第13話 "人形作家の贈り物 ~魅惑の柔らか……~"
「ミキは魔法と薬品を併用したヒーラーと、樹魔法による敵性体の拘束、物理的な守りの展開が主な動きになります。薬品も魔法的に生み出すものが中心なので、消耗は微量のMPですみ、継戦能力もそこそこありますよ」
「それは正直、かなりありがたいかもしれないわね」
食べやすいよう、ナオが四つ切にしたマカロンを、はむっと、口に入れる紗雪。
ティアの気持ちよさそうな寝顔に起こすのもかわいそうになり、夕飯は22時近くになった。出かけるのももったいないと、簡単なデリバリーのパーティー料理をとり、新居でのホームパーティーと相成ったのだった。
「今回の賞金諸々で、残金が21万Neuro弱になってる」
「うまくパーティーの強化につなげたいところね」
「明日また組合の3階も見に行かせてもらわないとと思ってる。ただ、ただね」
突然深刻そうな表情を浮かべるナオに、何事か?と、紗雪、ティア、ミキがそろって視線を彼の口元に集中させる。
「イベントで買い損ねた衣装、そう、衣装がね、販売期間終了してたんだよ!」
「「「えー」」」
思わず脱力する3人
「もう、何を言い出すかと思えば」
「主殿、そうですよー。」
「あらあら、ナオ君ったら」
いつの間にか呼び方が、ナオさんから、ナオ君になっていたミキも困り気味だ。
「いや、だってほら、イベントで入賞したら買うっていう約束で」
「イベントのオープニングでナイトリーリエが踊っていた時の衣装よね? 天女服と巫女風ドレスだったかしら~」
「そうです!紗雪とティアが着たら絶対可愛いと!!」
「オーナーったら本当にもう。ほら、私の新しい衣装は、どう?」
ソファーの上でゆったりと浮かび上がり、スカートをひらひらとゆったり動かし、体を左右に捻って舞うようにして見せる紗雪。
「もちろん可愛い!最高に清楚可憐で、ふわふわしてたまりません!」
「う、まっすぐ来られると。ほら、私だけのオンリーワンの衣装で満足しましょう? ね?」
「でもそれはそれ、これはこれ! もっといろいろな衣装を、ドレスを、着て欲しいんだ! それに、ティアの新衣装が無い! これは由々しき問題なんだよ」
「主、私は別にその、この前も紗雪さんミキさんとお揃いのドレスを買っていただけましたし」
「3人お揃い可愛かったわよね~♪」
「うん。あ、ティアの防具に装備取り込み機能つけるのは確定だからね。前回予算不足で見送りになったけれど」
「は、はい。ありがとう、ございます」
からになりかけていたティアのグラスに葡萄ジュースをさっと、つぎ足す。
「それなら、ティアさんの防具の強化は一つ、やってもいいのではないかしら。探索者装備で、取り込み型にできるなら基礎性能を足しておけば形状問わず意味があるし。性能強化のために取り込む防具の形状は、切り替え可能なドレスの形としても残るわよ~?」
「お、いいですね。一応明日組合で見てからになりますが、前回見た感じ、盾を今以上の物にというのも今回すぐは難しいでしょうし。どうかな? ティア。前衛強化をまずは着実に、先々も活きる基礎防具の強化をという案は」
「は、はい。有難いことです。位階上昇で私だけスキル発現できていないのに、私などに良いのかという気持ちもありますが、少しでもお役に立つためにぜひお願いしたいです。前回は遠距離武装も悩んでいましたが、まずは前衛として、皆様を守るべき盾としての強化を優先したいのです」
「うんうん、じゃあ決まりかな。盾や武器の強化は、ランクの上がったダンジョンの様子見をしてから考えようか」
「オーナー、タイミングを逃してしまってごめんなさいだったのだけれど、そういえば人形師工房から、私関連の装備品で贈り物をもらっているの」
食事も終わり、食後の紅茶(天然茶葉ではなく、スティックタイプの粉のものが庶民で主流となっている物だ)に入ったころ、紗雪が切り出す。
「あ、そういえばそうだったね。トランクケースを持ってくればいいかな?」
「ええ。お願いできるかしら」
机の上にケースを広げると、黒いベルベットの敷き布がこちらも張られている蓋側に、カード入れが収められているのが見えた。
「そのケースを取って頂戴。あと、布団側の下に、小物入れがあるからそれもいいかしら。とってもらったらカバンはもういいわ」
鞄を衣装棚に入れに行くと、ふよふよと宙を浮き、紗雪も後から取り出した小物入れを入れに来る。
