僕だけが見えるもの
日比野晴人
プロローグ
人はいつか死ぬ。しかし、それがいつかは誰にもわからない。
大切な人が明日死ぬかもしれない。言いたかったことを言えずに死んでしまうかもしれない。だが、僕にはその心配はない。なぜなら人がいつ死ぬか分かるから。
僕の名前は志乃解斗。僕は人がいつ死ぬのかがわかる。「死の日付」が見えるのだ。人の顔を見ると、顔の上のほうに西暦、下のほうに日付が薄い青の文字で書いてあるのが見える。正確には顔の前に浮かんでいるように見える。人によって微妙に文字の位置や大きさは違うがそこまで大差はない。要するに、僕は他人の本当の顔を見たことがない。「死の日付」のせいで文字が隠れてしまうのだ。
この能力を自覚したのは、中学一年生の冬、祖父が死んだときだ。小さい頃から見ていた祖父の目に書いてあった日付に祖父は病気で亡くなった。そのとき、やっと自分の能力を理解したのだ。
幼稚園ぐらいの頃に、親に能力のことを言って病院に連れて行ってもらったことがある。でも何も異常がないとだけ言われた。
この日付は今までに誰のものも変わったことがない。一見、人の死がいつだか分かる素晴らしいものだと思えるこの能力だが、実はまだあまり実用性がない。まだ高校生なので身近で死んだ人は少ないし、テレビや写真の中に映ってる人たちの日付は見ることはできない。あくまでも実際に目の前にいる人だけだ。
そういうわけで、僕の見ている世界は普通ではない。だから僕は人と目を合わせるのが苦手だ。なるべく目を合わせない。合わせたとしても、つい癖でそらしてしまう。そうすれば、僕も周りと同じものを見られているような気がするからだ。そのせいで、コミュ障だとか揶揄されることもよくある。そして、学年が上がるにつれ陰口への耐久性が上がっている。これが喜ばしいことなのか、悲しむべきことなのかはよくわからない。
僕は内気で、友達があまり多くない。これが能力のせいなのか、自分の性格のせいなのかはわからない。でも少なからず、どちらのことも恨んでいるのは確かである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます