3 彼女の正体とカレーライス
「んで、見事に下敷きになったわけ?」
「迂闊でした」
カミトは病院のベッドの上で寝ながら優しい女性の声に応えた。
「らしくないわね。まぁこれでわたしは美味しいものにありつけるわけだけど」
「オレの食べなかった病院食をイマイチと言った口が何をおっしゃってるんですか?」
カミトは女性の言葉に負けじと言い返した。
「やーねー。あれじゃないの」
「わからない人だ。ここは病院です。病院食以外出るわけありません」
カミトは自分の上にかけられた布団を被った。
「オレは寝てますので、人来たら追い返してください」
カミトは部屋の灯りを消すとそのまま目を閉じた。
しばらくするとガラガラという音が響いてくる。
ーーーー食事の時間にしては早くないか?
そんな疑問はいらない。
今はただ独りになりたい。
それだけだ。
ーーーーオレのことはなんとでも言え。
そんな気持ちと裏腹に近くにいる彼女はそわそわしている。
カサカサという音でわかる。
大人しくしていただきたいが母親の命令でここにいる以上、変に怒らせるとここが地獄絵図になる。
ーーーー息を潜めよう。それがいい。
カミトは目を瞑り、意識を沈めようとした。
「ーーーー痛っ」
手の甲に走る痛み。
誰かがカミトを起こそうとしていた。
「痛っ!!痛っ!!痛っ!!痛っ!!痛たっ!!!」
カミトの腕に痛みが突然走った。
カミトは堪らなくなったのでばっと飛び起きた。
「なんなんですか!!?」
カミトは声を上げた。
「美味しいご飯の時間よ~!灯りをつけなさい!!!」
怒りに我を忘れそうな女性の声にあきれながらカミトは部屋の灯りを付けた。
「いきなりどうしたんです!?」
「だから、美味しいご飯の時間って言ったでしょ!!!」
「スゴい怒ってる。どうしたんです?」
「まぁ、わかるわよ。そろそろ来るわ」
彼女の話が終わるとノックが響いた。
「こんばんわ!晩御飯の時間です!」
病室の扉の外から聞いたことある声がした。
「開いてますよ。どうぞ」
カミトは返事した。
「来たぞ!カミト。入院したんだって!!!」
扉を開くと見たことある赤毛の女性が大きなカートを押して部屋に入ってきた。
「はい?なんですか?あなたは?」
「なんですか?って・・・・当然見舞いにきたに決まってるだろう」
メルフィーアは切り返した。
「お断りします」
「そう言わないでくれ」
「え?」
追い返そうとして言った言葉に対し、メルフィーアの暗い申し訳ない表情で返した。
彼女の態度にカミトは驚くしかなかった。
「当たり前だ。わたしのせいでこうなったんだ。怒るのは至極当然だ」
カミトはメルフィーアの言葉に呆然とするしかなかった。
「わたしはわたしとして責任はある。それはキチンと取らせて欲しい」
ーーーーいったい何をするつもりなんだ?
カミトは頭の中に疑問が過ぎった。
「わたしは考えた。考えに考え抜いた結果だ。
一刻も早く元気なってもらい、退院してもらわないといけない」
「・・・で、何が言いたいんです?」
メルフィーアの力説を聞いてカミトは返した。
「見舞いの品だ。好きなだけ食え」
メルフィーアは押してきた台車の上を指した。
台車は二段タイプで上の段には炊飯器と何かが入っている鍋、下の段にはお玉、しゃもじなどの道具の類いが積まれていた。
「メルフィーアさん、病院ですよ?ここ」
「大丈夫だ。ここは国軍の偉い人であるおじさまの許可はしっかり取ってきた」
メルフィーアは胸を張って返した。
「そもそもそういう問題ではないと思いますが・・・」
「おいおい、ここは国軍が管理する病院だぞ?国軍の偉い人であるおじさまの許可があれば大丈夫だ」
「・・・・いや、えーとその前に病院に何を持ち込んます?」
カミトは固まった。
ーーーー事態が理解できない。意味不明だ。
「わたしメルフィーア特製カレーライスだ。ご飯はここで炊かせてもらったが」
「・・・・へ?特製のカレーライス?」
「うちのクラスメイトたちには大好評のカレーだぞ。好きなだけ食べるといいぞ」
メルフィーアは笑顔で自慢げに応えた。
「・・・・・そうですか。まぁ、ここまでした以上はいただきますが」
カミトはメルフィーアがよそったカレーライスを受け取り、食べ始めた。
「ねえねえ、美味しそうな匂いするわね?わたしももらってもよろしいかしら?」
「ああ。どうぞ。わたしもここで食べるつもりでたくさん作ってきたから大丈夫だ」
メルフィーアは優しい女性の声に勇ましく応えた。
「・・・・って今の声の主は誰だ?」
「言って置きますよ?おそらくあなたとオレ以外、この部屋には人間はいません」
カミトは慌てるメルフィーアに対し冷静に応えた。