視線で問いかけると、
「あ、貴方が良い香りって言ってくれた、香水とかほら、そういうのが入っているのよ。この箱は明けちゃだめだからね?」
「わかった」
大変興味をひかれたものの、従っておくことにする。
黒い革張りのカードケースに、 ”切れた操り糸が垂れさがる人形”のロゴが刻印された高級感あるれる装丁、
「さすが人形師工房、というべきかしら~ものすごい凝りようね。天然革よこれ。それに個人認証がしっかり箱にもかかってる」
ミキが解説してくれる。ティアも興味津々で待っている。
「えっと。ここをこうして、こうだったかしら」
ロゴに手のひらをかざし、ウィンドウをちょこちょこと操作すると、蓋が自動的に開いた。
中はこれまたベルベット地の柔らかい内布があてられ、何枚ものカードが丁寧に収められていた。
「おぉ」
中まで本格的な仕様に、ティアが気圧されたように声を上げる
「順番に説明するわね」
ふと思えば、いつも説明役と言えばミキの印象があったので、紗雪が一つ一つ思い出すようにしながら説明してくれる姿になんとなく感慨深いものを感じながら、聞いた結果はこのようなものだった。
・スキルカード「思念操作」 (魂値50) ※試作ドレス02 拡張武装専用
今後、ドレスに取り込む形で追加可能な人形工房製武装を、紗雪が思念で操ることができるようになるスキル。
・試作ドレス02拡張専用 武装「マスケティアーズ」 (魂値50)
これ自体が浮遊の効果を持ち、空中を移動する砲台
形状はフリントロックピストル2丁、マスケットライフル2丁。
ともに金属部分が古美銀、史実では木材であったであろう部分はドレスに合わせて色調の変わる樹脂素材との事。
今のドレスで実態化すると、純白に古美銀の鈍い輝きが優美な姿を描くようだ。
加えて、各銃には1体づつ、愛らしい蝶々形の羽根を生やし、銃士隊をイメージしアレンジしたのであろうミニスカート姿の15㎝程度の球体関節人形の女の子が銃手として横座りで乗っており、射撃補助をしてくれる。
銃手のドール4人といい、細部までこりすぎていてびっくりする。しかも当然のように自動修復機能付きときた。
弾丸は魔法式との事で、純粋な魔力という概念を固めて飛ばすらしい。基本的に銃弾と同じようなものと考えればよいようだ。さらに、紗雪自身が魔法使用可能となればその属性を付与可能になる。
・魔法--カード“中級聖歌 (魂値40)”
協調する者へ支援効果をもたらす
軽度の右記効果をもたらす。身体能力増強、戦意高揚、精神耐性、抵抗力増進、継続体力回復、継続負傷回復
・人形種専用通販サイト内 “人形師工房”招待制会員限定ページ アクセスコード
※紗雪の端末には登録済み。本コードを用いてナオの端末のアクセスが可能となる。
早速覗いてみたが、家具やドールハウス、探索者装備兼用ドレスを中心として、さらにグレードの高いアイテムが並んでいた。
現状ではとても手が出ない価格に涙がこぼれたが、いつか揃えて、幸せなドールライフを紗雪と、と気持ちを新たにした。
・交換用ボディパーツ
―紗雪専用 ノーマルボディ でふぉると・むね・さいず
―紗雪専用 やわらかボディ きょにゅ~・さいず♡
このカードを手にした瞬間、紗雪が電光石火の速さで奪い取ると、先ほど衣装棚にしまい込まれた小箱へわざわざしまいに行ってしまった。
「あとね、これはオーナーにだって」
・一言メッセージカード
“彼女を目覚めさせてくれたこと、感謝しているよ。こだわりに共感していただけると信じて、贈ります。紗雪を末永く、かわいがってくださいましね。”
「待って。え、これ誰から?」
「匿名希望の人形作家だそうよ」
ミキが一瞬目を見開いた気がする
「紗雪を作ってくれた方という事かな?一度ご挨拶したい者だけれど」
「時が来たらいつかって言ってたわ。それまではオーナーに、教えるのもダメだって」
「そうなんだ。正直ここまでしてもらってしまうと申し訳なさがすごいのだけれど。有難いね、本当に」
紗雪の装備が生みの親(おそらく)のご厚意により充実させてもらえたため、翌日の買い物はティアの防具の徹底強化を図ることに決まった。ティアからはナオの装備もという意見が強く出たが、モノを見て考えると言葉を濁し、保留にした。
