取った商品は首領にプレゼントするけど

　なんで好きそうな玩具を狙う、ぬいぐるみゲットしたで

893:名無しの戦闘員

　首領ちゃん尊い

894:名無しの戦闘員

　病気で外に出れなかったんだもんな

　日本式のお祭りを楽しんでくれてなにより

895:名無しの戦闘員

　どうでもいいけどハカセって浴衣？

　あのイケメン顔で浴衣とか一部のお姉さんが騒ぐな

896:名無しの戦闘員

　のじゃっ子は間違いなくキツネ耳＋浴衣

897:ハカセ

　キツネ耳はないけど今日はみんな浴衣や

「Ｍ男お兄ちゃんを誘惑する♡」とか言ってＩ奈ちゃんは着崩しヤバかったけど

　そして首領は女性用の浴衣を自分で選んだ

　たぶんそういうことなんやろな

898:名無しの戦闘員

　ついに選ぶ性別決めたのか

899:名無しの戦闘員

　よっしゃ首領は可愛い女の子です派大勝利いぃぃぃぃぃぃぃィぃ！

900:名無しの戦闘員

　うるせえ！

901:名無しの戦闘員

　（首領ちゃんは可愛い女の子です）

902:名無しの戦闘員

　（ファミチキください）

903:名無しの戦闘員

　いやファミチキは関係ないｗ

904:ハカセ

　首領「お祭りは楽しいのう！　ハカセ、次に行くぞ次に！」

　ワイ「はいはい、走って転んだら駄目ですよ」

　手を引かれたまま屋台を見て回る

　打ち上げ花火くらいはやれたらよかったんやけど流石に基地内ではなぁ

　いつか外に連れて行ってあげたいなぁなんて考えつつ、お祭りを堪能するワイら

　ちょっと隅っこで休憩中、首領は懐かしい笑顔を向けてくれた

　首領「ありがと、ハカセ！」

　基地が完成した時もこんな感じやったなぁ……

　首領「ハカセはいつも私の我儘を聞いてくれる。それが嬉しくて、ちょっと申し訳ない。でも、今私が楽しいのはハカセのおかげだと思っておるのじゃ」

　ワイ「それは勿体ないお言葉です」

　お手々に持ったりんご飴をちろりと舐めて首領はすごく嬉しそうにしとる

　首領「うむ！　こうやって、またみんなでお祭りをしたい！　その時は、一緒に手伝ってくれる？」

　ワイ「勿論ですよ」

　首領「そうかそうか！　うはははははは！」

　こんなに喜んでくれるならお祭りやってよかったわ

905:ハカセ

　結果、日本侵略の大規模作戦が決定した

　すまんお前ら

　首都住みの奴らがおったら今のうちに逃げとけ

906:名無しの戦闘員

　もう首領ちゃんこれあれでしょ？

　乙女パワー全開なやつなんでしょ、知ってるんだからね

907:名無しの戦闘員

　結構前から女の子に傾いてたし当然の結果

　首領ちゃんしゅき

908:名無しの戦闘員

　甘ずっぺぇ……ワイが経験できなかった甘酸っぱさがあるンゴ……

909:名無しの戦闘員

　は？

910:名無しの戦闘員

　ちょっと待って、いきなりすぎて脳が追い付かない

911:名無しの戦闘員

　なにがあったの？

912:名無しの戦闘員

　ハカセ、冗談にしてもちょっとタチが悪い

913:ハカセ

　冗談でも何でもない

　簡易版の魔導装甲を装着した魔霊兵による首都襲撃

　狙いは国会議事堂、立案者は首領自身や

　もう時間稼ぎは出来ん

　首領は本気で日本侵略を叶えようとしとる

　◆

　アイナから教えてもらったお祭りを、私はハルヴィエドと一緒に回った。

　綿あめ美味しい。

　くじ引きはハズレで悔しかった。

　射的では負けたけど、ハルヴィエドは取った小さなぬいぐるみをプレゼントしてくれた。

　たこ焼きも焼きそばも美味しい。全部は食べきれないから二人で分ける。

　ああ、本当に楽しい。

「ありがと、ハルヴィエド！」

　だから私は彼に心からの笑顔を向けた。

「ハルヴィエドはいつも私の我儘を聞いてくれる。それが嬉しくて、ちょっと申し訳ない。本当は、無理して頑張ってくれてるって知ってる。今の私が幸せなのは、ハルヴィエドのおかげなのじゃ」

　伝える言葉に偽りはなかった。

　私は間違いなく幸せだと、そう思っている。

　でも忘れられないのだ、父様がいた頃の組織を。

　周囲からは悪評ばかりの非道の犯罪集団。あの頃はまだミーニャがいなかったけど、私にとってはひたすらに楽しい場所だった。

　豪快で頼りがいのある父様。

　強くて格好いいけど優しい義兄様。

　女性幹部のレティシアとよくお喋りをして、ゴリラみたいに暑苦しいレングだって出かけるとお土産を買ってくる。

　そしてハルヴィエドは今と変わらず、私の我儘を「仕方ない」なんて小さく笑って受け入れてくれた。

　すごくすごく楽しくて陽だまりのように暖かい場所。

　でも父が亡くなり、私が首領になったことで失われてしまった。

　全部全部、私のせいだ。

　だからこそ思う。

　私が、首領として正しい在り方を示せれば、きっと戻ってくる。

　ゼロス義兄様もレティシアもレングも、他の皆も。

　今度はミーニャやリリアやアイナも一緒に、あの楽しかった日々の続きを始めるのだ。

「ハルヴィエドよ、私はデルンケム首領として日本の政権を奪取する」

　それが、きっと正しい道だよね？

　◆

925:名無しの戦闘員

　ハカセ、どうするつもりなん……？

926:ハカセ

　ワイは首領の味方や

　組織の皆のためなら、この命に代えても………　

　って、昔のワイなら言っとったな

　でも今は違うで

　首領のことは大切で、フィオナたんたちも大好きやし

　アニキらとの飲み会もお前らとグダグダすんのも楽しい

　あと童貞卒業したい

　だから自己犠牲なんてクソ喰らえや

　ワイは絶対全部に片を付けてまたこのスレに書き込んでやるわ

927:ハカセ

　まあ、でも、そのためには

　首領には“上手く負けてもらう”必要があるんよなぁ

　はぁ、最後の最後で裏切りもんかぁ……