21、幸せの条件。【ローズ視点】
「ご主人様、見て見てっ!」
目をキラキラさせながら、嬉しそうに私を見つめてくる男は‥‥‥一応、私の奴隷だ。
───‥‥‥可愛い。
手の中の茶色とも紫色とも言えない、グロテスクな色の木の実を見せてくる。
「‥‥‥キモいわね。あんたコレ本当に食べるの?」
どう見ても腐ってるようにしか見えないわね‥‥‥。
‥‥‥お腹壊さないでよ‥‥‥。
「やっと見つけました。コレ食べるだけで、ステータスが上がるんですよ? 凄くないです?」
「うじ虫には丁度いいエサね」
「‥‥‥この見た目じゃ、うじ虫も寄り付かんでしょうね」
「そうね」
「でも、変なんですよ。前はもっと簡単に見つかったんですけど‥‥‥」
「うじ虫の散歩の為にわざわざ来てあげてるんだから、もっと他も探してみたら?」
私はデートのつもりだよと、どうしてここで可愛らしく言えないのだろうか‥‥‥。
そもそも、こんな所までアイツが来てるのは私の為だと言うのに。
「ご主人様コレ預かっててください。じゃあ、もう一度行ってきます!」
私に『愛の木の実』を手渡すと、勢いよく走って行ってしまった。
「がんばって」
こんな小さな
空は雲一つない晴天。
森の中にあるひらけた草むらで、私はレジャーシートに座り、森を動き回るアイツの姿を目で追いかけていた。
ちなみにレジャーシートというのは、アッチの言葉らしい。
毎日のようにアイツを部屋に呼び出し元居た世界の話を聞いているので、その時教えてもらった。
それが最近の私の日課でもあり、とても楽しみな時間だ。
本当はその時間を利用し、他の令嬢達のように彼の育成をするべきなのだろうが、どうも私には鞭を打ってステータスを上げるという行為が理解出来なかった。
そもそも、なんで好きな人を傷つけないといけないのか‥‥‥。
───私はアルが大好きだ。
怖くて本人には聞いていないが、好感度は100になっていると思う‥‥‥。
いくら男性経験が皆無な私でもそれくらいはわかるし、コレが90台なんて事は絶対にあり得ない。
もしこれ以上好感度が上がる事があるなら、アイツを見るだけで私は萌え死んでしまう自信がある‥‥‥。
‥‥‥まあ、そんな理由で私にはどうしてもアイツに鞭を向ける事が出来ず、迷惑をかけていた‥‥‥。
もちろん、ソレは他の令嬢達は普通にやっている行為。
幼い頃から異端児と言われ続けている私は、やっぱり思考回路がどうかしているのだろう。
正直アイツの話してくれる世界の方が、私には受け入れやすい。
───いつか一緒に行ってみたいな‥‥‥。
「せいやっ!」
変な奇声をあげて木を蹴飛ばしては木の実を探し、私の事を心配してくれているのかチラチラと様子を見に来てくれる。
───幸せだ。
この時間が永遠に続けばいいなと思うが、どうもそうはいかないらしい。
大会が終わると同時に私は処刑されるそうだ。
そうならないように、今も頑張ってくれているのだけれども‥‥‥。
実は、私はアイツに少しイジワルをしている。
大会で優勝し王子と結婚する以外、私には生き残れる方法がないそうだ。
我ながらふざけた人生だなとは思う‥‥‥。
私は王子と結婚する気は全くない。
優勝した令嬢には最後の選択というものが用意されていて、王子か奴隷のどちらと結婚するかを選べるらしい。
‥‥‥もし、アイツが最後の選択の時に告白をしてくれるなら、私は迷わずアイツを選ぶし、告白してこなくても私は王子と結婚はしない。
好きでもない人間と結婚してまで生きようとは思わないし、王妃になったら多分アイツとはもう会えなくなる。
そんな生き方になんの意味があるのか。
コレが、私がアイツにやっているイジワル。
どんな結果になっても、私は処刑される道を選ぶのだから、大会で優勝する必要なんて全くないのに、私は黙っている。
そんな事も知らずに、アイツは私の為に頑張ってくれているし、今日のように学園が休みの日でもずっと側に居てくれる。
───それがとても嬉しかった。
我儘は女性の特権だと昔聞いたことがある。
私だって一応女なわけだし、死ぬ前の僅かな期間なのだから、これくらいの我儘は神様も許してほしい。
‥‥‥アイツには、最後に謝る予定。
「ご主人様、やっと見つけた!」
身体中に葉っぱや虫の死骸が付いている。
‥‥‥頑張ったのね。
「‥‥‥キモッ」
───ありがと。
大会はまだ続く。
この幸せを噛み締めて、今を生きようと思う。
アルバートに対する自分の好感度が、まだ95しかない事を彼女はまだ知らない。
先に萌え死ぬ日はそう遠くないぞ‥‥‥。
頑張れ、負けるな、ローズ・ブラッドリィ!
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