沙雪ちゃんと晴彦さん①




 自慢ではないが、それなりに男子にモテる自覚はある。

 ただ私は、外見からお淑やかとか清楚と言われるが実際には気が強く、きっぱりと物を言うタイプだ。

 なので告白されても普通に断わっていたし、軽い遊びの誘いにも乗ったことがない。

 当然ながら自分から男性の連絡先を聞くなんて経験は今まで一度もなかった。


「葉加瀬さん、守り石ありがとうございました。おかげでうまくいきました」

「それは神無月さんの日頃の行いの結果だろう。守り石は単なる気休めだよ」


 葉加瀬さんとは喫茶店ニルでタイミングが合うと自然に相席するくらい親しくなった。

 私が感謝を伝えても恩に着せるようなことはせず、彼は本当に美味しそうにシュークリームを頬張っている。

 

「うまぁ……マスター、このほうじ茶のシュークリームお土産に六つくらい包んでください」

「はは。気に入ったか?」

「ええ。妹にも食べてもらいたいと思って」


 しかし私は未だに彼の連絡先を知らない。

 素直に申し出れば教えてもらえそうなのだが、場数を踏んでいない私にはただ聞くだけのことが難しい。有り体に言えばとても恥ずかしかった。


『沙雪さん、茜さん。見てください、これ! ハルさんが妹さんとたこ焼きパーティーした時の画像です。私達も今度しませんか?』


 萌が、それはもう鮮やかな笑顔で画像を見せてくれた。

 萌は無邪気で人懐っこく、普通に葉加瀬さんと連絡先を交換している。

 メッセージや画像のやりとりだけでなく、聖霊天装を会得した時はお祝いに食事に連れて行ってもらったとか。

 嫉妬ではない。萌はいい子だし大事な親友で『ハルさんですか? 大事なお友達です!』と言っていたから、まったくもって嫉妬ではない。

 そもそも別に葉加瀬さんを男性として意識している訳でもないし。


「神無月さん、どうかしたのか?」


 そう、私はただ。

『萌ちゃん』と『神無月さん』という呼び方の差に、ちょっとモヤモヤするだけだ。


「いえ、なんでもないです」


 誤魔化すように微笑む。

 この日も葉加瀬さんの連絡先は聞けなかった。







554:名無しの戦闘員

 最近ヤバいくらい地球〇衛軍6やってる

 今日も一日中やっちまった 気付いたら日付変わろうとしてるじゃん


555:名無しの戦闘員

 俺も興味はあったんだけど買ってねーな


556:名無しの戦闘員

 お勧めだぞ 結構ハマる

 

557:ハカセ

 そのゲーム確か地球を守る軍人さんが侵略者を撃ちまくるやつやろ?

 ワイの立場だと今一つ素直に楽しめんのよね


558:名無しの戦闘員

 ああ デルンケムは侵略者側だもんなw


559:名無しの戦闘員

 てかハカセ今日は遅かったな もう日付変わるぞ


560:ハカセ

 今日はにゃんこがワイにもっと輝けと囁いてな

 だから相談させてくれ


561:名無しの戦闘員

 一切内容が伝わってこないんだけど


562:名無しの戦闘員

 つまりいつものハカセやな


563:ハカセ

 いやな 今日は妹と一緒に買い物に出かけたんや

 

564:名無しの戦闘員

 あれ? ハカセ妹いたの?


565:ハカセ

 うん、猫耳くのいちのことやけど


566:名無しの戦闘員

 ?? 


567:名無しの戦闘員

 妹プレイ?


568:名無しの戦闘員

 猫耳ちゃんとだと服とか?