「全くだ。国軍に入っている連中に食わすには勿体ないほどのうまいカレーですね」
「おいおい、国軍に所属しているわたしのクラスメイト達を悪く言わないでくれ」
「今のはただの揶揄ですよ。オレ、国軍の連中はあまり好きじゃないんで」
カミトは笑いながら返した。
「でさー、このお皿にちょびっとでいいから注いでくれない?」
カタッ。
メルフィーアは自分の手のひら位のお皿を渡された。
「・・・・・ええええ???????」
メルフィーアは自分にお皿を渡した存在を見て固まった。
「どうしました?メルフィーア」
カミトはメルフィーアの驚いた声に反応した。
「ねえねえねえねえ!!!!まだなの?まだなの??」
メルフィーアはその声の主を見て固まった。
カミトは確かに言った。
ーーーー自分達以外の人間はいないと。
メルフィーアは考えていた。
「あれ???どうしたの?どうしたの?どうしたの?どうしたの?」
それはメルフィーアに近く寄って首をかしげた。
メルフィーアが驚くのは無理はない。
メルフィーアの頭と同じ大きさ位の梟がメルフィーアにカレーをねだっているのだ。
「・・・・・カミト、フクロウって人の言葉話せたか?」
メルフィーアは思わず漏らした。
「そんなわけないですよ。彼女はオレの母さんの使い魔。今のオレのお目付け役といったところです」
カミトは笑いながら応えた。
「えーとえーとえーと困った困った。にゃーにゃーにゃー」
「あなたは猫でなくフクロウでしょう?」
何かごまかし方を間違えているフクロウにカミトは応えた。
「これは・・・・?」
「大丈夫です。人の食べるものなら大概食べれるようですからあげても問題ありません」
メルフィーアは小さいお皿にご飯を乗せ、カレーをかけてフクロウが食べるにはちょうどいいスペースである小さいテーブルの上に置いた。
「・・・どうぞ」
戸惑いながらメルフィーアは言った。
「いただきます~!」
フクロウが嬉しそうに顔をカレーに突っ込んで食べているのだ。
メルフィーアはなんと言えばいいのかわからない。
「あら!ホントに美味しいわねえ!もっと!もっと!美味しすぎて溶けちゃうわ!」
フクロウは嬉しそうに話しながらさっきとからだの形が変えた。
「ホントだ!溶けた!!」
メルフィーアは驚きの声をあげた。
「それ、膝をおっているだけですよ!騙されないでください!」
「もうーつれないわね。カミト~」
メルフィーアは目を丸くしてみているしかなかった。
「えーと・・・おかわりどうぞ」
メルフィーアは謎のフクロウに要求されるままおかわりを差し出した。
「ありがとう~♪最高~!これをいつでも食べれるおじさまって人、うらやましいわー」
「ところでさえずりさん、どうして出てきたんですか?彼女、軍属でないにせよ、保護者が国軍のエラい人ですよ?」
「それがどうしたのよ?カミト~」
さえずりさんと呼ばれたフクロウはカレーを食べながら返した。
「さえずりさん!!?カミト。今、さえずりさんって言わなかったか?」
「そうですよ。彼女はオレの母さんの使い魔で名前がさえずりって言います」
カミトはメルフィーアの驚いた疑問に淡々と応えた。
「それが何か・・・・?」
「あの、あのときはありがとうございました!」
突如メルフィーアはさえずりに対し頭を下げた。
「いいのよ~ってそういうことね」
「はい?」
今度はカミトの方が事態にポカーンである。
「くんくん。あなた、甘い匂いするわね。もしかして、失敗した口?」
「バレちゃいました?」
メルフィーアは笑って返した。
「で、何か持ってるわね」
「そうだ。カミト。道中で同じ学校の子から預かってきたぞ」
メルフィーアはポケットから小さい可愛いらしい袋を取り出しカミトに渡した。
「・・・・」
カミトはそれを黙って開けると口のなかに流し込んだ。
中身はクッキーらしくボリボリ音を立てながらハムスターよろしく頬を膨らませている。
そして、近くにおいていたみずさしでコップをその中身で満たした。カミトは無言でコップの中身を飲み干した。
「くれないの~?ケチ~」
「オレの為の用意されたものですよ?オレが全てありがたく食べるのは当然です」
「まぁまぁ。ここはわたしに免じて」
メルフィーアはさえずりを制した。
そして、メルフィーアは自分の用にカレーをよそった。
「家に帰ってもわたしは一人なのでここでいただきます~」
「あなたも苦労してるのね?」
「別に~!そういうわけじゃないですよ~」
そうして時間は静かに過ぎていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます