最近失恋した貴方は読むべきでない酸っぱめ恋愛短編集

素質が無い

友達としてしか見れない

勇気を出して告白したのに、友達としてしか見れない、って断るの、かなり残酷なことを言ってるという自覚を持つべきだと思う。僕のことを好きになってもらおうとしてきた努力は、彼女に何にも響いてなかったんだ、と気付かされる。


無防備がすぎる子だった。電車でちょっと寝るからと僕の肩に頭を預けたり、さむいさむーいと突っ込んできて僕に腕を回してきたり、お酒が入ると余計にボディタッチが増えたり。友達の基準みたいなのが違うんだろうけど、僕に気があるんじゃなんて勘違いしちゃうよ、そんなの。


2人きりで、何回かデートだって行った。お洒落なデートスポットを調べたり、ちょっと奮発してお高めなレストランを予約したり。向こうはただの仲良しこよしなおでかけとしか思っていなかったって事?


友達としてしか、ということは、彼女にとって僕は友達だ。男女において、友達の次のステップは恋人だと思っているんだけど、どう足掻いても友達の範疇を越えない、ということ?


少なからず僕が告白したことによって、僕が彼女のことをどう思っていたか気付いたはずだ。僕と彼女が恋人関係になったらどうなるのか、という想像もしたはずだ。した上で、やっぱり無理だ、友達でしかないや、と結論づけたのだろうか。その割には、即答に近い速度で断られたのだけど。


というか、友達なら僕が何を考えてるかくらい把握していてほしいものだ。完全に理解しろと言いたいわけじゃなく、好意みたいなのは感じ取ってほしい。


振るのなら、もっと違う言葉で伝えて欲しかった。ごめんなさいの一言で良かった。振られるのなら、理由なんてどうでもいいんだから。


これからも友達のままでいようね、と彼女は言い残して去っていったが、友達のままでいられるわけがない。君の中では僕は友達のままだろうけど、僕は君を恋人にしたいと思っていて、そこからまた友達という関係に戻さなければならないんだから。


部屋で1人、何もせずに突っ伏していると、電話が鳴った。仲のいい女友達からだった。見ると、何件も通知が溜まっていた。しばらく無視したら音は止まったけど、すぐさままた鳴るもんだから仕方なく出てやる。


なんだ、生きてるじゃん、とけらけらと彼女が笑った。生憎僕はそんなテンションじゃないから、唸るような声をあげて反応だけすると、なになにどしたの?と興味津々と言った様子で聞いてくる。


あんまりにもしつこいもんだから、もうなんでもいいやってなって、振られたんだ、と一言残して電話を終了させる。それだけ言えば、これまでの会話や相談内容から彼女には全部伝わると思ったから。


『今から家行くね』


程なくして彼女からメッセージが届いた。部屋はすごく汚かったけど、まぁ彼女ならいいか、とメッセージを返す。2人で旅行に行った事もあるし、何度か宅飲みをして、僕の吐瀉物を掃除してもらったりして、昼過ぎまで寝て4限の講義に2人仲良く遅れて出席したりした事もあるのだから、今更部屋が汚いくらいどうって事ない。異性とはいえ、性に盛んな大学生らしい「行為」は一度もしたことがない、僕にとって大切な大切な友人だ。


数十分して彼女がやってくる。今から行くね、と言っていた割には時間がかかったみたいだ。適当に座って、って、足の踏み場もないけどねとふざけて言ってみるのだが、彼女は彼女らしからぬ様子で一言、うん、と漏らし、僕の寝るベッドの足元に座った。


で、何しにきたの?


…え?アタシたち用がなきゃ会っちゃ行けない関係だったの?


うん


彼女がいつもより大げさに声を上げて笑った。なんとなく無理をしているような違和感を感じた。よく分からないけど、いつもの調子でいようと努めてるみたいだから、僕もいつもの調子でいようと決めた。


ふらっ…うん、こほん。振られたんでしょ?話聞いてやろうと思って


人の不幸は蜜の味的な?


違いますーアタシの優しさですー


話したところで僕の告白の結果が変わるわけではないけど、僕のモヤモヤが少しでも晴れるなら、と、お前にしか言わないからなと告げる。


全てを話し終えると、彼女はふーんと呟き、僕の腋の下あたりに寝っ転がって天井を見上げていた。せめて何か感想の一つくらい欲しかったけど、虚しくなるような事を言われるくらいならと手持ち無沙汰に彼女の髪をいじった。本当に気づかないくらいだけど、彼女の髪はほんの少しだけ湿っていた。雨は降っていなかったはずだから、わざわざお風呂に入ってから来たのかな。相手は僕だというのに。


彼女とは、この関係がいいなと思った。この関係でいいなと思った。


突然、本当に突然、彼女が僕に馬乗りになり、手をぎゅっと握りながら顔を近づけてくる。またいつもみたいにふざけてるのか、と片付けられない、迫真に迫った表情だった。僕はしっかりと彼女の目を見ていたが、彼女の目は素早く泳いで、おそるおそるというように僕の瞳を捉える。


ねぇ。アタシじゃダメなのかな


え?


アタシじゃ、その人の代わりになれない?


思わず拍子抜けしてしまったが、すぐにあぁこれは僕に聞いていて、僕が答えるんだ、と気づき、頭に浮かんだ言葉を、何の躊躇いもなく、普段と変わらぬ声色で彼女にぶつけた。


ごめん。君のこと友達としてしか見れない


彼女の胸元から少しだけ覗かせる下着は、あの日の旅行の時と同じ、僕の部屋に遊びにくる時と同じ、真っピンクでレースがついていて、触り心地が良さそうな、少しセクシーなそれだった。

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