569:ハカセ

 プレイゆうな

 服がメインやな あとちょっと家買ってきた


570:名無しの戦闘員

 家はちょっとで買うようなもんじゃねーよw


571:名無しの戦闘員

 ぶるじょわじー……


572:名無しの戦闘員

 組織は経営難なのに羽振りいいなぁ


573:ハカセ

 いやいや わりとしゃーない事情からでな


 今日 ワイは猫耳くのいちとお買い物に出かけとった

 オシャレにハマった彼女は新しい服を「選んで、にゃ」と頼んできたんや

 そんならショッピングモールにでもとお出かけして 帰りにはフードコートでジャンクな料理に舌鼓でも打とうと思ってな


574:ハカセ

 猫耳「ハカセ、これどう、にゃ」

 ワイ「おお、いいやん。可愛い」


 以前の安価の時の反省からワイは猫耳をちゃんと褒めるようになった

 それが嬉しいのか 次々に新しい服を持ってきてちょっとしたファッションショーや

 その中からいくつか気に入ったのを選んで購入

 物静かで表情変わらない系の猫耳も今日ばかりは満足そうな顔をしとったわ 


575:名無しの戦闘員

 普通にデートじゃん


576:名無しの戦闘員

 憎い…憎しみで人が〇せたなら……


577:ハカセ

 猫耳「今度はハカセ、にゃ」

 ワイ「ええ、ワイもですか?」


 その後はちょっと予想外な展開

 どうやら猫耳はワイをコーディネイトするつもりらしい

 いつものスーツは無難すぎるとかなんとか


 猫耳「身長高いし、こういうのも、にゃ」

 ワイ「むう、ちょっと冒険し過ぎでない?」

 猫耳「大丈夫、似合う、にゃ」


 なんというかパンク? ちょっと厳ついバンド系みたいな服とか大学教授っぽい服

 正直自分からは選ばないような服ばかり

 まあでも折角のおすすめだから着てはみたんや

 そんで鏡を見たらびっくり

 あれ……ワイ、かっこいい?


 ワイ「どや?」

 猫耳「セクシーにゃ」

 ワイ「こっちもよくない? 眼鏡もかけてみたり」

 猫耳「知的に見えるにゃ」


 うん、神霊工学者やから見えるも何も知的なんやけど?

 思いつつも無粋なツッコミはしない 猫耳は素直に褒めてくれとるだけやしな

 でも意外や意外に猫耳コーデはあつらえたようにぴったりやった


 気分が良くなってファッション誌ばりのポーズを決めると

 抑揚のない感じで猫耳が「きゃー、すてきー、にゃ」とノってくれた

 やばい、楽しい


578:名無しの戦闘員

 だから『にゃんこが俺にもっと輝けと囁いている……』かw


579:名無しの戦闘員

 あの手のギャル男ポーズをやったわけね


580:名無しの戦闘員

 前々から思ってたけどハカセって科学者ポジなのに基本お調子者だよな


581:ハカセ

 猫耳「次はコレ、にゃ」

 ワイ「任せろぃ」


 ワイのファッションショーは続く

 すると店内のお客さんもチラチラと目を向けるようになってな

 まあ「なに馬鹿にやってんだろ」的な視線もあるけど「あの人かっこいー」みたいな好意的な目も多かった

 なのでさらに調子に乗るワイ

 

 ワイ「ふふ、どうかな?」


 クールに決めポーズ

 喜ぶ猫耳

 微笑ましそうな店員さん

 ちょっと黄色い声を上げる女性客


  エレス「……」(頬赤

 フィオナ「……」(頬赤

  ルルン「わー、ハカセさんすっごく似合ってますっ」(超笑顔


 何故かいるロスフェアちゃん達

 誰がどう考えても分かるよね

 ワイ、やらかした

 ジョ〇ノ・ジョバ〇ナばりにガバッと胸元を開いて肌を晒しつつキメ顔してるところをガッツリ見られた


582:名無しの戦闘員

 このタイミングよwww


583:名無しの戦闘員

 もう狙ってるとしか言いようがないw


584:名無しの戦闘員

 やっぱ持ってるわwww


585:ハカセ

 固まるロスフェアちゃん

 そりゃそうや なんだかんだ皆15、6歳、成人したばっかりやもんな

 男の肌を見せつけられたら引くわ

 だけどそんな中、また救いの妖精が手を差し伸べてくれた


 ルルン「ハカセさん、こんにちは! 今日はお休みですか?」

  ワイ「ああ、それで、新しい服でも仕入れようとね。ははは……」

 ルルン「スーツ姿も、今日みたいな服もどっちもかっこいいです」

  ワイ「はは、ありがとね」


 一切の躊躇いなくワイに声をかけてくれるルルンちゃん

 いい子や…そのまま成長するんやで……


586:名無しの戦闘員

 またルルンちゃんの好感度上がったな


587:名無しの戦闘員

 ついでにハカセが処刑台の階段を上がっていくw


588:ハカセ

 ワイはフィオナたん推し! ついでに成人(15歳以上)にしか興味なしです!