夜遅くなってしまったためミキに、送ると申し出たが、以前乗せてもらった個人所有のモービルで来ているとの事で、駐機場(マンションの屋上にあった)までの見送りとなった。引継ぎ関係もこの1週間で済んでいるそうで、明日からはナオ完全専属との事、嬉しいことに大変はしゃいでおいでだった。明日は買い物と準備にあてるため、ダンジョンは無し。組合3階のカード売り場で9時待ち合わせと決め、赤いスポーティーなモービルの扉が閉まった。
広くなった寝室、シングルベッドをティアが。
セミダブルの枕元に以前から使っていたドールサイズのソファーベッドを設置し、ナオが寝る枕元に紗雪がちょうど目線の合う高さで眠る形に落ち着いた。
紗雪をネグリジェに着替えさせる様子に、ティアがもの言いたげにしていたが、1か月以上続いた習慣に2人とも半ばマヒし始めていたか、気が付くことはなかった。
何より、紗雪のボディはいつの間にか、ノーマルボディに戻っていた……。
「選ぶ間、先にティアの防具に、取り込みと切り替えの機能を付けてもらっておきましょう」
そんなナオの言葉に、ティアはアーマードレスをカード化し除装。以前の濃紺のロリータドレスに着替え、ひらひらと裾を遊ばせている。
「は~い、じゃあ預けてくるわね。後で選んだ分もそのまま加工依頼に出せば明日朝には受け取れると思うわよ」
「この、取り込み機能って、便利ですけれどそんな風になっているのでしょうね」
「あ~。それは、ダンジョンの機能を援用しているらしいわよ。ティアちゃんの身体もそうだけれど、ダンジョンの中で物質的存在の具現化がなされるじゃない?それって、カードに記録された構成情報とかそういうようなものを元に、ダンジョン内で必要な構成素材が供給されるらしいのだけれど、結局その構成情報っていうのを書き足しとかそういう感じにしてあげると、更新された構成情報に従って、具現化がなされるの。だから、何パターンものドレスの構成情報を選択式に列記してあげたり、性能情報の書き足しで、どのドレスでも一様に効果が出るように構成情報を書き込んであげればいいみたい。前もお話ししたけど、それもできる事とか、効果の発揮され具合に形状によって限界はあるみたいだけどね。」
「空想技術がすごいというか、異星体の技術がすごいというか、まあ、有難く享受しておこうという事ですね」
「そうそう」
しばし組合3階では、あれでもないこれでもないと今度はナオの端末に取り込んだティアの身体データをもとに立体映像着せ替えショーが開催される運びとなった。
ダークな色合いにするか、新ドレスでイメージチェンジした紗雪とサーコートのナオとが白系の明るい色調になったのでこれに合わせるか、いやいやここは新規路線で和風ドレスにと、喧々諤々議論が交わされる。
「そういえば、ミキ……の探索装備は良いのですか?」
まだ呼び捨てになれないティアが噛みつつ問う。
「うん。ミキは前使っていたのがあるから大丈夫よ~。ちなみに、切り替えで洋風と和風両方いけるわよ♪」
最終的に、天使のイメージにマッチした衣装にしようという結論にまとまり、古代ギリシャ風のキトンとヒマティオンを穢れなき純白でまとめることになった。ひらひらと揺れるドレープたっぷりの着こなしが清楚でかわいい。
ダルマティカスタイルも候補に挙がったが、お堅い感じがすると却下された。
4人そろっての明日からのダンジョン探索はティアの新衣装と、白金ベースの紗雪の新ドレス、黒ベース執事服風ナオ、洋風ドレスバージョンでミキで合わせることに決まった。
そうして時間のほとんどを新しい衣装の見た目に費やした後、最後に性能面の議論に入ったがこれは無難に防護性能を上げつつ、器用さ、素早さに補正のかかるものにということになった。空想技術のおかげと言えばそれまでではあるが、予算と数値のバランスでほぼすべて決まってしまった。もっと上位の装備になると、ドラゴンとか敵生体由来の素材から抽出された要素でさらに付与効果がつけられるなどあるそうだが、D級以下相当では既成概念から抽出した汎用装備効果にしかならないとの事だった。
ナオの装備強化をとティアが主張したが、前衛壁役を務めるティアの防具性能が最優先と最後までナオも譲らず、消耗品の購入以外の予算ほぼすべてを使い、〆て197,000Neuroのお買い物、残金9,313Neuro (931,300Yen)となった。
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