22、初デート。
ヒロインリディアと超美麗ネロ様の初デート。
学園の帰りに街へ買い物に出かけてイチャイチャするイベントだ。
「あ、またリディア嬢が怒ってる」
超美麗ネロ様は目立つ。
容姿98の男が腰蓑一丁で街を歩くと、それはもうとにかく目立つ。
その容姿に釣られ、うら若き乙女達がネロの周りに群がり、そして集まった乙女達をリディア嬢が怒って追い払う。
しかしまた暫くすると人だかりが出来る。
そしてまた怒る‥‥‥。
───何というスパイラル。
コレはもうリディア嬢は、デートどころじゃないだろうな‥‥‥。
「あんたって、ホントに
「ご主人様‥‥‥尾行って意味知ってます?」
そしてここにも、大勢の人を引き連れて歩く女性が1人。
「‥‥‥だから、私は人混みに来るのは嫌だって言ったでしょ」
「‥‥‥だから、俺は先に帰っててくださいって言ったんです」
超美麗ネロ様を上回る容姿100の実力はとんでもない。
集まってくる人間を恐ろしい顔で睨みつけているので、話しかけてくる者はほとんどいなかったが、自然と俺たちの後ろをゾロゾロと付いてくる男どもが増えていっていた。
───‥‥‥大名行列ですか?
「なんかあったら助けなさいよ‥‥‥」
「ご主人様はいったい何しに来たんですか?」
「うるさいわね」
アッチはアッチで大変そうなので、まだ俺たちに気付いていないようだが、バレるのは時間の問題だろう。
───目立ち過ぎ‥‥‥。
今回のデートイベントでも、リディア嬢には奴隷を連れて買い物をした後に3択問題が用意されていた。
『塔に登り夜景を見せてその気にさせる』
『イケナイお店に入り
『新しい
選択肢はこの3つ。
どれを選んでも奴隷の綺麗なグラフィックが見れるうえに、好感度が上がる良いイベントだ。
‥‥‥もうね、内容には触れないであげてくれ。
「ねえ、男って
「そんな人もいるんでしょうね」
「あんたも舐める?」
「‥‥‥いえ、結構です」
「そう」
残念ですが、俺はまだその境地に至っておりません。
リディア嬢がどの選択肢を選んでも奴隷の好感度が上がるだけなので、特に俺たち悪役ペアには関係ないように思われるこのイベントだが、実はちょっとした分岐点だったりする。
『塔に登り夜景を見せてその気にさせる』
この選択肢を選ぶと、塔の最上階でリディア嬢達は街のゴロツキに襲われる。
奴隷の活躍により事なきを得るのだが、プレイヤーはそこでゴロツキ達を雇った人間の名前を知る事になる。
───そう、ローズ・ブラッドリィ‥‥‥。
俺の後ろで集まってくる男たちを睨みつけて威嚇しているご主人様は、もちろんそんなゴロツキは雇っていない。
しかし、ゲーム上ではそうなっている‥‥‥。
今回の目的はリディア嬢にその選択肢を選ばせない事と、最悪選ばれたとしてもゴロツキをとっ捕まえて、本当の黒幕を聞き出す事だ。
いったいどこまで俺がストーリーに関わる事が可能かはわからないが、足掻くだけ足掻いてみようと思っての行動である。
ピシッ!
街に響きわたる乾いた音。
「あの‥‥‥もう帰ってもらっていいです?」
「嫌よ」
見ると、いばらの鞭を振り回して暴れてるご主人様。
───尾行ってなんだっけ‥‥‥。
「食べる?」
ソフトクリームを舐めながら、俺の後ろを嬉しそうについてくるご主人様。
「いや、いいです‥‥‥」
日本の製作陣が作ったこのクソゲーには、ちょこちょこと世界観に合っていないアイテムが登場したりする。
ご主人様が俺に差し出してきたこのソフトクリームもその一つだ‥‥‥。
「こんなにゆっくり街を歩くのは初めてね。あんた、ウジ虫のくせにやるじゃない」
ご主人様の顔には雑貨屋で購入した色付きメガネが装着されている。
───まるで芸能人‥‥‥。
だが、その効果は
駄目元で購入したアイテムなのだが、まさかこんなに効くとは‥‥‥。
もしかして、何か特別な効果でも付与されているのかな?
「ご主人様、目的を見失わないでくださいね」
「わかってるわよ」
「俺には楽しんでいるようにしか見えませんが?」
「悪い?」
「あ、開き直った!」
「うるさいコバエね」
「ひでぇ」
「‥‥‥あっ、ねえ。あの2人なんか店に入りそうよ?」
指差した方向を見ると、リディア嬢とネロ様は立ち止まり店の入り口の前で何かを話してこんでいた。
‥‥‥ご主人様、ちゃんと見てたんですね。
「行きましょう!」
リディア嬢とネロ様のヒーロー&ヒロインコンビが入った店の前に急ぎ駆けつける俺たち。
───‥‥‥なんだこの店?
看板も何も付いていない民家のような店舗。
いや、そもそも本当に店なのか?
「‥‥‥」
ご主人様はうつむいて黙り込んでしまっている。
何か考え込んでいるようだが‥‥‥。
───ご主人様も知らないのか? 怪しい店だな。
「ご主人様、とりあえず俺たちも客として、入ってみましょう」
「あ‥‥‥ま、待って」
俺の服の袖を掴むご主人様。
「どうしました?」
「その‥‥‥こ、心の準備が‥‥‥」
俺を見るその顔は色眼鏡越しでもわかるくらい真っ赤だった。
「‥‥‥はい?」
ガラガラッ。
店の扉が突然開き、外に出て来たのはひっつきながら歩く若い男女。
「ニア様、今日も激しかったですぅ」
「レイラ、今日も素敵だったよ」
「もう、ニア様ったら」
愛を語り合いながら夜道に消える男女。
そのイチャイチャ振りは凄まじい‥‥‥。
───あっ。ここ、イケナイお店だ!
リディア嬢は『イケナイお店に入り
リディア嬢はゴロツキに襲われる選択肢を選ばなかった。
今頃、超美麗ネロ様は
コレでとりあえず襲撃イベントは回避できたわけだが、どうせならゴロツキを捕まえようと、塔の下で待機して怪しい人間を探している俺たち。
しかし、結構な時間は経過しているのだが、一向にゴロツキは現れない‥‥‥。
「ねえ、もう来ないんじゃない?」
「‥‥‥もう、帰りましょうか」
「見ていかないの?」
「‥‥‥そうですね。一応上も覗いときましょうか」
コツコツといつもの足音を響かせ、塔の階段を上っていくご主人様。
その音はとても軽やかだった。
───今日は完全に無駄足だったかな‥‥‥。
やった事と言えば、色眼鏡をアレでもないコレでもないと言い争いながら購入して、ご主人様の食べかけのソフトクリームを無理やり口に入れられて、最後は塔に登って夜景を見ただけだ。
「‥‥‥綺麗」
「‥‥‥ですね」
周りに人がいないので色眼鏡を取って夜景を見つめるご主人様。
その横顔は夜景なんかよりずっと綺麗だった。
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