11、急行列車。



 女の園『聖バラバラ学園』。

 大会はその校庭で行われるため、観客のほとんどは年頃の女生徒達であった。

 そして観客が黄色い声援を上げながら見つめる先には、4人の腰蓑こしみのの男達。


 ───恥ずかしい‥‥‥。






「見てろリディア。俺は必ず手に入れる、勝利も‥‥‥そしてお前も」


「ネロさん‥‥‥頑張ってください!」


 ピシッ!




「エリー、テメェの為に死ぬ覚悟でやる。よそ見してんじゃねえぞ、俺だけを見てろよ」

 

「ゴードン、カッコいい! ファイト〜!」


 ピシッ!




「さて‥‥‥君のために出来るだけやってみるよ。応援しててねニーナ」


「レックスさん、愛してます‥‥‥」


 ピシッ!



 

 ───うん、やっぱり狂ってる!

 

 甘い言葉を囁いた後、四つん這いになり主人に鞭で打たれているイケメン達。

 そして、そんな彼らを見つめている観客達からは、鞭を打つたびに大きな黄色い歓声が上がった。


 ‥‥‥この惨劇のどこに乙女心をくすぶる要素があるのか、誰か教えてくれないか?

 



 ───ん?


 笑っている事を誤魔化すため下を向いていた俺を射殺すような鋭い視線。


「‥‥‥」


 ‥‥‥ご主人様が見てる。


「‥‥‥なんでしょう?」


「別に」


 じゃあ、そんなに睨まないでください。


「まさか‥‥‥ご主人様も甘い言葉待ちですか?!」


「キモッ」


 ですよね。


「まあ、ほどほどに頑張りますんで」


「‥‥‥だけ?」


「おお、やはり死ぬ気で走れと?」


 頑張っても1位にはなれないと思うのだが‥‥‥。


「やっぱり、あんたに鞭の味は贅沢だわ。一生そうやってウジウジニョロニョロしながら干からびて、大地の栄養になってしまいなさい」


 あっ、なるほど。

 なんかしつこいと思っていたが、鞭が打ちたかったのか。

 それならそうと、さっさと言えば良いのに‥‥‥。

 

、お前は本当に困った子猫ちゃんだな‥‥‥ほら、もっとこっちにおいで」


「‥‥‥‥‥‥」


 超美麗ネロ様がゲーム中に言っていた言葉をそのまんま真似してみた。

 この際、内容はどうでも良いだろ?


「はい、鞭をどうぞ!」


 俺は地面に手をつき、四つん這いになった。

 さあ、初めての鞭をください。

 なんなら、なんかステータスを上げてください。



 暫く沈黙。



「‥‥‥鞭、持ってない」


「あ‥‥‥はい」


 そう言い残すと、ご主人様はフラフラと観覧席の方へと歩いて行った。


 ───アイツ本当に大丈夫か?


 足取りもフラフラだし、何より暴言の一つもない。


 それにしても‥‥‥ローズ・ブラッドリィって、こんなだったっけ?







 一回戦『ドキドキ駆けっこ対決!』は、その名の通り足の速さで奴隷達が競い合う。

 ゲームだと奴隷の体力とボタン連打の速さで勝負が決まる、はっきり言って全く面白くない競技。

 まあ、唯一の救いはバグのせいで、コース以外のどこでも走り回れる事くらいだったが、それもどうなんだと‥‥‥。




 さて。


【アルバート】

教養21

体力28

感性22

品位20

〜〜〜〜〜〜

容姿45

好感度──


 コレが今の俺のステータス。

 ご主人様が鞭を打ってくれない為、初期値から全く変わっていないが『体力』は28。


 ───お分かり頂けるだろうか?

 

 俺はこの一回戦を見越して『愛の木の実』によるドーピング時、体力を優先して上げていた。


 ───そう。作戦通り。



 

「アルバート、気合い入ってるじゃねぇか」


 スタートの予行練習をしていた俺に話しかけてきたのは、今回最大のライバルになるであろうゴードン。


「いやいや、少しくらい頑張ってる感じ出さないと、後で怒られるだろ?」


 謙遜です。

 油断しておくれ!


「まあ、一回戦は運動神経抜群の、このゴードン様のぶっちぎりだからな。アルバートも頑張れよ!」


 そう言うと、機関車ゴ◯ドンはニコニコと自分のスタート地点に向かって行った。


 ───‥‥‥うわ、コイツも28かよ‥‥‥。


 しれっと盗み見たゴードンのステータスに驚愕である。

 俺と全く同じの『体力』28‥‥‥。

 やっぱりゲーム通り、コイツは体力のノビが異常だ‥‥‥。


 今回、どちらかと言うと頭脳タイプで体力の低いレックス君は申し訳ないが敵じゃない。

 超美麗ネロ様は先程確認したら体力は24だった。

 しかしネロはチートで必ず勝利する。

 つまり俺の敵はこの機関車なのだが‥‥‥。



 ───これは2位も怪しいぞ‥‥‥。




 スタート地点で豪快に笑いながら準備運動をしている機関車◯ードン。

 俺には、彼が急行機関車に見えて仕方ないのだった‥‥‥。

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