 それにフィオナたんもいい子や

 ちょっと戸惑ってはいたけど咳払いして、微笑みながら話しかけてくれた


 フィオナ「ハカセさん、こんにちは」

  ハカセ「ああ、フィオナさん。昨日ぶり」

 フィオナ「あはは。最近は偶然ですが、相席する機会が多いですね」


 さっきの失態はなかったことにしてくれるつもりらしい


  エレス「こんにちは! えっと、いい筋肉な胸板ですね?!」


 エレスちゃんもいい子ではあるけど状態異常【混乱】が続いていた模様

 フィオナたんから話を聞くと彼女達は、なんかお揃いのアクセを買いに駅前まで出てきたらしい

 で、その後についでに服をと立ち寄ればワッションショー中だったと


589:名無しの戦闘員

 ワイのファッションショーでワッションショーか


590:名無しの戦闘員

 仲良しやなぁ、ロスフェアちゃん達


591:名無しの戦闘員

 アイドルグループみたいに「ちょっとー、私がセンターなんだからアンタら目立つマネ止めてよ」みたいな争いあるのかと思ってた


592:名無しの戦闘員

 そんな変身ヒロインいやだ


593:ハカセ

   猫耳「……」(くいくいっ

 フィオナ「あ、あれ? その方は……?」


 そういやロスフェアと猫耳は初対面やった

 幸いにも変身前のためフィオナたん達の正体はバレていない様子

 逆にネコミミもお耳を隠してるから幹部だとは気付かれていない


   ワイ「妹なんだ」

   猫耳「……ハカセ妹です」

 フィオナ「ああ、妹さんだったんですか!」


 暗部である猫耳は打ち合わせなしでもすぐにワイの妹として振る舞った

 初対面でちょっと警戒していたフィオナたんにも笑顔が戻る

 いつものスーツ姿に着替えるワイ


   猫耳「……着替えたの?」

  ルルン「すっごく似合ってましたよ?」


 勘弁してください


593:ハカセ

 猫耳が軽く自己紹介するとエレスちゃんとルルンちゃんに質問攻め

 どうしてもワイらの人間関係って組織内で完結してまうからな

 これも経験ってことで見守とった


 フィオナ「妹さん、かわいいですね」

   ワイ「自慢の妹だよ」

 フィオナ「お料理も上手だと聞きました」


 フィオナたんはその輪から外れてワイとお喋り! ワイとお喋りや! 

 ルルンちゃんから前のたこ焼きパーティーの画像を見せてもらったらしい

 ずるいー、みたいな拗ねた表情もかわええ


594:名無しの戦闘員

 なんだかんだ仲良しやん


595:名無しの戦闘員

 でもさ ハカセのフィオナちゃんへの感情って惚れた腫れたじゃなくて

 推しのアイドルに会えて嬉しい! 結婚したい! の域を出てないよな 


596:ハカセ

 >595 あー そうかもしれん でも好きなことには変わらんで

 

 フィオナ「そう言えばルルンはよくハカセさんの話をしています。お兄さんみたいだと」

   ワイ「ああ、ルルンちゃんとはメッセのやりとりをそこそこね。実は君達が一緒に遊んでいる画像も見たことがあるよ」

  フィオナ「少し、恥ずかしいですね。それで、ですね……その。お願い、といいましょうか」


 なんか言いにくそうにしてる

 こらワイから促したらなあかんかな、と思った時や


597:ハカセ

 猫耳と話しとったエレスちゃんがこっちに来て、


「あ、ハカセさん! それじゃあ今度おうちにお邪魔しますね!」


 ものっそい笑顔でそう言った


598:ハカセ

  ワイ「うん?」

 エレス「えっと、妹ちゃんと仲良くなって、今度は遊ぶ話になったんです」

  ワイ「そうなの?」

 エレス「はい。勿論フィオナちゃんやルルンちゃんも一緒に。よろしくお願いします!」 


 ワイ、猫耳の方を見る

 すすっと目を逸らされた


猫耳「……にゃ」

ワイ「にゃじゃないが!?」


 猫耳、エレルンちゃん達の勢いに負けてハカセ家にご招待する約束をした模様

 それってつまり組織の秘密基地ですが?


599:名無しの戦闘員

 正義の変身ヒロイン、悪の秘密基地に遊びに行く約束をする


600:名無しの戦闘員

 まさかとは思うが猫耳ちゃんもポンコツなのか……


601:名無しの戦闘員

 よく考えてみろよ 12歳の頃からハカセが面倒見てきたんだぞ


602:名無しの戦闘員

 あぁ それはポンコツだわ


603:ハカセ

 >601、602 どういうこと!?


 この事態を打開するためにワイは虹色の脳細胞をフル回転させた


   ワイ「そうか……今日はこれから食事に行くから、また日を改めてもらうが構わないかな?」

  エレス「はい、勿論です!」

   ワイ「なら、こちらから改めて連絡をいれよう。三人が来るなら歓迎したいしね」

 フィオナ「で、でしたら私が一番年上ですし、連絡役を請け負います」

   ワイ「そう? じゃあ私の番号を教えておくよ」


  そう、とりあえずこの場は解散して早急に家を買って、さも「ここで暮らしていましたが?」みたいな顔をして彼女達を迎える

  ハカセさん家ノ家庭事情計画発動や


604:名無しの戦闘員

 ……タイミングが合わずに結局約束はお流れになりました、でいいのでわ?(名案


605:ハカセ

 そんなことしたら猫耳が嘘ついたみたいになるやろ!?


606:名無しの戦闘員

 なんだその理由w


607:名無しの戦闘員

 猫耳ちゃんにはわりと甘いのね


608:ハカセ

 あとよくよく考えたらフィオナたんがウチに遊びに来るってことやしな!

 ちょっとイイ感じのマンションを買ってセンスある内装にして「わぁ、ハカセさんってオシャレー」とか言われたい

 なので相談です

 なんか女の子受けのいいオシャレなインテリアについて教えてください┏○ペコッ


609:名無しの戦闘員

 そこはにゃんj民任せかよ!?


610:名無しの戦闘員

 所詮ハカセはハカセだなw


611:ハカセ

 ちなみに帰り際、猫耳に

「ハカセが何も言わないなら、私は何も知らないままでいる、にゃ」って言われた

 女の子っていつの間にか成長するもんやな……

 



 ◆




「ふふ……」 


 日曜日の夜、私はスマホを握りしめてニヤニヤとしていた。

 昼間は茜や萌とお揃いのアクセを買いに出かけた。

 その帰り、立ち寄ったお店に葉加瀬さんがいた。

 いつものスーツ姿ではなく、色々な服を試着していたようだ。

 しかも何故か少しはだけて。普段の優しい彼ではなく、真剣な表情に少し驚いてしまった。

 あと、服の下は結構鍛え……なんでもない、考えてはいけない。

 

 妹さんの葉加瀬美衣那(はかせ・みいな)さんとも知り合えた。

 なんというか、彼は美衣那さんとは相当仲がいいらしい。

 彼女が何かを言うと「仕方がないなぁ」と優しい表情をして、何でも聞いていた。

 おそらくあのポーズもその一環だったのだろう。

 

ハルっち【では、また予定が決まったら連絡するよ】

 Sayuki【お願いします、葉加瀬さん】

ハルっち【そうだ。苗字だと妹と被るから下の名前で呼んでもらえるかな?】

 Sayuki【それなら晴彦さんと。私のことも、どうぞ沙雪と呼んでください】

ハルっち【分かった。それじゃあ、お休み。沙雪ちゃん】


 美衣那さんにはとても感謝をしている。

 彼女と茜が交わした遊ぶ約束のおかげで、私は意図せずして葉加瀬さん……晴彦さんの連絡先を得てしまった。

 しかも沙雪ちゃん呼びまで。

 申し訳ないような気もするが、とりあえず。


「にへへ……」


 私は妖精の加護に感謝して、しばらくスマホを眺めていた。




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